犬も表情を使ってコミュニケーションしていた!? 眉毛を動かす意外な理由を海外論文から紹介

犬も表情を使ってコミュニケーションしていた!? 眉毛を動かす意外な理由を海外論文から紹介

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皆さんは誰かとコミュニケーションをとるとき、意識して自分の表情を作ることがあると思います。好きな人の前で笑顔を絶やさないようにしたり、上司の機嫌をとるときに作り笑いをしたり。人では当たり前の行動ですが、犬ではどうでしょうか? 今回、犬がコミュニケーションの一環として自分の表情を変えていることを調査した論文が科学誌『ネイチャー』に掲載されていますので、紹介します。

犬は「ご飯」ではなく「飼い主」を見て表情を変えていた

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これまで人を含む霊長類は他者とコミュニケーションをとるために表情を作っていることがわかっていましたが、それ以外の動物は、「いま何を思っているか」だけが表情に現れるものだと考えられてきました。しかし、「霊長類以外の動物は表情でコミュニケーションをとっていない」とするのに科学的な根拠は無く、感覚的にそうであろうと考えられていたのです。

そこで、イギリス・ポーツマス大学のジュリアン・カミンスキーら研究チームは、「眉を動かすか」「舌を動かすか」など15個の細かい項目を基に、犬が表情を使って飼い主の機嫌をうかがっているかどうかの調査を行いました。なお、2016年にイタリア・パルマ大学のティジアノトラバインらが犬の目の前にご飯を置くと犬の体温や心拍数が上昇し興奮する調査結果を報告していたため、今回はご飯が有る場合と無い場合を比較する形で行われました。

その結果、飼い主がご飯を持っているかどうかに関わらず、飼い主が犬の方向を向いている時は向いていない時に比べ、犬が飼い主に対して吠えたり、眉を動かしたり舌を出していたりといった存在をアピールする頻度がとても多くなったのです。これらの結果から、飼い主が犬に注意を向けているとき、犬は飼い主に向けて表情を作っていることが分かりました。

ジュリアン・カミンスキーらは、犬の表情は飼い主の注意があって作られることがあり、これまで「犬は単純な感情表現でしか表情を変えない」と考えられてきたことを否定すると結論付けました。犬は飼い主の手にあるご飯を見て表情を変えていただけではなかったのです。

犬の視界に餌があるかどうかは関係なかった

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今回の調査は犬を飼っている家庭を募集し、その中から犬が他人に慣れていて襲わないことを条件に、犬種や年齢の異なる24匹の家庭犬を無作為に選出して行われました。

選ばれた飼い主と犬は、ジュリアンらの研究所にある約3.5m四方の静かな部屋に入り、数分間部屋を動いて犬に安全な場所だと認識させます。そして広範囲に動かないようにリードをつけ、以下の4つの状態で2分間ずつ調査が行われました。

  • A:飼い主が犬を向いており、手にご飯を持っている状態
  • B:飼い主が犬を向いており、手にご飯を持っていない状態
  • C:飼い主が犬を向いておらず、犬に見えるようにご飯を持っている状態
  • D:飼い主が犬を向いておらず、ご飯も持っていない状態

表情

このルーティーンを1日に1回、計2日行い、「眉を動かす」「吠える」「尻尾を振る」といった15の犬の行動に対しての項目に分けてスコア化し、データにしました。

ご飯を持っている状態で、「飼い主が犬に対して注意を向けているかどうか」の違いでは15の項目のスコアのうち、犬の表情の動きに大きな差が出ましたが、「ご飯を持っているかどうか」だけでは顔の表情どころか、犬が動き回ったり、吠えたりするような他の行動に対しても大きな差は見られませんでした。

この結果から、ジュリアンら研究チームは、犬は「ご飯」だけで表情を変えるのではなく、「飼い主」の目を見てコミュニケーションするために変えると結論付けたのです。

飼い主の注意が犬の表情を豊かにする!?

これまで犬が表情を作っているかは感覚的にしか分かっていませんでしたが、今回のジュリアンらの調査結果で、犬は人が注意を向けている時に特に表情が豊かになることが分かりました。

犬は警戒しているときや眠たいときなどの単純な感情で表情を作っているだけではなく、「飼い主とコミュニケーションを取る」という複雑なプロセスも踏んで表情を作っていることが分かりました。特に舌を出してハァハァする「パンティング」や、「眉の上昇」が多く見られ、特に眉を動かす動作は飼い主が注意を向けている時と向けていない時でスコアに大きな差がありました。

ジュリアンらはその理由として、人間が悲しい時に示す表情に似ているため、犬が真似をしている可能性と、目を大きくしたら飼い主が幼い時の自分だと勘違いしてくれるかもしれないと思った可能性を示唆しています。今後は、「感情的に起こる表情」と「意識して起こしている表情」との違いについて、さらなる研究を行っていくとしています。

調査概要