Gatos Apartment 誕生秘話「猫を飼える物件を増やし、殺処分される猫を救いたい」

Gatos Apartment 誕生秘話「猫を飼える物件を増やし、殺処分される猫を救いたい」

「人生設計に、戸建てに住むというプランも猫と暮らすというプランもなかった」――そう語るのは、猫アパートメントGatosApartment(ガトス・アパートメント)を運営する木津一郎さん。たまたま出会った野良猫が木津さんの人生を大きく変化させました。その猫の名前は、チーとウー。今でも木津さんのご自宅で、のびのびと暮らしている2匹からGatosApartmentのストーリーは始まります。

今回は、猫アパートメントのお話を伺いながら、Gatos Apartmentを作られるまでの思いや経緯や、猫専用アパートメントならではの風土や魅力、そして、木津さんが描く猫と共生していく社会についてご紹介いたします。

猫アパートメントGatos Apartmentをご存知ですか?

京王井の頭線高井戸駅。都心部へのアクセスもよく、駅直結のスーパーがあり、下北沢も近いため週末にお出掛けする人も多い。そんな都会の喧騒から離れた生活を送ることができる住宅街に、Gatos Apartmentはあります。

ひょんな出会いから猫と一緒に暮らすこと決意。と同時に、直面した猫の住宅環境問題。

「猫と暮らすことになったきっかけは、ウーの親猫チーとの出会いでした。その頃、野良猫との関わり方に対して理解が浅く、家にやってくるチーを可愛く思い、餌をやることが習慣になってきました。そんなある日、チーが子猫を連れてきたんです」

その猫は目やにがひどく、目も開けれない状態になっていたそう。慌てて病院に連れて行った木津さん。そこから2度の手術を行うことに。

「退院後、手術で包帯ぐるぐる巻になった子猫とチーを、一時的に部屋に匿うことになりました。一時的に……と思っていたのですが、病院に足を運んだ時に、獣医師さんに『この猫どうするんですか?』と聞かれ、その場で妻と目を合わせ、お互いに『飼うよね?』と。意見が揃いました(笑)」

自然と、猫たちを家族として迎え入れることになったご夫妻。ただし、住んでいた家は、ペット禁止物件。ダメだとわかりながらも、術後で身体の弱っている子猫を外に放り出すこともできず、そっと飼うことに……。しかし暮らし始めて、新たな事実が発覚します。

「実は、チーが新たに妊娠していることがわかりました。チーとその子猫の2匹から、さらに3匹増えるとなると、さすがにもう黙って飼い続けるのはつらくなって……。新しく生まれてくる子猫たちは、知り合いや友人に引き取ってもらいましたが、家族のような存在になっていたチーとウーとは、一緒に住むため物件を探すことに決めました」

そこからが、苦難の道だったそう。希望のエリアには猫OKの物件は見当たらず、ペット可物件を見つけて内覧に行っても犬用の物件だったとか。築年数がかなりたった古い物件を提示されることも。

「ペット可の物件は、猫は基本NGで犬ならOKの場合がほとんどです。また、ペット可の物件の多くが、不動産マーケットの中で価値が低くなった物件で、良い物件は少ないんです。つまり、入居者が現れないため、ペット可として価値をあげようとしていることが多いということなんですね」

理想の住処にたどりつけない……。ならば、自分で作ってしまおうか!

「猫と暮らすためには、生活に望む何かを削らなければいけないということに気付きました。『猫と住みたくなるような理想な物件がない……。ならば、もう自分で立ててしまおう』という結論に至りました。そして、『猫と住むための良物件がないことで困っている人は他にもいるはず……。であれば、一部を賃貸にして困っている人にも提供できれば』と考えるようになり、アパートメントを作ることになりました」

ここまで素敵な住処を提供してくれる飼い主さんに巡り会えた「チー」と「ウー」は幸せものですね。しかし、アパートメントの構想から土地探し、設計事務所の採択もまた大変だったそう。


探せど悩めど見つからない、土地にデザイン。着工後もトラブル続出!?

猫アパートメントGatos Apartment(ガトス・アパートメント)を運営する木津一郎さん

「物件を建てようと決意してから物件が出来上がるまで、2〜3年かかりました。こだわり抜きたかったので、コンペをし、たくさんの建築家さんにご提案もいただきました。決定までも一苦労でしたが、建築デザイン決定後に採算が合わなくなったり、業者さんトラブルが起こったり、本当に大変でした」

猫と人間にとって理想的な空間を追い求めるがゆえのことなのでしょうか。しかし苦労の一方で、共生のあり方について、思考を巡らせたこの時間の濃さが、Gatos Apartmentの完成度をより素晴らしものにしていきました。

完成した物件は、満員御礼! 現在も20人の方が入居待ちの状態に。

現在、部屋は順調に埋まっており、物件が空いたら案内してほしいと言う人が20人近くいらっしゃるGatos Apartment。木津さんのお部屋を拝見させていただきましたが、筆者も「住みたい!」を何度も口にしてしまうほど、素敵なお部屋でした。

「家を作るときに大事にしたのは、『飼い主さんにとって快適な部屋を作る』ということでした。猫を飼うことの出来る物件の中には、部屋の中にキャットウォークがあるものもあります。でも実はGatos Apartmentには、そういうものはありません。人間にとっての快適さ、猫にとっての快適さ、この両方を考え尽くしてできたこの家の魅力は『地味な工夫が随所に散りばめられている』というところから生まれています」

地味な工夫が盛りだくさん? 人も猫も嬉しいアイデア満載の部屋が完成!

