
【平成27年度】犬猫殺処分数が初めて10万匹を下回り8万匹に 2015年度の返還・譲渡率1位は岡山県
環境省が2015年度の「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」を公開し、全国の犬猫殺処分数が初めて10万匹を下回って8万2902匹になったことが分かりました。都道府県別では、返還・譲渡率1位が77.5%で岡山県、殺処分率1位は87.9%で和歌山県と奈良県でした。

「全国の犬・猫の殺処分数の推移」 出典:環境省ホームページ
今回は、最新版の「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」を都道府県でランキング化しながら、各ランキングで上位となった自治体の取り組みを紹介します。
※都道府県ランキングは「犬・猫の引取り状況(都道府県・指定都市・中核市別)」(環境省)を加工して作成しています。
返還・譲渡率ランキング
返還・譲渡率とは、動物愛護センターや保健所などが引き取った犬猫が、どれだけ飼い主に返還、もしくは保護団体や新しい飼い主に譲渡できたかを表したものです。なお、引き取り数は、飼養放棄されたり、野良だったり迷子になったりした犬猫の合計です。2015年度の1位は岡山県で、引き取り数が1894匹(34位)だったのに対し、返還・譲渡数が1467匹となり、返還・譲渡率は77.5%でした。2位が神奈川県、3位が北海道、4位が東京、5位が福井県と続きます。

返還・譲渡率の都道府県別ランキング
岡山県はなぜ1位なのか
岡山県はなぜ77.5%という高い返還・譲渡率を達成できたのでしょうか。岡山市保健所にお話を伺ったところ、「飼い主からの引き取りを減らす努力」「ボランティアの活動」の二つが要因ではないかと話します。市民からは「引き取るのが行政の仕事ではないのか」と「お叱り」を受けることもあるそうですが、終生飼養を理解してもらえるよう根気よく話し合いをしているそうです。実際に岡山県では、飼い主からと所有者不明を合わせた引き取り数のうち、飼い主からの割合が9.35%(13位)となっています。どうしても終生飼養が難しい場合は市民間での譲渡を勧め、一例として、山陽新聞(発行部数約40万部)の広告欄に65文字で1080円という手頃な価格のものがあり、活用されているそうです。
また職員の意識が高まったことで、ボランティア団体との協力関係も強くなり、譲渡活動が円滑に進むようになったと言います。岡山県で保護活動を行う団体の一つ、NPO法人「わんぱーく」代表の茶本陽子さんにお話を伺ったところ、「(返還・譲渡率で1位になったとは言っても)殺処分ゼロにはほど遠い状況です。私たちのような団体が必要なくなるように活動を続けていきます」と話しました。
生体販売を止めたペットショップ
昨年から、岡山県のペットショップ「chou chou(シュシュ)」がペットショップでありながら生体販売を止め、保護犬の譲渡活動を始めたことが話題になっています。店舗を運営するグロップのペットサービス部マネージャー澤木崇さんによると、2015年4月からの1年半で保護犬18匹を譲渡したそうです。保護団体などの譲渡会は休みの日が多くなってしまいますが、ペットショップであれば街中で365日譲渡会を開くことができるのが強みだと言います。
生体販売をしていれば一月に15匹ほどの売り上げがあり、それがゼロになったわけですが、商品販売やトリミング、シャンプーなどで十分な収益が確保できているそうです。むしろ購入による応援でECの売り上げが伸びており、収益は上がったと言います。海外に住む日本人の方からの応援もあり、収益だけでなくスタッフのモチベーションアップにもつながっているそうです。
澤木さんは、法改正によって今後も生体販売の規制が厳しくなっていくことが予想されるため、ペットショップは生体販売を止めることをどこかで決断しなければいけないだろうと話します。生体販売をしていた時はお金を出す方には誰にでも販売していましたが、今ではちゃんと飼えると判断した方にしか譲渡していません。同店の活動も岡山県の高い返還・譲渡率を支えている一つの要因と言えます。
佐賀県はFacebookを活用
岡山県は引き取り数に占める飼い主の割合が9位でしたが、最も少なかったのは1.0%の佐賀県で、最も多かったのは48.4%の鹿児島県でした。佐賀県が引き取る犬猫は99%が所有者不明ということになります。なぜ飼い主からの引き取り数が少ないのでしょうか。佐賀県の生活衛生課にお話を伺ったところ、やはり「終生飼養の理解を進めた結果」としています。また2015年3月からはFacebookを使った市民間譲渡の取り組みも行われています。
返還・譲渡率ランキングでは31位だった佐賀県ですが、そもそも譲渡される可能性の高い犬猫は、保護される前に市民間で譲渡が行われています。今回の調査結果は主に保護された後の話になりますので、取り組みによっては成果が見えにくくなっている点に注意が必要です。
殺処分率ランキング
犬猫の「殺処分問題」において「殺処分数」は欠かすことのできない指標です。しかし、都道府県で見た場合、それぞれの面積や人口、地域特性など前提条件が異なりますので、単純に殺処分数を比較しても意味がありません。そこで、引き取り数に対する殺処分数である「殺処分率」を指標として比較しました。最も殺処分率が高かったのは87.9%で和歌山県と奈良県でした。次いで秋田県、山口県、長崎県、香川県と80%以上の自治体が続きます。逆に殺処分率が低かったのは、神奈川県で、次いで岡山県、北海道となっています。

