
野良猫に餌をあげるのは無責任? 地域猫をテーマに獣医や保護活動家がトークセッション
「地域猫」とは、地域の理解を得ながら共同管理する飼い主のいない元野良猫のこと。野良猫がこれ以上増えないように、最近では地域全体で餌やりや避妊・去勢手術のサポートを行っているところも増えてきました。10月16日(日)に境南ふれあい広場公園で行われた「むさしの猫のマルシェ」では、武蔵野市で地域猫活動を行っている「むさしの地域猫の会」が主催する、地域猫をテーマにしたトークセッションが行われました。
猫の保護活動家や愛猫家、獣医師など6人が集まったトークセッションは聞いた参加者が考え、感じたことを周りの誰かに伝えることで、人にも動物にも優しい世の中になればと企画されたもの。これからの地域猫活動や殺処分の現状などが話し合われました。登壇者は、以下の6人です。
![むさしの猫マルシェ会場の様子]()
![むさしの猫マルシェ トークイベントの様子]()
西村:私たち「むさしの地域猫の会」では、捨て猫や野良猫、地域猫について取り組んでいますが、やはり「かわいそう」や「悲しい」という気持ちが原動力です。そしてそういったネガティブなイメージは皆さんも持っているものだと感じています。今、「空前の猫ブーム」と言われている中で、それぞれの立場にいる皆さんは、外にいる猫についてどんなふうに思っていますか?
近藤:僕が以前住んでいた三鷹の借家の庭先では、よく近所の野良猫を愛でていました。そういう経験をされている方はたくさんいらっしゃると思いますが、何度か猫がやってくると、つい撫でるだけではなく餌をあげだしたんです。でもそういうのがどこまでやっていいのかなというのがよく分からなかった。あまり餌をあげすぎると半飼い猫みたいになるし、それが元で近所トラブルにもなってしまいますからね。
山本:たとえば人間だと、弱っている方や子供がいたら普通は助けますよね。その普通にやるということを、猫の場合は「ルールがあるからやめましょう」というのは、どうにもおかしい気がします。優しい気持ちは絶対に止められないですからね。猫の楽園とも言われるトルコやイタリアでは、猫は避妊・去勢手術をせずに放し飼いです。
ただしご飯があまりよくないので、猫があまり長生きせず大繁殖しないんですね。逆に日本の猫はペットフードの飛躍的な向上によって寿命が伸びており、繁殖が進み、大量の猫が街にいるという問題につながります。この解決策は、「面倒くさがらずに手術をしましょう」ということなんです。地域自体の問題で、たとえばゴミ問題とレベルは変わらないと思っています。
![むさしの猫マルシェ トークイベントの様子]()
西村:「無責任な餌やり」というフレーズだけやたらと一人歩きしている印象がありますよね。そのせいで、相談してくる方が「すみません、私が無責任に餌やりをしてしまったせいで子猫が生まれちゃいました」と言われることがとても多くて、それはすごく悲しいことだと思います。
山本:「無責任な餌やり」という内容の電話がくるときは、「責任を持てないなら手を出しちゃいけないのはわかっているんですけど……」という言葉が枕詞のようについてきます。そんなときは「いいから手を出しちゃってください」と申し上げます。手を出して助けてあげて一食食べさせたり治療を受けさせたりすれば、その子の生存確率が上がったわけで、ひょっとしたら譲渡される確率も上がるかもしれない。もし飼い主が見つからなくても、放っておくよりマシです。手を出さないか最上級の扱いをするかという、0か1に考えてしまうと、できることがほとんどなくなります。そこは「良い加減」が必要ではないかと。
Kay:僕が今住んでいる地域にも外猫はたくさんいます。でもみんな耳カット(避妊去勢済みの印)しているんですね。古い家の並びで、あるおばあちゃんが一人で餌をあげて手術費用も負担しているんです。その地域の皆さんもその様子を見守っているので、地域猫については一定の理解があると思います。
西村:そういう地域に住んでいるのであれば、そこの猫たちは「かわいそう」だと思われないかもしれないですね。
Kay:ただトラブルになる可能性もなんとなく想像できます。僕は家の前で畑をやっていて、春先になると土を掘り起こして柔らかくするんですが、そうするとそこは猫のトイレ状態になってしまうんです。僕は小さい頃に動物と触れ合っていたために「仕方がない」と思えますが、それを受け入れられない方々がいるのも分かります。でもその考えが結果として「殺処分」につながっていってしまうのは悲しいことですよね。
- 司会:西村麻衣子さん(「むさしの地域猫の会」)
- 山本葉子さん(「東京キャットガーディアン」代表)
- 鋪田光広さん(「ひだまり動物病院吉祥寺」開業医)
- 近藤研二さん(音楽家、愛猫家)
- Kay Nさん、新村夏江さん(「78円の命プロジェクト」メンバー)