見渡してみると、キャットウォークはもちろん、猫が喜びそうなキャットタワーもありません。木津さんのいう地味な工夫とはなんでしょう? いくつかのポイントがあるようです。

1. 猫トイレの配置スペース

猫アパートメントGatos Apartment(ガトス・アパートメント)

猫を飼う人にとって、最も生活感を溢れさせてしまうもの、それは猫のトイレ。匂いがあるため、リビングや寝室への配置は避けたいところですが、日本の住居は基本的に狭い作りになっているため、廊下等にはおくことができず、リビングの端に置かれています。しかし猫は人目を避けてトイレをしたがる動物なので、できれば避けてあげたいところ……。そこで木津さんは、洗面台に猫のトイレをおけるスペースを配置しました。

2. 猫ドア

Gatos Apartmentの猫ドア

猫は住んでいる部屋全体自分のテリトリーとしているため、自由に部屋を行き来できないことを嫌います。人間の立場としては、冷暖房を付けていたり、プライバシーを確保したりで部屋の扉を全開にはしたくないですよね。そのため、各部屋の入り口に猫扉を設置して猫が自由自在に歩けるように、工夫されたそうです(取材中も、「ウー」は部屋中を歩きまわっていました)。

3. 玄関からの脱走防止扉

Gatos Apartmentの脱走防止扉

玄関につながる廊下には、突然の来客に備えた脱走防止策があります。猫は脱走すると外の世界でパニックになり、家に戻るのが困難と言われています。もしもの場合に備えた嬉しい設計ですね。


4. 収納場所が多い

Gatos Apartment

机や床にものが溢れていると、部屋が散らかっているように見え、いつも掃除に追われる生活になります。また、猫を飼っている人にとって厄介なのは、留守の間に猫が部屋の物で遊んでしまうこと。帰宅後、隠されていたり、汚されていた経験がある方もいるのではないでしょうか。木津さん自身も収納が苦手ということもあり、嬉しいことに部屋は収納場所だらけ。まさに地味だけど、あったらすごく嬉しい工夫ですよね(※ちなみに写真の「ウー」が座っている場所も収納ボックスです)。

お部屋の中は、猫が快適に暮らせる工夫が所狭しと設けられていました。まさに、人間と猫の快適さを追求した折衷案。猫の快適さだけを追求したわけではないのが、Gatos Apartmentならでは魅力で、猫も飼い主自身も、快適に暮らせる空間が嬉しいお部屋でした。


猫を思う人が生み出す助け合いの風土。住んで気付いた猫アパートメントの魅力。

猫アパートメントGatos Apartment(ガトス・アパートメント)

猫好きにとって“ちょっと嬉しい工夫”が凝縮されて出来上がったGatos Apartment。実際に住まわれてからの感想をお聞きしました。

「完成までに約3年と長い道のりでしたが、入居者の方もスムーズに決まり、アパート暮らしが無事スタートしました。猫のウーとチーも快適に暮らしているのを見ると、建ててよかったなと思います。住んでみて再認識したことがありまして、猫好きは、自分の猫だけではなく他人の猫でも好きになると言いますが、本当にそうなんだなと。入居者の方々と自宅でお酒を飲むことがあるのですが、仲良くなった結果、それぞれが留守の時に猫のお世話をし合う仲になったんです。お願いされたから、渋々という方はいません。むしろみんな、シッター役をやりたがってます。皆さん、他の家の子とも遊びたいというのが本音ですね(笑)」

都会では個々の生活があって他人と関わり合わないイメージがありますが、猫好き同士が作る信頼関係が、助け合いを可能にさせているのかもしれません。他の猫とも遊べるなんて、猫好きにはたまらない住まいです。

「信頼している人にシッター役をしてもらえるからこそ、飼い主は長期間の旅行にもいけますし、少し帰りが遅くなったときも心配がいらなくなりました。猫にとっても、見知らぬ人が家に入ってくるより不安は感じないでしょう。自然と出来上がったこのコミュニティーこそが、Gatos Apartmentが提供できる最大のサービスなのかもしれません」

一人暮らしでも人間が猫に束縛されすぎず猫に安心感を与えられる生活が、木津さんが作られた猫との新しい生活スタイルということですね。

猫物件がもっと増えてほしい。人気物件を作るノウハウを多くの人に提供。

猫アパートメントGatos Apartment(ガトス・アパートメント)

ここまで順調にスタートしたGatos Apartment。今後、他のエリアに展開する予定はあるのでしょうか?

