マダニに犬が刺されたら?感染症や予防対策などについて獣医師が解説

マダニに犬が刺されたら?感染症や予防対策などについて獣医師が解説

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マダニは春の時期に成長して、夏に活発になります。マダニ予防は月に1回の頻度で行うことが多いですが、面倒と思われている方もいるかもしれません。でも実は人畜共通感染症を含む感染症を予防するために、とても大切なことです。今回はマダニが犬にうつす可能性のある病気や予防について獣医師の福地が紹介します。

マダニとは

本を読む犬

マダニはダニの一種で「吸血」という特徴があります。マダニは普段草むらに潜んでおり、犬に寄生して吸血するだけでなく、さまざまな病気を媒介します。

大人のマダニは3〜4mmですが、血を吸って満腹になると10mm近くに成長します。このお腹いっぱいになったときに飼い主さんに見つかることが多いのですが、この時にはもうマダニの体の中に潜む病原体が犬の体内に入り込んでいることが多いでしょう。

マダニは一生の中で20〜25日間ほど吸血して過ごしているといわれ、残りの期間は脱皮や産卵をしたり、寄生の機会を待つために野外環境で過ごしています。

マダニが媒介する犬の感染症

マダニ

マダニが媒介する犬の感染症としては主に「アナプラズマ症」「エールリヒア症」「バベシア症」「ライム病」の4つが挙げられます。

いずれもワクチンは開発されていなかったり、日本では承認されていなかったりするため、定期的なマダニ予防が、感染を予防します。

アナプラズマ症

<犬の症状>

アナプラズマ スピーシーズ(Anaplasma spp.)に属する細菌によって引き起こされます。

ヨーロッパやアメリカで報告されおり、「発熱」や「食欲不振」「沈鬱」「下痢」や「跛行(※)」がみられます。

※跛行(はこう):何かしらが原因で正常な歩行ができない状態のこと


<人への感染>

マダニによって、人にも感染する可能性があります。

エールリヒア症

<犬の症状>

エールリヒア ケイニス(Ehrlichia canis)という細菌により引き起こされます。症状としては「発熱」「体重減少」「眼の異常」「血小板減少」「貧血」などが挙げられます。

<人への感染>

エールリヒア ケイニス(Ehrlichia canis)自体は人には病原性はありませんが、異なるエールリヒア(Ehrlichia)種はアメリカにおいて、人にも病原性があり、感染する可能性があることが報告されています。

バベシア症

<犬の症状>

日本でも発生しており、「高熱」「赤色尿」「貧血」「黄疸」がみられます。

<人への感染>

犬に感染するタイプのバベシアは人には病原性がなく、感染しないといわれています。


ライム病

<犬の症状>

日本でも発生しており、「発熱」「跛行」「無気力」「多発性関節炎」などさまざまな症状を起こします。

<人への感染>

ヨーロッパでと北アメリカでは人のマダニ媒介性感染症として最も一般的です。人に感染すると、歩行困難を特徴とする慢性関節炎を示すといわれています。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

上記の他、犬からの感染例はありませんがマダニから人に感染する感染症として「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」があります。

この感染経路として「マダニ→人感染」と「マダニ→猫→人感染」が報告されています。

感染すると命を脅かす恐れがあり、発熱や消化器症状を示します。日本での発生事例もあるため注意が必要です。

マダニの見つけ方・対処法

仰向けの犬

マダニの見つけ方

マダニ予防を動物病院から処方される薬で予防しているときは、マダニ媒介性疾患の感染リスクを大幅に低くするため、基本的にはあまり気にしなくても大丈夫です。

吸血前で殺虫される前の小さなダニが付いている可能性もあるので、お散歩から帰ってきたときは部屋に入る前にブラッシングしてあげると良いでしょう。

よく寄生される「脇や股などの柔らかい皮膚の腹部」「耳や口周りなどの柔らかい皮膚の顔面」辺りを注意して見てください。

マダニを見つけたときの対処法

マダニは顔面の一部を吸血のために特化させていて、それを犬の皮膚に強固に突っ込み、固定して何日も吸血します。

無理やり取ろうとすると頭部だけ皮膚に残ることがあるので、自力で取らず、病院で取ることをおすすめします。

【動画解説】マダニを見つけた場合の対処法や人への影響

YouTubeのPETOKOTOチャンネルでは獣医師の佐藤先生がマダニについて解説した動画を公開しています。あわせてご覧ください。



PETOKOTOチャンネルを見る

マダニの予防法

犬を抱っこする人

犬のマダニ予防

動物病院で処方されるマダニ駆除剤を使って定期的に予防することが大切です。

月に1回垂らすタイプ、飲ませるタイプさまざまな薬剤が販売されています。錠剤をうまく飲ませられない場合にも、おやつ感覚で与えることのできるチュアブルタイプの薬もあります。

皮膚が弱く赤くなる犬の場合は飲み薬にするなど、さまざまな体質の子に合わせた駆虫予防薬があるので、かかりつけの先生と相談しながら選んでみてください。

人のマダニ予防

飼い主さんについたマダニが犬につく可能性もあるので、屋外での活動が多い場合は飼い主さん自身もマダニ予防をおすすめします。

草むらの多い場所に出るときは「腕」「足」「首」などの肌の露出を控えてお散歩するほうがよいでしょう。屋外での活動後は、飼い主さんもシャワーや入浴時にマダニがいないかチェックしましょう。入浴やシャワーで洗い流すことができます。

ダニが服に付いているときはガムテープで閉じ込めて動けないようにしてゴミ箱に捨てます。万が一飼い主さんが咬まれた場合は、2週間程度発熱に注意し、発熱した場合は医療機関を受診することが推奨されています(※)

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)以外のマダニ媒介性疾患には治療薬があるので、マダニに刺されたことを医師に伝えることも大切です。

※参考文献:下田宙,鍬田龍星,前田健『獣医学の立場から見た重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス』


まとめ

見上げる犬
マダニは暖かくなると活発になる
マダニに吸血されるとさまざまな感染症を引き起こす恐れがある
マダニが媒介する感染症は人間に感染するものもある
動物病院で定期的に予防することが大切
犬を日常的にお散歩させている方や、アウトドアを一緒に楽しまれている方も多いでしょう。犬と暮らす上での楽しみのひとつは、一緒にさまざまなことを楽しめることですね。

しかしその分、マダニ媒介感染症などの感染症のリスクもあります。人も犬も予防できる病気を防いで、屋外の時間を楽しみましょう。


参考文献