猫の子宮蓄膿症|症状・原因・治療法・予防法などを獣医師が解説

猫の子宮蓄膿症|症状・原因・治療法・予防法などを獣医師が解説

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避妊していない女の子の犬では子宮蓄膿症という子宮に細菌が感染し増殖する疾患が知られています。交尾することで排卵する猫では子宮蓄膿症は少ないと思われがちですが、実は猫でも子宮蓄膿症はみられます。今回は猫の子宮蓄膿症について症状や原因、治療法などを獣医師の福地が解説します。

猫の子宮蓄膿症とは

1匹の猫

子宮蓄膿症とは子宮に細菌が感染し増殖する疾患のことをいいます。発生するメカニズムについて、まず猫の繁殖の仕方から考えてみましょう。

猫も人も犬も哺乳類の雌は卵子を作るための卵巣を持っています。人や犬ではこの卵巣で卵子は成熟すると卵子が入っている卵胞という袋から出て排卵します。

排卵すると卵子が入っていた卵胞は黄体というものに変化します。黄体からはプロジェステロン(黄体ホルモン)が分泌されるようになります。プロジェステロンは受精卵が着床しやすくなるように子宮の内膜を厚くしたり、子宮筋を調節して妊娠を継続させるようにする働きがあります。

雌猫の排卵は交尾の刺激によって起こるため、排卵が起きないと黄体ができたとしても弱く、すぐに次の卵子が入った卵胞が成長してきて発情が何回も起きることがあります。交尾をしない猫では成熟卵胞がなくなるまで発情を繰り返すことがあるのです。

こうしたメカニズムをもつ猫でも、妊娠に至らなかった交尾後や交尾をしなくても黄体が形成された猫では約40日間プロジェステロンの分泌が続きます。プロジェステロンは子宮内の免疫機能を低下させる働きがある上、子宮頸部の締まりをよくして膿が体外に出にくい構造を作るため細菌感染に弱い状態になりやすくなります。そうして子宮に細菌が感染・増殖し、「子宮蓄膿症」に陥ってしまいます。


子宮蓄膿症になりやすい年齢・猫種

遠くを見る猫

中年齢5〜7歳以上の未避妊猫で起きやすいと報告されていますが、若い猫でも発生することが知られています。

最後の発情から4週間以内の雌猫でオリエンタル種、サイベリアンシャム猫ラグドールメインクーンバーマンベンガルバーミーズなどの純血種が好発猫種であるといわれています。

猫の子宮蓄膿症の原因

避妊手術では卵巣もしくは子宮卵巣両方の摘出を行なっているので、子宮蓄膿症は未避妊の雌猫で起こります。未避妊雌は卵巣があるので発情を起こし、排卵後黄体が形成されることがあります。この黄体から分泌されるプロジェステロンによって細菌感染に弱い状態になります。

さらに子宮内膜はプロジェステロンの働きにより子宮内膜上皮の増殖を刺激しますが、嚢胞性過形成という必要以上に増殖して異常な形態をとることがあります。この嚢胞性過形成の子宮内膜の状態の時も子宮蓄膿症が起こりやすいといわれています。

ちなみに妊娠すると、プロジェステロンによって増えた子宮内膜上皮から分泌される物質は胎児の栄養源として利用されるため子宮蓄膿症のリスクを低減させます。そのため未避妊で妊娠していない猫は子宮蓄膿症になるリスクが高くなります。



猫の子宮蓄膿症の症状

横になる猫

子宮内に細菌が感染すると、最後の発情から4週間以内に症状が発現することが多いといわれています。

はじめは症状は劇的でなく、血液検査などでもあまり変化が見られないことも多いのですが、異常に増殖した細菌が体の中に閉じ込められているので、体はこうした細菌を排除しようとしたり、できないと細菌の毒素にやられてさまざまな症状がみられるようになります。

子宮蓄膿症は膿が子宮から出る「開放型」と「閉鎖型」があります。いずれの場合も進行すると「無気力」「よく寝ている」「食欲不振」「嘔吐」「体重減少」「腹部がふっくらしている」「発熱」「脱水」などさまざまな症状がみられるようになります。


開放型

膣から膿や血が出たり、悪臭を放ったりします。汚れが膣まわりやお尻周りを汚して悪臭を放つことで気づかれる場合もあります。

閉鎖型

プロジェステロンは子宮頸管を締める働きがあるので、膿がでないこともあります。そのときはこの閉鎖型です。細菌を排出できずどんどん体内にたまるので敗血症や腹膜炎、さらには子宮破裂などのリスクが上がります。

猫の子宮蓄膿症の診断

布団にくるまる猫

初期には症状がはっきりしないこともあるため、腹部の超音波検査やレントゲン検査で子宮を観察するのが1番よいとされています。もちろん合わせて全身の状態をチェックするため血液検査など各種の検査も行います。


猫の子宮蓄膿症の治療法・予後

子宮蓄膿症と判断できた場合には、敗血症に移行する可能性があるため外科手術で子宮や卵巣ごと摘出します。繁殖を強く望まない限りはこれがもっとも確実で再発もありません。

病気の発見が早いほど体の状態も悪くなっていないので救命できる確率があがります。あまりに進行して麻酔をかけての手術に体が耐えられないなど、種々の理由ですぐの手術が難しい場合はプロジェステロンの働きを抑える薬を投薬して子宮頸管を開き、排膿させ抗菌薬などの全身状態を保護する対症療法で対応することもあります。

このように抗プロジェステロン薬で状態を持ち直し手術に耐えられる体になったところで子宮卵巣を摘出する手術を行うこともあります。

猫の子宮蓄膿症の予後

何らかの理由で子宮卵巣を摘出できなかった場合、発情を繰り返すことになるので再発する可能性が出てきます。

猫の鼻子宮蓄膿症の予防

こちらを見る猫

まずは避妊手術です! 避妊手術をすることで子宮蓄膿症のリスクがなくなる上に、乳腺腫瘍の発生率は初めての発情前の避妊手術で91%がリスク減少、2回目以降は86%が減少、24カ月齢以上の避妊手術ではリスク低減の効果はなかったという報告もあります。

もし避妊手術が体の状態などで難しい場合は、発情予防のためのお薬を投与することでプロジェステロンを分泌させないという方法もあります。避妊手術をさせない場合は日頃からよく様子をみて、とくに発情後4週間は様子に変わりがないかよく観察してあげてください。

猫の子宮蓄膿症は早めの避妊手術をおすすめします

今回は雌猫の子宮蓄膿症についてご紹介しました。なかなか初期は気づかれにくいものですが、命取りになることも多い疾患なので未避妊の雌猫を飼っている方は日頃からよく観察しましょう。筆者はなにより早めの避妊手術を強くおすすめします。

参考文献