犬猫の引き取り数全国1位でも殺処分率は全国35位。愛知県が抱える課題と動物愛護センターが変える未来とは


殺処分をしているあの県は許せない――SNSなどで殺処分数や譲渡数に関する多くの応援や批判の声が拡散されています。しかし、数字だけを見て良し悪しを決めることは非常に難しいと言えます。例えば、「殺処分数が多いけど譲渡数も多くて、そもそも引き取り数が多すぎる」とか、「殺処分数は全国的に少ないけど、殺処分率で見るとすごく高かった」などなど……。一つの数字だけを見てしまうと、間違った解釈になりがちです。

また、都心や地方それぞれの地域性や自治体の財政面など、さまざまな背景を鑑みた上で、「うまくいっている自治体はどのようなアプローチをしているのか」や「うまくいっていない自治体は何が課題なのか」を見ていく必要があります。そこでペトことでは、現場で働く愛護センターの方々に取材をし、各県の現状と課題についてお届けしています。

日本の保護犬猫の現状はどうなっているのか

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「全国の犬・猫の殺処分数の推移」 出典:環境省ホームページ

今年10月、環境省が2015年度(平成27年度)の「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」を公開し、全国の犬猫殺処分数が初めて10万頭を下回って8万2902頭になったことが分かりました。都道府県別では、返還・譲渡率1位が77.5%で岡山県、殺処分率1位は87.9%で和歌山県と奈良県でした。

今回は、京都府、沖縄県に続き、愛知県の現状と課題について、実際に二つの愛護センターに取材に行ってきました。

愛知県の引き取り、殺処分、譲渡の現状

愛知県は、日本列島の中部に位置し、中部地方の県では最も人口が多く、県庁所在地の名古屋市は中部地方で最大の人口を擁する都市です。大きく分けて、尾張地方、西三河地方、東三河地方の3地域で構成されています。

その愛知県では、2015年度に引き取られた犬猫のうち殺処分された犬猫の数は、全国で12番目に多く2587頭でした。しかし、引き取り数に対する殺処分率は46.8%と全国で35番目と下から数えるほどで、決して殺処分を頻ぱんに行なっているわけではないことがわかります。


実際に、引き取り数は全国で最も多く、5527頭もの犬猫が引き取られました。そして、そのうち、2950頭が返還・譲渡され、これは全国で4番目に多い数字となります。


これを見て分かるように、殺処分数だけを見て単純に「愛知県の状況は良くない」と言えないことがわかります。

では、引き取り数が全国で最も多い理由、返還・譲渡が進んでいる理由、そして殺処分に対する課題はどこにあるのでしょうか。実際に愛護センターの方々にお話を伺いました。

愛知県の動物愛護センターの構造について理解する

愛知県は全国27位の面積で人口密度は全国5位となっており、動物の保護管理は豊田市を管轄する「豊田市動物愛護センター」、岡崎市を管轄する「岡崎市動物総合センター」、名古屋市を管轄する「名古屋市動物愛護センター」、豊橋市を管轄する「豊橋市保健所」、そしてその他の地域を管轄する「愛知県動物保護管理センター」の四つに分かれています。

そして各行政区域ごとに地域性や施設環境が異なるため、引き取り数や譲渡数、殺処分数の背景は異なるものがあります。今回は、愛知県動物保護管理センター、名古屋市動物愛護センター、豊田市動物愛護センターに話を伺ってきました。

愛知県動物保護管理センター

愛知県動物保護管理センター

愛知県動物保護管理センターは、前述の通り、豊田市、岡崎市、名古屋市、豊橋市以外の全ての地域が業務範囲となる一番業務範囲が大きなセンターです。獣医師や非常勤を含む、44人の職員で運営されています。

愛知県動物保護管理センターでは、2015年度の犬の引き取り数が1530頭、猫の引き取りが1046頭で、合計2576頭の犬猫を引き取りました。これは、愛知県全体の引き取り数の46%にあたります。

では、引き取り数が多い背景は何があるのでしょうか?

