「動物愛護法」は本当に動物を守れている? 現行法が抱える問題点とは

「動物愛護管理法」は適切に運用されているか――演出家の宮本亜門さんや女優のとよた真帆さんが呼びかけ人を務める「TOKYO ZEROキャンペーン」が10月に開催したイベントで、動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)が運用される現場に携わる5人によるトークセッション「動物愛護法ここが問題」が行われました。現行の動物愛護管理法について、その問題点や改正に向けた展望が話し合われました。(取材:薄井慧)

登壇者
司会
  • 細川敦史さん(弁護士・ペット法学会員)

法律を運用する「現場」が抱える課題

細川:動物愛護法に関する問題を事例なども含めて報告していただきながら、「それではどのような法改正が効果的なのか、可能なのか」という議論をしていきます。

まずは高崎市動物愛護センターの大熊さんに、地方自治体の現場で動物愛護法を活用していく上での困難や、こんなふうにやっていますよという工夫など、教えていただければと思います。

高崎市動物愛護センター 大熊さん

大熊:皆さん初めまして。高崎市動物愛護センターの大熊と申します。私たちの施設は群馬県高崎市の中心地から4kmほど離れたところにありまして、近県の施設では最も手狭な動物愛護センターです。平成23年に高崎市が保健所を設置いたしまして、この時に関東一都六県で動物愛護センターがなかったのが群馬県だけだったこともあり、高崎市は少し変わろうと動物愛護センターを設置しました。

市としては、単純に「1頭譲渡されてよかったね」「1頭処分された、けしからん」というような出口だけの話ではなくて、まずは「保護したら元の飼い主に返す」「無責任な飼い主からの引き取りには一切応じない」というように、入口の部分にウエイトを置いた取り組みをしています。その一環として、飼い主にも飼い方のアドバイスなどをしています。平成22年に群馬県高崎地区で処分された犬猫は684頭でしたが、昨年はだいたい68頭くらいになりました。動物愛護センターを設置して6年たっても、まだそこまでしか減らせていません。ですが、どうにかこうにか、頑張っている状況です。

私たちも、現行の法律を運用するにあたっては苦労しています。おそらく全国の自治体で、動物愛護や動物管理業務をされている職員の皆さんは苦労しているんじゃないかなと思います。法改正で皆さんが求めているものの一つに罰則の強化があるかと思いますが、私たちは3年前に起こったある事件で罰則のある行政法の運用がいかに難しいか思い知らされました。

細川先生は違った見解をお持ちかもしれませんが、警察と刑事告訴をするにあたって、警察から「行政指導は何かやったのか」という話をよくされます。「文書は何回出したか」「行政指導は何回足を運んだか」と。ここで業者側が少しでも改善をしていた場合はそこからまたゼロベースで指導していかなければいけないので、現場での問題を事件化するのにあたっては苦慮しています。

あと、高崎市の動物愛護センターは獣医師が1人しかいないんです。所長が事務職で、あと4人が現場の職員、あと3人嘱託職員がいるんですけども、獣医が1人しかいない。そして事務職の所長も年数がたてば変わってしまうので、現場でも創意工夫をしなければいけませんでした。

また私たちは後発組ですので、やっぱりいろいろ教えてくださる方が周りにいなかったというのもありますし、当時登録していた動物愛護団体さんから「あなたたちなんかは動物のことちっともわからないでしょ」と言われたこともありまして。それは悔しくて悔しくて、川崎さんのところ、日本動物福祉協会の本部が開催しているシェルターのセミナーにもずいぶんお世話になっていますし、私個人もいろんなところに行ってお勉強させていただいています。まだ足りないんですけどね。とにかく現場で工夫しながら頑張っているというのが高崎の現状ですね。

細川弁護士

細川:確か高崎は、5~6年前に殺処分がどんと減った……みたいなこともニュースになっていましたよね。その辺は、所長が変わったとか、理由があったりしたのですか?

