動物病院で先生に伝えるべきこと カナダの獣医が教える猫の健康管理

動物病院で先生に伝えるべきこと カナダの獣医が教える猫の健康管理

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猫には「病気を隠す習性」があります。そのせいで飼い主が愛猫の病気に気付くのが遅れたり、動物病院でも病気のサインを見逃されたりすることがあります。そこで今回は、飼い主が愛猫のどんなことに注意を向け、獣医師に何を伝えると病気の早期発見につながるかを紹介します。

スーザン・リトル先生
スーザン・リトル先生

理解が深まっても、素人判断はしないこと

前々回の記事「老猫の『病気とは異なる正常な変化』とは? カナダの獣医が教える健康管理」では、愛猫の変化が加齢によるものなのか、病気によるものなのか。飼い主が変化の理由を正しく理解していることが大切だというリトル先生の話を紹介しました。

しかし、どんなに飼い主が愛猫の変化に理解を深めたとしても、リトル先生が「勝手に判断して、これは年を取ったことによるノーマルな変化だろうと思ってしまうことがあります」と話すように、素人判断で終わってしまうことは危険です。必ず動物病院で先生に判断してもらう必要があるのですが、その際どんな変化があったか、三つのポイントに注意して先生に伝えると診断がスムーズになります。

トイレの使い方の変化

日々の変化の中で、トイレの使い方は顕著に表れるポイントです。

「例えば『この頃トイレを使わなくなった』という変化かもしれませんし、『尿量が増えていっぱい濡れるようになった』という変化かもしれません。あるいは、『糞便の状態が変わった』という変化かもしれません」(リトル先生)

行動・動きの変化

動きの変化は急に表れることがあれば、徐々に表れることもあります。例えばあまり動かなくなれば関節炎の痛みによるせいかもしれませんし、甲状腺機能亢進症によるものかもしれません。

また変化はグルーミングの仕方や、多頭飼いであれば猫と猫の関係性にも表れます。歩いたり走ったりといった動きに限らず、あらゆる動きに注意を向ける必要があります。

食事の変化

どんな食事をしているかも先生に伝える上で大事な点ですが、いつも何を食べているかだけでなく、おやつに何をあげているか、サプリメントは何を与えているか、人間の食べ物をあげていればそれは何かといった点も重要です。

食事量の変化も大事ですが、飲水量も大事な変化です。飲水量が増えれば、多尿性の病気のサインかもしれません。ただ、シニアの猫ば飲水量が減りがちだという点に注意しなければいけません。感覚が低下するためで、のどが渇いているのに、そのことに気付かないのです。問題は、この年齢層の猫には糖尿病や甲状腺機能亢進症といった多尿性の病気が多いということで、飲む水が減っているのに出ていく水が増えれば、脱水症になってしまいます。

猫の脱水に関する資料

また食事量の変化で重要なのは、「どれだけ与えているか」ではなく「与えたものをどれだけ食べたか」です。リトル先生は、先生に食事の量を聞かれた飼い主は、与えた量を答えがちだと言います。食べた量の計測は非常に簡単で、出した時の重さと食べ終わった時の重さを測ればいいそうです。

老猫の飼い主が気を付けたいこと

ここからは、特に老猫の飼い主が気を付けたい三つの疾患を紹介します。

飼い主が気をつけるべき疾患の資料

口腔内疾患

口腔内の病気になった場合、食べ方の変化や噛み方の変化で気付くかもしれませんし、食欲が無くなりで体重減少で気付くかもしれません。しかし、病変がかなり進行していても口の中を開けてみないとわからないものもあります。

例えば歯周病が進んでいたのに、飼い主が口の中を見ていなかったためにまったく気付いていなかったということもあります。ただ、舌下に腫瘍ができて相当よく見ないと見えないこともありますので、いつも口の中を見ているからという油断は禁物です。

歯周病に関する資料

関節炎

リトル先生は、関節炎は飼い主に加齢による変化だと誤解されがちなだけでなく、獣医師も見逃しがちな病気だと言います。アメリカでは、平均年齢15歳の100匹に対するX線の検査で、90%に関節の疾患が認められました。イギリスでは平均年齢6.5歳という若い猫200匹に検査をしたところ、何と34%に疾患が認められました。

関節炎に関する資料

ただ、X線で完璧に診断ができるというわけでもないという点に注意が必要です。リトル先生は、「すでに関節炎が起きているのにX線検査で分かる変化が出ていない症例もたくさんある」と話します。目に見える症状としては、活動性の低下や体重減少、グルーミングの減少、関節部の脱毛などがあります。

消化器疾患

消化器の病気で注意すべきことは、「この検査をすれば病気の有無が分かる」という確実なものがない点です。リトル先生は、まず疑いを持つことが大事だと言います。
  • 原因が明らかではない体重の減少
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 食欲の変化

こういったことがあれば、もしかしたら消化器の病気かもしれません。

消化器疾患についての資料

以上、3回にわたって、猫の健康管理について、特に老猫に起きる正常な変化と病気のサインの見分け方について紹介しました。

リトル先生は最後に、「シニア期の猫の予防医学は早期発見です。早期に発見し、早期に対処することでQOL(Quality of Life:生活の質)を高めることができます。それは寿命を伸ばすだけでなく、人と動物の絆の維持にも寄与することです」と述べて講演をしめくくりました。

シニア猫の健康管理についての資料