「ペット業界ゆく年くる年」業界キーパーソンたちのトレンド予測2020

「ペット業界ゆく年くる年」業界キーパーソンたちのトレンド予測2020

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こんにちは、編集長の山本です。2019年も残すところあとわずか。今年も特別企画「ペット業界ゆく年くる年」では、たくさんのトピックがあった2019年のペット業界を各分野のキーパーソンに振り返っていただきながら、2020年のトレンド予測もしていただきました。

今回ご協力いただいたのは以下のキーパーソンです。この場を借りて、改めてお礼申し上げます。

※敬称略


奥田順之(獣医師)

奥田順之(獣医師)
ぎふ動物行動クリニック 獣医師(獣医行動診療科認定医)

1. 2019年最も印象に残った分野・出来事

動物愛護管理法改正。8週齢規制の成立と、数値基準策定が決まったことは、犬猫と人の共生を考える上で大きなターニングポイントになりました。今後、数値基準の具体化が進んでいきますが、ペット産業の適正化が加速することを期待します。どの程度の数値基準になるかによって、場合によっては、ペット産業のに所属する、生体販売に限らない多くの事業者に影響を与えるでしょう。

2. 2020年の注目分野

数値規制の落としどころは? ペットショップやブリーダーに対する数値規制が、最終的にどこに落ち着くのか。欧州並みの数値基準が導入されれば、大多数の事業者が大幅な改善に向かうと思われます。対応できない事業者は、廃業を選ぶでしょう。業界の適正化が進むと同時に、特に犬の出生数は減少していくでしょう。その分、1頭1頭を大切に育てる文化が育つと思います。その変化がどの程度のスピードで起こっていくかを決めるのが基準の程度(どれくらい厳しい基準になるか)ということになるでしょう。注目です。


伊豫愉芸子(Catlog)

伊豫愉芸子(Catlog)
RABO, Inc. President&CEO

1. 2019年最も印象に残った分野・出来事

Amazonの発表した新通信規格「Sidewalk」(と、これを用いた迷い犬デバイス)発表と、GoogleのFitbit買収。後述のように個人的には「ペット業界」というくくり方では捉えていないこともあり、この2つがBig Newsです。AmazonがIoTをガチでやろうとしている、Googleがウェアラブルから取得するログデータの価値を再評価、と大変興味深いです。

弊社の最大ニュースはもちろん、「猫の生活をテクノロジーで見守る」Catlog®(キャトログ)を今年9月にローンチしたことです! 予想を上回る大反響をいただき、みにゃさまの猫様に対する愛情をひしひしと感じています。

2. 2020年の注目分野

「ペット業界」と切り出すことが、すでにナンセンスかなと感じています。なぜなら、大切な家族のひとりだから。家族や、愛するものに関する気持ちは、ペットでもヒトでも同じ。そして、日本のみならず、万国共通です。なので「ペット業界」ではなく、「愛情業界(仮)」でしょうかw 愛です、愛。

『1秒でも長く一緒にいたい』、あらゆるカタチでこれを叶えるビジネスやテクノロジーが、さらに発展していくと思います。IoTはもちろん、フードや服・首輪などのD2C領域、見守りや予防医療、ひいては介護など、ヒトの世界と同じ途・展開やさらなる成長をする兆しが顕著になってくるのではと感じています。

梁原正寛(RINN)

梁原正寛(RINN)
株式会社RINN 代表取締役社長

1. 2019年最も印象に残った分野・出来事

アニコム損害保険株式会社様のペット保険「どうぶつ健保しにあ」の発売が印象に残っています。犬猫の高齢化が進む中、どうしてもペット保険には年齢制限があり、シニア期になると保険に新規加入できなかったという背景がありました。私の周りでも、ペット保険に入るタイミングを逃し、悩んでいた友人が多くいましたが、同商品では8歳以上の犬猫が加入可能、年齢上限もなく、入院と手術の医療費が補償され、お手頃な保険料を実現。本商品の発売は、これまでの常識を覆す取り組みとして、個人的に大きな刺激を受けました。

2. 2020年の注目分野

異業種による参入が本格化すると考えています。特にヘルスケア分野の商品・サービスリリースに注目しています。新薬や動物用再生医療等医薬品、言葉を話せない犬猫のためにセンサーを活用したライフログの可視化など、過去では考えられなかったような商品・サービスが2020年からさらに増えてくるでしょう。“キャット・ファースト”をスローガンに掲げるRINNとパートナー企業様とのコラボレーションによって生まれる、「飼い主と獣医師とのコミュニケーションを円滑にする」サービスや新商品にもご注目いただけると幸いです。

臼井大(マンダリンブラザーズ)

