タニタ元会長が描く「ペットの健康」とは Fanimal谷田氏・漆原氏インタビュー

体脂肪計トップシェアを誇るタニタ元会長の谷田大輔氏と一休元取締役の漆原秀一氏という異色コンビが2016年に創業したペット系スタートアップ「Fanimal」(ファニマル)。メディア「Fanimal」を運営し、今年6月には谷田氏プロデュースのペットフード「Rhythm(リズム)」を発売したばかりです。人の健康を追求し続けた谷田氏がなぜペット事業に取り組もうと思ったのか。IT業界の最前線にいた漆原氏はペット業界をどう見ているのか。ペトことを運営するシロップ代表で同じくIT業界出身の大久保が、業界のキーパーソンたちとペット業界の未来について語る連載「変革するペット産業」の第2回は、「ペットの健康」がテーマです。

谷田会長

左から、シロップ代表の大久保、Fanimalの谷田会長、漆原社長

谷田氏はライターやトースターなどを製造するいち金属加工メーカーだったタニタを計測器の大手メーカーへと躍進させた実力者。その経験やファニマル立ち上げの経緯についてお聞きするところからスタートしていきます。


タニタでペット事業をやらなかった理由

谷田会長

大久保:谷田さんは子どもの頃に犬と暮らしていたそうですね。

谷田:本当に「子どもの頃に飼っていた」というだけですが、シェパードが何代か続いて、ドーベルマン、またシェパードという感じでしたね。

大久保:タニタ時代にペット事業をやろうとは思わなかったのでしょうか?

谷田:ゼロではないです。ペットの体脂肪計はどうだろうと考えたこともありますが、犬は種類が多いですし、年齢によってどんな差が出てくるのかとか、やり始めると人と比べてマーケットがそんなに大きくないのに研究費のほうがかかってしまうということで、事業化には至りませんでした。

人間の方も人種の違いですらけっこう研究費がかかるんです。アメリカで「その基準は日本人のものだろう」と言われたらもう何も言えないんですよ。ただ、正確には人種というより食生活ですね。例えば日本人がアメリカで生活すると、アメリカの食生活になるので体型もアメリカナイズされちゃうんですよ。だからこそ、食ってものすごい難しいものだなと思うんです。

谷田会長

漆原:谷田さんのお話はためになりますね。面白いですよ。体脂肪計がどうやって使われるようになったかとか。最初は先生も使ってくれなかったそうなんです。

大久保:ぜひお聞きしたいですね。

谷田:最初、病院の先生に持って行ったときは「なんだこんなおもちゃ」って感じでしたね。それまでは水の中で計るやり方だったので、高齢者とかお子さんが計れないんです。そこを狙って開発したんですが、先生は全然相手にしてくれなくて。

でも、こちらは水で計ったデータと体脂肪計のデータを比べていますので、「使ってもらえればわかるから先生勝手に使ってください」と肥満学会の理事の先生方全員に渡したんですよ。それで1年くらいたってみて、使ってみると「データが(水で計ったものと)変わらないじゃないか」となって、まず学会で認めていただいたんです。

大久保:先生すらも知らない技術革新があったんですね。

谷田:そうですね。脂肪の計り方でベッドに寝て計るものもあったんですが、タニタは体重計に乗るだけということで、先導できたわけです。ただ、最初は価格が50万円とかでしたから、病院とか特殊なところでしか売れなくて。なんとか家庭用にしたいと4万5000円で売り出したんですが、売れないですよね。何年かかけて2万円を切るようになってから売れ始めました。

飼い主が不健康だと犬も不健康になる!?

谷田会長

大久保:もともと谷田さんは人のヘルスケア、漆原さんはインターネットの予約サイトをされていたということで畑違いのお二人なわけですが、どのような経緯でファニマルを立ち上げたのでしょうか?

漆原:谷田さんとは前職のときから何度かお会いしたことがあって、共通の友人がいるんです。その方がペットの保険を伸ばすための事業をしたいということで、「じゃあ話しましょう」となったのがきっかけでした。

大久保:漆原さんは一休で取締役CFOという立場でいらっしゃいましたが、なぜ独立してペット事業をやろうと思ったのでしょうか?