「むさしの猫のマルシェ」は、「地域猫」をキーワードに、猫のアイテムをつくるワークショップや猫をかたどったフードの販売、そして自分の猫の写真を自慢できる「うちの子」ブースでの展示など、老若男女楽しめる雰囲気のイベント。駅前の広場で通行人の目にも止まりやすく、入場料も無料であったことから、地域猫に特別関心があるわけではない参加者も多く、思い思いの楽しみ方で時間を過ごしているようでした
「無責任な餌やり」は本当に無責任なのか

左から山本葉子さん、鋪田光広さん、近藤研二さん、Kay Nさん、新村夏江さん、西村麻衣子さん
西村:私たち「むさしの地域猫の会」では、捨て猫や野良猫、地域猫について取り組んでいますが、やはり「かわいそう」や「悲しい」という気持ちが原動力です。そしてそういったネガティブなイメージは皆さんも持っているものだと感じています。今、「空前の猫ブーム」と言われている中で、それぞれの立場にいる皆さんは、外にいる猫についてどんなふうに思っていますか?
近藤:僕が以前住んでいた三鷹の借家の庭先では、よく近所の野良猫を愛でていました。そういう経験をされている方はたくさんいらっしゃると思いますが、何度か猫がやってくると、つい撫でるだけではなく餌をあげだしたんです。でもそういうのがどこまでやっていいのかなというのがよく分からなかった。あまり餌をあげすぎると半飼い猫みたいになるし、それが元で近所トラブルにもなってしまいますからね。
山本:たとえば人間だと、弱っている方や子供がいたら普通は助けますよね。その普通にやるということを、猫の場合は「ルールがあるからやめましょう」というのは、どうにもおかしい気がします。優しい気持ちは絶対に止められないですからね。猫の楽園とも言われるトルコやイタリアでは、猫は避妊・去勢手術をせずに放し飼いです。
ただしご飯があまりよくないので、猫があまり長生きせず大繁殖しないんですね。逆に日本の猫はペットフードの飛躍的な向上によって寿命が伸びており、繁殖が進み、大量の猫が街にいるという問題につながります。この解決策は、「面倒くさがらずに手術をしましょう」ということなんです。地域自体の問題で、たとえばゴミ問題とレベルは変わらないと思っています。

西村:「無責任な餌やり」というフレーズだけやたらと一人歩きしている印象がありますよね。そのせいで、相談してくる方が「すみません、私が無責任に餌やりをしてしまったせいで子猫が生まれちゃいました」と言われることがとても多くて、それはすごく悲しいことだと思います。
山本:「無責任な餌やり」という内容の電話がくるときは、「責任を持てないなら手を出しちゃいけないのはわかっているんですけど……」という言葉が枕詞のようについてきます。そんなときは「いいから手を出しちゃってください」と申し上げます。手を出して助けてあげて一食食べさせたり治療を受けさせたりすれば、その子の生存確率が上がったわけで、ひょっとしたら譲渡される確率も上がるかもしれない。もし飼い主が見つからなくても、放っておくよりマシです。手を出さないか最上級の扱いをするかという、0か1に考えてしまうと、できることがほとんどなくなります。そこは「良い加減」が必要ではないかと。
Kay:僕が今住んでいる地域にも外猫はたくさんいます。でもみんな耳カット(避妊去勢済みの印)しているんですね。古い家の並びで、あるおばあちゃんが一人で餌をあげて手術費用も負担しているんです。その地域の皆さんもその様子を見守っているので、地域猫については一定の理解があると思います。
西村:そういう地域に住んでいるのであれば、そこの猫たちは「かわいそう」だと思われないかもしれないですね。
Kay:ただトラブルになる可能性もなんとなく想像できます。僕は家の前で畑をやっていて、春先になると土を掘り起こして柔らかくするんですが、そうするとそこは猫のトイレ状態になってしまうんです。僕は小さい頃に動物と触れ合っていたために「仕方がない」と思えますが、それを受け入れられない方々がいるのも分かります。でもその考えが結果として「殺処分」につながっていってしまうのは悲しいことですよね。
病院が地域猫を受け入れてくれない