「自社でアパートメントを展開する予定は今のところありません。物件を建てたことで、猫を飼える物件を作りたい人や猫飼育OKを検討している大家さんの相談に乗る機会が増えています。日本にはまだまだ猫と暮らす物件が圧倒的に足りていません。ならばと思い、猫と住む場所の提供を考える方向けに、プロとしての情報提供や相談に乗ることを決めました。人と猫にとって理想的な住居が増やすために、持っている知識をコンサルティグという形で提供しています」

その第1号物件が先日横浜でオープンしました。初監修物件も注目を集め、5部屋が既に満室に! 猫の飼育をするための仕組みが導入されていることから、家賃も近隣の物件より少し高めの設定とのことですが、猫を飼っている人にとって大いに需要があるということがわかりました。


猫を飼う人のマナーと部屋を貸す人の知識向上が、猫物件増加の第一歩。

「利用者として、コンサルタントとして多くの大家さんや建築業界の方と会話を続けてきたからこそ、大家さんが猫を自分の物件に招きたくない理由もわかってきました。それは、飼い主さんの中にマナーが足りない方々がまだまだ実在するからなんです」

自分の家を人に貸し、ボロボロになって帰ってきたら誰もがショックを受けます。そういった経験を持つ大家さんが「そういう人には二度と貸すものか……」とそういう気持ちにもなるだろうということに気づいた木津さん。

「猫OK物件が、まだまだ世の中に足りません。その理由は、飼い主さん、大家さん両者にあると思っています。借りる側は自分の家じゃないからといって、ボロボロにしていいわけではないですよね」

では、借りる側として、最低限気を付けるべきことは、どんなことなのでしょう。

「例えば猫の爪とぎ。飼い主さんにとっても大家さんにとっても頭を抱え込むこの猫の習性。でも、よく猫を見てあげてください。実は、猫が壁で爪とぎするには何か意味があるものなんです。その理由は、飼い主さんがかまっていなくて寂しがっていることがほとんど。まずは愛猫の気持ちに気付いてあげること。そして、ダメだよということを伝えてあげること。それでもダメな場合は、壁に防止用のボードを貼るとか、やれることはたくさんあるんです」

猫の爪とぎを見て見ぬふりすることで、さらに住居問題が深刻化していくということを、飼い主自身も理解し、大家さんの立場に寄り添うことも重要なんですね。

猫を飼える物件を増やすことで、ひいては殺処分される猫を救いたい。

猫アパートメントGatos Apartment(ガトス・アパートメント)

「猫と一緒に住める物件はまだまだ多くありませんが、毎年9万頭の猫が行政によって殺処分されています。猫を飼いたいのに飼えないという悩みを抱えた人は多く、猫と住める物件が無いことが殺処分を減らす壁の一つになっていると私は考えます。家庭を持ち、稼ぐ力のある人は理想の住居を構えることができますが、若くて独身の人でも猫を飼う選択を取りやすい環境を作れたらと思っています。なので、Gatos Apartmentを作った経験を他の人に提供しつつ、少しでも多くの人に猫を飼う機会を提供していきたいんです」

野良猫チーとウーとの偶然の出会いゆえに、社会問題に触れることになった木津さん。コンサルティングという木津さんならではの支援の形に、すでに多くの方から依頼があるそうです。猫との共生社会に向けて、多くの方のニーズが垣間見られます。

「物件を一から建てなくても、今ある物件を猫専用に変えたいという大家さんもいらっしゃいます。内装を変えてしまうとお金が掛かりすぎてしまうというお悩みから、猫のトイレやくつろぎスペースを確保できる猫の小屋をSuMiKaと開発中です」

商品はもうすぐ販売とのことで、発表が楽しみですね!

猫と人の高齢化時代に必要なのは、愛猫の次の人生を信頼できる人に託せる未来。

猫アパートメントGatos Apartment(ガトス・アパートメント)を運営する木津一郎さん

最後にペットとの共生社会の少し先にある未来について、木津さんが考えられていることを伺ってみました。

「日本人の高齢化と同時に、ペットの高齢化もすでに始まっています。この間、年配の方と猫についてお話をする機会がありました。60歳近い方でしたが、昔猫を飼われていて、また飼いたいとお話されていましたが、今から猫を飼っても最後まで見きれるのか不安だと言われていました。もし自分の身に何かが起こった時、信用して自分の猫の人生を託せる誰かがいたら、猫を飼いたいというお年寄りの願いを叶えることができますよね。それは、近い将来、必要になるサービスではないのではと思っています」

木津さんから、「猫と一緒に住む人を増やすためには、猫と一緒に住む部屋が必要」というお話を中心に伺いましたが、猫との共生社会に向けたインフラを作る重要性についても学ばせていただきました。

高齢化社会でのペットとの共生に向けて、インフラもサービスも整っていない状況ですが、木津さん自身もさまざまなアイデアを練られているとのこと。解決策を考えたい木津さんの周りには猫を思うたくさんの方々が集まっており、今後の活躍がとても楽しみです。

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