【獣医師監修】犬の歯が抜ける場合の原因や生え替わり時の問題を獣医師が解説

【獣医師監修】犬の歯が抜ける場合の原因や生え替わり時の問題を獣医師が解説

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犬を含む動物は、口で食べ物を咀嚼して、嚥下して生命を維持しています。咀嚼に必要な永久歯が、何らかの原因によって抜け落ちても、人のようにその部位に入れ歯やインプラント措置を行うことは困難です。今回は、犬の乳歯から永久歯への生え変わりや、永久歯が抜けた場合に考えられる原因を獣医師の佐藤が解説します。

この記事を執筆している専門家

佐藤貴紀獣医師

獣医循環器学会認定医・PETOKOTO取締役獣医師

佐藤貴紀獣医師

獣医師(東京都獣医師会理事・南麻布動物病院・VETICAL動物病院)。獣医循環器学会認定医。株式会社PETOKOTO取締役CVO(Chief veterinary officer)兼 獣医師。麻布大学獣医学部卒業後、2007年dogdays東京ミッドタウンクリニック副院長に就任。2008年FORPETS 代表取締役 兼 白金高輪動物病院院長に就任。2010年獣医循環器学会認定医取得。2011年中央アニマルクリニックを附属病院として設立し、総院長に就任。2017年JVCCに参画し、取締役に就任。子会社JVCC動物病院グループ株式会社代表取締役を兼任。2019年WOLVES Hand 取締役 兼 目黒アニマルメディカルセンター/MAMeC院長に就任。「一生のかかりつけの医師」を推奨するとともに、専門分野治療、予防医療に力をいれている。

犬の歯が抜ける原因

犬の歯が抜けると言っても年齢ごとに原因や対処法が異なりますので、以下の三つに分けて解説します。

  1. 子犬の乳歯が抜ける場合
  2. 成犬の永久歯が抜ける場合
  3. シニア犬(老犬)の歯が抜ける場合

1. 子犬の乳歯が抜ける場合

ダックスの子犬

子犬の乳歯は平均的に生後4~7カ月ほどで永久歯に生え変わります(犬種や成長具合などで変わります)。乳歯が抜け落ちるときには歯の根っこの歯根が溶けて歯肉が赤くなり、歯がぐらついてきます。

食欲が低下することはありませんが、ぐらつく部位に触れると痛がります。無理やり抜くことはせず、自然に抜けるまで待ちましょう。永久歯が生え始めると乳歯と永久歯が一緒に生えている時期がありますが、犬歯は1~2週間程度、その他の歯も長くて3日程度です。

生え変わりの順番は、「下あごの切歯」→「上あごの切歯」→「下あごの臼歯」→「上あごの臼歯」→「下あごの犬歯」→「上あごの犬歯」の順が一般的です。

犬の口内写真

生え変わりの注意点

乳歯が抜けるのは正常なことですが、生後7カ月齢を過ぎたのに抜けなかったり、永久歯が生えてこなかったりしてうまく生え変わらないと問題です。
乳歯遺残(2枚歯)
7カ月齢以後も乳歯が残ることを「乳歯遺残」と言い、大型犬より小型犬で多く見られます。乳歯と永久歯が隣り合うため噛み合わせに問題が出たり、歯垢・歯石が付きやすくなって歯周病になったりしますので、動物病院で乳歯を抜く必要があります。

乳歯遺残の犬の口内写真
上あごで永久歯が乳歯の前に、下あごで乳歯の内側に生えています

埋伏歯
永久歯があごの中に存在したまま生えないことを「埋伏歯(まいふくし)」と言います。生後1年を過ぎると成長が止まってしまいますが、早めに永久歯の先端を出す手術をすれば生えてくる可能性があります。放置すると含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)という風船のように膨れた状態になり、あごの骨を溶かしたり、近くの歯に悪影響を与えたりします。見つけ次第、抜歯(抜去)を行います。
欠如歯(欠歯)
もともと存在してない場合は「欠如歯(けつじょし)」、あるいは「欠歯(けっし)」と言います。永久歯が生えてこないことで乳歯がそのまま残り、永久歯の代わりとして働いてくれる場合もあります。

2. 成犬の永久歯が抜ける場合

ラブラドールレトリバー

成犬の歯が抜ける場合は「歯周病」「吸収病巣」「腫瘍・嚢胞」「外傷」の可能性が考えられます。

歯周病

成犬の歯が抜ける場合に最も多い原因は、歯周病です。歯を支えているあごの骨が溶けるほど重症化すると歯が抜け落ちてしまいます。このような場合、他の歯の表面が茶色や黄土色の歯垢・歯石で被われていて歯肉が赤く、腫れていて、口臭も強いです。