漆原:実は一休のときに新規事業の提案をしたことがあって、それがペット事業だったんです。結果的にやらなかったんですけど、ペットホテルとかトリミングサロンの予約サイトを作りましょうという内容で。たまたま一休がバイアウト(ヤフーによる子会社化)することになって、じゃあ次に何しようかと考えていたタイミングで先ほどのお話があったという流れです。

谷田:ペットの健康をやってもらえれば保険事業にも相乗効果があるということでお誘いを受けたんですね。「人間をやってきたんだからペットの健康も同じでしょ」と言われて、「そうですね」と私も思って気軽にお受けしたという感じです。

大久保:ということは、やってみたら大変だったということですね。

谷田会長

谷田:人間の肥満のほうは難しいけれど、犬や猫は簡単だと思っていたのですがこれが難しいことに気づきました。食事の管理をしっかりしていても家族のどなたかがあげてしまうという(笑)。

大久保:なるほど。僕たちもペトことを運営する中で、犬とお出かけをする人は病気の記事をよく見られる一方で、あまりお出かけをしない方は病気のことを意識されないという違いを感じています。ペットの健康に人との関わり方がすごく重要になっているように思いますね。

谷田:そういった情報をきちんと見ている飼い主さんと、あまり関心を持たずにやっている飼い主さんと両極端ですね。人間の場合も健康マインドを持っている方と持っていない方で全然違いますからね。人間も不健康な人はペットも不健康という認識です。

今は室内で一緒に生活をするケースの方が多く生活習慣がすごく近いですよね。犬は「最近太り気味だから痩せよう」というようなことは考えないですよね。ということは飼い主さんをどう教育していくか。知識を増やしてもらうかというところにペットの健康があるのではないかと思っています。

オリジナルフードを手がける狙い

大久保:今年6月に谷田さんのプロデュースで「Rhythm(リズム)」というペットフードを発売されましたが、どういうところを大切にされましたか?

谷田:やはり肥満はさまざまな疾患につながります。正常な体型を維持するというところは大事だと思っています。低GIな原材料を使用したり、オメガ3脂肪酸を豊富に含んでいたり、穀物不使用といったところが特徴です。あとは「安全・安心」ですね。

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漆原:これは人も同じだと思いますが「消費者の方が許容できる範囲なのか」、犬の場合は購入するのはオーナーさまですので「オーナーさまがどこまで気にするか」というのが重要だと思っています。だから私たちは、厳選した自然素材を使用し、工場の品質管理や輸送中の温度にも配慮し、オーナーさまに納得していただける商品をご提供できるようにしています。

大久保:やはりタニタでの経験が生かされているということでしょうか?

谷田:食は健康に一番関わるところです。その根幹となる考えは人も犬もほとんど同じだと思っています。ただし、もちろん必要な栄養は違いますので、そこはきちんと分けて考えなければいけません。

漆原:ドッグフードはドッグフードなんで、僕たちはドッグフードをヒューマングレードというつもりはまったくないです。

大久保:ドッグフードに関しても優秀な先生を見つけてくるというのが重要なことになってくるのでしょうか。

谷田:必要でしょうけれど、まだまだ少ないですよね。

漆原:例えばアメリカには獣医師の方が動物の栄養学を学ぶ大学があります。日本にそのような大学はありませんし、大学でも栄養学を学ぶかというと、やはり治療がメインになりますからしっかり学ぶ機会はそうないわけですよね。考えてみますと人でもそうですよね。栄養に関しては医師ではなく、きちんと栄養士の方がいらっしゃいます。

そして昔と違って今はインターネット上に情報があふれていますから、飼い主の皆さんも何が正しくて何が正しくないのか判断が難しいと思います。極端な話でいいますと、あるサイトではいいというフードがあるサイトではだめといっていたり。はたまたペットショップで勧められて購入したものが、インターネットで調べると悪く書かれていたり。こうなってきますと何を信用していいのかわかりません。

谷田会長

谷田:犬は自分で食べ物を選べませんので、飼い主さんが選んだものを食べるという受け身なんですね。ですから飼い主さんがきちんと正しい情報をもち、さまざまなところから得た情報を自分自身で取捨選択できるようになることが愛犬の健康につながっていくのだと思います。

そして、飼い主の皆さまに私たちのような販売する側が正しい情報をきちんと届けるということがとても大切なことだと考えています。

「愛情の注ぎ方」がペットの寿命を決める?

