ペット信託®で愛犬・愛猫の将来を守る!行政書士がメリット・デメリットを解説

ペット信託®で愛犬・愛猫の将来を守る!行政書士がメリット・デメリットを解説

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自身が病気で飼えなくなったり、亡くなったりしたときに備えて、残された大切なペットの生活について考えたことはありますか?ペットたちの将来への生活の準備は、すべて飼い主に委ねられています。今回は、今回は、飼い主がペットと暮らせなくなった「もしもの場合」の備えの一つ「ペットのための信託契約」について、行政書士の今井が解説します。

ペットのための信託とは

猫の横顔

「信託」とは、文字通り「信じて、託す」ことです。

信託のイメージは、「信託銀行・保険会社が取り扱いお金持ちの方にしか関係ないもの」というイメージがあるかと思います。

本稿での信託とは「飼い主のペットと飼育費、つまりペットの未来(生活)を、新しい飼い主を信じて託す」個人間で契約する信託契約です。

信託契約の根拠となる法律である「信託法」は、2006年に全面改正され、2007年9月に施行されました。

最近では遺言・成年後見制度のあり方の一つ「民事信託」として書籍やメディアでも取り上げられるようになった「信託」ですが「ペットのための信託契約」は、その民事信託のカテゴリーの一つです。

皆さんもご存じだと思いますが、法律上ペット(動物)は「モノ」です。「モノ」に財産を遺すことはできません。そのためペットではなく、ペットの新しい飼い主になる人に託すのです。

ペットのための信託以外にペットのために飼育費を残す方法

老人と犬

「ペットのための信託契約」以外にペットの飼育と飼育費を遺す方法として「負担付遺贈」「負担付死因贈与契約」というものもあります。根拠となる法律は民法です。

負担付遺贈

「負担付遺贈」は、遺言書により飼い主が亡くなった後に、ペットの飼育を条件として財産の一部または全部を相続人に相続させたり、法定相続人(配偶者と血族)以外の第三者に贈与したりする遺言書です。

遺言が内容通りに執行されるために遺言執行者を指定することも多くあります

万が一、新しい飼い主(受遺者)がペットの飼育をしていない等、遺言が守られていない場合、遺言執行者は(相当な期間を定めて)改善請求をすることができます。

改善されない場合は、遺贈の取り消しを家裁に申し立てすることができます。

注意点

  1. ペットの飼育を条件にされた相続人または第三者は、遺贈の放棄ができます

    依頼された方が「いきなり新しい飼い主に指定されても困る」と放棄されてはペットの行き場がなくなるため、あらかじめ飼育を依頼する相続人または第三者の承諾を得ることが必要になります。


  2. 遺留分の権利に含まれます。

    兄弟姉妹以外の法定相続人は自ら請求すれば、遺言に関係なく財産の一定割合がもらうことができます。それが遺留分です。

    負担付遺贈もその割合に含まれますので、相続分が侵害されたという理由で請求されたとき、ペットの飼育費が争いに巻き込まれてしまう危険性があります。

負担付死因贈与契約

「負担付死因贈与契約」は、贈与する人(飼い主)が亡くなられた後に効力が生じ、ペットの飼育を条件に新しい飼い主に財産を遺す契約です。

「負担付遺贈」は飼い主の一方的な行為ですが「負担付死因贈与契約」は飼い主と新しい飼い主との合意契約になります。

注意点

「負担付遺贈」も「負担付死因贈与契約」も飼い主が亡くなった後に効力が発生するという点に注意が必要です。

飼い主が病気になった場合など、ペットの飼育ができない状態になった場合のためには別の方法が必要となります。

それが「ペットのための信託契約」です。飼い主が「ペットと暮らせなくなったとき」と「亡くなったとき」のどちらでも、ペットのための信託契約であれば対応可能です。

なお、ペットのための信託を意味する「ペット信託®」という言葉は、司法書士の先生が考案し、2013年に商標登録されています。

「ペット信託®」の仕組み

ペット信託の仕組み

前述した通り「ペット信託®」とは飼い主が何らかの事情(施設への入所、病気での入院、亡くなったときなど)で家族の一員であるペットと暮らせなくなった時に備え、元気なうちに新しい飼い主にペットと飼育費を託す信託法に基づいた契約です。

つまり「ペット信託®」は契約ですので、契約時に判断能力がない場合は契約することができません。

新しい飼い主も同様に、判断能力が無い方(成年被後見人もしくは被保佐人)や未成年者は新しい飼い主になることはできません。

「新しい飼い主も託されたペットの飼育ができなくなった」という場合に備えるため、契約時におけるペットの年齢に応じて、またはペットの寿命や飼い主のご希望に応じて、新しい飼い主が複数登場する場合もあります。

また、新しい飼い主はペットの飼育費を管理して、実際のペットの飼育を別の方や施設に委任することもできます。


ペット信託®でよくある質問

布団に入る犬

「ペット信託®」においてよくある疑問にお答えします。

新しい飼い主の義務は?

