
ペット業者に切り込む保護活動の現場 足を引っ張っているのは誰?
生首が転がっている現場で「なんでだめなの?」と言われる。一番頼りにしている行政がなかなか状況を改善できない――演出家の宮本亜門さんや女優のとよた真帆さんが呼びかけ人を務める「TOKYO ZEROキャンペーン」が10月に開催したイベントで、保護活動に携わる3人によるトークセッション「保護活動の現場から」が行われました。現場を見ているからこそ語ることができる保護活動の現実。今回は登壇者たちがペット業者と関わる上で直面した困難について抜粋して紹介します。(取材:薄井慧)
- 登壇者
- 川崎亜希子さん(公益社団法人「日本動物福祉協会」栃木支部長)
- 梅田達也さん(保護猫カフェ「ねこかつ」代表)
- 山田佐代子さん(公益社団法人「神奈川県動物愛護協会」会長)
- 司会
- 細川敦史さん(弁護士・ペット法学会員)
「ペット業者」と向き合う難しさ

左から、細川さん、川崎さん、梅田さん、山田さん
細川:今日のトークセッションは「保護活動の現場から」というタイトルがついていますが、保護活動について三つに分けて考えたいと思います。
一つ目は、「ペット業者さんから出てくる犬猫をどうやって保護するか」。二つ目は、「飼い主さんから放棄された犬猫」。飼い主さんからといっても、自治体を経由してくるパターンもあれば、飼い主さんから直接相談を受けるパターンもあると思います。三つ目は、「飼い主がいない犬猫」ですね。いわゆる野良犬・野良猫の類です。それぞれの立場から困ったことや悩みごとを教えていただきたいと思います。
一つ目の「ペット業者さんから出てくる犬猫をどうやって保護するか」について、困難にぶつかったことはなかったでしょうか。神奈川県動物愛護協会の山田さんから何か事例があれば。
山田:うちの場合はペットショップが倒産してしまって、いくつかの動物愛護団体で全頭を引き取るという形が多いですね。あとは一般の方から「ペットショップで動物たちの状態が非常に悪い。何とかしてもらえないか」というご相談を日常的に頂戴しているのですが、行政の方で注意指導から入っていただくくらいの対処しかできないというのがありますね。
細川:ペットショップの倒産ですと、時には逃げてしまったりとかがあるかもしれないんですが、例えば業者側が動物を手放さないとか、「俺のものだ」とか言い出すという悩みはないわけですよね。
山田:業者さんの方はお手上げ状態ですね。たいがい私が関わったケースですとほとんどが猫ではなくて犬なんですね。小型犬が多いとは言え、置き場所はなかなか大変であると。ですからいろんな団体さんで少しずつ分けて引き取るというような形を取っています。
細川:よく「ここの業者がよろしくない」というのもありますよね。「あれは劣悪な環境じゃないか」という相談を受けた場合はどうされるんですか?
山田:管轄の自治体、つまり行政から状況確認ということで現場に行っていただくんですけど、今はそこで「どのライン」という規定がないので、業者の方が注意されても「やりますから」と流し、また行政が確認に行って、また行って、と、その繰り返しになってしまうケースが多いです。
細川:注意して改善されるんだったら、それに越したことはありませんよね。そこで何か問題っていうのはあるんですか?
山田:改善されていないのにも関わらず、その次になかなか進まないということですね。確認に行って注意指導をして、改善が見られなければ勧告や命令に進んでいただければいいんですけど、そこらへんがなかなか。何度も同じことを繰り返しているというところですかね。
細川:法律の基準があって、それを守っていないと指導・勧告・命令・最後には罰金という作りにはなっているけど、それがスムーズにいってないというのが現場の感覚だということですね。
「所有権」の壁がレスキューを阻む

