飼養施設の数値基準は法改正と別に検討 環境省 則久動物愛護管理室長が進捗状況を説明

飼養施設の数値基準は法改正と別に検討 環境省 則久動物愛護管理室長が進捗状況を説明

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12日(土)、都内でペット法学会のシンポジウム「動物愛護法と科学的知見」が開催され、環境省動物愛護管理室の則久 雅司室長が飼養施設の数値基準について、数値を決めることはデメリットもあり、運用を支えるものとして日本にあった基準は何なのか、法改正の議論とは別に考えていかなければならないと話しました。

進捗状況については、今年4月に発生した熊本地震の際、環境省として初めて本省スタッフを現地派遣した関係で通常業務が遅延しており、飼養施設基準についても今年中に具体的な取り組みをすることは難しい見通しです。則久室長は「本来やるべきことをやっていない言い訳」と前置きしつつも、関連産業含め1.5兆円規模の業(動物取扱業)を愛護管理室11人(非正規4人含む)で監督しており、膨大な業務量で人が足りないのが現状と説明しました。

則久室長の発言内容

以下、則久室長の登壇セッションと全セッション終了後に行われたパネルディスカッションの中から、「数値基準」に関する発言を抜粋して紹介します。

登壇セッションより該当部分を抜粋

飼養施設の基準の話ですが先日、朝日新聞さんのほうで「環境省は今年度中にも専門家らによる検討会を立ち上げる」と書いてありました。実は我々、今年少しでもやりたいと思っていたんですが、熊本地震の対応で(2016年度前半に取り組むはずだった)予定が吹っ飛んでしまっているので、正直なところ今年から手掛けて何らかの結論を出すのは厳しくて、現実的には無理かなと思っています。

平成23年(2011年)に審議会の中でいろいろ議論していただいた結果として、「数値基準は可能な限り科学的根拠に基づく、現状より細かい規制の導入が必要であり、専門的な知見を持つ有識者で構成される委員会において議論すべきとの認識が共有された」となっていて、科学者による会議によって決めていきましょうというのが合意されました。今年やらなければと思っていたのですが、実際ちょっと立ち上がりそうにないという形になっています。

使用施設基準についての資料

パネルディスカッションより発言を抜粋(前半)

数値基準は、法律ではなく政令や省・府令、告示で決められるようになっています。現在は第一種動物取扱業者の(飼養環境に関する)基準が動物愛護管理法の施行規則(省令)と細目(省告示)が出てまして、そこに定性的に書いてあります。数値が入っていないのですが、これについては審議会で、「もうちょっと科学的に決めるのがいい」ということで決めきれず、もう1回、会議をやりましょうということになったんですが、それがなかなか開けるだけの余力が(動物愛護管理室に)無いということになっています。

ただ第一種動物取扱業者は動物園も含めてペットホテルまでさまざまあって、さらに動物の種類も哺乳類だけでなく鳥類、爬虫類も含みますので、いきなり全部をやるのは難しい。とりあえずは(対象を)ブリーダーだけとか、犬と猫だけとかに絞って考えていくことになると思います。ドイツの場合は犬に関してだけですが、一般の飼い主も含めてみんな共通の基準です。日本の場合は動物取扱業者になるので、一般の飼い主さんはそこに入ってきませんが、第一種と第二種のシェルターをやっている方にもほぼ同じ基準が適用されていくことになると思います。

(タイミングとして)次の法改正のときにというか、法改正と連動してなのか並行してなのかわかりませんが、法律の議論とは別個に、検討・研究を続けなければいけないと思います。これは本気でやるとかなり力がいるので、タイミングを見てということしかお答えできません。海外も非常に関心があるんですけど、海外の数値基準の根拠ってなんだろうと探してみると、何らかの知見ではあるんでしょうが、はっきり科学的な知見で決まってるわけではなく、総合的な判断と言いますか、社会的な判断があって決まっているような印象があります。


パネルディスカッションより発言を抜粋(後半)