大熊:実は平成23年に動物愛護センターが設置された当初は、いわゆる管理職がいなかったんです。平成24年に条例を定めて、それに対して所長を置くみたいな感じに至りました。そこで、まず入り口のところをなんとかしようと、平成22年に群馬県高崎地区で殺処分した数は684頭だという話をしました。それから1年たって、125頭になりました。猫に至っては511頭から56頭です。殺処分は9割減らしたことになりましたが、それはやっぱり職員の思いなんですね。

当然苦情も来ますし、動物を引き取る・引き取らないを巡って、現場でも相当な戦いがあります。でも屈しません。引き取りの話があった時にはお宅訪問をします。どこの自治体がこのようなことをやっているかは分かりませんが、高崎市はやっていて、本当に引き取るべきなのかを判断しています。

例えば飼い主から電話で「うちの馬鹿犬は私の手を噛むんだ、散歩もしてあげてる、餌もあげてるのに噛むんだ、けしからん」といった話をされたときには、現場に行きます。散歩ができるといった話が出てくれば、噛む原因もなんとなく見えてくるんですよね。餌を食べている時に手を出しちゃったとか、犬が嫌がっているのにべたべた触っているだとかは、飼い方の問題なんだと思うんです。ただ飼い主からすると、「散歩もして餌もあげて毎日面倒を見てあげてるのにけしからん」とボルテージが上がって、「処分してくれ」みたいな話になってしまう。いろいろなケースで聞き取りをしていると、処分に値しない理由が非常に多いです。

細川:引き取りを拒めるかという話については、前回の法改正に自治体の所長さんが一生懸命活動されて、「引き取りを拒むことができる」という条項が入ったという経緯があります。今の話も、すべての引き取りを拒んでいるわけではなくて、理由があれば引き取らなくてはいけないという話の中で、本当に引き取るべきなのかをチェックして、いい加減なものは指導しているということですよね。

劣悪なペットショップ 東京都の法律運用は?

細川:それに引き換えという話ではないですけれども、2年ほど前に東京都昭島市のペットショップで一つ事例があったので、日本動物福祉協会の川崎さんに教えていただければと。

日本動物福祉協会 川崎さん

川崎:栃木支部なのになぜか東京の案件にも手を出さざるを得なくなってしまったんですが、わたしも現場で関わっていたのでお話しさせていただきます。ご高齢の夫婦がオーナーで、旦那さまは週3回腎臓透析に通われていて、奥さまもご高齢で健常ではない状態でした。

鳥とかも入れると数百を超えるような動物を抱えたショップだったんですけども、当然お世話も追いつかずに、非常に劣悪な状況になってしまっていたんですね。ただオーナーさんの志は決して全否定できるということではなくて、それなりの志があって売買しているというのも実際にお話ししてみて分かりました。ただ、だからと言ってその環境を放置していいわけではないということで。

店も、正面から見ると劣悪な状況なのが一目で分かるような状態で、東京都にも苦情が殺到しました。東京都の職員の方もいらしてたんですね。私も指導の現場に同席していましたが、指導にはなっていないような状況でした。結局のところ世間話で、職員の方も、おじさんの話を聞きつつ「この件でいろいろな人から苦情が来て、うるさく言われてこっちも困ってるんだよね」という感じで話すんですよ。どこをどう改善すればいいということも一切指導なしに帰られていました。

先ほど大熊さんの話にもありましたけど、行政の職員の方のモチベーションで左右されている現場がけっこうあると思います。その場しのぎをしようと、せっかく法律があるのにそれを適切に運用していない場合があるんです。それに関しても、法改正に際して考えていかなくてはいけないと思っています。

細川:この件は朝日新聞記者の太田さんも取材されていたと思いますが、補足はありますか?

朝日新聞記者 太田さん

太田:回数については、文書指導を26回、口頭指導を1回したと。そもそもこの施設は20年くらい前から近所の中では迷惑施設、問題施設であると分かっていたんです。その中で、一般の常識に照らして考えれば、27回も指導しなければいけないということは、問題が連続性を持って続いていたと捉えられるわけですね。

