イヌパシーが変える犬との接し方 犬の気持ちが分かる世界初のデバイス | PET TECH TALK

イヌパシーが変える犬との接し方 犬の気持ちが分かる世界初のデバイス | PET TECH TALK

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心拍データから犬の気持ちを読み取る世界初の共感デバイス「INUPATHY(イヌパシー)」。ハーネス型のデバイスで愛犬に装着して使います。ベルト部分に心拍センサーが内蔵されており、そこで検出された信号が、リアルタイムで背中のLEDランプの色と光り方に反映されます。未来のペットとの暮らし方をお伝えする「PET TECH TALK」第5弾では、イヌパシーを開発するINUPATHYで代表を務める山口さんにお話を伺いました。

「イヌパシー」は、ハーネス型のデバイスで愛犬に装着して使います。ベルト部分に心拍センサーが内蔵されており、そこで検出された信号が、リアルタイムで背中のLEDランプの色と光り方に反映されます。心拍データから、「ドキドキ/リラックス」「喜び」「集中」という感情パターンを取得し、色と光り方の変化で知らせてくれる犬用のウェアラブルデバイスです。

イヌパシーを装着した犬

イヌパシーの説明

今回は、シロップ社外取締役 兼 循環器認定医の資格を持つ獣医師の佐藤が、山口さんと対談しました。研究者と獣医師のそれぞれの観点で、心拍数が変える未来のペットとの暮らし方を議論しています。

01:愛犬のキモチを知りたい想いから開発をスタート。

佐藤 貴紀:山口さんは、どういった経緯でイヌパシーを開発されたのですか?

山口 譲二:経歴としては、動物の行動学を研究していたり、プログラマとして働いていました。妻と結婚したのをきっかけに愛犬家になったことが原点です。現在、コーギーのあかねくんを飼っているのですが、あかねが子犬の頃、初めての飼育ということもあり、どう接して良いかが分からなかったんですよね。彼は怯え性なところがあり、少しでも物音がするとブルブルしたりビクビクしたりしていました。その中で、どうすれば落ち着かせてあげられるのかをいろんな本を読んで勉強しようと。そうするうちに一定の知識はついたのですが、一般論ではなく、もっとあかね自身のことを知りたいと思うようになりました。そこで、行動学を研究していたこともあり、心臓の鼓動である心拍を読むことで気持ちの変化を理解できるのでは、ということが開発をしようと思ったきっかけでした。

佐藤:なるほど。確かに一般的な知識は本を読めばわかりますが、それだけで本当に愛犬のことを理解しているかというと、そうではないですもんね。でも、心拍数を計測することは非常に難しくないですか?

山口:初めは人間用の心拍計を使って胸に巻きつけてモニタリングを始めました。毛皮に阻まれて電極が皮膚に触れないので導電性のゲルなどを塗り込む形で計測していましたね。しかし、快適とは言い難い計測だったため、一度は挫折しました。どうすれば日常使いできるのかを試行錯誤して、毛皮の上から巻きつけても計測できる心拍センサーをつくりました。そうして取れた心拍数の変化をライトで表すことで飼い主さんがもっと愛犬と接点を持つ機会が増えればと思っています。現在はまだ試作品をつくって、正式販売まで改善を重ねている状況ですね。でもいろいろと今まで本だけではわからなかったことが見えてきました。

02:飼い主とペットの新しいコミュニケーションツールに。

犬と人

佐藤:循環器認定医を持つ私としても大変興味深いのですが、実際、どういった情報がわかりましたか?

