
猫好きが集まる場所を目指して――猫専門病院「猫の診療室モモ」谷口史奈院長インタビュー
東京都大田区の猫専門病院「猫の診療室モモ」では、日常的な疾患の診療・避妊去勢手術・入院・往診・預かり(ペットホテル)のほか、雑貨販売やセミナーの開催なども行っています。院内のキャットウォークシェルターでは、なんと保護猫の里親募集も……!? そんな猫だけでなく飼い主さんも安心して行くことができる猫専門の動物病院づくりに込められた思いについて、院長の谷口史奈先生に話を聞きました。
東京都大田区の猫専門病院「猫の診療室モモ」では、日常的な診療のほか、往診や預かり(ペットホテル)、飼い主さんではない方も訪れる雑貨販売なども行っています。院内には保護猫のためのキャットウォークシェルターがあり、新しい飼い主さんが生まれることも。(取材:薄井慧)
キャットフレンドリーな動物病院とは

Q. 「猫の診療室モモ」を開院された経緯を教えてください。
開院は2016年の夏です。私は獣医師になってまず犬・猫・鳥などいろいろな動物を診る病院で勤務して、その後に猫を診る病院で勤務をしました。その勤務を通じて、一度自分で病院をやってみたいなと思ったんです。東京で猫の病院、っていうと、今は特定のすごい先生に集中して猫が集まっている雰囲気があったのですが、全部の猫がその先生のところに行けるわけではないですよね。そういったこともあり、私みたいに華々しい世界とは縁遠い普通の獣医師が開業してもやっていけるんだよ、というケースとしてやってみたかったんです。

Q. 「猫の診療室モモ」は「キャットフレンドリークリニック」に認定されていますね。
開業する前から、猫の病院をやるならキャットフレンドリークリニックの認定(※)を取得するのが当然だと考えていたので、病院の作りもその基準を満たすように意識しました。猫だけの待合室や部屋、高さのあるケージ、医療機器類、あとはスタッフが猫の診療に何年携わっているかですね。

Q. 実際、猫専門ということで来院される方も多いですか?
はい。猫は他の動物、特に犬と一緒にいることにストレスを感じるということがあるので。猫にとっては、犬の吠える声とかがとても大きいストレスになってしまうんです。「モモ」という院名に込めた想い
Q. 開院にあたって、谷口先生が一番大切にしたことは何でしたか?
一番は、来やすい場所にするということでした。専門性や高度な医療を前面に打ち出すのではなく、病気になる前に来てもらえるとか、猫を飼う前から相談してくれるとか、そういう場所にしたいという思いがありました。雰囲気作りについては、とても考えましたね。
Q. 病院名に「病院」という単語が入っていないのも、そういった狙いがあるのですか?
あまり堅苦しいのもよくないかなと思って。病院に来ているというよりは、猫好きな人の家に猫を連れて猫の話をしにきたよ、みたいな感覚で来てもらうという意味で「診療室」という言葉を選びました。Q. 「モモ」という名前にはどのような由来があるのでしょうか?
ミヒャエル・エンデの『モモ』という小説から取りました。
主人公のモモという女の子は、特殊能力や魔法が使えるわけではないのですが、人の話を聞くのがすごく上手で。みんながモモに相談話をすると、モモはただただ「うんうん」って話を聞いているだけなのに、みんないつの間にか元気になったり勇気付けられたりするんです。この病院も、猫の飼い主さんや猫を飼いたい人にとってそういった存在になりたいと思って、「モモ」という名前を付けました。
Q. 内装が桃色で統一されていることと関係は……?
ダジャレみたいなものですね(笑)。私もピンクが好きですし、女性的なイメージもあるのでこの色にしました。
Q. スタッフは皆さん女性だと伺いましたが、理由があるのですか?
猫は女性の方が相性が良いんです。体格の良い男性とかですと、怖がってしまう猫も多くて。そういうことを飼い主さんも知っているので、女性に処置してもらいたいとおっしゃる飼い主さんも多いんです。そのようなこともあって、スタッフは女性にお願いしていますね。「猫好きが集う場所」を目指して

