
動物愛護管理法とは?人と動物が共生する社会の実現に向けて
皆さんは「動物愛護管理法」という法律をご存じでしょうか。存在は知っていても「どんなことが書かれているのかじっくり読んだことはない」という方も多いと思います。そこで今回は、動物愛護管理法を紹介しながら、その考え方、改正ポイントなどを解説します。
「動物愛護管理法」とは何か

動物愛護管理法(正式名称「動物の愛護及び管理に関する法律」)は、1973年に「動物の保護及び管理に関する法律」として制定されました。
当時は諸外国から「日本における動物虐待」に対する批判が高まっており、家庭動物だけでなく、動物園やペットショップなどの展示動物、家畜などの産業動物、実験動物も含めた「動物の保護・管理」という意味合いが強い法律として成立しました。
その後、改正が進められ、現在の動物愛護管理法は大きく以下の六章構成になっています。
動物愛護管理法構成
第一章:総則
「人と動物の共生する社会の実現」など、この法律を定める目的と、動物を取り扱う場合などの基本原則が記されています。第二章:基本方針
主に環境大臣や都道府県に課される方針について記されています。第三章:動物の適正な取扱い
動物の所有者または占有者や動物販売業者の責務が記されています。第四章:都道府県等の措置等
犬・猫の引き取りや繁殖について、各地方行政がどう対応すべきかルールが記されています。第五章:雑則
アニマルウェルフェアの観点や実験動物に関することなどが書かれています。第六章:罰則
愛護動物をみだりに殺したり、傷つけたり、虐待・飼育放棄したりする者に課される罰則について記されています。動物愛護管理法の目的
第一条
この法律は、動物の虐待及び遺棄の防止、動物の適正な取扱いその他動物の健康及び安全の保持等の動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵かん養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害並びに生活環境の保全上の支障を防止し、もつて人と動物の共生する社会の実現を図ることを目的とする。
この法律は、動物の虐待及び遺棄の防止、動物の適正な取扱いその他動物の健康及び安全の保持等の動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵かん養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害並びに生活環境の保全上の支障を防止し、もつて人と動物の共生する社会の実現を図ることを目的とする。
ポイントは「国民の間に動物を愛護する気風を招来」と書かれている部分です。
帝京科学大学アニマルサイエンス学科の佐藤衆介教授は、西欧の法律が動物に対して「かわいそう」という感情を原点に、動物たちを守ることを目的にしているのに対し、日本では「かわいい」を原点に「かわいがろう」という指針になっていると指摘します。
佐藤衆介教授のコメント西欧世界ではアニマルウェルフェアを「かわいそう」(compassion)という情動を原点に、それを取り除くための基準を法的に規定し遵守することで達成しようとしている。
それに対し、我が国では「かわいい」という情動を原点に「普及啓発」を中心として、基本的には自主管理により達成しようとしている。
それに対し、我が国では「かわいい」という情動を原点に「普及啓発」を中心として、基本的には自主管理により達成しようとしている。
出典:佐藤衆介 (2005) アニマルウェルフェア. pp.90. 東京大学出版会
動物愛護管理法の基本原則

第二条
動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。
動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。
この基本原則のポイントは「動物が命あるもの」という記述にあります。日本人にとって当たり前に感じるかもしれませんが、文化や宗教観、時代によって動物に対する見方はまったく異なります。そのため、動物に対する基本的な考え方として、上記のように定められています。
愛護動物の対象とは
同法は犬や猫などの家庭動物に限定されたものではありません。愛護動物の対象は、6章の「罰則」に以下のように明記されています。
「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
一 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
二 前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの
一 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
二 前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの
2019年改正動物愛護法のポイント