そうすると、本来であれば、「指導をして改善が見られないのであれば勧告」「勧告を守らなければ命令」「命令を守らなければ罰金刑」そして「罰金刑になったら営業取り消しができる」というふうに進むべきなのに、少なくとも2007年度から27回にわたって指導をしてきたにも関わらず、2015年にようやく営業停止命令が出たんですね。その期間について東京都が何を言っていたかというと、指導を行った都度改善があったのは確かで、改善が見られてもまた繰り返し悪くなっていったと。じゃあ何で15年4月の段階で営業停止にしたのかと聞くと、「2014年5月下旬から苦情が寄せられるようになってきたからそれに対応した」という話でした。

でも、東京都は2007年度からこの問題を把握していたわけじゃないですか。どうみても東京都が放置していた話であって、東京都が悪くないんだったら誰が悪いんだ、動物愛護法が悪いのかとなりますけど、動物愛護法にはちゃんと「勧告命令できる」と書いてある。それを運用していなかったのは東京都だったんですね。

「8週齢」を条例で 札幌市の事例

細川:法律は各自治体が運用していますが、法律の不十分なところを条例などで補った運用ができないかという議論があります。条例は法律の範囲内で制定できるという大原則があるので基本的には法律をなぞっていくことになりますが、それでは条例がある意味がなくなってしまいます。ですので、地域で必要なことがあればはみ出るのもよいのではないかと。

元衆議院議員 藤野さん

藤野:北海道札幌市には、8週齢規制の条例がありますよね。札幌市が8週齢規制の条例を作ろうとした時、環境省が懸念として政令との整合性を挙げていて。その「整合性」が何の整合性なのかと調べてみると、札幌市のものは飼い主をも対象にした8週齢規制だけども、国のものは業者を対象にした8週齢規制なんだということでした。「その整合性が合う、つまり同じ方向を向いていれば、国としてはぜひやってもらったほうがいい」というような言い方をしていました。

太田:それは、環境省側の説明ですね。

札幌の方々が非常に熱心で、動物福祉を守ろうという文脈の中で、じゃあどうやったら8週齢を条例に盛り込めるかという話になりました。そして「所有者の努力義務」という形であれば盛り込めますねってなったわけです。それに対して環境省が「科学的知見はあるのか」と言ったんですね。

これは条例の制定を止めようとしてのことで、当時も騒ぎになりました。超党派議連の方々と各動物愛護団体が緊急に集会を行って、超党派議連が8週齢条例を支援する声明を出し、その流れを受けて札幌市のものは条例化されたんです。そして、埼玉県三郷市も続いたと。で、後はどこが続くんだろうという感じですね。

動物取扱業、登録制から許可制へ……?

細川:現在、動物取扱業者は登録制ですが、これを「免許制・許可制に引き上げるべきなのでは」という議論も以前からされています。大熊さんから、「これが変わったらいい」などの意見はありますか?

大熊:まずは現行の登録制に着目するべきだと思います。登録制と許可制で何が違うかというと、登録制は行政の台帳に登録したらそれ以降行政は基本的にはそこにはタッチしませんが、許可制ですと行政側に立ち入り権限なども付与されてくるといったことがあります。ただ現行の登録制でも行政に拒否権や立ち入り権限があったりと、形態的には「登録制という名の許可制」を一部運用しているイメージがあります。

ただ、同じ保健所業務でも、食品を扱っている食品衛生担当の課はかなり強い権限を持っていて、飲食店に対して許可を与えています。ですので、そこぐらいにはしなくちゃいけないとは思います。

細川:行政にはまず立ち入り権限があって、実は立ち入りの時に正当な理由なく拒んでしまうとそれによって罰金刑になるという規定があったりもするんですね。登録制でもいろいろ厳しくしていこうとすればできるんだけど、肝心なところが足りないのかなという印象があります。先ほども話に上がりましたが、罰金刑になっても必ず営業取り消しになるわけではないんですね。罰金刑以上の刑になった時に、その後横滑りみたいな感じで行政が登録取り消しなどをできるようになれば、役所としても悩みが少なくなるのかなと思ったのですが、どうでしょうか。

大熊:とてもいいと思います。ただ、現状の法律では、それを運用する地方自治体の職員は布の服にこん棒みたいな状態で現場に行かなくてはいけないので、非常にやっかいなんです。やはりいろいろ整備をした許可制が必要なんだなと思いますし、やはり許可するにあたっていろいろ整えなくてはいけないのかなと思います。