山本:避妊・去勢手術をさせたり、そのために餌付けをしたりする方は猫を減らそうとしているんです。それを分かっているのといないのとでは、話は変わりますよね。そして減らす活動にどうしても必要なのは、外猫を受け入れてくれる病院の普及だと思いますが、鋪田先生の病院はどうですか?
鋪田:僕が小さい頃、近所でご飯をあげていた野良猫たちが暑い夏に耐えられなくてみんな亡くなってしまって。そういう光景をもう見たくなくて、僕は獣医になりました。2013年に開業したばかりで、まだ「むさしの地域猫の会」から来た猫たちしか受け入れていないのですが、これからどんどん数を増やしていきたいなと思っています。しかし、他の獣医さんに聞くと、外猫はウイルスに感染していたりノミやダニがいたり、怒って触れない場合があったりするためなかなか受け入れにくい所もあるのだそうです。確かに病院に病気を持ち込んでしまうと消毒も大変ですし、他の猫や犬の命にも関わってくる可能性があるため難しい部分も多いのでしょうね。
西村:ちなみに大学とかで野良猫の扱い方などを学んだりできるんですか?
鋪田:動物看護師は捕体の(体を抑える)やり方などは教わりますが、獣医師の場合はまったく学べないです。大学では抑え方や採血も一回の実習があるだけで、あとは実務で覚えるか独学で学ぶという感じです。だから僕自身も猫の扱いについては日々勉強中ですね。かなり慣れてきましたが、最初は噛まれてばかりでした。
山本:海外の話ばかりで恐縮ですが、獣医師の経験を積ませるために、保護団体やシェルターが獣医師の団体と組むという取り組みがあります。実践で経験を積みたい獣医師と、お金のない保護団体やシェルターにはマッチングする要素があるわけです。「スペイ(手術)デイ」や「スペイウィーク」と呼ばれ、特にニューヨークなどでは大規模に一斉捕獲をして、体育館のようなところへ集め、鎮静麻酔を打つ人、毛を刈る人というふうに、ほとんど流れ作業で避妊・去勢手術をさせています。実際に手術をするのは経験の少ない獣医師ですが、その後ろにボランティアで現役の獣医師がついています。獣医師にとっては修行なわけですから、もちろんお金はとらないわけです。こういった事例も参考になるのではと思います。
ただ、実際に獣医師さんを変えるのは地域住民の皆さんで、皆さんが「外猫も診てあげてください」と声を上げることが必要です。私たちのような活動団体が病院に出張っていくより、実際に利用している方が声を上げていただいた方が、効果的だと思います。
行政レベルでは、殺処分はいつでも止められる
西村:最近では毎日のように「殺処分をゼロにしよう」というニュースが耳に入ってきますが、今の日本の殺処分の現状については意外と知られていないですよね。私も含め殺処分のニュースが嫌で、あえて見ないようにしている人が多いと思います。
山本:殺処分数というのはそもそも行政機関での処分数のことを指しています。ですから、道端で亡くなってしまった子たちの数を表しているわけではないんです。極論を言えば、保健所や動物愛護相談センターの受け入れを止めると、行政上での殺処分はゼロにできるわけですよ。そして行政で殺処分している動物たちの内訳は、小さい子猫、負傷している猫、飼えなくなったと飼い主さんが持ち込む犬猫です。ピーク時では一つの施設に何百匹も犬猫がいることもあります。行政や警察に持っていけばいいんだと思っていては、猫の生存確率も上がりません。町のゴミ問題や住民問題と同じレベルで、町内会に「地域猫担当セクション」を作ればいいと思うんですよ。

