猫のくしゃみは風邪のせい? 考えられる原因・病気や病院に行くべきかを獣医が解説

猫のくしゃみは風邪のせい? 考えられる原因・病気や病院に行くべきかを獣医が解説

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飼っている猫さんが「クシュン!」とくしゃみをしている姿は、とても愛らしいですよね。でも、くしゃみにはホコリなどの刺激に対して反射的に起きる正常なものと、ウイルスによる感染症など、治療が必要な病気のものの場合があります。今回はくしゃみの起こるメカニズムや猫のくしゃみで考えられる原因と病気、治療・予防法について獣医師の福地が解説します。

猫の鼻にはどんな機能がある?

猫の鼻

猫の鼻は匂いを嗅ぐ機能の他に、空気の温度調節をしたり、異物を排除する防御機能などがあります。

温度調節機能

通常、環境中の気温は体温(犬や猫の正常な体温は38.0〜39.2度)よりも低いことが多いのですが、鼻呼吸を行っている動物は肺に空気が達した時点で温度がほとんど同じになります。環境中の気温が体温より高い場合でも、やはり肺に空気が達した時点の温度は体温とほぼ同じになります。

この仕組みには、鼻の構造が大きく関わっています。鼻の中は左右を区切る鼻中隔(びちゅうかく)と鼻甲介(びこうがい)という巻紙状の構造があります。体内部の体温によって温度は常に体温と同程度に保たれているため気温が低いときも暖かくなり、環境中の温度が高くてもこの構造を通る時に体温と同じ程度まで冷まされるのです。

防御機能

くしゃみは、鼻の上部の気道に侵入した異物を体から排除しようとする体の防御機構の一つです。くしゃみは鼻の中の刺激によって「三叉神経」という顔面の神経を経由して脳に届けられて起こります。

猫さんや他の動物において、くしゃみを起こす刺激要因は主に二つあります。一つはホコリやチリなどのダストや医療器具のカテーテルなどによる鼻への直接的な刺激(機械的刺激)で、もう一つはアンモニアや水、スモークなどの化学物質による刺激(化学的刺激)です。

皆さんもホコリっぽい空間にいるとくしゃみが出ることがあるかと思いますが、猫さんやワンちゃんも同じように、細かいホコリやチリは鼻や喉を刺激して、くしゃみのもとになります。特に四足歩行の犬や猫は二足歩行の人よりも顔が地面に近いので、ホコリやチリなどを吸いやすい環境にいると言えます。

猫のくしゃみで考えられる原因と病気

猫

猫がくしゃみをしている場合、先ほどの異物を体から排除しようとする防御機能の他に、アレルギーや鼻に症状を起こす病気が原因の場合が考えられます。アレルギーは何かの原因物質があるため、人間と同じで、花粉が多い時期にくしゃみが増えたり、アロマオイルなど特定のものを使った場合にくしゃみが出ることがあります。

猫風邪が原因でくしゃみをしている場合

猫のくしゃみが病気の場合、「猫風邪」と総称される複数のウイルス感染症によって引き起こされています。猫風邪は、獣医療の教科書的には「猫のウイルス性上部気道感染症」と呼ばれ、別称として「猫インフルエンザ」「猫ウイルス性肺炎」と呼ばれることもあります。本稿では飼い主さんとお話する時に使うことも多い「猫風邪」という言葉を用いていきます。

猫風邪を引き起こすウイルスは以下の3種が知られています。
  • 猫伝染性鼻気管炎
  • 猫ヘルペスウイルス1型
  • 猫カリシウイルス

いずれのウイルスもくしゃみや咳のほか透明な鼻水、目やになどの症状を引き起こします。猫カリシウイルスは口の中に潰瘍を作るため、痛みで食欲不振になったり、強い口臭やヨダレがたくさん出るといった症状も見られます。人間に感染することはありません。

これらのウイルス性感染症は、大人になると症状は軽くなることが多いです。しかし、体からウイルスを排除することはできず、体調不良や季節の変わり目などの免疫が弱った状態の時に潜んでいたウイルスが再活性化し、くしゃみや鼻水などの症状を繰り返してしまいます。

細菌も重ねて感染してしまうと、慢性副鼻腔炎や前頭洞(ぜんとうどう)蓄膿症といった鼻腔の周りの骨の空洞に膿がたまる病気に発展することもあります。細菌感染が重度になると炎症で骨や軟骨成分が溶かされて変形し、鼻の通りが悪くなることもあります。


年齢別で考えられるくしゃみの原因となる病気

年齢別でもくしゃみの原因は変わってきますので、猫風邪やアレルギー以外で考えられる原因をそれぞれ解説します。

比較的若い猫の場合(0歳〜4歳くらい)

