
バスケで日本一、大学を卒業してから獣医師の道へ 菅野芳也先生インタビュー【ペット業界の若手たち】
動物が好き! そんな純粋な想いから、子どもの頃に獣医師さんやトリマーさん、飼育員さんになりたいという夢を持っていた方は少なくないと思います。「獣医師になる!」という夢を叶え実際に動物病院で働く菅野芳也先生に、「仕事についた経緯」や「実際になって思うこと」「これから夢に挑戦しようとしている人たちに伝えたいこと」などを語っていただきました。
大学を卒業してからの浪人生活

――菅野先生は明治大学を卒業後してから、北里大学の獣医学部に入られたんですね。
そうです。僕バスケが大好きで、明治大学にはスポーツ推薦で入ったんです。高校の時に全国大会で優勝してて、ベスト5にも入ったんですよ。ありがちですけど、家に『スラムダンク』全巻ありますよ。昔、スラムダンクと「uno」がコラボしたCMがあったんですけど、そのエキストラで出演して井上雄彦先生のサインもらったこともありましたね。本当にちょい役でしたけど。そんな感じだったので大学では勉強ほぼしてなくて、体育館に通ってました(笑)。卒業後にバスケでプロになる道も考えてたんですけど、自分のレベルではちょっと厳しいなっていうのとか、バスケで食べていくってことを考えた時にちょっと違うなとか、いろいろ考えて止めました。
――そこからなぜ獣医師になろうと思ったのでしょうか。
父親が獣医師なんですよ。実家は宮城県にあるんですけど、犬とか猫とかの小動物ではなくて、牛とかの大動物を診る獣医師でした。だから昔からそっちの仕事には興味があって、親も「目指すんだったら応援するよ」って感じで。自分としても普通に就職して働くっていうのがあまり選択肢に入ってこなくて、じゃあやってみようかなと。でも、北里に入るまで3年浪人しました。周りは就職して働いてるのに、自分は全然働いてない。1年目ダメで、2年目もダメで、「こんなんでいいのかな?」みたいな感じはありましたね。3年やってダメだったら諦めようとは思ってて、最後に北里に拾ってもらいました。僕の父もたまたま北里出身で、喜んでましたね。
――北里大学ではどのようなキャンパスライフだったんですか?
明治とはまったく違って。楽しかったですけどね。北里っていろんなところにキャンパスがあって、獣医学部は青森なんですよ。だから急に青森に飛ばされたので、なんじゃここはって感じでしたね。でも入れるんだったら正直どこでもよかったので。――年齢の差は気になりませんでしたか?
25歳のときに入ったので年の差が6歳くらいあったんですけど、一番年上の人で35歳くらいの人もいましたよ。その人はもともとジャーナリストの仕事をしていて、実家が獣医で「やっぱりやりたいと思って受けた」って話してました。獣医師になってからの「理想と現実のギャップ」

――卒業後の病院はどうやって選んだんですか?
住み慣れた場所というのと、あとはお給料というのもありますね。けっこう病院によって違うんです。でも選ばなければ獣医師は引く手あまたで、正直どこでも入れますよ。数は全然足りてないです。1年目、2年目とかで辞めちゃう人が多いので。臨床を辞めて、公務員になる人が多いかもしれないですね。普通の企業に就職するとか。みんな理想と現実のギャップですよね。病院にもよりますけど、帰りは遅いですし、理不尽なこともけっこう言われて。職人的なところがあるかもしれないです。大学に入って少し「現実ってこうなんだな」っていうのが分かってきて、実際に病院で働いてさらに現実をくらうって感じですね。
――先生が続けられたのは?
僕はこれしかないと思っていたし、1年、2年じゃ面白みってわからないと思ってたので。どんな仕事でもそうじゃないですか。最初なんて大変だし、嫌になるものだし、ある程度やらないと仕事も任せられないし、面白みも出てこないものだと思います。やってるうちに楽しくなってきて、大変は大変ですけど、やっぱり自分が診た子たちが良くなって元気になって、飼い主さんが喜んでくれるとうれしいですよね。
――なぜ大動物ではなく小動物を診ることにしたのでしょうか。
父親の知り合いには小動物の病院を開業してる人もいて、両方の獣医療を見ていて。単純に動物の好き嫌いもありますけど、牛とか産業動物って治療する範囲が限られるんです。肉になり牛乳を出しっていう目的があるので、ある程度の治療しかできないわけです。僕は犬猫を治療して健康に過ごせるようにするところまで診たかったんですよね。そういう面白みっていったら変ですけど。あ、ちなみにうちの実家って肉屋なんですよ。母親が肉屋をやってて、父親は獣医として牛とかを診てて。流通的には理にかなってますよね(笑)。
犬猫だけでなくオーナーさんもハッピーに

――今の病院ではどのように勤務されてますか?
火曜と水曜が休みで、朝は8時半くらいに出勤して夜は9時くらいに帰ってます。僕、要領が悪いんでカルテを書く時間が無くて。最後にまとめて書いたり、調べ物があったりすると気付くと11時ってことはありますね。――院長の近藤先生や顧問の佐藤先生については。
近藤先生も佐藤先生(※)もすごい先生ですよ。オーナーさんからの信頼感も厚いし。獣医師だから治す技術ってもちろんすごい重要だと思うんですけど、僕は良い獣医師さんってオーナーさんとしっかり話してバランスがとれた治療ができる人だと思うんです。別の病院から、「先生が上から目線でちょっと……」とこちらに来る方もいるんですよ。だから犬猫だけじゃなくて、オーナーさんもハッピーっていうのが大切だと思ってます。――獣医師として診てきた中で思い出すことはありますか?
特にこれっていうのはないんですけど……瀕死の子を入院させて治療して、元気になって帰ってくれたときはやっぱり嬉しいです。あとは自分がずっと診ていて、オーナーさんと相談しながら治療も進めて、最後の最後までオーナーさんが納得いくように治療して、「先生のお蔭で苦しまずに。家で最後を看取れました」って、オーナーさんがあいさつに来てくれたときとか。そういうときは、「間違ってなかったかなー」って思ったりはします。
亡くなってもオーナーさんが病院にいらっしゃって「ありがとうございました」って言っていただけると「よかったなあ」って思いますね。やっぱり病院で亡くなるようなことはできればしたくないので。
――最後に、これから獣医師を目指す人たちにどんなことを伝えたいですか?

日々大変ですけど、とてもやりがいのある仕事だと思います。臨床を目指す人もそうではない人も、今の目標、理想に向かって突き進んでほしいです。いま社会人の方で獣医師になりたいという思いがある方も、何かを始めるのに遅過ぎるということは無いと思います。目標に向かって頑張ってほしいです。
ありがとうございました。
次回は、子どもの頃からの夢を叶えたトリマーさんにお話を伺います。お楽しみに!