「動物取扱業のさらなる適正化」や「動物の不適切な取扱いへの対応の強化」のため、2019年6月19日に動物愛護管理法の一部改正が公布されました。改正は多岐に亘っていますが、その中でも4つのポイントを抜粋して紹介します。
1. 生後56日(8週齢)規制
動物販売業者に対し、生後56日(8週齢)未満の犬猫の販売を禁止する規制です。生後一定期間は親兄弟と一緒に過ごさないと、吠え癖や咬み癖などが強まったり攻撃的になったりといった問題行動を起こす可能性が高まることを指摘されたことから改正が行われました。
ペットショップで犬猫を迎える際には、購入前に、生年月日を確認して、一定期間親兄弟と過ごしているかを確認しましょう。
2. マイクロチップ装着の義務化
犬猫等販売業者へのマイクロチップの装着、および情報登録の義務が課されるようになりました。犬猫の販売業者以外は努力義務ですが、飼い主の責任の一つとして「一緒に暮らす動物の所有の明示」があるため、マイクロチップ装着を前向きに検討しましょう。
ただし、マイクロチップを装着した犬猫を譲り受けた人については、変更登録の義務が課されています。
3. 虐待の厳罰化
虐待の定義が具体化され、罰則が強化されました。愛護動物の殺傷はもちろん、遺棄や虐待(飼育放棄含む)も犯罪です。また、獣医師はみだりに「殺された」「傷つけられた」「虐待された」と思われる動物を発見した際に、遅滞なく都道府県等に通報することを義務付けされるようになりました。
4. ペット事業者への数値規制
犬猫販売業者に適正飼養促進のため、遵守すべき事項として事項が規定されました。- 飼養施設管理に関する事項
- 従業員数に関する事項
- 環境の管理に関する事項
- 疾病に係る措置に関する事項
- 展示または輸送の方法に関する事項
- 繁殖回数、方法に関する事項
- その他動物の愛護及び適正な飼養に関する事項
数値規制のなかでも特に「飼養施設管理に関する事項」や「従業員数に関する事項」「繁殖回数、方法に関する事項」に注目が集まりました。
数値規制の注目ポイント
飼養施設管理に関する事項
犬猫を飼養するケージの広さは「運動スペース分離型」と「運動スペース一体型(平飼い)」で異なる基準が設けられることになりました。<運動スペース分離型>

- 犬:体長の2倍×体長の1.5倍×体高の2倍
- 猫:体長の2倍×体長の1.5倍×体高の3倍
※猫用ケージの場合、棚を設け2段以上の構造とする
※複数頭飼養する場合は、各個体に対する上記の広さの合計面積を追加
※複数頭飼養する場合は、各個体に対する上記の広さの合計面積を追加
<運動スペース一体型(平飼い)>

- 犬:分離型ケージサイズの床面積6倍×高さ体高の2倍
- 猫:分離型ケージサイズの床面積2倍×高さ体高の4倍
※犬を複数等飼養の場合、分離型ケージサイズ×頭数分の床面積を追加
※猫は2つ以上の棚を設けて3段以上の構造にする。3頭以上の場合は1頭あたりの床面積に相当する分を追加
従業員数に関する事項

犬猫が適切な環境下で管理されるよう、従業員1人当たりの飼養可能な犬猫の頭数が以下のように定められました。
- 犬:一人当たり繁殖犬15頭、販売犬20頭まで
- 猫:一人当たり繁殖犬25頭、販売犬30頭まで
※親犬猫と同居している子犬・子猫は頭数に含まない
※犬猫どちらも飼養する場合、上記の制限を踏まえ飼養頭数の上限を設定する
※犬猫どちらも飼養する場合、上記の制限を踏まえ飼養頭数の上限を設定する
繁殖回数、方法に関する事項
過剰繁殖、つまり繁殖犬・猫の酷使を防止するため、以下のような基準が設けられました。- 犬:メスの交配は6歳まで(満7歳未満)
- 猫:メスの交配は6歳まで(満7歳未満)
※犬の場合、満7歳時点で生涯出産回数が6回未満の場合は7歳まで交配可能
※猫の場合、満7歳時点で生涯出産回数が10回未満の場合は7歳まで交配可能
また、帝王切開での出産を行った場合は、帝王切開を実施した獣医師による「出生証明書」や「母体の状況に関する診断書の交付」「次回繁殖の可否についての指導・助言」を受けることが義務付けられています。
まとめ

動物愛護管理法は動物の適正・終生飼養を目的にしている
飼い主だけでなく、動物販売業者への責務も発生する
愛護動物の対象は犬や猫などの家庭動物だけではない
動物愛護管理法は都度、改正が行われている
動物愛護管理法は知見に基づいて改正が行われてきました。人と動物の共生する社会の実現に向けて、新たな知見があればさらに改正が行われることでしょう。
法律でも動物は守られている点もありますが、本当に守れるのは飼い主だけです。最期まで愛情と責任を持ってペットとの時間を楽しく過ごしましょう。
参考文献
- 動物の愛護及び管理に関する法律
- 則久雅司(2016). 自然環境行政の経験から「人と動物が共生する社会」を考える 日本獣医師会雑誌 Vol.69 No.7
- 環境省「動物の愛護及び管理に関する法律が改正されました」2013/8
- 環境省自然環境局総務課動物愛護管理室「改正動物愛護管理法の概要】」