猫が痙攣発作を起こした場合の原因や病気、対処法、治療法などを獣医師が解説

猫が痙攣発作を起こした場合の原因や病気、対処法、治療法などを獣医師が解説

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猫の痙攣(けいれん)発作は、ある日何の前触れもなく突然起きるかもしれません。多くの飼い主さんはとても驚かれますし、「そのまま死んでしまうのではないか」と考えてしまう方もいらっしゃいます。ただ実際には、落ち着いて対処すれば大丈夫な場合も多々あります。そのためには飼い主さんも病気の知識を持ってもらうといいのではないでしょうか。いざという時のために、本稿をざっと読んで頭の片隅に入れておいていただければ幸いです。また、すでに痙攣発作が起きてしまって情報を探している方におきましてもご参考になれば幸いです。今回は猫の痙攣の原因となる病気や検査・治療法などについて、平井動物病院院長の米山が解説します。

猫の痙攣発作とは

ねこ

痙攣発作といえば、「意識を失って泡を吹き、全身をバタバタ動かす」といった一般的なイメージがあると思います。発作のパターンは一通りではなくさまざまです。

意識を失う場合もあれば、失わない場合もあります。手足をバタバタ動かす場合もあれば、突っ張った状態になる場合もあります。全身が痙攣する場合もあれば、体の一部分(唇、瞼など)だけが痙攣する場合もあります。これらは全て痙攣発作です。意識があったり体の一部分だけだったりすれば放置していいかというとそういうわけではなく、同様に対処する必要があります。

痙攣発作の時間、頻度はさまざまです。数十秒~2分程度続いて自然に治まる場合が多いですが、長時間止まらない場合もあります。1年に1回しか起きない場合もあれば、1日に何回も起きる場合もあります。


ちなみに、寝ている時にピクピク痙攣するのは病的なものではありませんので気にしなくて大丈夫です。

猫の痙攣発作の原因となる病気

ねこ

猫の痙攣発作の原因は、大きく分けると「脳の病気か」「脳以外の病気か」の二通りです。

痙攣発作の原因となる脳の病気

猫の痙攣発作の原因となる脳の病気は、以下の二通りに分けられます。

MRI検査で検出できるような明らかな病変が存在する場合(症候性てんかん)

脳炎、脳腫瘍、水頭症などです。痙攣発作だけでなく他の神経症状(目が見えない、立てない、まっすぐ歩けないなど)を併発する場合があります。

MRI検査で検出できるような明らかな病変が存在しない場合(特発性てんかん)

特発性とは、原因不明という意味です。痙攣発作の症状があるけれどもMRI検査で何も異常がない場合、「特発性てんかん」と診断します(脳波の検査を行う場合もあります)。症状は基本的に痙攣発作だけであり、他の神経症状はみられません。

猫の痙攣発作の原因となる脳以外の病気

  • 低血糖
  • 重度の肝臓病
  • 重度の腎臓病
  • 感染症(猫伝染性腹膜炎など)
  • 毒物の摂取
  • 心臓病(不整脈など)
この中では、特に低血糖による痙攣発作がよくみられます。子猫や衰弱した猫は、食欲不振や下痢などによってすぐに低血糖となってしまいます。低血糖はすぐに治療しないと命に関わります。

肝臓病、腎臓病、感染症、毒物摂取においては、痙攣発作が主症状というわけではなく全身状態もかなり悪い場合が多いです。詳しくはそれぞれの病気を調べていただければと思います。心臓病による痙攣発作は、他と比べて発作のパターンがやや異なるのですが、非常にまれですのでここでは割愛させていただきます。

家で猫の痙攣発作が起きた時の対処法

ねこ

慌てず冷静に対処してください。大声で呼びかけたり揺さぶったり押さえつけたりしても痙攣は止まりません。むしろ噛まれたりして危険です。ほとんどの場合は自然に治まりますので、落下物などに気を付けながら、猫には触らずに側で様子を見てあげてください。余裕があれば、「痙攣が何分間続いているか時間を計る」「痙攣している様子を動画で撮る」といったことを行っていただくと診断の参考にはなりますが、もちろん無理はしなくて大丈夫です。

動物病院の受診が必要な場合と必要ない場合

緊急で治療が必要な場合と、必要ない場合があります。

受診が必要な場合

  • 脳の病気による痙攣発作が5分以上止まらない、1日に何回も起きる、毎日起きる、など
  • 低血糖による発作
  • 毒物の摂取による発作
これらは緊急で動物病院を受診する必要があります。夜間であれば救急病院を受診してください。

受診が必要ない場合

脳の病気による数分以内の痙攣発作が1回だけ起きたが、その後は起きておらずいつもどおり元気という場合は、緊急性はありません。翌日の受診でも大丈夫です。

ただ、家での様子だけでは判断は難しいです。脳の病気による発作かどうかわからないですし、実は低血糖だったというようなことであればすぐに治療しないと命に関わります。また、痙攣発作が1回で終わるのか続けて起きるのかの予測も難しいです。

以上の理由から、獣医師は基本的に来院を指示すると思います。私自身も問い合わせがあれば来院するように伝えています。例外として、私が普段の状態を把握できている常連の猫さんの場合は、緊急性がないと判断すれば様子をみてもらうかもしれません。これはどの病気においても言えることですが、かかりつけの病院を作って、普段から獣医師に状態を把握してもらっておくのがいいと思います。

