介助犬のお仕事知ってますか? デモンストレーションを動画で紹介

介助犬のお仕事知ってますか? デモンストレーションを動画で紹介

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この子がいるからいろんなことにチャレンジできる――「アニマル・ウェルフェア サミット2016」で、補助犬の仕事を実演するプログラム「お仕事犬デモンストレーション」が行われました。今回は、介助犬のトレーニングやお仕事の様子を紹介します。

「介助犬」って何?

介助犬

介助犬は盲導犬・聴導犬と同じく2002年に施行された身体障害者補助犬法に規定された補助犬の一種です。現在は国内で71匹がお仕事をしています(2016年7月時点)。

介助犬のユーザーさんが持つ手足の障害というのは、盲導犬や聴導犬のユーザーさんと違って、その種類や度合いの幅が非常に広いというのが特徴です。例えば、足がまひで歩けない方や、まひはあるけど少しだけ歩ける方、半身がまひして動かない方や、まひしているけど少し動く方もいます。脳卒中で突然、障害を持った方、事故で首や腰の骨を折った方など、背景もさまざまです。

そのため、介助犬は盲導犬や聴導犬と違ってオーダーメイド性が高いのも特徴です。今回のデモンストレーションでは解説を日本介助犬協会 常務理事の髙栁友子さんが担当したのですが、髙栁さんはリハビリテーション科の医学博士でもあります。

「なぜリハビリテーション科の医師が介助犬に関わっているのか。それは、障害を持った方それぞれのニーズに合わせて、『今回は介助犬がこういうお仕事をするといい』という処方をするためなのです」(髙栁さん)

また、盲導犬は屋外での仕事がメインとなるためハーネスを取ると仕事モードから家庭犬モードに変わりますが、介助犬と聴導犬は屋内での仕事がメインになるため、ケープの有無は仕事のオン・オフと関係ありません。介助犬と聴導犬のケープは、周囲からサポートを受けるための目印の意味合いが強いのです。


「介助犬」のお仕事

それでは、実際に介助犬のお仕事の様子を見てみましょう。ユーザー役を務めるのは日本介助犬協会の木下菜摘さん、介助犬役はPR犬でラブラドール・レトリバーの「チャロ」くん(5歳)です。

介助犬チャロ
左からチャロ、木下さん、髙柳さん

落としたものを拾う

介助犬の代表的なお仕事の一つが「落としたものを拾う」です。

車いすの人にとって、落としたものを拾うというのは、私たちが思っている以上に大変なことです。単に足が動かないというだけではなく、腹筋や背筋も弱っている方がほとんどで、頭が重いので手を伸ばしたときに車いすから落ちてしまうこともあります。

「落ちないように注意しながら拾わなければいけないので、『落としたらどうしよう』と思って外出するのが不安になってしまいます。でも、介助犬がいればすぐ拾うことができるのです」(髙柳さん)

木下さんが、わざと鍵を落とし、チャロに「拾って」という指示を出します。

「チャロ、テイクイット、イエス、グッド、ギブ」

木下さんの指示を聞いたチャロは一瞬にして拾ってくれました。


落とした硬貨を拾う

次は、落とした硬貨を拾うお仕事です。車いすの方が硬貨を落としたとき、回りにサポートしてくれる人がいなければ誰かにお願いしないといけません。でも、落とした硬貨が1円や10円だったとき、見知らぬ誰かにお願いして拾ってもらうのは気が引けてしまいます。

髙柳さんは介助犬ユーザーから、「見ず知らずの人に『そのお金拾ってくれますか』って言えるのは100円以上ですよ」と言われたことがあるそうです。それ以下のお金は諦めたり、そもそも落とさないように自販機で買うことを諦めたりしていたそうです。

でも、介助犬は「1円かよ!」とは思いません。お仕事だとも思っていないので、喜んで拾ってくれます。

「チャロ、テイクイット、グッド」

こちらも一瞬で拾ってくれました。たくさん落としてしまっても時間はかかりますが1枚ずつ喜んで拾ってくれます。介助犬がいることで気兼ねなく買い物ができるのです。


靴と靴下を脱がす

次は、靴と靴下を脱がして靴下を洗濯カゴに入れるという作業です。

まずは片方の足を上げ、もう片方の足の上に乗せます。でも、まひしている足は重たいですし、腹筋も弱いので上げるだけでも一苦労です。

「チャロ、オッケー、スルー」

木下さんがスルーと言う指示を出すと、チャロは足の下を通って体で支え、足を上げるお手伝いをしてくれました。介助犬ができるのは、「くわえる」作業だけではないという一例です。

介助犬チャロ
チャロが足の下に頭を入れて足を支える様子

そして口で靴をくわえ、靴下をくわえ、木下さんの「カゴ」という指示で靴下をカゴまで持って行きました。


家に帰ったとき、誰もいなければ靴も靴下も脱ぐことができません。ヘルパーさんがいても、1日はいた靴下を脱がしてもらうのは気が引けてしまいます。そんなときに介助犬がいると、自分が脱ぎたいタイミングで気兼ねなく靴も靴下も脱ぐことができるのです。