細川:日本動物福祉協会の川崎さんは似たような事例ありますか?
川崎:業者案件は結構やっているのですが、私たちが関わる際に一番注意しているのは、業者の在庫整理を手伝うことで営業支援をしないようにしているということですね。ボランティアさんの中には、目の前にかわいそうな子がいたらとにかくその子をレスキューして、「ああよかった」ということで済ませる方が結構まだ多いんですよ。
業者さんはそういった心理を見越して、「この子は健康状態に問題があるから売り物にならない」とか、繁殖に使えなくなった犬や猫をボランティアさんに押しつける。自分たちはまた新しい動物を入れて、繁殖を繰り返して、というペットビジネスをずっと続けていくわけです。
繁殖に使えなくなった犬や猫をボランティアが引き取ってペットビジネスの循環を手伝うというか、より発展させることはさせたくないという気持ちが非常に強いです。私たちが業者に関わる場合は、告発だとか、行政からの指導を入れることを大前提にしています。
あまりにこちらのアドバイスを聞かないとか、取扱業を継続する意思があるのにも関わらず改善が見られない場合は、まず行政に連絡をします。行政でも指導を行っていますが改善がありませんという場合は、開示請求といって行政の指導履歴を取り寄せて文書として出してもらいます。そして、どの程度の指導が入っているのか、改善されていないのかなどを把握させてもらいます。
それでもだめな場合、保護した動物すべてに獣医師の診断書をつけてもらいます。レントゲン、血液検査、あと虐待の証拠になるようなものを全部押さえて告発するという流れになっていきます。その際に一番困るのは、入れてくれない業者さんがいることです。業者さんが「動物を手放すのは嫌だ」とか「廃業したくない」と言うけど劣悪な状況が続くという場合が一番厄介です。

今の日本の法律では所有権に問題があって、飼い主さんが承諾しない場合は動物を取り上げることができないんです。私たちがいくら助けたくても助けられないという壁が一つ大きなものとしてあります。ここではお話するのを控えますけど、いくつか裏技があって最終的に取り上げてしまう時はあるんですけど……。
保護が必要なのに、飼い主が「手放さない」と言っているだけで保護ができなくて、どんどん劣悪な状況になって、健康が損なわれてしまう。それを見なくてはいけないつらさはあります。あと、業者さんの環境が悪くて、そこに動物を置くのは忍びないなと思ったときに、つい手を出してしまって中途半端な環境改善になると、それがエンドレスになる可能性もあって。そういったことは、今の法律の中で痛いところではありますね。
細川:現場がひどいのを見て、かわいそうという気持ちで何とかしてあげたいと入っていく。その気持ち自体は否定する理由も全くないし一見美しいなと思うんですけど、それをしちゃうとずっと同じことを繰り返す。それが悩ましいですし、問題なんですよね。
でも証拠を残して積み上げていくという発想は非常に大事だと思います。そして所有権の壁が本当に悩ましいというのは、十何年前からいろんな団体さんが言い続けているぐらいの悩ましいところなので、どうにかしないといけないというのはあります。
どんなにひどい状況でも、ニコニコして入っていく
細川:保護猫カフェの梅田さんには、「繁殖業者が崩壊したから……」みたいな相談ありますか?梅田:川崎さんのところみたいにたくさんは来ないです。でもたまに、年に1件くらい、どうにもならないということで、「業者を辞めるからなんとかしてくれ」みたいなものは来ますね。「辞めるから」という時は中に入れるんですけど、それでもちょっとでも相手の気分を害してしまうと入れないということもあるので。死体も転がっているような劣悪な状況でも、僕らはそこの人と仲良くしないといけないんです。
行政とか警察とかを呼んでも、残念ながら今のところはあまり役に立たない。来てくれても大して動いてくれないですし、行政にもあまり権限がない。仮に業者側が全部放棄すると、動物たちはみんな処分されてしまいます。他の団体にお願いしようにも、みんな厳しいのは分かっているので、自分らでなんとかしないといけない。それで、どんなにひどい状況でもニコニコして入っていきます。
去年、おととしかな。川越で何人かと入ったところは、生首が転がっていたんですけど、その横でニコニコと「これじゃだめだよ~」と。すると、「え、なんでだめなの?」とか言われて。転がっている生首は共食いが起きて、かじられて顔とかぐじゃぐじゃになっているんですけど、その横でニコニコ話して。説得して。「この子は持ってっていいの?」と聞いても、「この子はちょっと待って」とかいう話がすぐ始まってしまいます。

