「殺処分ゼロ」からもう一歩進むために。シロップ共同プロジェクト発足のお知らせ

「殺処分ゼロ」からもう一歩進むために。シロップ共同プロジェクト発足のお知らせ

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ペトことを運営するシロップは、保護犬猫マッチングサイト「OMUSUBI」(お結び)と「ペトこと」の運営を通し、「人が動物と共に生きる社会」の実現を目指しています。そして今回、『ペット産業CSR白書』を出版したNPO法人「人と動物の共生センター」さんとの共同プロジェクト「CAP Project」(キャップ プロジェクト)を新たにスタートしたことをお知らせします。

「CAP Project」(キャップ プロジェクト)のビジュアルイメージ

本プロジェクトでは「繁殖・販売を行う事業者評価」を実施することで、ペット業界の健全化の一助としたいと考えています。しかしこれは事業者をやみくもに非難するための施策ではありません。ペット業界を構成する人・組織が「評価」という共通言語を元に協働できることを目指しています。今回の記事では、プロジェクトの目的やメンバー構成をシロップの井島が紹介します!

「CAP Project」の目的・概要

本プロジェクトは多くの課題を抱えるペット流通市場の健全化のため、販売・繁殖ステージに焦点を当てたアプローチを目的にスタートしました。

現在多くの問題を抱えるペット業界ですが、健全な業界を目指すために必要な事はたくさんあります。私たちはまず特に、透明性のある業界を目指すことが重要ではないかと考えています。

日本では年間4.3万匹(※平成29年度)もの犬猫が殺処分されている現実があります。犬猫が殺処分の対象になってしまう状況は、「法令を遵守せず乱繁殖を行う繁殖業者の存在」「安易な購入を生む販売形態」「野外繁殖」「迎える側の知識・意識の欠如」など、複合的な問題が絡み合い発生しています。そのため課題に対する意見が乱立してしまい、具体的な改善策に結びつかないのが現状です。

余剰犬猫問題の解説図

最近では保護犬猫の存在やサポートの必要性は認知され始め、保護団体・企業の取り組み、著名人の呼びかけを目にする機会も増えたのではないでしょうか。保護犬猫の現状に関心が高まる状況は良いことですが、「保護犬猫の譲渡促進」だけではなく、そもそも殺処分対象になる犬猫をなくすことが大切です。そのため、根本的な問題解決のために繁殖・販売ステージの健全化も、並行して挑戦する必要があると考えています。

不適切な繁殖・販売を行う事業者が生まれ、事業として継続できる背景には、犬猫を迎える側(購入者)が十分な情報が得られず、無意識に不適切な事業者を選択してしまう状況があります。

ペット流通の課題の説明図

本プロジェクトでは「殺処分問題の解決=保護犬猫の譲渡促進」の現状に、もう一つ「業界の透明化」という目標を加えることによって、ペット流通市場の健全化に向けた具体的かつ実現可能な施策を実行したいと考えています。


「CAP Project」で何をするのか?

「健全化」を目指すための施策は、関わる人の得意分野や立場によってベストなアプローチがあります。その上で、プロジェクトメンバーで話し合いを重ねた結果、本プロジェクトでは「評価」という手法を軸に施策実施にチャレンジすることになりました。

異なる立場の人・組織が「評価」を通じて対話し、健全化を促進

昨今、ペットショップやブリーダー(繁殖業者)の在り方が問われ、ペット産業全体にも厳しい目が向けられるようになりました。事実に基づく批判や、多様な視点からの意見は、状況を改善していくための重要な要素になります。

しかし現状は、特にインターネット上を中心に、立場や価値観の異なるお互いが、それぞれの考える正義や理想に基づき、非難し合い、攻撃し合っている状況もあります。

感情的な批判意見が出やすい構造の説明図

その結果、状況を改善するための適度な緊張感を含んだ関係性は生まれず、事業者と保護活動者のコミュニケーションが断たれ、互いに変化が生まれない膠着状態に陥っています。例えば、状況を改善する必要性を自覚している企業が「良い方向を探そう」と50点を60点にする小さな一歩を踏み出したとします。しかし「100点じゃないから駄目」と批判され、60点にすら進めないような状況です。

対岸の火事ではなく、理想を実現したい市民側と、改善の意思と覚悟を持った(一部の)企業・業者側が、互いの意見のすり合わせを通し、状況を改善していくための対話と協働が必要です。その構成要素の一つとして、「評価」を活用したいと考えています。

さまざまな背景を持つ人々の共通言語として「評価」を活用し、具体的・客観的な結果を得ることで、企業・業者側が自らの状況改善に役立てる情報やフィードバックを生むことができます。具体的なフィードバックは健全化を促進できると信じています。

どんな効果を期待できるのか?

