猫カフェの営業時間の規制は? 弁護士が語る「規制のあり方」

猫カフェの営業時間の規制は? 弁護士が語る「規制のあり方」

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12日(土)、都内でペット法学会のシンポジウム「動物愛護法と科学的知見」が開催され、渋谷総合法律事務所の渋谷寛弁護士が「夜間展示の科学的知見」というテーマで、規制に至った経緯を法律的な観点から説明しました。

夜間展示の規制とは

夜間展示の規制はペットショップや動物園、猫カフェなどの動物取扱業者を対象にしたもので、主に午後8時から翌午前8時までの展示について議論されています。

2011年12月に環境省の検討会から、「動物の生態・生理(昼行性等)を配慮し、特に犬や猫の幼齢個体については深夜展示による休息時間の不足、不適切な生活サイクルの強要等によるストレスを考慮して規制する必要があり、社会通念や国民の動物に対する愛情感情への侵害を考慮すると午後8時以降の生体展示は禁止すべきである」という趣旨の報告が出されました。

これにより、2012年6月1日から「動物の愛護及び管理に関する法律施行規則」と「動物取扱業者が遵守すべき動物の管理の方法等の細目」の一部が改正され、販売業者と貸出業者、展示業者は午後8時から午前8時まで、犬猫の展示を行うことを禁止とし、夜間に飼養施設へ顧客や見学者が立ち入らないようにすることなどが規定されました。


しかし、この夜間展示規制に対して猫カフェ(猫が自由に移動できる状態で屋内展示を行う事業者)から、
  • 仕事帰りの利用客が多く、夜間の展示が禁止された場合、営業に著しい支障が生じる。
  • 午後8時以降「カフェ」として営業するため、猫をケージ等に入れた場合、猫が活発に活動する時間帯に狭い場所に閉じ込めることになり、逆に猫のストレスが増加する。

といった意見が出るとともに、2012年4月16日に行われた環境省の動物愛護部会でも、
  • もともとペットショップを想定していたため猫カフェについての議論が十分ではなかったこと
  • 猫カフェについての情報が少なく、すぐに結論を出すのが難しいこと
といった意見が出たため、改正規則の施行前に改めて、猫カフェにおいては午後10時まで展示が可能となりました(ただし、十分な睡眠を要する1歳未満の幼猫は適用外)。
参照:成猫の夜間展示について(環境省)

次のページで渋谷弁護士による法律的な観点からの見解を、ペット法学会の発言を抜粋する形で紹介します。


弁護士が語る規制の流れ

渋谷弁護士が話す夜間展示

最初「夜間展示」とイメージされているのはペットショップでした。ペットショップで夜間や深夜に営業されていることが動物たちにとって好ましくないということで、法律を改正する体勢になっていました。しかし改正するまでもなく、環境省が制定している規則を変えることで規制することができるんじゃないかという話の運びになりました。

規則は法律とは違います。そもそも法律は衆議院と参議院の両方で可決されてから制定されるわけですけれども、規則というのは国会の決議なくして行政によって作れてしまうものなんですね。そして2012年度、法改正に先行して規則を変えました。このことによってペットショップは午前8時から午後8時までの営業になったのです。

そうすると販売目的ではない展示の営業、つまり猫カフェやうさぎカフェなどを含めた店舗も営業時間の規制対象になりました。すると、特に猫カフェの業界から反対の声が出てきた。そこで、規制を施行する前に審議を重ね、「猫カフェについてだけは午後10時まで営業を認めましょう」ということを、2年間限定で「規則の付則」としたわけです。

しかしその当時はいわゆる「自然科学的な検討」がなされていませんでした。施行してから2年経過した2014年にもう一度議論したとき、やっと自然科学的な知見という観点からもデータが出てきたのです。そのときに午後8時と午後10時の猫の状態を比べても差がない、むしろ午後10時の方がストレスを感じていないのではないかという意見が出ました。そしてこの付則がとりあえず2年間延長されて今年を迎え、そしてついに規則自体が改正されました。つまり今回の規則改正で、付則であったものを公則の条文の中に入れたということなんです。

時間短縮は逆に猫のストレスになる?