殺処分率の都道府県別ランキング
殺処分率の高さについて和歌山県動物愛護センターにお話を伺ったところ、保護活動をする個人・団体の数も多くないため、なかなか譲渡に結び付けることが難しいと言います。特に子猫は付きっきりで世話をしなければならず、職員がボランティアで自宅に連れて帰り、世話をすることもあるそうです。
そこで今年度からは登録ボランティア制度を始め、子猫のミルクボランティアとして個人が6人と2団体、譲渡ボランティアとして個人が1人と2団体(ミルクボランティアと譲渡ボランティアの重複含む)が登録されています。年内に講習会を行い、その数を増やしていくとしています。また奈良県でも子猫の飼養が課題になっており、登録ボランティア制度を年内に始める予定です。
殺処分数ランキング
殺処分数は都道府県の比較に適さないと書きましたが、それぞれの数を知る上で並べてみました。1位は長崎県で4370匹、2位は大阪府、3位は山口県と続きます。逆に少なかったのは福井県、東京都、岡山県でした。小池都知事は公約で「殺処分ゼロ」を掲げていますが、東京都は2015年で418匹となっていますので、実はそれほど難しい目標ではないことがわかります。
殺処分数の都道府県別ランキング
なお、この「殺処分数」はあくまで「犬猫が保護された後に亡くなった数」であり、いわゆる殺処分機によって亡くなった数だけではありません。交通事故など瀕死の状態で運ばれたり、病気によって亡くなったりする自然死や、攻撃性が強すぎて譲渡が困難だと判断されたり、治療を続けても苦痛を与えるだけだったりといった場合のアニマル・ウェルフェアにのっとった安楽死も含まれます。
そのため「殺処分ゼロ」は非現実的であり目標にすべきでもないという意見も少なくありません。そこで、環境省は今年度からこれまで「殺処分数」としてきた数の中から、自然死やアニマル・ウェルフェアにのっとった安楽死の数を分けた調査を始めています。ただ結果の公表は分け方やそれぞれの数値の有効性について検証した後となり、時期は未定としています。
引き取り数、返還・譲渡数ランキング
最後に、詳細データとして引き取り数と返還・譲渡数のランキングを見てみます。引き取り数は1位が6740匹の愛知県、2位が5510匹の北海道、次いで長崎県、広島県、福岡県と続きます。返還・譲渡数は1位が北海道の4094匹、2位は3210匹の広島県、次いで千葉県、愛知県、神奈川県と続きます。
引き取り数ランキング

返還・譲渡数ランキング
北海道や広島県は引き取り数が非常に多いのですが、一方で殺処分数を減らすために返還・譲渡に力を入れていることが分かります。
以上が、環境省が発表した2015年度の「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」を都道府県別に比較した結果でした。
各自治体でさまざまな取り組みが行われ、引き取り数や殺処分数が減少傾向にある一方で、保護した犬猫10匹のうち8匹以上を殺処分している自治体が10近くあるのも事実です。各自治体の成功事例が共有され、「アニマル・ウェルフェアにのっとった殺処分ゼロ」が、1日でも早く達成されることが望まれます。
※お詫びと訂正:静岡県、愛知県の各データに間違いがありました。お詫びして訂正します。(2016年11月4日)