新しい飼い主は、ご自身の財産と託されたペットの飼育費を分けて管理し、託された飼育費からペットを飼育する義務が生じます。

その他にも義務はありますが、託す飼い主と託される新しい飼い主との契約によって異なります

もし新しい飼い主が適切にペットを飼育しない場合は?

任意ですが、ペットの飼育や飼育費の管理が新しい飼い主のもとで適切に行われているかどうかをチェックして報告する「信託監督人」を選任することができます。

信託監督人には、主に信託契約に携わった者(行政書士、司法書士など)が選任されることが多いです。

信託監督人としての資格はありませんが、法的な知識と動物に関する知識がある者が望ましいと思われます。

新しい飼い主は「ペット信託®」契約締結後、飼い主から託された飼育費用を分別管理する義務があります。信託監督人がいる場合は、正しく管理されているか信託監督人がチェックします。

飼い主が最後までペットを看取った場合は?

飼い主に「万が一」が訪れず、ペットを看取った場合は、新しい飼い主になるはずだった方に託した飼育費は飼い主に戻すことができます(信託契約が終了するため)

本来は自由ですが、信託契約書には飼い主が最後まで看取った場合、託された飼育費用を飼い主に戻す旨が明記されます。

また「新しい飼い主が託されたペットの飼育を開始した後、そのペットが亡くなった場合」や「自費で飼育する里親さんが見つかり、飼い主が譲渡を希望される場合」などで残った飼育費(残余財産)をどのように帰属させるかは、飼い主とのヒアリングで確認いたします。

飼育費はどのくらい必要ですか?

飼い主へのヒアリングにより、契約当時の「ペットフード」「健康状態」「ワクチン代」「ペット保険加入の有無」を確認して年間の飼育費を計算します。また、予備費を加算して飼育費を計算します。

飼育先を施設へ希望される場合は施設の利用料を確認し、信託財産として設定します。飼育先の施設として老犬ホームを紹介することも可能です。

飼育費を金銭以外で託す方法はありますか?

「ペット信託®」の飼育費は金銭で託されることが多いです。信託契約締結後に積み立てることも可能です。

飼育費が足りなくなったときに備えて、不動産(自宅を売却)や生命保険金を信託財産として設定することも可能です。

飼い主の家族に「ペット信託®」を反対されたケースはありますか?

家族間でもペットのために飼育費を託すことに理解が得られない場合もあります。飼い主のペットに対する想いを理解していただけるよう、飼い主の家族にお話しさせていただきます。

後ほど紹介しますが、家族の方に「ペットに残すエンディングノート」を見せて、飼い主にとってペットがかけがえのない存在であること、そして支えであることをお伝えします。

本来、信託契約後の飼育費は守られますが、飼い主の家族構成などを確認して、信託契約と遺言書をセットにしてご依頼いただく場合もあります。

「ペット信託®」のメリット・デメリット

ソファにいる猫

「ペット信託®」を利用するメリット・デメリットについてそれぞれ解説します。

「ペット信託®」のメリット

あらかじめ新しい飼い主と「ペット信託®」契約をしていることで「飼い主がご病気や怪我、施設へ入所など、大切なペットと暮らせなくなった場合」や「飼い主が急にお亡くなりになった場合」に、新しい飼い主のもとでのペットの生活とペットの飼育費を守ることができます。

「ペット信託®」のデメリット

新しい飼い主が見つからない

よく飼い主から「新しい飼い主さんを紹介してくれる?」という質問があります。

今まで私が関わった「ペット信託®」では、現飼い主が新しい飼い主を決めることが多くありました。

私は飼い主に情報を提供することはできますが、最終的に新しい飼い主を決めるは飼い主です。なぜなら、ペットは家族の一員であるからです。

飼い主は大切なペットの将来を考えて、事前に新しい飼い主を考えておく必要があります。

「ペット信託®」の専門家が少ない

「ペット信託®」も含めて民事信託を扱う専門家が少ないのが現状です。

「ペット信託®」の場合は、大切なペットの命をつなぐ信託契約のため、私自身もペットの命の重さを忘れずに飼い主と向き合っています。

「ペット信託®」はペットの命をつなぐ証

老人と犬

ペットのためのエンディングノートもあります。

飼い主として大切なペットのために、まずはペットのエンディングノートに書くことから始めてみてはいかがでしょうか?

ペットと向き合うことで、ペットの命の尊さを知り、飼育放棄など悲しい結末を迎えるペットが少なくなることが私の願いです。


引用文献

  • 『家族信託実務ガイド第5号』(日本法令出版)