結論としては、受診予定の動物病院にお問い合わせいただき、指示に従ってください。

猫の痙攣で動物病院を受診した際の流れ

ねこ

問診、身体検査、神経学的検査、血液検査を行います。血液検査は脳以外の病気(腎臓病、肝臓病、低血糖など)を除外するために行います。脳以外の病気が見付かればその治療を行い、見付からなければ脳の病気を疑って次に進みます。

次は、すぐに治療を開始するかどうかを判断します。例えば、軽度の発作が1回だけということであれば、通常は経過観察を勧めます。軽度でも一定以上の頻度(後述します)で起きていたり、他の神経症状も出ていたりするようであれば、投薬治療の開始を勧めます。また、重度の発作が連続して起きているようであれば、入院による集中治療を勧めます。

そしてもう一つ、MRI検査を行うかどうかを相談します。治療開始と同時に検査する場合もありますし、治療は先に始めてしまって後で検査する場合もあります。

MRI検査について

脳の病気の診断にはMRI検査が必要です。検査を行わなければ「症候性てんかん」と「特発性てんかん」の鑑別はできません。治療法や予後が変わってきますので、基本的には検査を行うことが推奨されます。

ただ、全頭で必ず検査しているわけではありません。理由としては、
  • 麻酔が必要で費用も高額なため、飼い主さんの同意が得られにくい。
  • 脳の病気の治療法は共通している部分があるため、診断がつかないと何も治療できないわけでもない。
  • とりあえず治療を始めて後から検査することも可能であるため、後回しになる。
といったことが挙げられます。

MRI検査を行わない場合は、猫の年齢や症状から推測した暫定診断を基に治療することになります。暫定診断がたまたま合っていればいいのですが、間違っているかもしれません。
MRI検査が特に強く推奨される状況としては、
  • 痙攣発作以外の神経症状または神経学的異常が存在していて、症候性てんかんが疑われる。
  • 治療を始めてみたけど発作が抑えられていない。
といった場合が挙げられます。なるべく検査をしていただいたほうがいいでしょう。

猫の痙攣発作の治療法

寝ている猫
脳の病気による痙攣発作の治療には、抗てんかん薬を使用します。「緊急時に発作を止める薬」「長期的に飲ませて発作の発生頻度を減らす薬」などを状況に応じて使用していきます。特発性てんかんにおいては、基本的に抗てんかん薬のみを使用します。症候性てんかんにおいては、抗てんかん薬に加えてそれぞれの病気に応じた薬(ステロイド、利尿薬など)も併用します。その他、脳腫瘍においては手術や放射線治療を行う場合もまれにあります。

特発性てんかんの治療について

治療を開始する目安は、1カ月に1回以上(または3カ月に2回以上)の頻度で発作が起きる場合です。これ以下の頻度であれば、発作をさらに減らすメリットよりも治療負担のデメリットのほうが大きいと考えられています。ただ、これはあくまで目安であり、重症であれば初回発作時からすぐに治療を開始することもあります。

抗てんかん薬を飲ませても発作がゼロになるとは限りません。発作を減らして脳の損傷を防ぎ、生活の質を改善することが治療の目的となります。また、抗てんかん薬は発作を起きにくくするだけの薬であり、根本の病気を治せるわけではありません。ですので、投薬はずっと続けなければいけない場合が多いです。調子が良いからといって自己判断で急に中止すると、リバウンド的に制御不能な発作が起きる可能性があります。必ず獣医師の指示通りに投薬してください。

痙攣発作によって生じる脳の損傷について

長時間または頻回の痙攣発作は脳の損傷を引き起こします。発作が止まらなければそのまま亡くなってしまいますし、止まったとしても後遺症(目が見えない、呼んでも反応しない、いつもボーッとしている、など)が残ってしまいます。発作が毎日起きていたり、1日に何回も起きていたりする場合は脳損傷の可能性が高くなります。絶対に放置せず、緊急で動物病院を受診してください。このような状況では基本的に24時間監視の入院治療が必要となります。

低血糖発作について

下痢や食欲低下がみられる子猫において痙攣発作が起きた場合は、低血糖発作の可能性が高いです。一方で、健康状態が悪くない成猫においては低血糖発作はまれです。成猫に痙攣発作が起きた際、ネットで調べて砂糖水を飲ませて様子を見ていた方がいらっしゃいましたが、脳の病気が原因の場合は砂糖水では改善しません。自己判断は危険かなと思います。

低血糖の治療法は糖の投与ですが、痙攣しているような状態では意識レベルも低下していますので、口から飲ませようとしても飲み込んでくれません。そのような時は動物病院で血管から糖を注射する必要があります。

子猫は1日で状態が急変することもよくあります。血糖値が低下してくると、覇気が無くなり動きが悪くなっていきます。さらに低下すると痙攣発作が起きます。ですので、その前の段階でブドウ糖液を飲ませるなどの対処をすることが望ましいです。ちなみに砂糖水でも効果はありますが、量の調整が難しいので動物病院でブドウ糖液を処方してもらって量も指示してもらうというのがいいと思います。

自己判断はせず、猫の痙攣発作が起きたら動物病院へ

ねこ

痙攣発作を目にするのはとてもショックだと思いますが、飼い主さんに冷静に対応していただけると治療もスムーズに開始することができます。止まらない発作や連続した発作は命に関わりますので、決して様子を見ずに緊急で動物病院を受診してください。これが最も重要なことです。自己判断は危険な場合もあります。かかりつけの動物病院をつくり、痙攣発作が起きた場合には早めにご相談できるようにしていただければと思います。