吸収病巣

吸収病巣は、歯が溶けて次第になくなる病気です。虫歯では虫歯菌(ミュータンス菌)が歯を溶かしますが、吸収病巣では破歯細胞と呼ばれる自分自身の細胞が歯を溶かしてしまいます。猫に多く、犬ではまれです。

歯の吸収病巣写真
下あごの第1後臼歯より前の前臼歯がない

歯の吸収病巣のレントゲン写真
第1後臼歯が薄く溶け始めていますが、他の歯はすでに吸収病巣でなくなり、わずかに下あごの中に歯根が見えています

ちなみに犬は虫歯も少なく、上あごの臼歯でたまに見られる程度です。


腫瘍

メラノーマ(悪性黒色腫)、扁平上皮癌、線維肉腫などの悪性腫瘍が進行することで歯が溶かされたり、歯の周りの組織が壊されたりして抜けることもあります。口内にできる腫瘍のうち25%ほどはエプーリスと呼ばれる良性腫瘍ですが、棘細胞性エプーリス(最近は、棘細胞性エナメル上皮腫と言います)の場合は骨を溶かしてしまいます。


外傷

交通事故や落下事故によって、見えている部分の歯が脱臼して抜け落ちたり、折れたり(破折)して歯がなくなることもあります。歯の破折は、硬いものを咬むことが原因の場合が多いです。

3. シニア犬(老犬)の歯が抜ける場合

シニア犬(老犬)

犬も年を取ることで歯を支える筋肉も衰えますが、歯が抜ける場合のほとんどは歯周病が原因です。歯ぐきが赤く腫れる程度の軽度の歯肉炎であれば歯垢と歯石の除去で回復の余地はあります。

1. 歯肉炎 歯垢や歯石が溜まり始め、歯ぐきが赤く腫れる。硬いものを食べたり、歯磨きをしたりしたときに出血する。
2. 軽度の歯周炎 歯肉炎が進み、歯ぐきの腫れが大きくなる。硬いものを食べたり、歯磨きをしたりしたときに出血し、口臭が出始める。
3. 中度の歯周炎 歯ぐきに膿が溜まり、ぶよぶよしてくる。歯がぐらつき、出血や口臭が強くなる。
4. 重度の歯周炎(歯槽膿漏) 歯ぐきから膿が出てくる。歯根は歯石で覆われ、歯を支えることが難しくなり自然に歯が抜ける。

歯周病に進行した場合は麻酔下での処置が必要になりますが、シニア犬(老犬)の場合はリスクが高まります。自然と抜けてそれ以上の問題が起こらないのが理想ですが、そううまくいかないことのほうが多いです。

犬の生活の質を低下させるレベルの問題が起きた場合は、抗生剤などを使って対症療法を続けていくか、麻酔のリスクをご理解いただいた上で抜歯を行います。治療を始めるのが遅れるほどリスクは高まりますので、早期発見、早期治療を心がけてください。


犬の歯が抜ける前にできる予防方法

犬の歯磨き

犬の歯が抜ける原因の多くは歯周病です。歯磨きで予防できますが、簡単にできないことがほとんどです。最初から完璧にできるようになるとは思わないでください。まずは歯ブラシを口に当てるところから始めて、時間をかけてできるようになりましょう。

歯周病予防と称して非常に硬いデンタルケアグッズが販売されていますが、破折の原因になりますので与えないように注意してください。ある程度の効果が見込めるケアグッズもありますが、歯磨きの代わりになることはありません

ワンちゃんは体の異変を言葉で伝えることができませんので、飼い主さんが日頃から口の中をのぞいてあげて、歯の形や歯の表面の色、歯肉や口腔粘膜の状態を観察する癖をつけることが大切です。


まとめ

柴犬
生え変わりの時期は乳歯遺残や埋没歯に注意
成犬以降に歯が抜ける原因は歯周病が多い
歯磨きは焦らず少しずつできるようになる
日頃から口の中をチェックすることが大切
犬の歯が生え変わり以外で自然に抜けることはありませんので、歯周病など口の病気が疑われます。抜ける前には何かしら変化が出ているはずです。普段と違う状態を発見したら、早めに動物病院で診てもらいましょう。

参考文献