業界健全化のために必要なことの解説図

今までは犬猫を迎える場合、消費者側が企業・業者側の特色や良し悪しを客観的に判断することは簡単ではありませんでした。しかし「ペット流通市場の健全化」という評価軸に沿った評価結果が可視化されることによって、犬猫を迎える側(購入者)がより能動的に企業・業者を選択したり、ペット産業と対話する機会を得られます。

私たちは、新たにペットを迎える人や、自社の改善を目指す企業・業者が参考にできる、客観的な「評価」をつくることによってペット業界の透明化を図ります。そして健全化を目指す道にそびえる壁を、異なる立場の人・組織が共に乗り越えるきっかけを創出できればと考えています。

「CAP Project」発足の背景

「CAP(Clear Assessment of Pets industry)プロジェクト」の解説図

このプロジェクトは「評価」という方法を取り入れることによって、ペット業界の透明度を高めることを目指し「CAP(Clear Assessment of Pets industry)プロジェクト」と名付けました。

殺処分の対象になる犬猫がいる悲しい現実がある一方で、多くの人が保護犬・保護猫を守ろうと活動の幅を拡げています。しかし「殺処分ゼロ目標」を掲げる自治体も増える中、愛護センターへの過度な批判、保護・譲渡活動を行う保護団体の負担増加が懸念視されている現状もあります。

保護団体にもキャパシティーの限界があり、キャパシティーを超えた保護を行なったため多頭崩壊するケースも見られています。また、「殺処分ゼロ」という言葉が一人歩きをすることで、「迎えるときに保護犬猫を選ばない=悪」というミスリードな風潮も目立っています(ペットショップやブリーダーから迎えた著名人に「保護犬猫を迎えるべき」と非難するなど)。

業界の根本的な問題解決には、過剰繁殖・処分・飼育放棄などが許容されている市場構造の変化が必要です。規制強化や適度な批判も重要ですが、ただ批判に終始するのではなく、「具体的な改善案の提示」がより必要になります。

ペット流通市場が健全化されているときの解説図

このプロジェクトはそんなメンバー共通の課題意識から生まれ、業界の透明度を高めることを目指した施策を立案し、実行していきたいと考えています。プロジェクトとしては0→1のフェーズですが、構成メンバーの特性を生かし、多方面との協働を実現しながら進めていきます。

メンバー紹介(五十音順、敬称略)

井島七海:シロップ執行役員 / OMUSUBI事業責任者

井島七海:シロップ執行役員 / OMUSUBI事業責任者

保護犬猫マッチングサイト「OMUSUBI」の運営を通し、さまざまな保護団体さんと協力する機会を得てきました。殺処分数は減少傾向にあるものの、依然として多くの命が望まない結末を迎え、保護団体の負担は増しています。保護犬猫の存在を広め、譲渡促進を行うことの重要性は変わりません。しかし同時に、根本的な解決のために繁殖・販売ステージの健全化を「具体施策」を持って目指すべきだと考えています。保護団体とブリーダーは水と油に捉えられがちですが、協働して業界の健全化を目指すことで、犬猫と人がパートナーとして関係を築ける社会を目指していけるのではないかと思います。

== Profile ==

2017年にシロップにインターン生として参加し、2018年1月新卒第一号で入社。「人が動物と共に生きる社会をつくる」という会社ミッションの体現を目指し、事業推進、CS、広告営業に従事。現在は執行役員兼OMUSUBI事業責任者として主にOMUSUBI事業運営・推進に携わる。

今本成樹:新庄動物病院院長

今本成樹:新庄動物病院院長

大学病院での勤務や街の獣医師として、そろそろ20年になろうとしています。その中で、私が専門的にやっているのが遺伝性疾患と終末期医療(主に腫瘍末期)です。最近は、高い専門性を持つ分野が増えてきました。我々の業界も、高い専門性を持つ方々との連携と知識の共有が必要となってきています。ペットショップさんブリーダーさん、トリマーさんや訓練士さんといった方々との連携を取りながら、飼い主さんへの良質な情報提供ができると同時に、動物と暮らすことが当たり前となった社会環境がさらによくなることを切望しています。