大久保:「Rhythm(リズム)」は犬用でしたが、猫についてはどうお考えですか?

谷田:猫も肥満が増えてきていますね。

漆原:ちょっと太ってるくらいが可愛いっていう飼い主さんが多いんですよね。我が家は猫のご飯は毎食計ってあげています。「にゃーにゃー」欲しがるので家族はつい多めにあげたがりますが、猫のためにならないので止めます。

なんでかと言いますと、先代の猫が腎臓病になった時に、食事の量も飲水量も尿量も管理していたのです。「水をどれくらい飲んだか」「ご飯をどれだけ食べたか」「おしっこはどうだったか」などが習慣になっていたのでそれを継続しています。

谷田:愛情の向きが違うと思いませんか。飼い主がちゃんとケアしてあげれば健康寿命は伸びていくと思うのです。しかし、「たくさんあげることが愛情」みたいになってしまうと結果的に太ってしまい、さまざまな疾患のリスクにつながります。

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漆原:大型犬で太ってる犬と理想的な体型の犬で約2年ほど寿命が変わるという研究結果もあるくらいです。愛犬の健康のために、ちょっと我慢させるかもしれないけど適正な量を与えるというのが本当の愛情だと思います。

大久保:でも喜ぶからあげてしまう。

漆原:その人はその人なりの愛情を注いでるのだと思いますが、もし正しい知識があり理想的な体型を維持できた場合、もう2年一緒に暮らせる可能性があるわけです。私たちは「体重に気をつけて理想的な体型を維持して、1日でも長く一緒にいましょう」というメッセージを出し続けていきたい。それが「Rhythm(リズム)」に込めた思いです。

谷田会長

健康と愛情を満たす「フードの一手間」

大久保:経営者としてお聞きしたいんですが、人に愛され、使われるサービス・プロダクトを作るためには何が大事だとお考えですか?

谷田:まず消費者の意見に耳を傾けること。そして専門家の意見を信じるということですね。健康・肥満を研究している先生方の意見を聞いて作り上げたのがタニタの社員食堂や日本初の肥満対策施設「ベストウェイトセンター」です。

タニタはもともと体重計のメーカーだったわけですけど、体重計のシェアを取りに行こうと考えるとなかなか難しい。そこで「体重はなぜ増えるのか」というのを考えていたら、先生から脂肪の話を頂いた。「なるほど、体重ではなく脂肪。それが肥満なんだ」と少しずつステップアップしていったんです。

それで新しい「脂肪」という要素を入れた体重計を作ったところ、よそができてないから攻めやすかった。これは世界でも同じで、アメリカで体重計のときは「半値にしろ」って言われたんですけど、脂肪計のときは「いくらで売ってくれるの?」って(笑)。「オンリーワン」を持つっていうのは非常にやりやすいなと思いましたね。

大久保:ペット業界においてはどんなオンリーワンの勝負をしたいと考えていますか?

谷田:ペットフードを作るとフードメーカーが競合になりますので、そうではなくすべてのフードメーカーに供給できるようなものを作る。犬も猫も高齢化していますので、その中で少し違うスタンスでトッピングしてもらうようなものもいいのではないかと考えています。

私たち人はこれを食べたら次はこっちを食べたいと、肉を食べたり、魚を食べたり、野菜を食べたりいろいろなものをバランスよくとっていると思います。多様性に富んだものを食べています。犬も同じで、多様性に富んだ方がやはりいいですよね。

ただ、毎日愛犬にいろいろなものをあげるのはやはり大変です。だから毎日のドッグフードにちょっと多様性をもたせられる商品を、愛犬にも食の楽しみを提供できるどことも競争をしないような商品を開発できればと考えています。

谷田会長

漆原:手作りが一番だというのは谷田も私も思っています。ただ、全ドッグオーナーさまが毎日手作りできるわけではありませんし、やはり人と犬は同じではありません。ペットフードが犬の寿命を延ばしてきた一つの要因だと思いますので、そこは否定しませんし、私どももペットフードを販売しています。

食は犬にとって散歩と同じように1日の楽しみの一つです。何かトッピングで足してあげたらもっと楽しいよねというのを考えています。一手間加えてあげることでもっと愛情が深まりますよというのは伝えていきたいと思っています。

大久保:ありがとうございました。

谷田会長