私はこの活動を始める時に「ブリーダーとかペットショップに手を出すとヤクザが出てくるよ」という話をよく聞いたんですけど、我々が扱うのは小さなところなので、今のところそういったことはないです。
ただ、「話もあまり分からない」「平気で嘘をつく」といった普通だったら社会生活も難しそうな人が、「家に物置もあるし」といった感じで犬や猫をつがいで買ってくる。埼玉だと広い家もあったりしますし。そして繁殖させて、生き残った子たちをどこかの業者に売っちゃえばいいやと安易に考える方がすごく多いんですね。
生き物を生き物と思っていないんです。犬の種類や猫の種類を愛してブリーダーをされているいわゆる「いいブリーダー」と呼ばれている人たちとは逆の、お金にしか興味がない人たちが、「犬や猫はお金になる」とやっている。まあ、私は「いいブリーダー」はいないと思っているんですけれど。
まあ、そういった方たちが多くてですね。行くと話がコロコロ変わりますし、生首が落ちてようが何しようが「大丈夫だよ」と。それでも、動物を助けるためにニコニコして入らなくてはいけない。我々、民間のボランティアが強制的に入るのは難しいので、何とか法改正して、警察なり保健所なりにもっと強制的な権限を付与してもらえれば、我々がそんなことをしなくても済むのかなと思います。
細川:また、ハードなお話ですね……。メンタルが強くないと務まらないのかなと思いますけれど、悩ましさやつらさを押してやっていらっしゃるというのがよく分かりました。
動けない行政を「事件化」で押す
細川:川崎さんから、栃木県のお話をお聞かせいただけますか?川崎:栃木県矢板市にある第一種取り扱い業者は、200頭くらい犬と猫がいるような状況で、うちの支部とは10年以上の長いお付き合いがあります。要は、レスキューする状況が続いていたんですね。
当然近隣の住民からも苦情が来るので行政も動いていたんですが、10年以上ずっと改善は見られないまま、頭数はより増えていくという状況が繰り返されるまでに至って。今日は高崎市から行政の方がお見えで、高崎市は大丈夫なんですけれども(笑)。栃木県の行政は全くあてにならないということが分かり、「もうこれはこちらでやるしかないでしょう」となりました。
それまでずっとレスキューした動物の診断書を取りためていたのと、獣医師の方々に現場を見てもらいました。複数名の意見書を書いていただいて、司会の細川弁護士に代理人になっていただいて告発状を提出したところです。一部結果は出ていますが、まだ後半戦をやっているところです。

この時に「行政があてにならなかった」という問題がありまして、栃木県の獣医師職員の資質が悪いのはもちろんなんですけど、施設の基準などにあいまいな部分があるということが一番の大きな問題ですね。
「こういう状況でだったらいいですよ」というところをどこで線引きすればいいのか分からないというのがまず一つ。それと行政の方、公務員の方々は基本的に減点主義で、自分から事を起こすのが怖いというのがあります。「(状況は)悪いんだけど、どこまで、どうしたらいいの……」ということになってしまって。結局、外部から押していかないと勧告だとかいろんなステップを踏めない状況です。
積極的に取り組まれている自治体さんも今日はいらっしゃっていますが、栃木県に関してはそうった状況もあって。行政もあてにならない状況の中で、これ以上悪化していくのは見ていられないということで事件化に踏み切ったんですけど、今までの業者案件はすべてそんな感じの流れですね。
一番頼りにしてる行政がなかなか前向きな対応というか、その状況を積極的に改善できないということが根底にあって、事件化せざるを得なかったです。
細川:憶測を含めてですけれど、逆に足を引っ張られているんじゃないかって思うところもありましたよね、役所の人に。本当だったら行政でやっていただきたいところなんだけど、それが難しいので、もう一つ頭を越して警察の方に行きましたと。どっちでもいけるような話なんですけど、警察でもいけるんだったら直接警察行きましょうかねとやってるのが栃木県の事件ですね。
少し報道で出たりもしているんですが、狂犬病予防法法違反ということで罰金刑になっているんですね。犬の登録をしないとか、注射を受けさせないということがあると、それだけでそれぞれ罰金20万円という規定があるんです。
ただ今回は、メインの糞尿が全然処理されていないような環境で、ほとんどの犬猫が皮膚病とか目の病気を抱えた状態で放置されていることで虐待、いわゆるネグレクトで動物愛護管理法違反だと告発したんですけど、一番大事なところが抜けてしまって。そこの部分は不起訴ですよと言われちゃったんです。
宇都宮の大田原支部の検察庁がそういう判断をしたのですが、「これはよろしくないよね」ということで、検察審査会の申し立てをしています。検察審査会といってもあまり馴染みがないかもしれませんが、不起訴処分について、「おかしいだろ、もう1回捜査しろ」ということを申し立てするんです。
そうすると一般の人からくじで裁判員みたいな人が選ばれて、市民の人たちがこの不起訴が妥当なのかをもう一度審議するっていう。それをやってもらおうとしているところです。時期がいつぐらいになるかとはまだ教えてもらえないんですが、今月か来月あたりに議論されて、その不起訴が「相当」なのか、不起訴が「不当」なのか、「起訴相当」なのか、3段階のランクから判断される見込みです。