そもそもなぜ夜間展示を規制しようとする動きがあったのかお話しします。代表的な規制の理由というと、「ペットショップの狭いケージに入れていること」「人の出入りが激しいところに置かれて動物たちが落ち着けないこと」「夜になってもライトで明るくしていること」「繁華街で売っているため衝動買いの弊害があること」などが挙げられていました。

では猫カフェなどの施設に同じ理由が当てはまるかというと、ちょっと違うと思うんです。猫カフェでは猫が割と自由にしていて、利用する方の憩いの場所があって、出入りするのが特定の少人数(利用料を払ったお客さん)です。それから猫は夜行性が残っているので夜は活発に動き、昼間はむしろ寝ていることが多い。営業時間を短縮しすぎてしまうと、時間外の猫は結局ケージに入れられてしまいますから、逆にストレスがかかってしまうのではないかという意見もあったわけです。

規則や法律は「営業の自由」を侵害する?

そもそも動物愛護管理法21条の1項で、「第一種動物取扱業者は、動物の健康及び安全を保持するとともに、生活環境の保全上の支障が生ずることを防止するため、その取り扱う動物の管理の方法等に関し環境省令で定める基準を遵守しなければならない」と書いてあります。この法律に基づいて環境省は基準を作ることができるので、規則はこの法律に違反してはいけない。そしてこの法律自体も日本国憲法のもとにあるわけですから、憲法に違反してはいけないのです。

私が一番危惧しているのは、本来自由であるべきの営業に対して規制を加えてしまうと、憲法で保障されている「営業の自由」を侵害してしまうのではないかということです。仮に違憲訴訟が起きたとき、動物愛護といった観点から法廷が判断してくれるのでしょうか。一度でも「違憲だ」という判決が出てしまうと、これからの(動物愛護の)活動に困難が起きてしまうのではないでしょうか。今回の規則改正に関して、こういった考え方も必要だと思っています。

「ドイツ連邦共和国基本法」では動物を国家が保護する旨の条文がありますが、日本国憲法の中には「動物」という言葉が全く出てこないんです。だから「営業の自由」に対立する権利についても、利益考慮するものが憲法上出てこないんです。裁判所が合憲性を判断する基準の一つとしては、「立法事実」の有無があります。立法事実というのは「法律を制定する場合の基礎を形成し、かつその合理性を支える一般的事実、すなわち社会的・経済的・政治的・もしくは科学的事実」というもので、つまり法に合理性があるかないかということです。

科学的に午後8時と午後10時の差は無かった

渋谷弁護士が話すの夜間展示

この立法事実について、「科学的知見は不要だ」という考え方も存在します。自然科学は日々進歩しているわけですが、絶対に正しいというわけではありません。いろんな意味で間違っている可能性は残っていますし、いろんな人がまるっきり違う意見を述べることもあります。そういう観点から「科学的知見は入れるべきではないのではないか」という意見もありますが、動物愛護管理法に関しては考え方が人によってずいぶん違うところがあるので、「科学的知見は参考資料の一つとして利用する価値がある」と私は思っています。

そして今回の猫カフェなどの施設の規則改正については、「コルチゾール」というホルモンの濃度を調べる研究が科学的知見であると思います。コルチゾールとは副腎皮質で生産されるステロイドホルモンの一つで、 主にストレスと低血糖に反応して分泌されるものです。この濃度を調べることで猫がどれだけストレスを感じているのか測ることができるのですが、今回の規則改正の前には、実験のサンプルを大幅に増やしたことで活用することができました。実験の結果として、午後8時までの営業と午後10時までの営業ではコルチゾール濃度に差はなかったんですね。だから午後10時まで営業時間を延長することの理由付けになったのです。

これから起こりうる議論として、たとえば「午後11時まで延長を認めてもいいじゃないか」というものがあります。また、「猫カフェだけでなく他の動物の同じような営業形態の施設に関してはどう対応すべきか」という議論もあります。それらの点に関しては何も調査など行われていないため、参考資料として、知見をもっと揃えた方がいいのではないかと思います。