この年代の猫でくしゃみが出る場合、可能性が高い病気として鼻炎、気管支炎、肺炎といった呼吸器系に関わるものが考えられます。こうした病気は、特に拾われた猫や外へ自由に出入りできる猫に多い傾向があります。なぜなら外で他の猫たちと接触することで、さまざまなウイルスや細菌に感染する可能性があるためです。

5歳以上の猫の場合

この年代になると、歯周病が原因のものが考えられます。歯の根元が細菌感染により溶けて炎症が鼻まで及んでしまうと、根尖膿瘍(こんせんのうよう)と言って鼻につながる管を作ってしまうことがあります。管ができると口の中の雑菌が鼻に入り、膿を伴うくしゃみや強い口臭とよだれがみられます。歯垢取りは欠かさず行うようにしましょう。

8歳以上の猫の場合

8歳以上の高齢の猫の場合、歯周病に加えて、腫瘍(ガン)の可能性が高まってきます。特に鼻に発生した腫瘍の場合は、腫瘍が大きくなるにつれて顔の一部が膨らんでくることがあり、放っておくと手遅れになる場合があります。

猫のくしゃみの正常・異常の見分け方

猫

よくあるくしゃみとして、飲んでいた水を鼻まで勢いよくつけてしまったときやチリの多い部屋のすみなどをウロウロしているときに「クシュン!」という音が聞こえてくることがあると思います。こうしたくしゃみを単発、もしくは何回か続けてしていてもその後落ち着いていれば、単純な機械的刺激によるくしゃみと考えられます。

筆者は若い雄猫を2匹飼っていますが、追いかけっこをしているうちに家具の隙間にもぐりこんでしまいくしゃみをしていることがたまにあります。その時は2〜3回くしゃみがみられることがありますが、その時だけで落ち着きます。

異常なくしゃみ

病院に行くことを検討すべきくしゃみは、1日に何回もくしゃみをしている時、さらにそれが1日だけでなく数日、数週間に渡ってみられる場合が挙げられます。アレルギーなどアレルゲンと接した時に起こるので、特定の時期や場所でだけ繰り返しくしゃみをするといった症状を出すこともあります。秋になるとくしゃみや目やにがひどくなる猫さんもいます。

猫のくしゃみの治療法・予防法

猫の鼻

ホコリやチリなどの刺激によるくしゃみの場合は、こまめな部屋の掃除で効果があります。特に手の届きにくいソファーの下や細かい隙間などは猫が好む上にホコリが溜まりやすいので、気を付けてもらうとよいでしょう。

猫風邪の場合ですが、基本的にはウイルスに対する特効薬はありません。重症の場合は落ちた体力を戻すための対症療法が中心となります。重ねて細菌による感染もよく起きるため、抗菌薬を使うことも多いです。目やにやくしゃみがひどい時は、抗炎症剤や抗菌薬を点眼・点鼻します。また、ネコインターフェロン剤という免疫物質の一つで、ウイルスの増殖を抑える効果がある製剤も国内では販売されています。

猫伝染性鼻気管炎や猫カリシウイルス症から回復した猫さんのうち、80〜90%は体にウイルスが潜むキャリアの状態になることが知られています。保護猫さんはお母さん猫からもらっている子が多く、すでに感染してしまっている場合は、「くしゃみや目やには繰り返すもの」と考えていただき、症状が見られ始めたらそのつど病院に連れて行って対応してあげることが望ましいです。

もしも感染していない状態の猫さんを飼い始めた時は、なるべくはやくワクチン接種してあげることをおすすめます。生後8週目頃からがワクチン接種の開始目安になります。ワクチン接種後は防御効果が出てくる2〜3週間まで他の猫とはなるべく接触させないようにしてください。

また、適度な湿度にまで加湿するのも有効です。湿度が60%以上にならない程度に保ってあげるとよいでしょう。

猫のくしゃみが続く場合は病院へ

猫

今まで読んでいただいたように、猫さんはさまざまな原因でくしゃみをします。見た目だけでは何が原因か判断するのが難しいので、繰り返しくしゃみをしている時はまずかかりつけの病院に連れて行ってあげてください。

現在、日本では報告がありませんが、2016年12月から2017年2月にかけてニューヨークで鶏インフルエンザH7N2から派生したと考えられる猫インフルエンザA(H7N2)が保護猫シェルターで流行しました。治療にあたって濃厚な接触をしたと考えられる獣医師1人が感染し、軽い症状を示しましたが、人への感染リスクは低いとされています。

猫インフルエンザウイルスは比較的新しい病原体のためか、猫インフルエンザウイルスではない猫カリシウイルスや猫ヘルペスウイルスなどの病原体によって引き起こされる猫風邪の別称として「猫インフルエンザ」という呼び方があります。一つの病気を指す言葉もたくさんあり、飼い主さんの混乱につながっているかもしれません。治療をしていく上で「わからないな?」と思ったことがあれば、遠慮なく私たち獣医師に聞いてください。

引用文献

第2稿:2018年7月11日 公開
初稿:2016年7月1日 公開