獣医師・トレーナー・トリマーが語る殺処分問題の現状 ペット業界業種別ディスカッション開催

昨年末、「動物愛護活動の現状、これからできること」をテーマに獣医師、トレーナー、トリマーの三者が集まった有志の勉強会「第1回 ペット業界業種別ディスカッション」が都内で開催されました。ペトこともメディアとしてご招待いただきましたので、当日の様子を紹介します。

なお参加者として、ペトことでもおなじみ白金高輪動物病院総院長の佐藤先生が参加されていましたが、今回は非公式の勉強会ということで、個々の参加者の紹介は割愛させていただきます。また、議論の内容はあくまで今回の参加者から出たものであり、それぞれの立場を代表するものではないということを前提とさせてください。

保護活動の現状

ディスカッションは最初、テーマにある通り「動物愛護活動」について広く情報交換することから始まりましたが、最終的に話の焦点は殺処分問題になりました。「動物愛護」や「動物保護」については言葉の定義に議論の余地がありますが、本稿では「動物保護」で統一して進めていきます。

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獣医師チームからは、以下の話が出ました。

  • 保護団体が保護犬猫の治療で訪れた場合は通常料金よりも安い金額で処置行っている。
  • 連携する保護団体とルールを設け、必要な際は無料で処置を行っている。
  • 治療の一環として預かりをするケースもある。

トレーナーチームからは、以下の話が出ました。

  • 保護犬の(里親が決まるまで)一時預かりをしている。
  • 保護団体から、問題行動のある犬の相談を受けることがある。
  • 保護団体に所属していた。
  • 譲渡会のサポートをしている。

トリマーチームからは、以下の話が出ました。

  • 動物愛護センターで定期的にボラトリ(ボランティアトリミング)をしている。
  • フォスターサロン(一時預かりをするトリミングサロンのこと)をしている。
  • 一時預かりをしていたがそのまま里親になってしまった。
  • 一時預かり中の保護犬のシャンプー、カットのサポートをしている。

保護活動の課題

続いて、それぞれの活動をする上で感じている課題についての発表と意見交換がありました。

ペットを飼える人は限定すべき?

獣医師チームからは、以下の課題が出ました。

  1. 割引診療の是非
    • 保護活動として安くしているが、普段からこれくらい安くしても平気なんだと思われてしまう可能性がある。
    • 売り上げを削ることは、結果的に病院スタッフの給与に負担を強いることにつながっているかもしれない。
    • 割引きをすることで、医療レベルを落としているのではないか。※実際、不妊去勢手術をお願いしたところ普通では考えられないほど雑な縫い目だったことがあると言う参加者もいました。
  2. 譲渡が難しい犬猫の存在
    • 順化(人間社会に適応させること)には年単位の時間が必要になる。
    • 噛み癖が性格ではなく遺伝や病気に起因する(と考えられる)場合、永続的な投薬が必要になり、一般の飼い主さんには飼育できない。
    • 猫は野生に戻して「自然」に委ねる選択肢もあるが、犬の場合はその選択肢が無い。
    • 安楽死はできる限り選択したくない。その選択肢があると、自分の判断が甘くなってしまう気がして怖い。※安楽死は本当に他の選択肢が無いか獣医師3人が議論して決めるという先生もいました。
  3. 飼育頭数は増やすべきや減らすべきか
    • 飼うべきでない人が飼えてしまっている。ペットを飼える人は限定したほうがいい。
    • 殺処分ゼロを目指すためには飼える人を増やさなければいけない(保護した動物の行き場がない)。

安楽死をしないのは本当に良いことか

トレーナーチームからは、以下の課題が出ました。

  1. 一時預かりでスキルアップできる
    • 新米トレーナーのトレーニングの場として貴重だが、時間も掛かるしお金がもらえる仕事ではないので現実的には運用が難しい。
    • そもそもトレーナーが一人で生活を成り立たせていくことが経済的な面で難しい。
  2. トレーナーの存在が不明瞭
    • 保護団体も獣医もトリマーも誰にお願いすればいいのか分からない。紹介もできない。
    • トレーナーの専門性が理解されていない。
    • お金を掛けて呼ぶことが恥だと思う人もいる。
    • 【獣医から】トレーナーも犬種ごとに得意不得意があるはずだが、誰がどの犬種が得意なのかわからない。
  3. 安楽死をしないことの難しさ
    • ハワイ、ニュージーランド、オーストラリアの保護施設で働いていた際には、噛み癖がひどく譲渡が難しい犬を安楽死させていた。日本では殺さない文化なので、トレーニングで何とかすることになるが、それだけハードルが高く時間が掛かる仕事。それを無料でやるのは厳しい。
    • 陰性強化(叱ってしつけるトレーニング)をする若いトレーナーが増えているように感じる。安楽死をしないことでトレーニングのハードルが上がり、短期的に結果が出る陰性強化に頼っているのではないか。トレーニングに失敗した子を再トレーニングする仕事が増えている。
    • おびえて吠える犬、攻撃的になって噛む犬。人間社会で生きていけるように殺さず、トレーニングで解決したいという人間の思いが、犬に負担を強いる結果になっているかもしれない。
  4. アメリカでは高度な技術を持つ人を表彰
    • アメリカには「ビヘイビアフォスター(Behavior foster)」という高度な技術を持つ人(Professional Dog Trainers and Animal Behavior Specialists)が活躍する団体や、そういった人を表彰する仕組みがある。
    • 問題行動のある犬に対し、期限を設けて高度な技術を持つトレーナーがトレーニングをし、獣医がその成果を見て安楽死を行うかどうかを判断する仕組みもある。

