神奈川県動物保護センターが目指す、「殺処分ゼロ」の次のゴールとは

神奈川県動物保護センターが目指す、「殺処分ゼロ」の次のゴールとは

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2013年度から3年連続で犬の殺処分がゼロになり、猫も2014年度から2年連続で達成した神奈川県の動物保護センターにはどんな課題があり、これからどう改善しようとしているのか。杉本彩さんが代表を務める団体主催のイベント「HAPPYあにまるFESTA2016 inかながわ」で話し合われました。

2013年度から3年連続で犬の殺処分がゼロになり、猫も2014年度から2年連続で達成した神奈川県(※)。2014年には、黒岩祐治神奈川県知事が「殺処分ゼロ継続宣言」をしました。県動物保護センターの老朽化が進むため、2019年度の建て替えを予定していますが、殺処分のための施設は設置しない方針です。
※県動物保護センターが所管する区域(横浜市、川崎市、相模原市、横須賀市および藤沢市を除く県全域)において

黒岩県知事はその先進的な取り組みにかかる建て替え費用の約11億円を寄付で賄おうとしており、「多くの皆さんの共感の中、動物愛護の殿堂とするため募金でやっていく」として「神奈川県動物保護センター建設基金」を設置し、寄付金を募っています。9月23日時点で合計7191万1224円の募金が集まっているそうです。

先月開催された「アニマルウェル・フェアサミット 2016」では、黒岩知事が登壇し、「動物の殺処分はしないと決めたから、殺処分場じゃない施設に生まれ変わらせる。動物を生かすためのセンターにする」と発言されました。


そんな神奈川県動物保護センターは現在、どんな課題があり、それを改善していこうとしているのか。神奈川県の保護の現状と課題、今後の方針を発信するべく9月25日(土)、神奈川県民ホール(横浜市)にて、タレントの杉本彩さんが代表理事を務める動物環境・福祉協会Evaと神奈川県が共催する動物愛護週間イベント「HAPPYあにまるFESTA2016 inかながわ」が開催されました。

殺処分ゼロはゴールではない。やるべきことはたくさんある

イベント開会の挨拶では、杉本彩さんが「殺処分ゼロはゴールではなく、まだまだやるべきことはたくさんある」と主張しました。殺処分ゼロを継続するには、「保護する環境づくり」のハード面と、「譲渡が進むシステムづくり」のソフト面の構築が必要だと言います。

では、そのハード面とソフト面にどんな課題があり、今後どのようなアクションを起こそうとしているのでしょうか。それぞれの課題と今後の取り組みについて見てみましょう。

保護する環境づくり(ハード面)の問題と今後の取り組み

施設の改修

神奈川県動物保護センターには日常的に多くの犬や猫が収容されおり、常時何十匹もの犬や猫がいる現状があります。迷子でウロウロしていたところを引き取ったケースも非常に多いそうです。

そして迷子で保護した犬や猫のうち、半分は飼い主の元に戻ることができますが、半分はそのまま収容されのが現状です。多くの犬や猫が収容されるものの、施設の部屋数や広さには限りがあるため1匹1匹の部屋は用意できず、同じ部屋で暮らさなければいけません。

せっかく同じ部屋で仲良くなった友達がいても、新しい飼い主やボランティアへの譲渡で出て行ってしまうとさみしい思いをしてしまいますし、後から入ってきた動物との接触で皮膚病になってしまうケースもあるそうです。本当は、自分だけの部屋があり、必要に応じて他の動物とも遊ぶことができる環境が、安心して暮らすためには必要です。

そこで、新しい保護センターでは多頭収容の部屋数を減らし、清潔できれいな個々の部屋で暮らすことができるような施設を目指しています。譲渡されるまでの平均収容期間は、小型犬は人気が高く1週間ほどと早いですが、中型犬以上は2カ月くらいかかります。最長で2年半も保護された例があるそうです。犬や猫が豊かに暮らせる施設の建設が早急に求められています。

医療体制の構築

保護された犬や猫は病気を患っていることがあります。しかし、センターに医療体制や専門医療を行う体制が整っているかと言うと、そうではありません。新しい飼い主が見つかった時に安心して見送れるように、獣医師会や動物病院との連携が必要となってきます。

ボランティアとの連携強化

神奈川県動物保護センターでは、保護するボランティアの方たちがセンターに登録し、収容された犬や猫を預かって新しい飼い主を探す活動をしています。県職員たちは、「ボランティアの協力なしでは、殺処分ゼロは実現できなかった」と話します。

しかしボランティアの方たちにはそれぞれ本業があり、働きながら保護活動をしていますので負担になりすぎないようなサポート体制の構築も必要です。


譲渡が進むシステムづくり(ソフト面)の問題と今後の取り組み

きちんと訓練できる体制づくり

保護犬の中には、人とコミュニケーションがうまく取れなかったり、問題行動を起こしてしまう子もいます。そのためセンターでは新しい飼い主が安心して迎えられるように、必要に応じて訓練をしているそうです。横に並んで歩いたり、伏せをしたり、3カ月ほどの訓練を職員が行います。しかし県職員の人数も限られているため、すべての犬を訓練することはできません。今後はトレーナーなどとの連携強化が必要かもしれません。

このようなハード面・ソフト面の体制構築が、「殺処分ゼロ」の次なるゴールなのです。

神奈川県が目指す新センターの役割とは

神奈川県動物保護センターのロゴ
県職員は新しいセンターについて、犬や猫を飼いたい人が気軽に訪れることができる、きれいで開放的な施設にしたいと話します。保護されている犬や猫が訪れた人と触れ合うことで人とうまくコミュニケーションが取れるようになり、譲渡も進むという流れが理想です。

また、ボランティアの負担も軽減できるように、ボランティアにとってもやさしい設備をつくりたいそうです。

昨今、ペットの「終生飼養」という言葉が一般に聞かれるようになりました。動物愛護管理法でも、「動物がその命を終えるまで適切に飼養すること」は飼い主の責務であると明記しています。しかし、現実的にはいろいろな事情で飼うことができなくなることがありますし、収容される犬や猫がゼロになることはありません。

そのため神奈川県では、収容されてしまった犬や猫が不自由なく過ごせるように、きれいで清潔な新センターをつくり、譲渡の取り組みを推進しようとしています。

最後に杉本彩さんは、「他県も今後、神奈川県と同じような課題に直面していくと思います。そのために、まず神奈川県からアクションを起こし、良い面、悪い面も含めて、他県とのつながりを構築し、連携していくことが大切です」と締めくくりました。