【獣医師プラス】勝てない遺伝子に挑み続ける。遺伝学専門家ー今本成樹先生ー

【獣医師プラス】勝てない遺伝子に挑み続ける。遺伝学専門家ー今本成樹先生ー

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獣医師プラスでは、ペットライフメディア「ペトこと」にご協力いただいている獣医認定医・専門医を紹介します。第3回のインタビューは新庄動物病院院長で、遺伝子疾患に挑み続ける今本成樹先生。遺伝学の専門家でありながら、防災士試験合格、大学非常勤講師勤務、2015年全日本社会人ボクシング選手権での優勝など、多方面での経験を持つ、バイタリティ溢れる今本先生の軌跡にせまります。

01

獣医師までの道のり

今本先生の横顔

動物に囲まれた日々が紡いだ道

「小さい頃から動物に囲まれて育ったんです。犬だけでなく、モルモットやリス、鳥など、物心ついたときからそばにはいつも動物がいましたね」

"動物と暮らす"楽しみを、多くの人に感じてほしいという気持ちから、獣医師の道を選ぶようになったそう。

遺伝子には勝てないからこそ学ぶ

医学が日々進歩し、新しい薬や治療法が生まれても、次から次へと新たな病気は生まれている。「遺伝の病気には勝てない」という状況が変わっていない事実が、今本先生を遺伝学に惹きつけた理由だといいます。

「遺伝子というのは、その子を成り立たせるもの自身であり、そこに病気が刻まれていれば、治すことはできません。であれば、予防する側になろうと思ったんです。

遺伝性疾患は、予防でコントロールすることができます。例えば関節疾患についてです。

ドイツのジャーマンシェパードなら1970年代には70%の子が股関節異常があったといわれていますが、今では関節が強い子との選択交配が進められ、20%に抑えられています。

お話する今本先生

要は約50%もジャーマンシェパードの股関節形成不全になる罹患率を減らすことができた実例です。

遺伝子の突然変異は起こり得ますが、この世から『遺伝性疾患という言葉をなくすこと』が夢です」

専門的意見の言える認定医

「PennHIP認定医(アメリカ)」「WUSV認定レントゲン実施獣医師(ドイツ)」の両方の資格を持つのは、日本国内で今本先生ただ1人。どちらも海外のレントゲン検査の認定資格です。

「PennHIP、WUSVはどちらも股関節形成不全をより専門的に診るために受験を決めました。口頭試問や実技試験を受け、認定を得ることができました。

遺伝疾患は股関節形成不全だけではありませんが、数が多いとされる股関節形成不全に専門的な意見をきちんと言える必要があると考えたからです」

02

治療にかける熱き想い

今本先生の横顔

笑顔で帰ってもらうことがやりがい

不安そうだった飼い主さんに、笑顔で帰ってもらうことがやりがいだという今本先生。

「反対に、現在の医学で勝てない病気に対峙したときは、敗北感しかないため1番辛いです。『しょうがない』という言葉は自分への諦めですから、絶対に言いたくないと思っています。

治療ができなくて悔しい想いを必ず伝え、今の医学が勝てない理由・ポイントをお伝えするように心がけています」

医療への透明性にこだわる

手術も写真を撮って報告書を書いたり、動画撮影を行ったりして、飼い主さんにお見せし、透明性を保つことが今本先生のポリシー。

「希望があれば、手術を見ていただいても構わない。自分の腕前を見せる機会でもあるため、隠さず多くの人に見てもらいたいと思っています」

さらに、飼い主さんの想いに添った治療を心がけているといいます。

「私たちが独りよがりな治療に走ることがないように、飼い主さんの意見やニーズを聞くことが大切です。

『これが先進医療!高度医療!』と押し付けるのではなく『飼い主さんの期待を1%でも上回る』ことこそが、最も高い価値のある医療だと考えています。

飼い主さんと長時間話し、信頼関係を築きながら、それぞれの治療のメリット・デメリットを正確に伝え、治療方針を一緒に考えていくようにしています」

病気を予防するために心がけてほしいこと

犬種ごとに好発疾患が異なるため、それぞれの犬種の特徴をもっと知ってほしいと語る今本先生。

「トイプードルは『可愛い』と人気の犬種ですが、実は約10%が白内障に罹患するといわれています。

さらに足の骨が細い犬種になると、フローリングで滑って骨折という事故もありますので、ご自身の愛犬がかかりやすい病気・事故を理解することがすべての予防につながると思います」