臼井大(MANDARINE BROTHERS)
株式会社CHOCO マンダリンブラザーズ 統括マネージャー 兼 クリエイティブディレクター

1. 2019年最も印象に残った分野・出来事

2019年で一番印象に残った出来事はペットの防災についてです。災害が多発した2019年ですがペットの防災について僕らとしては当たり前だと思ってたことがニュースになるなど、世間的にはまだまだ認知はされていないなという印象でした。僕たちマンダリンブラザーズができることをもっと真剣に考え実現したいと強く思った年でした。今後も自然災害は無くならないと思います。いろいろ業界を巻き込んだ施作を行い、ペットをすでに飼っている人にも、これから飼う人にも、ペット込みでの防災意識を広めていきたいと思いました。

2. 2020年の注目分野

2020年の注目かはわかりませんが、マンダリンブラザーズとしてもっとペットや飼い主の方と直接触れ合える場に参加したいと思っています。SNSやECが主流となってきて直接ペットや飼い主の方と会わなくてもビジネスが成り立つ現代ですが、ある意味時代に逆行してでも、もっともっとペットと飼い主の方に直接会える場を作ったり参加したりして1頭づつコミュニケーションを取りたいなと思います。なんかそれが生き物を扱う業界にいる僕らの特権でもあるなって思うからです。なのでマンダリンブラザーズとしてはそういうペット参加型のイベントには注目してます。


森村晃一(フォレストヒルズ)

森村晃一(フォレストヒルズ)
株式会社フォレストヒルズ 代表取締役総支配人、ワンコネット那須協議会 会長

1. 2019年最も印象に残った分野・出来事

ペット同伴旅行のマーケットは、団塊の世代を中心としたハイエンド層中心から、団塊ジュニアもしくはポスト団塊ジュニアの層にシフトしてきていることを痛切に実感した年でした。これはツーリズムに限らず、例えばアパレルやグッズにもその傾向が見られます。ペット同伴旅行は、ペット業界の中で顧客ニーズを得て生まれ育ちましたが、今や旅行業の中のひとつの旅行カテゴリーとして捉え、旅行業界の中で販売を拡大していくように思います。主要OTAの検索ワードに「ペット」が上位にいることがその証明です。

2. 2020年の注目分野

顧客層の若年化を背景に、宿泊・料飲・交通・アクティビティなどツーリズム関連においては、多様なニーズに答えられるように様々なサービスを用意する必要があります。
  • 宿泊:「貸別荘」「素泊まり」「B&B」「キャンプ」「レンタルキャンピングカー」
  • 料飲:店内OKの「レストラン」「バータイム」「朝食提供」
  • 交通手段: 自家用車だけではなく「レンタカー」「長距離バス」「現地での2次交通」
  • アクティビティ: ペット同伴で可能な「レジャー施設」「アウトドアツアー」
などです。これらのインフラサービスを用意することでお客様の消費ニーズに合わせることができれば、ペット同伴旅行は今後ますます増えると思います。


杉本奈々重(写真家)

杉本奈々重(写真家)
写真家

1. 2019年最も印象に残った分野・出来事

昨年に引き続き、SNSの普及と活用が印象的でした。様々な情報やコミュニティーがインスタグラム等から発信され、色々なシーンで飼い主さん同士の「繋がり」を感じることが多い年でした。SNSがライフスタイルや日々を綴るパーソナルなツールから、様々な個人教室や、ハンドメイドの商品の販売をするようなパブリックなコンテンツに進化しているようにも思います。

SNSに上がってくる写真のクオリティーにも注目。我が子の写真を「プロ級」の機材や腕前で撮影している飼い主さんも増え、写真への需要と関心の高まりも感じます。印象的だったのは新型iPhone。3つのレンズを持つ特異なスタイルと、背景のボケ感を楽しめる機能など、美しい画像が撮影できる最も手軽なカメラとして公使共に活用しているシーンを多く見かけました。

2. 2020年の注目分野

何と言ってもオリンピックの開催。カメラメーカーでは各社オリンピックに向けて「力作」のカメラやレンズの発表が目白押しです。愛犬、愛猫を可愛く、美しく撮るためにカメラやレンズを買い求める人も依然多いように思いますので、このタイミングで新しいアイテムや機材を探してみるのも良いと思います。大注目はペットの「瞳AF」。なかなかピントを合わせづらい生き物の瞳を捉える画期的な機能で、走っている犬など動体を追従して捉えるAF(オートフォーカス)機能の躍進的な向上に引き続き、興味深いトピックスです。

個人的な感想ですが、ペット業界は空前の写真バブル。軽量なミラーレスカメラの普及もあり、女性もオシャレで気軽にカメラを楽しめる時代になりました。ペットイベント等では「セルフフォトブース」が大人気。我が子を可愛いブースで撮影しSNSに上げることで、ペットとの暮らしや、思い出を綴るだけでなく、写真が流行やセンスを発信する強力なアンテナになっていると思います。


西岡裕記(ドッグトレーナー)