== Profile ==

新庄動物病院院長。智辯学園高等学校、北里大学獣医畜産学部獣医学科、東京大学農学部大学院研究生、勤務医を経て2002年2月2日に新庄動物病院開業。獣医再生医療学会、日本獣医レーザー医学研究会、獣医遺伝研究会で講師経験がある。現在は犬の遺伝病ネットワークの代表も務め、繁殖市場の課題解決も目指している。

奥田順之:人と動物の共生センター理事長

奥田順之:人と動物の共生センター理事長

ペット産業内でも動物たちのために変わろうとしている企業も多くあります。ペット産業を叩いているだけでは前に進みません。人と動物が共生できる社会作りに向けて、愛護団体やペット産業と言った垣根を超えて連携し、今より一歩先に進み続けることが必要だと思います。感情ではなく評価を通じて、冷静に企業を見て、協働できる企業とは積極的に協働していくことで、歩みを進めていけるのではないでしょうか。本プロジェクトがその先駆けになれるよう、働きかけていきます。

== Profile ==

獣医行動診療科認定医、ぎふ動物行動クリニック院長、NPO法人人と動物の共生センター理事長、鹿児島大学獣医学部講師(動物行動学)。2012年NPO法人人と動物の共生センター設立。人と動物が共に生きることで起こる社会的課題の解決を通じて、誰もが他者を思いやることのできる社会に貢献することを理念に活動。犬のしつけ教室ONELifeの運営・問題行動を専門に治療するぎふ動物行動クリニックを中心に、ペット防災、高齢者とペットの共生、ペット産業のCSRなどの各分野で活動。

小池達也:NPO支援者 / 日本評価学会認定評価士

小池達也:NPO支援者 / 日本評価学会認定評価士

普段はNPOやソーシャルビジネスの支援をはじめ、対話や学び合いの場づくり、市民主体の評価に携わっています。評価は情報の透明性を高め、能動的な選択を促すことができるツールです。本プロジェクトを通じて、現状ほぼ可視化されていない犬猫の状況を多くの方々が知ることで、状況が少しでも改善されることを望みます。一方で、評価は価値感を無意識的・一方的に押し付けたり、評価指標以外に目が向きにくくなるデメリットも生みます。そのため、さまざまなステークホルダーによる、立場を超えた議論や対話を本プロジェクトの過程で生み出し、取り込んでいくことが必要だと思っています。

== Profile ==

東京農工大学大学院(農学府)を卒業後、建設系総合コンサルタントに入社し、総合環境調査や環境影響評価を担当。国際協力NGO等での活動を経て、2015年よりコミュニティ・ユース・バンクmomo東海若手起業塾に参画。2018年に「地域のコモンズと評価に関する研究会」「現場視点で休眠預金を考える会」に参画。日本評価学会認定評価士、一般社団法人アスバシ・ソーシャルイノベーション事業部ディレクター。

武井泉:ネコノミスト

武井泉:ネコノミスト

不幸な犬や猫の数を減らすための解は、ペットショップやブリーダーをなくすこと「だけ」ではありません。現実的には、現在のペット市場事業者がより健全な運営をすること、そしてそうなるような仕組みや制度作りが重要だと思っています。これまで、民間シンクタンクの調査員として、中央政府・地方自治体の動物愛護関連の調査にかかわり、行政、民間企業、NPO、海外の組織等ともヒアリングや情報収集を重ね、ネコノミストとしても情報発信を行ってきました。そうした経験を生かして、このプロジェクトでも何かお役に立てればと思っています。

== Profile ==

東京大学大学院博士課程単位取得退学後、政府系研究機関等を経て、三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。国際協力、社会経済調査、ハラール産業、動物愛護政策等の政府委託調査に従事する傍ら、複数の大学での非常勤講師歴も有する。また、ネコノミストとして各メディアで執筆活動も行なっている。

殺処分問題解決への道は一本ではない

たくさんの方が、つらい状況にある犬猫たちに心を痛め、精力的に活動されています。しかし「犬猫が幸せに生きられる社会の実現」という同じ目標を持っていても、問題解決のために重要視するポイントはそれぞれの価値観や立場によって異なります。時に正義と正義のぶつかり合いのような状況が散見されますが、問題解決における解決策は必ずしも一つだけではないと考えます。

必要なのは互いの立ち位置を活用し、どのように協働できるかを探ることです。その上で、本プロジェクトは「評価」「協働」「透明性」を意識し貢献していきたいと思います。それぞれの視点を生かし、少しでも犬猫、そして犬猫のために頑張る人・企業が応援される社会を、皆さんと一緒に目指せたら幸いです。