山本:よく海外のインディーズメディアから取材をいただくのですが、「日本人は猫好きですよね」と言われます。招き猫がいて、猫グッズがすごく売れて、猫カフェがあるからなのだそうです。しかし次に、「どうしてこんなに猫が殺されてるの?」と聞かれます。これには大変、答えに窮しますが、わざわざ殺さない方法があったら日本人はそちらを選ぶのではないでしょうか。武蔵野市では、地域猫の状態はかなりいい状態に改善されつつあるんですよね?
西村:そうなんです。市役所に確認しましたら、一昨年度、武蔵野市から動物愛護センターに持ち込まれた猫の数は、負傷収容を除いてゼロでした。ちょうど避妊・去勢手術の活動と子猫の保護を積極的に進めはじめていた時期だったので、その結果が出たのかなと思い嬉しかったですね。もし子猫を拾ってしまったらまず警察に届けようとする人が多いと予想して、警察の方に「猫が届けられたらご連絡ください」とお伝えしていたことも効果的だったと思います。
山本:スマートフォンで「猫 保護」で検索すると上位に出てくる団体さんや、絶対に連絡がつくであろう警察はファーストコンタクト先になると思います。そのファーストコンタクト先がいくばくかの知識を持っていると良いですよね。子猫の保護は警察の業務ではありませんが、非常に猫好きのおまわりさんがいれば、署内で里親を探すなんてことがあります。一方で、法律上では動物を「モノ」として扱っている現状もあります。でも助けを求めている猫がいる場合、放っておくのは危ないので、柔軟な対応をしていただきたいなと思いますね。
現状を打破するためには「インターネット」が必要

西村:「むさしの地域猫の会」ができてから10年経ちましたが、吉祥寺駅前の繁華街や井の頭公園にいた猫がだいぶ少なくなったと思っているんです。それはこの10年間での地道な努力の成果ですが、全国的に見るとどうなのでしょうか。
山本:地域猫という言葉は環境省も使っていて馴染みのある言葉になってきましたし、東京の各自治体では地域猫の活動をしているところが多いので、状況が良くなっていると思いがちです。しかし、地方からのメールや電話では、「何をしたらいいかわからない」「役所が取り合ってくれない」「地域にそういう雰囲気はない」といった相談から、「地域猫ってなに?」という疑問まで言われます。なかなか進んでいないのが現状ですね。
そして東京では、外猫の避妊・去勢手術を補助してくれる助成金のシステムがありますが、蓋を開けてみると23区内で金額がバラバラなんですね。助成金の額もやり方も区によって違うので、区境に住んでいる方は猫を越境させる場合もあります。助成金が多く出てても病院の価格が高ければ、助成金が少なくても価格の低い病院のほうが負担にならないという話もあります。助成金や動物病院の値段の可視化もしていきたいですね。
西村:動物病院の料金って本当にバラバラなのに、可視化できますかね?
山本:情報が可視化されたら、利用者はサービスの比較を始めて動物病院側も要望にもっと答えやすくなります。地域猫活動をやるやらないに関わらず、スマートフォンでいいのでインターネットに触れることは、さまざまなコストを削減するためにも非常に重要だと思っています。
私たちが起こすべき行動とは?
西村:このような現状から、どのように行動していくかが大事になってきますよね。たとえば山本さんは活動家ですし、鋪田先生は獣医として日々猫を助けていらっしゃいます。しかしそうではない方たちが「殺処分をなくしたい」と思ったとき、「どういう行動を起こせばいいのか」とよく相談を受けるんです。山本:「やらないよりはやった方がいい」という考え方はとても大事じゃないかと思います。具体的には「今日このイベントに行ってこういう話を聞いたの」と友達に伝えるだけでもいいんです。家族や友達に動物や動物愛護の話をして、「なんだかよく分からない」じゃなくて「じゃあどうしたらいい?」とか「こっちの方が効率よくない?」と議論できたらいいですよね。
猫の保護活動を続ける上で、効率や費用対効果という言葉を使うとすぐ「ビジネスだ」と言われますが、お金がないとやってられませんよね。10匹助かるのか100匹助かるのかを考えると、普通に皆さんは100匹助かる方を選ぶわけで、主義主張ではなく方法論を考えていかなければいけないんです。

当日は猫アイテムに関するワークショップも開かれました。こういった経験がきっかけで地域猫に触れるのも一つの方法でしょう
地域猫や野良猫の存在は知っていても、もし実際に遭遇したときにどうすればいいのか分からない人も少なくないでしょう。しかし私たちが少しでも理解しようとしたり、他の人に伝えたりする姿勢をとるだけで救われる命もあると考えると、他人事ではいられません。殺処分や動物愛護の現状を「よく分からない」で終わらせるのではなく、どのような態度をとれるか実践していくことを考えていくことが重要なのですね。
今回のトークセッションに登壇していた東京キャットガーディアンでは、「足りないのは愛情ではなくシステムです」をコンセプトに、さまざまな取り組みを行っています。猫に関する相談を24時間電話で受け付けてくれる「ねこねこ110番」というサービスもあるので、もし困ったことがあったときに参考にしてみてください。