病院というと無機質なイメージもありますが、内装も外装もとてもかわいらしいですね。
猫の飼い主さんだけでなく、「院内で販売している雑貨を見るだけ」というだけでも来れるようにしたくて。猫を飼う前から院内の里親募集を見て、そこから実際に猫を家族に迎えて通院してくださってる方もいらっしゃいますし。とにかく、「病院!」みたいな感じではなくて、「そこに猫の何かがあるな」というイメージをつかんでもらえるような場所にしたかったです。内装・外装ともに、それは意識しましたね。

Q. なぜ院内に保護猫のキャットウォークシェルターを設置したんですか?
「猫を飼う前」というステージにも関わりたかったというのが一つですね。病院というより、猫好きな人が集まる場所にしたかったので。ですので、キャットウォークシェルターは通りから見えるところに設置しました。日頃から、「ここに猫の何かしらがあるね」と思っていただいて、「あ、病院なんだ、でもここで猫も飼えるんだ」みたいな感じで入っていただくのもいいかなと思って。
夜になって暗くなると、通りからはもっと見えやすくなりますね。隣が保育園なんですが、お子さんもよく見てますし、本当に猫だけ見に来る方もいらっしゃいますね。
「病気になったら行く」ではなくて「猫が好きだから行く」という場所にされたいんですね。
はい。継続の患者さんも、「ちょっと予防薬を取りに行くついでに猫を見たいな」という感じで来てくださると、楽しみながら病気予防もできるので。猫の飼い主さんならではの悩みに応えるサービス
Q. 往診もされているとのことですが、家から出られない子も多いのでしょうか?
そうですね。「キャリーの入れ方が分からない」とか、「手を痛めて運べない」とか、「どうしても診療時間内に都合がつかない」とか、さまざまな事情を持った飼い主さんがいらっしゃいます。最近は、車を運転できる旦那さんが家にいる時しか連れてこれないという方も結構いらっしゃいますね。
ペットホテルでは数日の短期宿泊だけでなく、数カ月の長期も可能なんですね。
長く預けたい方からの需要にも合わせて、個室ホテルでは長期宿泊割引もしています。「もし猫を飼ったらあれができなくなる」とか、「実際に猫を飼っているからあれができない」とか、そういうのをなくしていきたい気持ちがあって。

飼われている子をこちらで長期でお預かりしても、その子自身がリラックスしてさえいれば、それはいいんじゃないかなと思っています。ですので、長期の預かりとか、忙しい方や家から出られない方のための送迎往診とか、どんな方でも猫を飼えるような環境づくりには力を入れていますね。
「猫が好き」の一心から始まった、女性獣医師としてのキャリア
Q.獣医師になろうと思ったきっかけはありますか?
特に「これがあった」というわけでもないんです。小さい頃から猫が好きで、小学生の頃から猫を飼っていて、その猫の予防接種とかにもしょっちゅう行っていて。自然と、何か生き物に関係した仕事がしたいと思いました。生き物というか、生物学とかですね。そう思って獣医学科に進学しました。獣医学科からはいろいろな進路に進む人がいるんですけども、私は小動物臨床が一番自分に合っていると思って、この仕事に就きました。

Q. 実際に毎日大好きな猫と触れ合っていかがですか?
楽しいんだと思います(笑)。忙しいですけど、ずっと机に座って、とかいう仕事でもなくて、自分に合っているように感じます。それとやはり、「ありがとう」と言ってもらえるのがとてもやりがいになりますね。
Q. 「女性×獣医師」のキャリアを実際に歩まれていて、どのようなことを感じますか?
「女性」を捨ててバリバリと突き進む人と、結婚や出産と両立させようとする人と両方いらっしゃいますが、私はせっかくならば後者の方を進みたいと思っています。そういう意味では、開業してしまえば自分の裁量でいろいろなことができるので、そういうやり方も一つだと感じています。でも、しっかりとした福利厚生のある病院で産休を取るとかいう方法を取ってもいいですよね。あとは、女性だからこそという部分も感じますね。猫に警戒心を抱かれづらかったり、猫の飼い主さんは女性が多いので、女性同士で分かりあえる部分があったりもします。あと、そこそこ普通に家事をして、そこそこ普通に暮らしていると、飼い主さんに「○○ちゃんの今の状態は、お家ではこうしてあげたら……」とか、より現実的で具体的なアドバイスができることもありますね。
ありがとうございました。
まだまだあります! 猫専門病院の写真






