
説明できない体重減少は病気のサイン? カナダの獣医が教える猫の健康管理
群れをつくる犬と違って単独行動を好むに猫には、「病気を隠す習性」があります。この習性は飼い主に「愛猫は健康的である」という誤解を与えがちで、気付いたときは病気を隠せないほど重症化しているケースが少なくありません。そこで今回は、飼い主が愛猫の病気をどのように知ればいいのかについて紹介します。
なお、本稿は前回の「老猫の「病気とは異なる正常な変化」とは? カナダの獣医が教える猫の健康管理」に続き、9月23日(金)に開催された「第18回 日本臨床獣医学フォーラム 年次大会」から、米国猫臨床家協会(AAFP)会長でカナダの猫専門病院を経営するスーザン・リトル先生の講演「高齢猫の医療を向上させる」を抜粋して紹介します。
![スーザン・リトル先生]()
![ねこ健康]()
リトル先生の病院では、猫の8歳から10歳までの期間を「Golden Years’」(黄金期)と呼んでいます。これは、8歳から10歳が年1回の定期健診を始めるのに最適なタイミングだからです。
11歳以上の老猫に対しては、年2回の定期健診が推奨されています。もしかしたら、年2回は少し多いのではないかと思った方がいるかもしれませんが、リトル先生は、飼い主の意識改革が必要だと言います。
「シニアの猫には変化が急激に来るんだということを知らなければいけません。猫はどんな年齢であっても、病気を隠す動物です。病気のサインをなかなか外に出さない動物なんです。シニア期においては、病気の早期発見が大切です」(リトル先生)
![予防医療目的では6カ月ごとの来院が推奨される事を示す表]()
定期健診の重要性は認識しつつも、費用は安くはないため、「健康そうな」愛猫を見て二の足を踏んでいる方も少なくないと思います(筆者もその一人です)。しかし、定期健診をすることは費用面でもメリットがあるとリトル先生は言います。
「定期健診をするほうが一見お金が掛かりそうですが、病気を早期に発見して早期に治療するほうが結局は安くなるんです。早く見つけることで、予後やQOL(Quality of Life:生活の質)も良くなるというメリットがあります」(リトル先生)
![疾病の早期発見のページ]()

スーザン・リトル先生
猫も定期健診をしたほうがいいの?

リトル先生の病院では、猫の8歳から10歳までの期間を「Golden Years’」(黄金期)と呼んでいます。これは、8歳から10歳が年1回の定期健診を始めるのに最適なタイミングだからです。
11歳以上の老猫に対しては、年2回の定期健診が推奨されています。もしかしたら、年2回は少し多いのではないかと思った方がいるかもしれませんが、リトル先生は、飼い主の意識改革が必要だと言います。
「シニアの猫には変化が急激に来るんだということを知らなければいけません。猫はどんな年齢であっても、病気を隠す動物です。病気のサインをなかなか外に出さない動物なんです。シニア期においては、病気の早期発見が大切です」(リトル先生)

定期健診の重要性は認識しつつも、費用は安くはないため、「健康そうな」愛猫を見て二の足を踏んでいる方も少なくないと思います(筆者もその一人です)。しかし、定期健診をすることは費用面でもメリットがあるとリトル先生は言います。
「定期健診をするほうが一見お金が掛かりそうですが、病気を早期に発見して早期に治療するほうが結局は安くなるんです。早く見つけることで、予後やQOL(Quality of Life:生活の質)も良くなるというメリットがあります」(リトル先生)

説明できない体重減少は病気のサインかも

そうは言っても、「うちの子はどう見ても健康的だし……」と思う方もいるはずです。そこで2013年に報告された「見た目は健康な高齢猫の定期健康診断における一般的な所見」を見てみましょう。対象となった猫100匹に血液検査、血液科学検査、尿検査、血圧測定、T4検査(甲状腺ホルモンの検査)などをしたところ、たくさんの異常が検出されたのです。
まず、8%が高血圧で、29%が高窒素血症でした。高窒素血症は腎臓の機能低下によって起こる病気です。25%が高血糖で、一部はストレスによる高血糖かもしれませんが、一部は糖尿病でした。11%は心雑音が聞こえ、23%は触診で甲状腺腫大(しゅだい)が疑われ、T4検査で高い数値が出ました。

こういった結果から、老猫は飼い主が思っている以上に潜在的な病気を抱えているか、既に病気になっていることがわかります。最も大事なのは、検査をする前は飼い主が病気に気付いていなかったということです。
また11%の猫は、体重減少が起きていました。リトル先生は、飼い主が日々すべきこととして特に大事なのは、体重をモニターすることだと言います。
「急に体重が減少し、それに対して明確な説明ができないなら、それは病気の初期のサインかもしれません。実際、がんや腎臓病、甲状腺機能亢進症で亡くなった猫の過去を調べてみたところ、2、3年前から体重減少が始まっていたのです」(リトル先生)

体重減少の原因を探り、死亡リスクを減らす

愛猫と毎日接していると、なかなか小さな変化に気付くことは困難です。しかし、体重の変化をモニターしていれば、増加傾向にあるのか、減少傾向にあるのか、体重のトレンドが見えてきます。これは老猫に関係なく、どの年齢の猫にも言えることです。
ただ、リトル先生は11歳を境に重要なトレンドが起こると説明します。「猫の年齢別の肥満・太り過ぎ・正常・やせ過ぎの割合」を示した調査結果によると、11歳を境に「太り過ぎ」「肥満」の割り合いが減少していきます。そして「正常・やせ過ぎ」の割合が増加していくのです。

体重減少が問題になるのは、死亡のリスクと関連があるためだとリトル先生は言います。例えば、体重が100グラム減少すると死亡のリスクが6.4%増加し、除脂肪体重(筋肉や骨、内臓などの重さ)が100グラム減少した場合は20%、体脂肪が100グラム減少した場合は40%増加するそうです。

体重減少の要因としては、「(生きていくために必要な)エネルギー要求量の変化」「消化率の変化」「疾病(しっぺい)や疼痛(とうつう)がある」「食欲の低下」などが挙げられます。「エネルギー要求量の変化」は、人や犬の場合は年を取れば活動量が減りますのでエネルギー要求量は低下するのですが、猫の場合は年を取っても活動量が変わらないためエネルギー要求量も変わらず、それが体重減少につながっていきます。


そのため、体重減少の原因が病気の場合はそれを治す必要が出てきますが、単純に年を取ることで体重が減っているのだとしたら食事に注意を向けなければいけません。12歳以上の猫は脂肪の消化率が最大30%低下し、14歳以上の猫はタンパク質の消化率が最大20%低下します。年を取ると、若いときのように脂肪やタンパク質が消化することができなくなるのです。そこで多くのフードメーカーがシニア向けに特化した食事を開発しています。

大事なのは、個々の猫で適切な食事が異なる点だとリトル先生は指摘します。例えばシニア向けの食事はだいたいカロリーを減らしてありますが、中にはカロリーを多くあげないといけない猫もいるわけです。ただ注意しなければいことは、急激な食事の変化をさせないことです。食事を変更するときは、ゆっくり変更することが重要です。

次回は「体重減少」以外に飼い主が気を付けるべき猫の健康管理について紹介します。