その一つとしては、現行の法律ですと、繁殖者の飼養施設の基準、例えば建屋の構造などにはけっこうスポットが当たっているんですけども、権限部分にあたる土地の部分などには、書類だけ整っていれば深堀りしては調べられないなどということがあります。もしその土地は農地で、農業法や農業振興法にずいぶん抵触するような土地であっても、書類が整っていれば役所としては登録を認めなければいけないんです。

一番大きなところは拒否権限だと思います。例えば、書類がそろっていても拒否ができるとか。運転免許なんかも、免許といいつつも、許可なんですね。免許を取得したり更新したりするのにも拒否が入れられるということがあって。

細川:登録制ももう10年くらいやっているので、そろそろ潮時かなという感じもしますけどね。土地の所有権限の関係でいうと、滋賀県の業者の話もありましたよね……。

朝日新聞記者 太田さん

太田:その事例では、業者が農地法違反の土地で開業していて。農地法は地方自治体の扱いなんですが、動物取扱業は都道府県の扱いなので、そこで指導が違う状況が起きていました。

あと、農地法で私は注意した方がいいなと思っているものの一つに、ケージを大きくしろ、施設を大きくしろと指導されたときに、「大きくしてもいいけど土地がない」「広げようと思うと農地が多い」となるケースがあります。農地を繁殖業に使わせてくれというような、いわゆる規制緩和のロビー活動も行われていたり。要するに何をするかというと、繁殖用の犬猫を畜産動物にするということです。そうしたら、農地でも営業できるじゃないですか。ペット業界側が今そういう活動をしているので、そこはすごく気を付けたほうがいいテーマだと思っています。

動物を守りたい――アニマルポリスの実現可能性は?

細川:動物虐待事案がこの頃目立ってきていて、アニマルポリス的なものも考えなくてはいけないという議論もありますが、いかがでしょうか。

大熊:やはりそういうものは必要だと思います。保健所の職員に逮捕権限はありませんし、業者によっては「何だこの野郎」みたいな感じですごまれることもありますので。ケースは違いますけども、麻薬なんかで、警視庁の麻薬取締部が逮捕権限を持っていたりするのをみると、うらやましいなとは思いますね。

細川:動物に関わる方が逮捕権限を持てるのはもちろんですが、そういった組織に警察のOBの方とかが入ってくださっても、とても頼もしそうですね。廃棄物処理法なんかでは、行政職員に警察のOBが入るという仕組み自体が先走ってあったりするらしいんですけどね。

大熊:うちの役所では、産業廃棄物担当の課に人事部交流で現役の警察の方が来ています。法律の改正によってアニマルポリス的な要素を入れるのであれば、そういった方をお願いしなければいけないのかもしれません。

細川:既存の法律を参考にする方が現実的かもしれませんね。川崎さんはいかがですか?

川崎:今でも、現場のボランティアさんが獣医師の先生と連携して、虐待の客観的な証拠である診断書などをそろえて行政職員あるいは警察に流せば、アニマルポリスに近いような機能は果たせるかと思います。行政職員の方がそれをしっかりやれるような環境が整ったら、権限を付与するか、もしくは警察組織の中に獣医師職員を入れるか、という方向で進んでもらえればと思います。

細川:最初の業者登録の際に、個人であれば住民表、法人であれば商業登記簿謄本とかを提示させればクリアできる部分もあるかもしれませんね。

川崎:法人であれば登記簿の提出になるのである程度大丈夫なんですが、今は動物取扱業者のほとんどが個人事業主なんですよ。ですので、名前が違ったり住所が架空だったりした場合、転居されると追いようがないという問題があります。それが消費者トラブルにもつながるので、消費者保護という視点からも、やはり情報の裏付けはきちんと取っていただきたいですね。

細川:営業取り消しにするにも、名前が違ったらそれは法的に有効にならないですもんね。

川崎:そうなんですよ。また結婚や離婚でお名前が変わる可能性もあるので、そこらへんも裏付けを取らないと消費者が救済されませんね。

細川:許可制になると、住民票の提出なんかもしっくりきますよね。最初の審査をしっかりしようという発想になるので。そういった点からも、許可制の導入は必要かもしれません。

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