【獣医師監修】犬がくるくる回る10の理由や病気の可能性を獣医師が解説

【獣医師監修】犬がくるくる回る10の理由や病気の可能性を獣医師が解説

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犬はストレスを感じたり喜んだりした時にくるくる回ることがありますが、真っ直ぐ歩こうとする意思に反してくるくる回っている場合(旋回運動)は神経障害が起きている可能性が考えられます。犬がくるくる回る意味やシニア犬(老犬)に多い病気「前庭疾患」や「認知症」について、獣医師の佐藤が解説します。

この記事を執筆している専門家

佐藤貴紀獣医師

獣医循環器学会認定医・PETOKOTO取締役獣医師

佐藤貴紀獣医師

獣医師(東京都獣医師会理事・南麻布動物病院・VETICAL動物病院)。獣医循環器学会認定医。株式会社PETOKOTO取締役CVO(Chief veterinary officer)兼 獣医師。麻布大学獣医学部卒業後、2007年dogdays東京ミッドタウンクリニック副院長に就任。2008年FORPETS 代表取締役 兼 白金高輪動物病院院長に就任。2010年獣医循環器学会認定医取得。2011年中央アニマルクリニックを附属病院として設立し、総院長に就任。2017年JVCCに参画し、取締役に就任。子会社JVCC動物病院グループ株式会社代表取締役を兼任。2019年WOLVES Hand 取締役 兼 目黒アニマルメディカルセンター/MAMeC院長に就任。「一生のかかりつけの医師」を推奨するとともに、専門分野治療、予防医療に力をいれている。

犬がくるくる回り続けるのはなぜ?

犬

犬がくるくる回る理由は大きく「病気」か「犬の習性にもとづく正常な行動」かに分けることができます。病気の場合はいずれも早期の検査・治療が必要になりますので、「いつもと違う」という異変を感じた場合は動物病院へ行くようにしてください。

具体的には以下のような理由が考えられます。それぞれ詳しく解説します。

1. 病気が原因 1-1. 脳神経の問題(前庭疾患、認知症、脳腫瘍など)
1-2. 肛門腺の問題
1-3. 皮膚疾患(アレルギーや皮膚の痒み・痛み)
1-4. 耳の感染症
1-5. 視覚障害
2. 犬の習性 2-1. 退屈やストレス
2-2. 飼い主さんの注意を引くため
2-3. ベッドメイキング
2-4. 遊び・満足感
2-5. トイレ(排泄)の準備

1-1. 病気︰脳神経の問題

脳神経の問題によってくるくる回ることがあります。考えられる病気として「前庭疾患」「認知症(アルツハイマー)」「脳腫瘍」「てんかん」「感染症脳炎狂犬病など)」「水頭症」「脳卒中」などが挙げられます。

これらの病気によって脳神経の信号が乱れたり、機能不全を起こしたり、血液供給が不足したり、脳内の物理的な圧力が上昇したりして犬のバランス感覚や制御機能が混乱し、旋回運動として現れることがあります。


1-2. 病気︰肛門腺の問題

肛門腺が詰まると犬はお尻の不快感によってしっぽを追いかけるような旋回運動を見せることがあります。ご自宅で肛門絞りを行う際は、関連記事YouTube動画を参考にしてください。




1-3. 病気︰皮膚疾患

アレルギー反応(食物アレルギーやアトピーなど)や感染症(細菌、真菌、寄生虫)、病気や怪我による痒み・痛みで特定の場所を舐めたり噛んだりすることがあり、くるくる回る旋回行動に見える場合もあります。


1-4. 病気︰耳の感染症

耳ダニの寄生による不快感で犬が頭を振ったり耳を掻いたりするとくるくる回っているように見える場合があります。外耳炎が悪化して中耳炎、内耳炎と進行すると平衡感覚に影響前庭疾患が出て旋回運動をする場合もあります。


1-5. 病気︰視覚障害

犬

視力の低下や目の痛みによって犬は混乱し、くるくると回る旋回行動を示すことがあります。考えられる病気として「白内障」「緑内障」「網膜剥離」「進行性網膜萎縮症(PRA)」などが挙げられます。


2-1. 習性︰退屈やストレス

運動不足や何らかのストレスによってくるくる回る旋回運動を示すことがあります。動物園でシロクマが目的を持たずにぐるぐる回る「常同行動」と同様で、ストレスサイン(カーミングシグナル)の一種です。