引き取り数の多くは野良犬や野良猫!?

愛知県の郊外では、野良犬や野良猫が非常に多く、犬の引き取りの多くが野良犬です。都心で生まれ育った方は現在も野良犬がいることに驚かれるかもしれませんが、郊外の山にはいまだに野良犬が多くいるそうです。野良犬が子供を産むことで、なかなか数が減らない現状があります。

猫については、無責任な飼い主によって捨てられた子猫が警察経由で収容されることが多くなっています。では、センターに引き取られた犬や猫は、その後どうなるのでしょうか。

できるだけ殺処分はせず、譲渡を促進する取り組み

引き取られた犬猫のうち、返還・譲渡される数は1343頭で、殺処分数は1233頭と、殺処分の数より返還・譲渡の数の方が多く、返還・譲渡が積極的に行われていることがわかります。攻撃性があったり、健康状態が明らかに悪いと診断されたりした場合は、アニマル・ウェルフェアにのっとって殺処分せざるを得ないこともあります。

返還・譲渡対象になるまでには三つの選定過程があり、まず一次選定では、人が近づいた時の反応や、餌を与えた時の反応を見て攻撃性を確かめます。ここで攻撃性を認められてしまった犬は、殺処分になる可能性が高まります。二次選定では、臆病か、人懐こいか、おもちゃや餌に興味があるかなどの基本的な性格が見られます。そして最後に、最終選定で愛護センターで譲渡可能か総合的に判断されるのです。

少しでも多くの犬猫が幸せに生きられるように、センターではさまざまな取り組みが行われています。その一つが、トレーニングです。トレーナーの数も限られてしまうため、全ての犬がトレーニングできるわけではありませんが、少しでも譲渡されやすくなるようにと、トレーニングが行われています。

今回、取材に行った際にトレーニングを実演いただくことができました。

一方で、譲渡促進に向けた課題も大きく三つあります。

愛知県動物保護管理センターが抱える課題

環境面

センターのスペースは非常に広いものの、多頭飼育用の犬舎には冷暖房設備がありません。個別の犬舎では冷暖房があるのですが、今後のことを考えるとセンターでも幸せに暮らせるように冷暖房をつけてあげたいそうです。

保護面

行政が運営する施設において、税金でどこまでの医療ができるかという問題があります。現状では、検査なら皮膚の状態や寄生虫、フィラリア、心音など、基本的な項目しかできないそうです。そのため、センターで対処できない問題が見つかった場合は協力してくれる保護団体に譲渡し、保護団体が(協力してくれる)動物病院に連れて行きます。

その他

現在は動物を飼っている方やこれから飼う方に向けた教育に取り組まれていますが、飼っていない方への理解を増やすことも大切です。例えば、犬の鳴き声がうるさいといった苦情も多いのですが、犬が鳴くのは自然なことですから、適切な管理やしつけが行われている限り、飼う側の自由、動物の自由(アニマル・ウェルフェア)に対するある程度の許容や理解も必要です。

このように、犬猫がより幸せに暮らせる社会をつくるためには、環境面だけでなく、医療の充実や、市民全体の理解など、幅広いアプローチが必要だと言えます。

愛知県動物保護管理センターにいる犬猫たち

愛知県動物保護管理センター 保護犬猫

愛知県の郊外は、野良犬や野良猫によって引き取りが多くなっていました。それでは、都心側ではどうでしょうか。名古屋市と豊田市の愛護センターにお話を伺ってきました。

名古屋市動物愛護センター

名古屋市動物愛護センター

県庁所在地でもある名古屋市にも動物愛護センターがあります。

野良猫問題は名古屋市にも

名古屋市動物愛護センターの2015年度の犬猫引き取り数は、犬が295頭、猫が1360頭で、圧倒的に猫の引き取りが多くなっています。猫については郊外と同じく、野良猫とその子供が占める割合がほとんどだそうです。そのため、TNR活動(※)活動を推進しており、名古屋市では助成金を出しています。

