猫のよだれは病気のサイン?緊急性の高い原因や注意すべき症状を獣医師が解説

猫のよだれは病気のサイン?緊急性の高い原因や注意すべき症状を獣医師が解説

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ワンちゃんがご飯を前によだれを垂らしている姿はよく見る光景で、かわいいですよね。でも、猫さんでよだれを垂らしているイメージはあまりないかと思います。猫さんでもちゃんとよだれは分泌されてさまざまな働きをしていますが、飼い主さんにもわかるくらい見えることは少ないです。そのため、猫さんが急によだれを垂らしている場合は注意が必要です。今回は猫さんによだれが見られる時に考えられる体の異常について、獣医師の福地が解説します

猫のよだれとは

猫

よだれ(唾液)は口の中の洗浄、潤滑、消化の複数の役割を持ち、唾液線という唾液を分泌する部分から出てきます。よだれの分泌は自律神経である副交感神経と交感神経によって調節が行われているため、リラックスしたり空腹を感じた時は副交感神経の方が優位になり唾液腺の血管は拡張して分泌が促されます。

皆さんも緊張して喉がカラカラになった経験があるのではないでしょうか? 緊張などで交感神経が優位になった時は、血管が収縮してよだれの分泌は少なくなります。その結果、口の中の潤滑剤としての役割が失われて乾いたり、ネバネバとした感じになったりするのです。

犬は体温調節でパンティング(ハァハァとあえぐような呼吸)などをよくするため唾液が多くみられますが、猫では暑くなると体温が上昇しすぎないように体をよく舐め、その気化熱で熱を逃しています。犬に比べると唾液が目立つ印象はありませんが、猫の場合もとても重要な役割を担っているのです。

そのため猫でダラダラとよだれが出ている場合は、口のトラブルや腎臓など内臓の機能不全を疑う必要があります。急によだれを垂らし始めた時は中毒など緊急性の高い状態のこともありますので注意が必要です。


猫のよだれの種類

子猫

一言でよだれといっても、いくつか種類があります。以下の4つが主にみられるよだれの種類です。

透明なよだれ

口に痛みがあったり、気持ちが悪かったりしたときにみられます。

ネバネバしたよだれ

交感神経が優位な状態です。緊張などがある場合にみられます。

血が混じったよだれ

口内炎や歯肉炎などで出血している場合に血が混じったよだれがみられます。茶色に見える場合もあるかもしれません。

緑、黄色っぽいよだれ

いわれる膿が含まれる状態です。細菌感染が疑われます。

猫のよだれで考えられる原因・病気

猫

猫さんによだれがみられる場合、以下のような原因・病気が考えられます。

歯周病

歯と歯肉の間に食べかすや菌がたまることにより炎症が起こります。炎症が酷くなると痛みも強く食欲不振とよだれがみられます。悪臭を伴うことが多いです。


口内炎

猫カリシウイルス感染により、よく起こります。目やにやくしゃみなどとともに口内炎ができ、その痛みによってよだれが出ます。食欲不振もよく見られます。悪臭を伴うことも多いです。


口腔内腫瘍

猫では全ての腫瘍のうち3%が口腔内にできる腫瘍と言われています。扁平上皮癌や線維肉腫、エプーリス(良性)が報告されています。腫瘍が大きくなるにつれて口をうまく閉じることができずよだれが出てしまうことがあります。出血や口臭もみられます。