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獣医やトレーナーとの連携に課題

トリマーチームからは、以下の課題が出ました。

  1. ボラトリ(ボランティアトリミング)に関わる人が増えている
    • ボラトリは無料。自分自身のスキルアップにもなるし、後進を育てる機会にもなり、トリマーの底上げに貢献すると考えている。
    • やりたい気持ちはあってもやり方がわからない人が多いので、先導できるリーダーを育成していかないといけない。
    • サロンで無料トリミングをやりますよと申し出たところ、10匹くらい連れて来られてしまったことがある。
    • ほどくのが難しい毛玉を刈ったところ、保護団体の方から「なぜ刈ったんだ」とクレームが入ったことがある。獣医さんが間に入ってミスコミュニケーションを防ぐパターンもある。
  2. 一時預かりの難しさ
    • 獣医やトレーナーとの連携、協力が不可欠だが、誰に協力をお願いすればいいのかわからない。
    • クラウドファンディングでシェルターをつくったが、引き取った猫から感染症がシェルター内に広がってしまった。消毒も簡単ではなく、獣医さんに協力してもらいたいが、里親に「あのシェルターからもらったのか」と言うなど、積極的ではない方もいる。

編集長の注目ポイント

ここからは、いくつか個人的に注目したポイントについて紹介していきます。

猫はどこまで保護すべきなのか

まずは「猫は家庭動物なのか野生動物なのか問題」です。犬の場合、狂犬病予防法によって野良犬は存在してはいけないことになっていますので、保護と譲渡は両輪の関係です。一方、猫の場合は、野良猫が存在していても法律上は問題ありませんので、保護して不妊去勢手術をしたり、病気の治療をしたりして元の場所に戻すこともありますし、里親になる方を探して譲渡することもあります。その判断に明確な線引きはありません。

実際、筆者が飼っている猫「リズモ」は、もともと動物病院で里親を探していた路上生まれの子猫でした。今は室内で幸せに暮らしています(と信じています)が、保護されずとも、運良く生き延びて野良猫として暮らしていた可能性もあります。例えばサバンナの生活が過酷だからといってシマウマを動物園に連れて来ても「動物保護」とは言わないはずです(絶滅危惧種でない限り)。人間の考える「動物の幸せ」が本当に動物にとっての幸せなのかは、動物に聞いてみない限りわかりません。

ケガや病気、特に高齢になって野良として暮らすのが難しい猫を保護すべきなのか。どうあっても自然の摂理として放っておくべきなのか。保護してしまえば時間がたてばたつほど野生に戻すのが難しくなります。獣医師さんたちは、迷いながらもそれぞれの判断基準で保護活動をされているのが現状です。

厳しい譲渡基準は逆効果?

あるトレーナーさんからは、保護団体と里親希望者の間にある壁が高すぎるのではないかという意見がでました。例えば、高齢者や単身者、子どもがいる(生まれる)家庭などには譲渡しないと決めている団体は少なくありません。高齢者であれば、寿命が20年近くになる犬猫を最後まで育てられるのかという話があり、実際に近年では高齢者が亡くなり犬猫だけが残されてしまったり、老人ホームへの入所や病院への入院によって飼えなくなった犬猫が保護施設に引き取られるケースが増えています。同様に、単身者であれば留守番時間の長さ、子どもがいればアレルギーの問題がありますので、審査を厳しくするのも仕方のないことかもしれません。

しかし、その結果として起こっているのは、保護団体から断られたので仕方なくペットショップで買ったという人が少なからずいるという事実です。筆者もそういう方を知っています。ここで問題にしたいのは「ペットショップで買うこと」ではなく、結果的に飼えたわけですから、保護団体と飼いたい人がもっと話し合っていれば、実は譲渡できたのではないか、譲渡の機会損失が生まれているのではないかということです。高齢者でもシニアの犬猫を飼ったり、後見人を付けることで万が一の対応ができます。単身者でもペットのシッターサービスで留守番時間を減らせるかもしれませんし、動物アレルギーでもペットを飼っている人はたくさんいます(筆者もそうです)。

獣医師チームから「殺処分ゼロを目指すためには飼える人を増やさなければいけない」という話がありましたが、筆者も同じ意見です。もちろん誰でもいいから譲渡してしまえばいいという話ではありません。譲渡できる人に譲渡するだけでなく、これからは、ちゃんとした飼い主さんになれるのに何か問題があって飼えない人の問題を解決していくことも必要なのではないでしょうか。

求められるプレイヤーの質向上

獣医チームからは、保護活動をしている方のシェルターメディシン(※)に関する知識・技術不足を危惧する声も挙がりました。動物への愛は尊いものであるものの、自分の保護能力・技術力・経済力を越えて想いだけで活動し、それが良くない結果を招いている事例も少なからずあります。一方で、年間8万匹が殺処分されている現状では、そういった人たちがいることで助けられている多くの命があるのもまた事実です。

※「伴侶動物の群管理」と訳され、複数の動物がいる環境の中で病気が広がらないようにしたり、ケガや過度なストレスが発生したりしないようにして保護動物の健康を維持し、譲渡を促進するための管理方法で、近年研究が進められている分野です。

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批判だけや放置・無関心では問題解決につながりません。ビヘイビアフォスターのように模範的な人を明確にし、たたえ、より多くの人がそこに近付けるようにすることが全体の質向上や底上げにつながります。目指すところはみんな同じはず。今回のような業種を越えた情報交換、学び合いの場は、今まで有りそうで無かった機会です。ペトことでも、引き続き情報発信のお手伝いをさせていただきますので、イベント・勉強会など開催される際はお声掛けください。

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