山口:例えば、地震が起こった後にあかねにセンサーをつけて測ったところ、心拍が上がっていました。怖くてドキドキしていたんでしょうね。そこで落ち着かせてあげようとあかねに声をかけたのですが、心拍は下がリませんでした。しかし、体を触ってあげるとすーっと下がっていったんです。優しい声かけよりも、触ってあげることが何よりも犬を落ち着かせることがわかりました。恐らく飼い主の皆さんも感覚的にはわかっていると思うのですが、実際に計測してわかったので新たな驚きでしたね。もっと小さな時から触ってあげておけば良かったなと今では思いますね。

佐藤:面白いですね。色で気持ちがわかるようになれば、飼い主さんとペットの新たなコミュニケーションの形となりますし、より犬と共生できるようになると思うので良いことですよね。例えば、愛犬と散歩していて、むこうからきた犬とじゃれあった時に、赤色で興味があるのか、意外と青色で冷めているかとかなど、飼い主さん同士、犬同士のコミュニケーションも変わりそうですね。

山口:そうですね。まだ心拍センサーとして医療用途に使えるほどの精度は出せていないため、まずは飼い主さんとペットのコミュニケーションツールとして利用いただければと思っています。

佐藤:色の変化についても興味があるのですが、赤や青、虹色に光る仕組みは心拍数の高低なのでしょうか?

山口:赤色、緑色、青色の単色は心拍数の高低です。心拍数が高いと赤色、心拍数が低いと青色に光ります。虹色に関しては詳しくはお答えできないのですが、HRV(心拍変動)解析を行っており、さまざまな犬たちで実験しながら心拍変動と嬉しい時の行動をアルゴリズム化し、心拍センサーがその状態になった時に「嬉しい」を表す虹色に光るようにしています。今後は人工知能化することで、嬉しいだけでなく、さまざまな気持ちを解析できればなと思っています。

イヌパシーでわかる心拍数

佐藤:獣医師観点ではないアプローチなので非常に面白い取り組みですね。


03:人工知能化することでハーネスで健康管理できる時代に。

イヌパシー

佐藤:その中で私たち獣医師としては、どこまで正確に心拍数が取れるのかが気になりますね。犬や猫はちゃんと心電図をつけても取れないこともあるので、非常に心拍数を計測することが難しいんです。もし、獣医療に活用するならやはり正確な情報である必要がありますし、誤診にもなりかねません。ただ、もし正しい心拍数が取れるのであれば、新しくて簡単にできる健康管理のツールになりますし、非常に興味があります。

山口:正直、まだ研究段階ということもあり、医学的に利用できるほど正確かと言うとそうではないです。ただ、心拍センサーを改良しながら心拍変動を人工知能で解析することができれば、今まで人では分からなかった犬の気持ちや健康状態がわかるのではないかと思っています。

佐藤:良いですね。あとは、現在は犬が対象だと思いますが、猫も対象になる場合、犬と猫で心拍数は全然異なるため、犬と猫で設定を変更できるようにすることも大切ですね。

山口:そうですね、まだまだ研究段階のため、今後さまざまな課題をクリアする必要はあると思っています。

佐藤:最後に、山口さんはイヌパシーを通して、どのようなペットとの未来を作りたいと考えていますか?

山口:飼い主が負担なく、ペットの健康管理をサポートできるようなプロダクトを作りたいと思います。現在、ペットと飼う中での課題の一つにペットの健康管理があると思っています。飼い主としては、医療費が高いことや、仕事を休んで行くことの物理的ハードルなど、動物病院に行くことを躊躇(ちゅうちょ)してしまって結果的に重症化してしまっている現状がありますよね。しかし、このイヌパシーを元に健康管理ができるようになれば、より犬や猫が幸せになることができると思っています。 例えば、おしっこをしている時や食事の数分後などの生活イベントの時に異常がないかなども心拍変動から読み取れるかもしれません。

佐藤:とても面白いアプローチだと思いますし、獣医師としても飼い主としても楽しみにしています! ありがとうございました!

イヌパシーはまだ試作段階で、現在INDIEGOGOでクラウドファンディングを実施中です。このハーネス型デバイスがどう私たち飼い主とペットのコミュニケーションを変えるのか、健康管理を変えるのか、非常に楽しみです!