人が動物と共生するための基準「五つの自由」に学ぶアニマル・ウェルフェアの考え方


リオ・オリンピック閉会式帰りの小池都知事も登壇した「アニマル・ウェルフェア サミット2016」。東京大学にて、2000人を超える方々が人と動物の未来について考えました。

8月27日(土)に開催された「アニマル・ウェルフェア講座」では、ドイツ在住で獣医師のアルシャー京子さん、スウェーデン在住でドッグライターの藤田りか子さん、そしてイベントを主催する一般財団法人「クリステル・ヴィ・アンサンブル」で代表の滝川クリステルさんが、アニマル・ウェルフェアの考え方について議論しました。

5つの自由
左から、滝川クリステルさん、藤田りか子さん、アルシャー京子さん

サミットの名前にもなっている言葉「アニマル・ウェルフェア」とはどういう意味を持っているのでしょうか? ドイツやスウェーデンなどの海外事例を踏まえながら、分かりやすく説明していきます。

アニマル・ウェルフェアとは?

アニマルウェルフェア・5つの自由

まず「アニマル・ウェルフェア」は、「動物愛護」という意味ではありません。「動物愛護」という言葉は、人からの愛情という意味合いになってしまうため、人を主体とした言葉と言えます。また、アニマル・ウェルフェアの日本語訳としてよく「動物福祉」という言葉が使われますが、こちらも福祉という言葉が誤解を招きやすく、正確ではありません。日本語訳として100%適切な言葉は無いというのが現状です。

そのため、「アニマル・ウェルフェア」という言葉のまま、動物が自然に行動できるような環境を整えること。動物が主体となって人と共存していくこと。そういった考え方と捉える必要があります。

アニマル・ウェルフェアには、その考えを正しく理解する上で重要な「五つの自由」という訓示があります。次は、「五つの自由」について見てみましょう。

「五つの自由」について

5つの自由

1960年代のイギリスでは、牛や鶏などの家畜が「アニマルマシン」と呼ばれ、劣悪な環境で飼育管理させられていました。しかし、その環境があまりにも動物の命を尊重していないとノースウェールズ大学のロジャー・ブランベル教授(Roger Brambell)が警鐘を鳴らし、「五つの自由」が定められました。

この「五つの自由」が、現在では家畜のみならず、ペットや実験動物などあらゆる人間の飼育下にある動物の福祉の基本として世界中で認められ、世界獣医学協会でも基本方針として採用されています。海外諸外国では、「五つの自由」は法律に盛り込まれており、これがアニマル・ウェルフェアの基準になっています。EU加盟国にも「五つの自由」を基にした法律があり、国内の動物保護法に反映させることが求められています。

では、具体的に五つの自由を見てみましょう。

飢えと乾きからの解放

水を飲む犬
健康維持のために、適切な食事と水を与えること。

肉体的苦痛と不快からの解放

炎天下の犬
温度、湿度、照度、など、それぞれの動物にとって快適な環境を用意すること。

身動きもできない狭い場所、糞尿にまみれた状態、日よけのない炎天下、雨や風、騒音などにさらされている、といった飼育環境は動物にとって好ましくありません。

・自由に体の向きを変えることができ、自然に立つことができ、楽に横たわることができる。
・清潔で静かで、気持ちよく休んだり、身を隠したりすることができる。
・炎天下の日差しや、雨や風をしのぐことができる。

外傷や疾病からの解放

動物病院
怪我や病気から守り、病気の場合には十分な獣医医療をほどこすこと。

恐怖や不安からの解放

殺処分
過度なストレスとなる恐怖や抑圧を与えず、それらから守ること。

動物も痛みや苦痛を感じるという立場から肉体的な負担だけでなく精神的な負担もできうる限り避けること。

正常な行動を表現する自由

馬
それぞれの動物種の生態・習性に従った自然な行動が行えるようにすること。

群れで生活する動物は同種の仲間の存在が必要です。

正常な行動とは?

正常な行動、異常な行動は何かを知ることが大切です。日本に一番理解が進んでいない部分は、ここなのかもしれません。「何に対して喜びを感じるのか」「何に対して悲しみを感じるのか」を知ることも大切です。これらの行動が基軸となり、人と動物の暮らしが浸透しています。しかし、ヨーロッパは動物福祉先進国と言われることがありますが、国によって反映の度合いが異なることも現状です。

美食の国は、動物の整備は後回しになってしまっている?

スペインやイタリアなど、東欧、地中海沿岸部などの美食の国は動物の整備が他の政策よりも後回しにされていると言われています。ある意味、美味しいものをつくることは、動物を酷使することの裏返しなのかもしれません。

有名なイギリスやドイツは、やはり先進国と言われる環境

スイス・アルプス地域、北欧の国は、アニマル・ウェルフェアが浸透していると言われています。「ティアハイム」で有名なドイツや、イギリス、オランダも、動物保護法で動物の尊厳を保つことを定めています。

アニマル・ウェルフェアには「五つの自由」にのっとった上で、さらに三大要素と呼ばれる軸があります。

アニマル・ウェルフェア三大要素

5つの自由

五つの自由が盛り込まれていて、さらに三つのポイントに絞ったものが「アニマル・ウェルフェア三大要素」です。

健康と体の機能

・疾病と傷害のない暮らし
・エサ、水、寝床

感受性

・痛みと苦悩の回避
・ポジティブ感情の経験

自然な生活

・体の動き、社会的行動
・探索など

滝川クリステルさんが「アニマル・ウェルフェアにのっとった殺処分ゼロを実現することが大切」とおっしゃったように、保護すれば問題解決ということではなく、寒い冬には毛布やベッドがあったり、暑い夏には冷房が効いていたりと、動物が快適に過ごせる環境が大切です。

日本にアニマル・ウェルフェアという考え方や価値観が浸透するには時間がかかるかもしれませんが、今回のアニマル・ウェルフェア サミットでそれぞれが考える機会を持てたことが何よりも一歩だと思います。

では、私たちは実際に犬や猫と暮らす上でアニマル・ウェルフェアを体現できているのでしょうか? 次回は、「アニマル・ウェルフェアにのっとった犬や猫の飼い方」について紹介します。

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