異常行動と呼ばれることもありますが、異常なのは行動ではなく行動を引き起こしている環境です。何が原因なのか飼い主さんが把握することが難しい場合もありますので、行動学専門の獣医師やドッグトレーナーなど専門家に相談することをお勧めします。


2-2. 習性︰飼い主さんの注意を引くため

飼い主さんの注意を引くためにくるくる回ることがあります。この場合、犬は本能としてくるくる回る行動をしているというより、過去にくるくる回る様子を見て飼い主さんが喜んだ(何かしらの反応をした)ことがあり、「くるくる回れば反応してくれる」と学習した可能性が高いでしょう。

2-3. 習性︰ベッドメイキング

犬

犬は寝ようとしている場所をくるくる回ったり、足で掻いたりすることがあります。これは野生の犬が草を踏み固めて寝床を作る本能的な行動の名残りと考えられます。飼い主さんからするとしばしば整っていないように見えることがあるかもしれませんが、回ったり掻いたりする行動そのものに満足感を覚えるのでしょう。

2-4. 習性︰遊び・満足感

自分のしっぽを追いかけてくるくる回る行動は、子犬など若い犬でよく見られます。また、嬉しいことがあった時に喜びや満足感を表現する行動の一つとしてくるくると回ることもあります。

2-5. 習性︰トイレの準備

犬はうんちをするための場所を見つけたり、排泄のリズムを取ったりするためにくるくる回ることがあります。本能的なもので、地面を踏み固めて排泄しやすくしたり、天敵に見つからない安全な場所であるかを確認したりする目的があります。ただし、いつもしないのに執拗にくるくる回る場合は体に何かしらの問題が起きている可能性に注意してください。


犬がくるくる回る場合の注意点・チェックポイント

犬

犬がくるくる回っている場合、飼い主さんは以下の点に注意してください。

  • いつもの行動か、いつもとは違う行動か
  • 繰り返す頻度や回り続ける時間
  • 他に変わった様子はないか
  • 特定の場所や時間など回る条件はあるか
  • 生活の質を下げていないか

犬は意味もなく回ることはなく、必ず理由があってくるくる回っています。ストレスや何かへの不快感、体の不調などがないかをチェックしましょう。喜びを表現するための行動だとしても、他人や犬自身に危険が及ぶ場合(吠える、興奮して攻撃的になる、何かにぶつかるなど)は止めさせたほうがいいでしょう。

いつもと違うと感じたり、病的な場合(真っ直ぐ歩けない、倒れてしまうなど)は動物病院へ行くようにしてください。その際、実際にくるくる回る様子を動画で撮影しておくと診察がスムーズになります。

叱って止めさせたほうがいい?

くるくる回る行動を叱って止めさせたとしても根本的な原因が解決されていなければ犬は余計にストレスを溜めてしまったり、回れば飼い主さんがかまってくれると間違った学習をしてしまう可能性があります。体の不調を訴えるサインだったとしたら病気の発見を遅らせることにもなってしまいます。

必ず原因を突き止めてそれを解決し、止めさせるようにしましょう。もちろん喜びを表現するだけで飼い主さんにも他人にも犬にも問題がないのであれば止めさせる必要はありません。いずれにしても、気になる場合は行動学専門の獣医師やドッグトレーナーなど専門家に相談することをお勧めします。


犬が右回り、もしくは左回りばかりするのはなぜ?

多くの犬は好みや習慣によってどちらか一方に回る癖があるかもしれません。しかし、明らかに普段とは異なる方向に回るようになったり、一方に異常な回転をする場合は「前庭疾患」や「脳腫瘍」「脳炎」「脳卒中」など「1-1. 病気︰脳神経の問題」で挙げた神経系の問題が起きている可能性があります。

まとめ

犬
習性や病気でくるくる回っている可能性がある
急に回るようになった場合は注意
叱って止めさせるのではなく原因を探る
他にも異変が見られる場合は動物病院へ
犬がくるくる回る理由は大きく「習性」と「病気」に分けられます。習性では、遊び心やストレス解消、排泄前の儀式などがあり、病気では前庭疾患や認知症、脳腫瘍など神経系の問題が考えられます。犬が頻繁に旋回運動をしたり、一方向にだけ回ったりするなど異変と感じる場合は、早めに動物病院に行くようにしましょう。