
老猫の「病気とは異なる正常な変化」とは? カナダの獣医が教える猫の健康管理
人間の寿命が伸びて高齢化が進むのと同じように、猫も寿命が伸びて高齢化が進んでいます。人も猫も年を取れば体の機能は低下するものですが、そういった変化は病気によって引き起こされている場合もあります。愛猫が長く健やかに生きるためには、飼い主が変化の理由を理解していることが大切です。
そこで今回は、猫が年を取ることでどんな「正常な変化」が起こるのかについて、9月23日(金)に開催された「第18回 日本臨床獣医学フォーラム 年次大会」から、米国猫臨床家協会(AAFP)会長でカナダの猫専門病院を経営するスーザン・リトル先生の講演「高齢猫の医療を向上させる」を抜粋して紹介します。
![スーザン・リトル先生]()
![日本とカナダの猫の違いを表した図]()
似ているのは猫の高齢化についても同じで、日本では7歳以上の猫が全体の45%。10歳以上は32%います。カナダの場合は10歳以上が24%で、こちらも両国で似ているものの、日本の高齢化はカナダよりも先行していると言えます。
![日本の猫の年齢分布]()
高齢化が進めばそれだけ病気になる可能性も増えてきますが、一般的に猫は犬に比べて病院に行く回数が少ないことが知られています。カナダでは、定期検診をしている老猫は14%しかいないという調査結果もあるそうです。
病院に連れて行くことが少ない理由の一つとして、猫は犬よりも室内飼いの数が多いため飼い主が病気のリスクを軽視しがちな傾向にあることが挙げられます。スーザン・リトル先生は、それを「室内飼育猫神話」だと指摘します。感染症に限れば室内飼いで患う確率が低くなるのは確かですが、それ以外の歯科疾患や糖尿病、消化器疾患や尿路疾患などを気にしなくていいわけではありません。

スーザン・リトル先生
日本もカナダも猫が長生き
最初に、日本とカナダにおける猫の飼育状況を簡単に紹介します。日本では猫の飼育数が1000万匹で、カナダは850万匹です。人口に対する飼育割合は日本が28%でカナダは35%です。日本とカナダの猫の飼育状況は非常に似ています。
似ているのは猫の高齢化についても同じで、日本では7歳以上の猫が全体の45%。10歳以上は32%います。カナダの場合は10歳以上が24%で、こちらも両国で似ているものの、日本の高齢化はカナダよりも先行していると言えます。

高齢化が進めばそれだけ病気になる可能性も増えてきますが、一般的に猫は犬に比べて病院に行く回数が少ないことが知られています。カナダでは、定期検診をしている老猫は14%しかいないという調査結果もあるそうです。
病院に連れて行くことが少ない理由の一つとして、猫は犬よりも室内飼いの数が多いため飼い主が病気のリスクを軽視しがちな傾向にあることが挙げられます。スーザン・リトル先生は、それを「室内飼育猫神話」だと指摘します。感染症に限れば室内飼いで患う確率が低くなるのは確かですが、それ以外の歯科疾患や糖尿病、消化器疾患や尿路疾患などを気にしなくていいわけではありません。
猫の健康をライフステージ別に考える
猫の健康を考える上で、近年では年齢で区切ったライフステージ別に考える概念が確立されてきています。スーザン・リトル先生が会長を務めるAAFPや米国獣医師会では、老猫を7〜10歳の「壮年期」、11〜14歳の「シニア期」、15歳以上の「高齢期」に分けています。一般的に10歳以上の猫を「シニア猫」と呼ぶこともありますが、本稿では、シニア期と高齢期の猫をあわせて「老猫」と定義しています。
老猫とは言っても、飼い主が「うちの子はまだまだ元気だ」と、年を取っていることを正しく認識していないこともあります。そんな時は、人間の年齢に置き換えて考えてみると分かりやすくなります。猫は生まれてから1〜2年までの成長がとても早く、2歳で人間の24歳くらいまで成長してしまいます。そこからはゆるやかな成長を続け、11歳で人間の60歳。15歳では人間の76歳に相当するようになります。

人間は60歳にもなれば、いくら見た目や本人の実感値が健康であったとしても、「健康診断を受けなくても大丈夫だ」と言い切れる人は少ないはずです。それは猫も同じで、若い時と変わらず健康的に見えたとしても、体の中では表に出てこない変化が起こっています。
猫はそもそも体の不調を隠す習性がありますので、見た目で不調が分かる時は、かなり悪い状態になっていることが少なくありません。健康的に見えても、獣医師の定期的な診断を受けることは絶対に必要です。
老猫に起こる「正常な変化」とは
病気の早期発見・早期治療のために定期検診は重要ですが、飼い主による日々のチェックも重要です。猫は年をとるとどのような変化が起こるのでしょうか。変化を「異常ではないか」と疑う事も大事ですが、年を取ることで起こる「正常な変化」を知ることで、より早く「異常な変化」に気付くことができるようになります。年を取ることで起こる正常な変化をいくつか紹介します。
見た目の変化
飼い主にもすぐ分かるような身体的な変化として、白髪が増えたり、毛づくろいが少なくなることで毛並みが悪くなったりします。皮膚の弾力性が低下し、爪はもろくなります。また爪とぎも減りますので、飼い主の予想より早く伸びて巻爪になってしまうこともあります。目にも変化が起き、例えば虹彩が萎縮したり、レンズ(水晶体)が硬化したりすることがあります。
行動の変化
ものを感じる感覚が鈍くなってきますので、反応も変わってきます。ストレスに対して弱くなることで、環境の変化に敏感に反応することもあります。例えば、「知らない人が来たら怒るようになった」といった変化があるかもしれません。また睡眠と覚醒のパターンにも変化が生じることがありますので、昼間よく寝るようになったり、夜あまり寝なくなったりといったことが起きることもあります。

体内の変化
日常ではわかりにくく、定期検診などで見えてくる体内の変化もあります。例えば心肺機能の変化や肋軟骨の石灰化、心臓と胸骨が接する距離の増加といった変化です。
気管支の一部に石灰化も確認できます
骨密度の低下や関節の変化もありますが、異常な数値でない限りは老化にともなって起こる正常な変化と言えます。免疫系にも若干の変化が見られ、細胞性免疫が低下する猫もいます。それは一部の感染症への抵抗が減少することを意味します。
液性免疫に対してはあまり影響が出ず、ワクチン接種にともなう抗体産生能は変わりません。老猫にワクチンを打って良いのか心配になりますが、スーザン・リトル先生は、「そもそもの健康に問題が無い限り、ワクチンを打つこと自体に問題はない」と説明しました。

次回は、老猫において見逃してはいけない「異常な変化」や、そういった変化をどのように発見するかについて紹介します。