03

先生の私生活

笑顔の今本先生

子供の夢を応援するお父さん

子供の試合観戦をすることが主な休日の過ごし方だと、笑顔で話す今本先生。

「何年か前までは少年野球のコーチをしていましたが、次男と三男がサッカーをやっているので、日本サッカー協会のコーチ資格も取得しました。

子供の好奇心を満たすことが今本家の子育ての原則のため、子供がやりたいと言ったことはすべてやらせるようにしています。

子供には『チャレンジした者にしかわからない景色がある』という話をよくします。どんどん挑戦していってもらいたいし、その挑戦がいつでもできるような土台を作っていきたいと思ってます」

野球する今本先生

今本夫婦

ボクシングを始めたきっかけ

格闘技は唯一、人を殴って褒められる競技であることを不思議に思い、ボクシングに興味を持った今本先生。

「実は39歳のとき、試合をしたら殴られすぎて記憶をなくしたことがありました。ボコボコにされ負けたため、奥さんに『引退する』という報告をしたところ『負けたからやめるの?』と奥さんの発破がけと手厚いフォローを受け、第66回全日本社会人選手権優勝を収めることができました。

『単純に殴り合う世界ってどんなもんだろう』という好奇心から入った世界でしたが、実際はみんなに支えられ、人と人との大切さを学んだきっかけになりました」

ファイティングポーズを取る今本先生

2匹の愛猫との暮らし

2匹の猫と暮らしている今本先生。2匹とも、運命的な出会いでお迎えを決めたそうです。

「1匹は家族で帰路についていたとき、田んぼから子猫が出てきて、三男の足に引っ付いたことがきっかけです。『運命だね』という意見で満場一致になったため、新しい家族として迎えたのが"サスティー"でした。

もう1匹は出張帰りに車を運転していたら、センターラインに交通事故で顔面変形した猫がいました。自分の病院に連れて帰り、処置を施したところ奇跡的に生き永らえてくれた子が"クロマ"です」

今本先生の愛猫サスティー
田んぼから出てきたサスティー

今本先生の愛猫クロマ
交通事故に遭ったクロマ

04

ペットと幸せに暮らすコツ

笑顔の今本先生

一緒にいる動物から、幸せをもらいぱなしなので人間からちゃんと還すことに努めてほしいと語る今本先生。

「無償の愛をくれていた愛犬・愛猫が、病気になった・高齢になったときなどは、もらった優しさを還す大チャンスです。動物にもらった愛・優しさをいっぱい還していきましょう。

今の愛犬・愛猫との楽しい生活をより良く味わってもらうために、獣医師が治療する、予防する、啓発することをしていくので、より良い共生のために幸せをお互いに与え続けられるような関係を作っていってほしいなと思います」



【勤務する動物病院】


新庄動物病院

新庄動物病院
〒639-2144
奈良県葛城市葛木104−1
0745-69-1111
公式サイトはこちら



【学歴・経歴】

- 2000年 北里大学獣医畜産学部卒業
- 2002年 東京大学農学部生命科学科大学院研究生を経て、新庄動物病院を開業
- 2018年 帝京科学大学非常勤講師就任
- 日本獣医学会(近畿) にて3回奨励研究褒賞受賞(犬の遺伝性疾患の研究)

【SNS】


From 獣医療ライター 織田
ペトこと編集部獣医療担当織田

奥さんへの敬意と感謝を忘れない子煩悩パパ。バイタリティーや好奇心溢れる父に母、この両親だからこそのお子さんたちと実感するインタビュー時間でした。動物愛もさることながら、人間愛にも溢れたまっすぐな獣医師さんです。