猫が震えるときに考えられる10の原因と病気、対処法を獣医師が解説

猫が震えるときに考えられる10の原因と病気、対処法を獣医師が解説

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愛猫が震えているのを見たとき、「もしかして病気かも!?」と心配になることがあるかもしれません。発作や発作に伴う痙攣は見た目のインパクトもありかなり飼い主さんを動揺させパニックに陥らせてしまうこともしばしばです。発作は必ずしも痙攣を意味しませんし、痙攣は単なる温度調整の際の震えなどとも生理学的に区別されます。実際にお家や臨床の現場で区別することは難しいのですが、今回は頭やしっぽ、声など猫が震えるときのさまざまなケースから、考えられる原因や病気、対処法について獣医師の福地がご説明します。

猫の震えとは

猫

震えは医学的には振戦(しんせん)とよばれます。筋肉収縮の状態を一定に保つことができず、あるリズムのもとで意識とは別に筋肉が動かされてしまう状態です。このリズムを作る場所によって、「中枢性」(脳のどこかにリズム発生源がある)と「末梢性」(筋肉に指令を伝える経路のどこかに発生源がある)に分けられます。

寒いときなどに皆さんもぶるぶる震えてくることがあるかと思いますが、あの震えは「シバリング」と呼ばれる生理現象です。脳の視床下部という部分で指令が出され、筋肉を収縮させることで熱を生み出している体の調整機構の一つです。

またよく混ぜて考えられやすいのですが、「発作」と「痙攣」も異なる状態です。発作は脳の一部に異常な電気放電が起きることで突発的に生じるもので、筋肉による運動だけでなく感覚や記憶や意識の変化を伴う一時的な脳機能障害です。一方、痙攣は発作の症状の一つで、意識では制御できない筋肉の収縮を指します。

実際の猫の様子を見て振戦が中枢性か末梢性か判断するのは困難ですし、発作時の痙攣も区別するのは難しいかもしれません。

猫の震えで見られる症状と緊急性

猫

猫の震えといっても頭や声が震えたり、震えながら吐いたり意識が無くなったりといったさまざまな症状がみられます。それぞれ症状やその緊急性を解説します。

猫の頭が震える

猫は通常意識がある状態で頭が震えることはあまりありません。耳や口の一部分など、頭全体でなくても一部がピクピクっと刺激などに関連しない動きをしているときは、発作による痙攣の一つの症状かもしれません。発作は脳のどこで異常放電が起きるかによって、痙攣の場所や現れ方が違うのためです。顔の一部だけでも異常な震えがみられた際は受診をおすすめします。

猫の声が震える

「最近声が枯れてきたな?」「しわがれてきたな?」「声を出しにくそうだな?」と思ったときは、元気そうで緊急性は低くても受診を検討した方がよいかもしれません。喉のあたりに腫瘍ができると声を出しにくくなり、しわがれて震えるような声になることがあるためです。また、猫では珍しいですが重症筋無力症などでも発声に関わる筋肉が徐々に衰えてくるのでしわがれたような声になります。


猫が震えながら吐く

通常の毛玉吐きのときも喉のあたりをグッグッツと震わせてからは吐き戻すのですが、吐いた後も元気がない様子がみられるときは病的な吐き戻しかもしれません。中毒物質や口腔内に刺激のあるものを食べたとき、膵炎や異物閉塞のときも激しく吐きます。吐いた後に元気がなく食欲もない様子が見られたときは要注意です。嘔吐や元気消失が継続するときは受診をおすすめします。


猫の足が震える

足が震えるのは、足の筋肉の動きを司る部分に異常な電位が発生する発作があるときにもみられますし、まれですが上皮小体機能低下症といったホルモンの病気によりカルシウム不足に陥り痙攣がみられることがあります。骨折などによる橈骨(とうこつ)神経麻痺では足首が内側に曲がった状態から伸ばした状態に戻せず、だらりとして力が入らない状態としてみられます。歩行に異常があった際は関節や骨などの病気の可能性もあるので緊急性は低いですが、早めの受診をおすすめします。

猫の尻尾が震える

尻尾は猫の感情表現にも用いられる部分なので、いろいろな動きをします。イライラしているとき、子猫をあやすときなどにも尻尾を激しく動かすことがあります。また、大きく伸びをしたときにも体と一緒に尻尾がぶるぶるっと震えることはあります。問題となるのは、「尻尾の他にも全身が痙攣している」「意識が無い」といったときです。発作かもしれないので、急ぎの受診をお勧めします。

猫の意識が無くなり震えている

意識が無くなり震えている場合は、てんかんや脳腫瘍など脳に原因のある発作か、肝臓や腎臓、あるいは低血糖などの病気による発作が考えられます。夜中であっても夜間救急病院などを受診してください。意識が無いときに無理に何か飲ませようとすると誤嚥してしまい致命的な肺炎になる可能性があります。意識が無いときは糖液なども飲ませるのは避けたほうがよいでしょう。