異物

好奇心旺盛な子猫さんや誤飲癖のある猫さんが尖ったものを飲み込んでしまったりして、口や食道を傷つけてしまって起きます。


食道炎

上記のように異物や、ある種の抗生物質で食道炎が起きることがあります。

顔面神経麻痺

口を動かす筋肉が麻痺するのでよだれが垂れてしまいます。中耳炎や内耳炎が酷くなったり、甲状腺機能低下症(猫ではまれ)で生じます。

骨折

顎の骨の骨折や、同時に神経を痛めた時に生じます。

肝疾患

なんらかの肝疾患があり、進行して肝不全の状態になるとアンモニア濃度が高まって肝性脳症という状態を引き起こします。

腎疾患

腎不全により高窒素血症の状態になると常に気持ち悪い感じが続き、食欲不振とよだれが生じます。末期の状態です。


てんかん

てんかんが起きる原因はさまざまですが、痙攣時は意識がなく、痙攣する筋肉の場所によってはよだれが出てしまいます。腫瘍や脳炎などの疾患もあれば、原因がはっきりとしない特発性てんかんのこともあります。

胃腸疾患

胃の腫瘍などでみられます。気持ち悪い感覚(悪心)や嘔吐がよだれとともに見られます。

猫のよだれに伴って注意すべき症状

猫

猫さんの体に異常がある場合、以下のような症状がみられる可能性があります。緊急性が高いものもありますので注意してください。

痙攣

原因によって緊急性は異なります。てんかんも腫瘍など明らかな原因のない特発性であれば、すぐに受診が必要という訳ではありません。ただし、腫瘍や脳炎がないのか、あるいは肝不全によるものなのかは見た目だけでは区別できません。痙攣が見られた際は緊急性がある可能性を疑ってすぐ動物病院に行くことをおすすめします。

ぐったり、元気が無い

この場合は口だけでなく全身状態が悪い可能性があります。よだれの原因がなんであれ、ぐったりとしている時は緊急性が高いのですぐに受診をおすすめします。

食欲不振

全身状態によって緊急度はある程度区別することができます。元気があるからといって食欲不振を放っておくと体重がどんどん減ってしまいますので、食欲不振とよだれがあるけどそれ以外は元気そうな時でも、早めに受診を検討してあげるとよいでしょう。ごはんを前にしてよだれを垂らしてじっと見ている時は、痛みや気持ち悪さなどで空腹なのに食べれないという状況が考えられます。


嘔吐

よだれに伴って嘔吐が見られる時も、異物による消化管の閉塞や腎不全など重篤な疾患の可能性があります。緊急性を疑って病院にかかられることをおすすめします。

鼻水

猫カリシウイルスによる鼻炎の症状と口内炎によるよだれが疑われます。口内炎がひどいとご飯が食べられなくなってしまいます。ぐったり、元気がないなどがなければ今すぐに病院に行くべき! という訳ではありませんが痛くて食べられないのはかわいそうですし体重減少にもつながるので受診をおすすめします。


緊急性の低い猫のよだれ

猫

猫さんのよだれは必ずしも体の異常によるものとは限りません。以下のように、飼い主さんとのコミュニケーションなどでよだれが出る場合もあります。ただし、猫は犬と比べても体の不調を隠しがちです。原因がわからず異常が疑われる際は、自分で判断せず動物病院に行くようにしてください。

甘えてるとき

甘えてきてリラックスしてゴロゴロのどを鳴らしているときは副交感神経がかなり優位になります。その結果、撫でているとよだれがたくさん出ていることがあります。膿や血液がまじらずさらさらのよだれであれば、「リラックスしているんだな」と見守ってあげてください。


なでているとき

上記と同じ理由で、リラックスすることで副交感神経が優位になってよだれの分泌が盛んになります。

寝ているとき

あまり多く見られませんが、過去に犬歯が抜けたり折れた猫で、よだれが寝ている時などによだれが垂れているのが見られます。

猫のよだれは病気の可能性に注意

猫

猫がよだれを垂らしている時は口の強い痛みや、腎不全など重篤な疾患の際にみられます。痛みにしても、内臓の病気にしても、放っておくと体重減少でさらに体力が削られてしまいます。リラックスしている時のよだれは透明でさらさらであまり匂いがありません。食欲、普段の元気、よだれを垂らしている時の状態などがポイントです。また、口のトラブルの時は匂いも強くなるので、普段から気にして様子をチェックしておくと健康管理に役立つかと思います。

引用文献