数えたわけではないですが(印象として)、世界的に見ると数値基準を決めている国よりは定性的な基準だけのほうが多くて、定性的な基準も無いような国が圧倒的に多いです。日本は定性的な基準は一通りあって、イギリスのRSPCA(英国王立動物虐待防止協会)でも、(定性的な基準だけで)必要なものは充分あると言われています。

だから数値は、うまく運用できるか、運用を支えてくれるものになるかどうかにあるんですが、実は自治体の意見とか、愛護団体というより動物の福祉とかの観点で活動する団体と意見交換しますと、両論あります。審議会でも、「最低限これを満たさなければダメだという悪質なところを排除するための基準と、満たさなくてもいいけどより望ましい基準をつくるべきだ」という意見がありました。

環境行政でいろんな基準を作ったとき、「これを満たしておけばいいのね」とみんな(自主基準が)落ちてきてしまうんですよ。これが数値を決めることのデメリットの一つと言われています。ですから決めずに、本当は行政官が自分の判断で「アウト」と言って、何かあれば裁判で争って白黒付けるのが理想なんです。だけど、相手が20年、30年やっているブリーダーさんで、公務員の人事異動で来たばっかりの人がいきなり行ってやれるかということを考えると、数字があったほうがいいという気持ちもよく分かります。数値を決めることのメリットとデメリットを(意見交換で)お聞きしています。

実際に運用する上で、「現場の自治体の方をいかに動きやすくするか」というところと同時に、「動物の生活の質が向上するか」というところをセットで見ていく必要があると思っています。そうすると日本にあったやり方は何なのか。それもいきなりではなくて、段階的に刻んでいく部分とか、よくテレビなんかで報道されるような本当に悪質なケースを問答無用で退場させられるものは何なのか。そういうところを考えないと「ドイツが理想だからドイツのようにしなさい」といきなり言っても、そこは現実的に厳しいと思います。(数値基準の検討には)マンパワーがいりますということになりますが、頑張ります。

補足:現在の飼養施設の適正基準

則久室長の説明にあった通り、国内における飼養施設の適正基準は、動物愛護管理法の「施行規則」と「第一種動物取扱業者が遵守すべき動物の管理の方法等の細目」で定性的に規定されています。

「動物の愛護及び管理に関する法律施行規則」第三条第二項

 飼養施設に備えるケージ等は、次に掲げるとおりであること。
 耐水性がないため洗浄が容易でない等衛生管理上支障がある材質を用いていないこと。
 底面は、ふん尿等が漏えいしない構造であること。
 側面又は天井は、常時、通気が確保され、かつ、ケージ等の内部を外部から見通すことのできる構造であること。ただし、当該飼養又は保管に係る動物が傷病動物である等特別の事情がある場合には、この限りでない。
 飼養施設の床等に確実に固定する等、衝撃による転倒を防止するための措置が講じられていること。
 動物によって容易に損壊されない構造及び強度であること。

「第一種動物取扱業者が遵守すべき動物の管理の方法等の細目」

第3条 飼養施設に備える設備の構造、規模等は、次に掲げるとおりとする。
 ケージ等は、個々の動物が自然な姿勢で立ち上がる、横たわる、羽ばたく等の日常的な動作を容易に行うための十分な広さ及び空間を有するものとすること。また、飼養期間が長期間にわたる場合にあっては、必要に応じて、走る、登る、泳ぐ、飛ぶ等の運動ができるように、より一層の広さ及び空間を有するものとすること。ただし、傷病動物の飼養若しくは保管をし、又は動物を一時的に保管する等特別な事情がある場合にあっては、 この限りでない。
 ケージ等及び訓練場は、突起物、穴、くぼみ、斜面等によって、動物が傷害等を受けるおそれがないような安全な構造及び材質とすること。
 ケージ等及び訓練場の床、内壁、天井及び附属設備は、清掃が容易である等衛生状態の維持及び管理がしやすい構造及び材質とすること。
 ケージ等及び訓練場は、動物の種類、習性、運動能力、数等に応じて、 動物の逸走を防止できる構造及び強度とすること。