犬も想像妊娠をする?偽妊娠の特徴やリスクを獣医師が解説

犬も想像妊娠をする?偽妊娠の特徴やリスクを獣医師が解説

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愛犬のお腹が膨れてきたり、ぬいぐるみを我が子のように扱い、取り上げようとすると唸ってきたり……愛犬に妊娠のような兆候が見られたら、それは「偽妊娠」かもしれません。偽妊娠と呼ばれる、いわゆる想像妊娠のようなトラブルが犬の女の子にはあり得るのです。偽妊娠とはどんな状態のことなのか、もしそれがわかった場合どうするべきなのか、もしお家の子に起こった時に対処が出来るよう、かどのペットクリニック院長の葛野が解説します。

犬の想像妊娠(偽妊娠)とは

片耳あげたダックス

まずは想像妊娠をするとどのようになるのか、どのような状態を示すのかをお話ししていきたいと思います。想像妊娠というと精神的に妊娠をしているという思い込みによってなってしまうものと思いがちですが、実際は違います。

想像妊娠というよりも「偽妊娠」という呼び方のほうが正式なものになり、妊娠していないのに、乳腺の腫大や乳汁分泌、妊娠時に行われる巣を作ろうとする行動などが見られる、偽の妊娠状態になります。

避妊手術をしていない女の子は、発情出血が起こり、排卵が起こった後に、ホルモンの変化により、乳腺が発達し、中には乳汁分泌をするようになる子が多くいます。これも偽妊娠の1つです。

このような軽度の変化の場合、生理的偽妊娠といわれており、自然現象の1つで、病的なものとは少し意味が異なります。

では、先に軽く触れましたが、偽妊娠になるとどのような兆候が見られるのでしょうか? また、その際に私たち飼い主はどうしたらよいのでしょう? 勉強していきましょう。


犬の偽妊娠の特徴・症状

見上げるトイプードル

では偽妊娠になるとどのような特徴が見られるのでしょうか? 主に以下のような「体の変化」「行動の変化」が見られます。

体の変化

  • 乳腺の発達
  • 乳汁分泌
  • 食欲不振

行動の変化

  • 攻撃的になる
  • 営巣行動(巣作り)
  • おもちゃやぬいぐるみを子供に見立てた子育てのような行動

前述しましたが、体内の排卵等のホルモン変化によって起こるのが偽妊娠のため、乳腺の発達・分泌や、妊娠するにあたり消化器の運動も緩やかになるため食欲不振などの体の変化も見られるようになるのです。

しかし、実際に胎子がいるわけではないので、ホルモンが元に戻るとこれらの体や行動の変化は自然と消失します。これらの行動に気づいた場合、偽妊娠の可能性は高まります。

通常は自然と消失しますが、多頭で飼っている場合や、他の男の子と接触する機会のある犬の場合は実際に妊娠している可能性もあるので、獣医さんに見てもらったほうが良いかもしれません。

犬の偽妊娠の見分け方

2匹の犬

前述のような体や行動の変化が見られると妊娠、もしくは偽妊娠が考えられるようになります。全く他の犬と接触がない場合、交配をした可能性が全くない場合、「偽妊娠」であると言い切れるでしょう。

しかし、少しでも他の男の子との接触の可能性があった場合、交配をしていた可能性もあると実際妊娠をしている可能性は否定できません。そうなった場合、動物病院での超音波検査が必要になります。

妊娠のような兆候が見られ、交配の有無がわからない場合、動物病院を受診することをおすすめします。

犬の偽妊娠の原因

そもそも偽妊娠はどのようなメカニズムで起こるのでしょうか。犬は発情して排卵した後に黄体と呼ばれる器官が機能します。この黄体がホルモンを分泌することにより妊娠しているのと類似したような状態を作り出します。

これは特定の犬だけが起こるのではなくではなく、子宮や卵巣がある犬ならばどの女の子でも起こる現象です。なぜこのようなメカニズムかは諸説ありますが、太古に群れをなして生活していた際に、他の雌犬から産まれた子犬を群れの中の雌犬が育てられるようにするためだったという説もあります。

犬の偽妊娠のリスク

パグ

では、偽妊娠になると体にはどのようなリスクがあるのでしょうか? 偽妊娠になると、乳腺が発達し、乳汁分泌が起こります。そのため、過剰に発達してしまうと乳腺炎を起こし、熱感や疼痛を伴う場合もあります。

また、体の変化だけでなく、行動の変化により攻撃性やより神経質になってしまい、問題行動へつながってしまったり、飼い主さんなどのご家族との生活に問題が生じる場合もあるでしょう。

犬の偽妊娠の予防

基本的には偽妊娠は病気ではなく自然現象の1つであるため、数週間で変化が自然に消失することが多いです。しかし、前述のように、そこから乳腺炎などの体の異常や、攻撃性の増加、より神経質になることからの問題行動や、飼い主さんとの関係性への問題が出てしまうようであれば、薬を用いての治療が行われることもあります。

ただし、この治療も副作用などもあるため、よほどの問題がなければ治療対象にはならないことが多いといえるでしょう。偽妊娠は自然な現象の1つかつ、生殖器系のホルモンの変化によって起こります。

そのため一番の予防法は避妊手術を行うことだといえます。特に偽妊娠を繰り返してしまう犬の場合、体の負担や行動から起こる問題によってその個体に大きな負担がかかってしまう可能性が考えられるため、強く避妊手術をお勧めします。

犬の偽妊娠は体の変化

ポメラニアン

偽妊娠というと、一見自分の家の犬と関係の無いものに思えますが、実はどんな女の子にも起こり得る、とても身近な体の変化です。お家に女の子の犬を迎えた場合、まずは避妊手術を行うか否かを考えることが、飼い主さんのお仕事になります。

もちろん子犬を産んでもらうというのも1つの選択肢ですが、今後起こり得る病気の負担や、いくら病気でなくても偽妊娠という体の変化によって起こる負担などを考えたときに、どうすることが愛犬にとって最良なのかご家族で話し合うことはとても大切です。

参考文献

  • 犬と猫の治療ガイド2015 私はこうしている(インターズー)
  • イラストでみる犬の病気(講談社)


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