※TNR活動とはTrap、Neuter、Returnの略で、野良猫を捕獲し、不妊・去勢手術をしてから元の場所に戻す活動のことです。目印としてカットする耳の形から「さくらねこ」と呼ばれることもあります。

犬については、飼い主が飼えなくなったと言ってきた場合、本当に飼えないのか、しつけの仕方で解決しないかなど職員が事情を聞き、解決策がないか親身になることで、引き取り数が減少しているそうです。

定期的なイベント開催による譲渡の促進

殺処分や譲渡の状況としては、犬の殺処分数は22頭、猫の殺処分数は709頭と、引き取り数の56.3%にあたる合計731頭が殺処分されています。やはり愛知県動物保護管理センターと同じく、猫の殺処分が圧倒的に多い状況です。

そこで愛知県動物保護管理センターと同じく、名古屋市動物愛護センターでも譲渡の促進のため、イベントを定期開催して保護犬猫の現状を多くの方に知ってもらう機会を設けるなど、さまざまな取り組みを実施されています。何よりも大切なことは、飼い主が正しく飼う文化をつくることなのです。

豊田市動物愛護センター

豊田市動物愛護センター

豊田市動物愛護センターは、観光名所でもある鞍ケ池(くらがいけ)公園に位置し、2015年度に設立されました。同センターは、命を大切にする心の醸成を目的に、譲渡会や飼い方教室を開催しています。また、動物愛護精神の高揚のため、動物愛護フェスティバルも開催し、飼い主の意識の向上のため、しつけ方教室や飼う前講座などを実施しています。

豊田市は愛知県の中で最も引き取りが少ない

豊田市は2015年度の犬猫引き取り数が、犬は88頭、猫は387頭で、合計475頭と他の市に比べて非常に少ないことがわかります。その背景として、犬については正しいしつけ方の教育が奏功したと考えられています。しかし、愛護センターという持ち込みやすい窓口ができたことで野良猫の通報が増えてしまい、猫の引き取り数は増加している現状もあります。

観光名所をウリに多くの人に知っていただきたい

返還・譲渡数については、犬猫合計で320頭となっており、引き取り数の46%は返還・譲渡されています。

名古屋市と同じく野良猫のTNR活動や地域猫の活動支援を実施しており、豊田市動物愛護センターでは不妊・去勢手術が無料になっていたり、餌やりさんへのボランティア参加の声掛けをしたりしています。また、同センターは来場者が年間100万人を超える鞍ヶ池公園にあり、そのうちの1%が施設に来場することでも1万人に認知活動や譲渡活動をすることができます。

その他にも、センター間の譲渡連携により愛知県動物保護管理センターから豊田市動物保護センターに引き取られ、譲渡されたケースもあるそうです。現在は全国の自治体に譲渡基準があるため県をまたいでの連携は難しいのですが、いずれ県外のセンター間で譲渡連携ができるようになれば、さらに幸せな犬猫が増えるのではと話していました。

豊田市動物愛護センターにいる犬猫たち

豊田市動物愛護センター 保護犬猫

豊田市動物愛護センター 保護犬猫

豊田市動物愛護センター 保護犬猫シニア犬も新しいおうちを待っています

まとめ

以上のように、愛知県は地域によって保護・管理、譲渡の状況が違うことがわかります。しかし、センター同士の連携も進んでおり、県内譲渡も可能になるなど、譲渡文化促進に向けて積極的に取り組まれていることもわかります。

まずは、市民が地域の問題として野良猫の管理に取り組むことを前提に、社会全体でも課題に向き合っていくことが必要だと感じました。今はできていない県外譲渡も、情報共有の仕組みづくりや連携の機運を高めていくことにより近い将来、実現できるかもしれません。

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