猫が寝ているときに震える

熟睡しているときにヒゲや足がピクピクっと動くのは、生理的に起きる不随意という自分の意識では管理できない筋肉の振戦かもしれません。普段、筋肉は脳の支配を受けて勝手な行動をしないようになっていますが、寝ていて脳の支配が解けていると動いてしまうことがあります。いわゆるレム睡眠時に多いようですが、声をかけても起きず、刺激を加えても意識が無く、震えたままのときは痙攣の可能性があります。

猫がお風呂や病院で震える

猫がお風呂や病院で震えるのは、精神的なストレスによる振戦です。人間でも人前で発表するときや、とても高い所から真下を覗くと怖くて震えてしまうことがありますよね。病院での予防接種などでぶるぶる震えているときは肉球を触ってみてください。緊張でぐっしょり汗をかいているはずです。ストレスの原因が無くなる、またはその場を離れると落ち着きますので対処の必要はありません。

猫が震える原因と考えられる病気・対処法

猫

猫が震える場合、原因として猫は正常でも寒さや恐怖などの外因性のものと、疾患などの内因性のものにわけられます。それぞれ原因と対処法を解説します。

猫は正常でも震える外因がある場合

猫は正常でも震える外因がある場合は、その外因を取り除いてあげることが対象法となります。

1. 寒さ

寒くなり、「体温が下がってしまう!」と脳が判断すれば全身の筋肉に震えを生じさせて熱を生み出そうとします(シバリング)。これが私たち人間も寒いときに震える原理ですが、猫はあまり震えません。寒さに強いということではなく、寒くない所にもぐりこんで温まろうとするためです。また、体を丸めることで外気に触れる体積を減らして熱の放散を抑えるなど、猫はさまざまな方法を駆使して寒さから逃れます。

2. ストレスや恐怖

動物病院や苦手な人が家に来たときも、体を丸くして耳を伏せ、じっとして震えることがあります。これも精神的なストレスによる振戦です。「ストレスの原因になる人がいなくなる」「自分がその場から立ち去る」など、ストレスの原因を除けば元に戻ります。

3. 睡眠

眠っているときは脳からの筋肉の支配が一時的に解けるので、普段は脳からのシグナルで抑えられている振戦がそのまま出てしまい、ビクッとなることがあります。声をかけて起きれば正常です。

病的な震え・疾患がある場合

猫が震える原因として疾患がある場合は、その疾患を治療することが対処法となります。

4. 内分泌代謝疾患

糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病のインスリン治療や低栄養状態による低血糖、上皮小体機能低下症などでも全身の震えがみられます。

5. 神経疾患

脳の一部に異常な興奮が起きる「てんかん」や、脳腫瘍のできる位置によっては痙攣を伴う発作がよくみられます。

6. 感染症

猫伝染性腹膜炎や猫パルボウイルスによる小脳定型性のときは痙攣や異常行動などがみられます。いずれも救命が難しい病気です。

7. 内臓疾患

腎不全が進行し、タンパク質の代謝産物などをおしっことして排泄できなくなると尿毒症という致命的な状態に陥ります。また、ビタミンの一つであるチアミンの欠乏症や肝不全により肝性脳症のときも痙攣がみられます。

8. 外傷

いたずら好きな犬猫ではコードを噛んで感電も痙攣を引き起こします。かなり緊急性の高い出来事です。重度のやけどでは、ショック症状の一つとして痙攣がみられます。

9. 中毒・アレルギー

アナフィラキシーショックやテオブロミン中毒、カフェイン中毒のときは過剰な興奮や痙攣がみられます。ユリ中毒では腎臓へのダメージからの尿毒症を起こし、痙攣がみられます。

10. 老化

加齢が進むと筋力の衰えや変形性関節症などで歩き方が弱々しくなり、震えるような歩き方がみられることがあります。また、猫では少ないとされていますが痴呆の症状でも震えたりする状態がみられます。変形性関節症であれば消炎鎮痛剤の投与で改善することがありますが、加齢による筋力の衰えなどは有効な治療薬などはありません、「生活スペースの段差を少なくする」(ソファーなどから飛び降りなくても済むようにクッションなどを置いて階段を作ってあげる)、「ベッドやトイレの位置を近くして移動距離を短くしてあげる」といった工夫をしてあげるとよいでしょう。

猫が震える場合は「意識の有無」に注意

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震えの原因を細かく分類することは家で猫を観察するだけでは難しく、命に関わることも多い重篤な病気が多いのも特徴です。原因が神経であっても内蔵であっても、受診すべきか見分けるポイントは「意識の有無」です。声をかけて震えがストップし、いつもの状態に戻るようであれば生理的な働きによる震えかもしれません。「いつもとなんだか様子が違う」「呼びかけにも反応しない」「元気がない」など、悩んだときは早めの受診がおすすめです。

参考文献