安楽死は悪いことではない? 動物愛護講演「人も動物も幸せになれる譲渡とは?」リポート


今年も9月の「動物愛護週間」に、さまざまな動物愛護イベントが開催されました。今回はその中から、9月24日(土)に開催された動物愛護講演「人も動物も幸せになれる譲渡とは?」を紹介します。

譲渡は「適切なマッチング」が重要

ここ数年で多くの人が「殺処分ゼロ」という言葉を耳にするようになりました。保護団体をはじめ、小池都知事のように政治家も「殺処分ゼロを目指す」と公言しています。もちろん「殺処分ゼロ」を目指すのは大事なことですが、それはゴールではありません。「殺処分数は減った方が良いが、人も動物もハッピーになれない譲渡では意味がない」と警鐘を鳴らすのは、日本獣医生命科学大学 獣医学部の入交眞巳先生です。

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入交先生の講演は、自身が里親となって譲渡を受けた犬と猫のムービーが流れるところから始まりました。ちょこちょこと可愛く走り回るワンちゃん。その姿からはまるで想像できませんでしたが、実はもともと飼い主の肉を噛みちぎってしまうほど攻撃性が強く、「もう手に負えない」と施設に引き取られた犬でした。

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攻撃性の強い性格について、「しつけだけでは何とかできないケースもあり、誰にでも譲渡できるものではない」と入交先生は強調します。噛み癖は、そのほとんどが「人とのコミュニケーションの仕方がわからない不安」に起因するもので、まずは犬に「人間は怖くない」と認識させることが大切です。

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入交先生が里親になった犬の場合は、室内でリード飼いして、「お互いのスペースに入らない」という約束をわかりやすく犬に伝えています。また、セロトニン不足によって感情にブレーキがかけられないこともあり、投薬による治療も行っているそうです。

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このように、攻撃的な犬でも適切にコントロールしてあげることができれば幸せに暮らすことができます。しかし里親になった飼い主が、どのようにコントロールしてあげればいいのか理解できなかったり、適切な環境を用意してあげられなかったりしたら、犬にとっても、飼い主にとっても不幸なことになってしまいます。

「殺処分ゼロ」を達成するためなら、何でもかんでも譲渡すればいいというわけにはいかないのです。「適切なマッチングでないなら、その家庭には譲渡してほしくない」と入交先生は話します。

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人も動物もハッピーになることが大事

それでは、「人と動物の両方にとって幸せなマッチングのために必用なこと」は何でしょうか。入交先生は、「譲渡する側が、譲渡を受け入れる側に立って、その気持ちを考えることが大切です」と話します。

  • どんな思いで譲渡会に来たのか
  • 育てる覚悟がどれくらいあるか
  • 家庭環境はどうなっているか

例えば、高齢の方には手入れが大変な長毛犬よりも毛が抜けにくい犬の方が適していますし、おとなしい子が良いという家庭には、一般的に攻撃性が強いと言われるオスよりもメスがお勧めです。ペットショップでの飼育前カウンセリングと同様、譲渡を受け入れる人からの丁寧なヒアリングが必用です。

また高齢の犬猫の場合は介護が必用になったり、認知症やガンになって医療費がかさんだりします。ある程度の経済的余裕が必要になってきますので、現実的な問題を含めて包み隠さず話すことが、適切なマッチングにつながります。

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そして最後に、入交先生は「人も動物もハッピーになれないこともあります。そういう状況になってしまったとき、『安楽死』を選択することは必ずしも悪いことではない」とも伝えました。

西洋では家庭で飼育される動物たちを「ドメスティック・アニマル」と呼び、野生に帰れないからこそ人がアニマル・ウェルフェアを考え、適切な医療や教育を与え、責任を持たなければいけないと考えます。そこには動物を不幸にしたり、苦痛を与え続けたりするくらいなら「安楽死」を選ぶほうが適切であるという考え方も含まれます。

入交先生は「愛犬や愛猫たちを安らかに天国へと送ってあげる選択肢もある」と話し、講演を締めくくりました。

さまざまなアプローチで動物の幸せを考える

カルフォルニア大学デイビス校の研究員で日本獣医生命科学大学 非常勤講師の田中亜紀先生は、より良い譲渡のための「シェルターメディシン(伴侶動物の群管理)」について講演を行いました。

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どんなシェルターでも、保護犬・保護猫を心身ともに健康な状態で収容できる数には限りがあります。彼らを助けるつもりで収容しても、施設のキャパシティーを超えて収容すればストレスや苦痛を与えることになってしまいます。そして犬猫がそんな状態なら、譲渡は進みません。

  • 家族と離れた
  • 知らない人にお世話される
  • ご飯や寝床が違う
  • 逃げたいけど逃げられない

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これらのストレスにより、シェルターにきて病気になったり問題を起こすようになったりする保護犬・保護猫も少なくないそうです。シェルターメディシンとは、こういったシェルターが抱えるさまざまな問題を、科学的アプローチにより改善していく総合医療を指します。

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シェルターでの健康管理は、一般家庭で行われる個体管理とは違って施設全体を把握する郡管理となります。個体に手厚いケアができる家庭の動物とは違って、シェルターには必ず限界があるのです。郡全体を踏まえて何が最適解かを判断し、感染症の予防や感染が拡大しないための管理はもちろん、スタッフの安全も考えなければいけません。

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「殺処分ゼロ」に固執するのではなく、シェルターにいる動物たちが心身ともに健康でいられるための管理をきちんと行ない、彼らを「苦痛から守ること」が大切で、それが結果的に譲渡数の増加にもつながると田中先生は伝えました。

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寄付に頼らない新しい譲渡活動

渋谷でペットサロンとグッズショップ、動物病院、シェルターが併設された施設を運営する「株式会社ミグノンプラン」代表取締役の友森玲子さんは、自身が取り組む譲渡活動について話しました。

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友森さんは、もともと2007年から一般社団法人「ランコントレ・ミグノン」の代表として譲渡活動を行っており、東京における殺処分を減らすことを目的に、東京都動物愛護相談センターから犬や猫、ウサギなどの保護動物を受け入れています。譲渡会を月2回実施し、年間譲渡数は約200匹にのぼります。

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受け入れた動物たちは付属の病院で健康診断を行い、必要があれば不妊・去勢手術も行いますし、一般家庭での生活に慣れさせるために頻繁に付属のペットサロンでシャンプーをして人と触れ合う機会も設けます。高齢動物の譲渡が特に大変なので、医療費を同社が負担しながらボランティアの人たちにケアをお願いし、看取ってもらっています。

治療からしつけ、ケア、譲渡までを柔軟に行えるのは、ミグノンプランという安定した収益源があるからです。寄付を募る労力を省き、保護・譲渡により力を入れる。新しい譲渡活動の形と言えそうです。

新潟県福祉保健部生活衛生課の遠山潤衛生係長が新潟県動物愛護センターの取り組みについて講演した内容は、別記事にて紹介します。

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