冷蔵庫から水を持ってくる

次は、冷蔵庫を開けて中から水の入ったペットボトルを持ってくるというお仕事です。今回は会場内なので目の前の冷蔵庫ですが、最終的には「2階の部屋にいるとき1階のキッチンにある冷蔵庫から持ってくる」という作業までできるようになります。

「チャロ、オープン冷蔵庫」

まず冷蔵庫について縄を口で引っ張り扉を開けます。次に、中に入っていたペットボトルに巻かれた布を加えて引っ張り出します。ちゃんと扉を閉めて、くわえたペットボトルを木下さんのもとまで持って行きました。


このお仕事を見て、「水を持ってきてくれるなんて便利」と思う方もいるかもしれませんが、実は手足に障害のある方は自律神経にも障害があることが少なくないため体温調節がうまくできず、水を飲むことが大事なことなのです。しかし、家族も熟睡している夜中に冷たい水をとるのは大変なことです。「あと3分待とうかな」「10分待とうかな」と迷っているうちに熱を出してしまうこともあるそうです。

そんなときに介助犬がいれば気軽に頼むことができます。介助犬たちは冷蔵庫を開ける動作が好きで、トレーニングが終わって遊んでいいよと言っても冷蔵庫を開けたり閉めたりするほど。さらに、犬は野生時代の名残りから人間より浅い眠りの時間が長いため、パッと起きてパッと寝ることが得意です。だからこそ、家族より気軽に頼めるのです。

携帯電話を探して持ってくる

最後は「携帯電話を探して持ってくる」というお仕事です。障害を持った方たちにとって携帯電話は「便利なコミュニケーションツール」であるとともに、「緊急時の連絡手段」でもあります。

外に出て車いすから落ちてしまったり、家でも一人のときにベッドへの乗り移りに失敗してしまったり。助けを呼べなくて困った経験をしている人が少なくありません。

「一度でもそういう経験をしてしまうと、一人でいるのが怖くなります。外出するのが怖くなります。それで引きこもりになってしまったり、チャレンジができなくなったりしてしまうんです」(髙柳さん)

そんなときも介助犬が助けてくれます。

「チャロ、テイク、ケータイ」

髙柳さんが隠した携帯電話を探してウロウロするチャロ。冷蔵庫の裏にあるのを見つけると口にくわえて木下さんのもとに持ってきてくれました。このお仕事は緊急時に行われることもあるため、いろいろなところに隠してトレーニングをするそうです。持ってきてくれたら何度も誉めてあげることで、「携帯電話を見つけて持って行くといいことがある」と認識してくまなく探してくれるようになるのです。


「介助犬ユーザーは安心して、『この子さえいてくれれば外出できる』『この子さえいてくれれば自分はいろんなことにチャレンジできる』と出掛ける範囲が広がり、生活の幅も広がっていきます。それは、『この子がいるから大丈夫』と思えるからなんです」(髙柳さん)

街で介助犬を見掛けたら

介助犬

介助犬に限らず、盲導犬・聴導犬もそうですが、街でお仕事をしているのを見つけたときは約束事があります。一つは、「触らないこと」。髙柳さんによると、これは知っている方が増えてきたそうですが、次の「視線を合わせないこと」はまだ知っている方が多くはないそうです。

補助犬は人間を好きになるように育てられていますので、目が合うと「遊んでくれるのかな?」と思って気が散ってしまいます。そうなっても、お仕事をするようにトレーニングされているので、補助犬たちはストレスがたまってしまいます。だから、「『優しい無視』『温かい無視』をして、心の中で応援してください」と髙柳さん言います。

「補助犬がいてもできないことはたくさんあります。犬には「温かい無視」をしても、ユーザーさんには『お手伝いしましょうか』と温かい声掛けをしてください」(髙柳さん)

補助犬は寿命が短い?

大型犬の寿命

「補助犬は仕事のストレスで寿命が短い」という話を聞いたことがある方がいるかもしれません。中にはユーザーさんに「犬がかわいそうに。あなたの家族は何をしているの」と言ってくる人もいるそうです。

髙柳さんは、「補助犬の寿命が短いというのは誤解です」と強調します。補助犬学会で調査したところ、一般的な家庭犬より寿命が長いというデータも出たそうです。また、誤解が生まれた要因の一つとしては、補助犬になる犬は大型犬が多いというのがあるかもしれないと話します。

一般的に小型犬より大型犬のほうが寿命が短いため、盲導犬の寿命を聞いて、大型犬の一般的な寿命でありながら「盲導犬の寿命は小型犬より短い」と思ってしまう方もいるようです。

「これだけ手間暇掛けて、手塩に掛けて、お金も掛けて育てているのに、寿命が短いわけ無いんです。長いのは当然です。イメージが先行して誤解を招いたのかなと思います。そんなことは決してないということを皆さんにもご理解いただきたいです」(髙柳さん)

介助犬・盲導犬・聴導犬それぞれのユーザーさんは、ただ仕事や動作をしてほしいと思っているわけではありません。自分のそばにいてくれる。気兼ねなく頼みごとができて、無邪気に喜んでそれを聞いてくれる。そんな人と犬の関係性を大事にしているのです。

最後に、髙柳さんは「ぜひ皆さんにご理解いただいて、1頭でも多くの介助犬が日本で生まれるようにご支援頂ければと思います」とコメントして締めくくりました。