西岡裕記(ドッグトレーナー)
ドッグトレーナー

1. 2019年最も印象に残った分野・出来事

私事ではありますが、出演犬のトレーニングなどを担当させて頂いた映画『駅までの道をおしえて』の公開がありました。映画の良さは置いといて。ハリウッド映画などに主演に近い形で出演する犬が元保護犬というのはよく聞きますが、日本の映画ではおそらく初ではないかと。そして映画公開に伴って「アニマルドネーション」さんや雑誌「レトリーバー」さんが協力してのチャリティー企画なども盛り上がってます。これをきっかけに保護犬、元保護犬という存在がもっとメジャーになり、これから犬を飼いたいと考えてる人達への選択肢として、保護犬を引き取ろうという動きが増えるといいなと思います。

2. 2020年の注目分野

ペットとの同行・同伴避難について。2019年は台風などの災害の多かった年でもありました。実際に被害も大きく各地でペットを連れて避難所に避難した飼い主さんも多かった半面、ペットがいるから、という理由で自宅待機を選んだ方もいます。ペットを連れての避難先での抜け毛、匂いや排泄についてのマナーも問題になってます。やはり各自治体での同行・同伴避難の可否もまちまちで、「実際の災害時はどうしたらいいの?」と迷ってる方がほとんどでしょう。ペットといっても、犬も大型犬や多頭飼い、猫、鳥類、爬虫類など様々です。家族であるペット達との緊急時の避難先や避難方法について、各自治体での避難方法のガイドラインをもっとわかりやすい情報として、行政と民間と力を合わせて改めてガイドラインを考えていけたらいいなと思います。


大森洋子(トリマー)

大森洋子(トリマー)
ビジョナリーアーツ講師、目黒洗足病院トリミングマネージャー、Dogcaresalon LINDO

1. 2019年最も印象に残った分野・出来事

最近はテレビの動物番組で保護犬が取り上げられることが増えてきました。実際に保護犬を飼育されている方も増えてきているようで、トリミングサロンでも保護犬から迎え入れたワンコのトリミングが増えています。良いことですが、一方で爪切りが苦手だったりシャンプーに慣れていなかったり、保護犬だからこその難しさがあるのも実情です。完璧でキレイな仕上がりを目指すよりも、そのワンコに合ったトリミング方法をしてあげることの大切さが必要になってきたと感じています。

2. 2020年の注目分野

犬が飼い主さんにとって本当の家族になっている今、保護犬やシニア犬だけでなくパピーにも成犬にも最適なトリミング方法が求められるようになっています。例えば、パピーの場合はいきなりテーブルの上に乗せるのではなく、まずは膝の上で爪切りをしたりブラッシングをしたり、慣れさせるための方法があります。成犬の場合も皮膚トラブルのケアをしてあげたり、シニア犬の場合は心臓や足腰に負担がないように短時間でしたり。ただ「犬のトリミング」をするのではなく「その犬に合ったトリミング」へと、サービスの高度化が進んでいくと思います。


多様性社会における「ペットライフ」とは

今年もたくさんのキーパーソンから振り返りとトレンド予測を頂きました。2020年は待ちに待ったオリンピックイヤーですね。海外からたくさんの方が訪れ、言葉や文化の壁に直面することになると思います。今まで叫ばれてきた「多様性」が、言葉だけではなかったか試されようとしています。

そんな話とペットは関係のない話でしょうか? ペトことを運営するシロップでは毎日のように「人が動物と共に生きる社会」とは何かを議論しているのですが、最近はペットと暮らす人も「家族のあり方」における多様性の一つなのではないかと話しています。この話は代表の大久保がGO代表の三浦崇宏さんと対談させていただいた記事でも語られていますので、よろしければご一読ください。

犬や猫が家族として当たり前の存在と考えれば、シニア犬猫向けのペット保険「どうぶつ健保しにあ」や猫の行動データを記録する「Catlog」の発売、トリミングの個別最適化などが必然の流れのように思えてきます。2020年もそういった流れは続くと思いますが、それに加えて社会のあり方も考えていかなければいけません。つまり、多様性社会においてペットライフはどうあるべきなのかということです。

これは、「多様性社会だから社会はペットの存在を受け入れるべきだ」という一面的な話ではなく、「社会に受け入れてもらうためにはペットと暮らす人もどうあるべきかを考えければいけない」という話でもあります。ペットグッズも「犬猫のため・飼い主さんのため」だけでなく、「犬猫が苦手な人のため」が機能性として求められてくるでしょう。それはグッズに限らず、宿や飲食店、家や乗り物など、さまざまな分野に広がっていくはずです。

ペトことは2020年も、みなさんの愛犬・愛猫との暮らしが幸せなものになりますように、楽しく、役立ち、気付きがある情報をお届けしていきます。引き続き、ご愛読のほど、よろしくお願いいたします。