
犬猫の8週齢規制とは? ペット心理行動カウンセラーが解説
どのように犬猫を管理するかが一番の問題――11月12日(土)に都内で開催されたペット法学会のシンポジウム「動物愛護法と科学的知見」で、ペット心理行動カウンセラーの佐藤えり奈先生が「犬猫の8週齢規制」をテーマに、8週齢規制の課題と必要性や、犬猫を飼養する上で重要なことを説明しました。
「8週齢規制」とは何か
8週齢規制とは、「生後56日が経過しない犬猫については販売、そして展示はしてはいけない」という規制で、2013年9月に改正された動物愛護管理法で明記されたものの、附則で「平成28年8月までの3年間は制限月齢を生後45日とし、その後新たに法律で定めるまでの間は生後49日とする」とされたため、実際の運用は行われていません。しかし札幌市のみ、2016年10月1日から「56日(8週齢)」とはっきり定めています。フランスには「8週齢に満たない犬猫の販売をしてはいけない」と法律で規定があり、アメリカ、ドイツ、イギリスでも州や犬のみなど条件が異なりますが、同様の規定があります(※)。では「8週齢」という具体的な期間を定められた理由は何でしょうか。8週齢というのは、犬猫が犬猫らしく成長・行動できるように、身体ともに精神的に「社会化」するという観点で重要視されている数字です。佐藤先生は、犬猫が成長していく過程で見られる4種類の発達ステージ(新生子期、移行期、社会化期、若年期)を紹介し、どのステージでどのように犬猫の身体や精神が成長するのかを説明しました。
※編集注:アメリカでは連邦規則で「最低生後8週間以上および離乳済みの犬猫でない限り商業目的のために輸送または仲介業者に渡されてはならず、または何者によっても商業目的のために輸送されてはならない」(環境省資料より)とされていますが、全ての州が州法で明確に規定しているわけではなく、カリフォルニア州、フロリダ州、ニューヨーク州などに限られます。詳細はミシガン州立大学の資料『Table of State Laws Concerning Minimum Age for Sale of Puppies』をご覧ください。ドイツ・イギリスは犬のみの規定となります。ドイツについては『Tierschutz-Hundeverordnung』、イギリスについては『Breeding and Sale of Dogs (Welfare) Act 1999』、フランスについては『Code rural et de la pêche maritime - Article L214-8』をご覧ください。
※記事初出時、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランスには「8週齢に満たない犬猫の販売、展示をしてはいけない」という法律があると記述していましたが、地域や動物種によって違いがありますので、より正確な情報になるよう本文の修正と補足を行いました。(2018/04/12 10:00)
犬猫の成長に関わる四つのステージ

犬猫の新生子期
佐藤先生によると、犬の方が猫よりも発達が遅いことが多く、猫の場合は生まれてから1週齢、犬は生まれてから2週齢頃です。この時期の犬猫は視覚・聴覚などが未発達なので、少しの嗅覚を持つだけで、母親に依存した状態です。起きているときと寝ているときの脳波にはほとんど大差はありませんが、この時期に人によって触られたり、周りの光や温度を変えたりなど軽度のストレスを与えられた場合は、より早く成熟するそうです。成熟した犬猫は、何か問題に直面したときの解決能力にたけています。目に見える形では、早く毛がふさふさになったり、早く目が開いたり、動きが活発であったりなど、すでに新生子期から成長具合の差が現れてくるのです。
犬猫の移行期
犬猫ともに2〜3週齢だと言われているのだそうです。この時期は目が見え、耳が聞こえはじめ、犬の行動レパートリーが劇的に変わります。また、助け無しで排泄をコントロールできるようになります。兄弟喧嘩をして遊びはじめることもあります。犬猫の社会化期
社会化期、猫の場合生後3〜8週齢、犬では生後3〜16週齢と、時期に大きな差があります。一般的な目安として週齢が決められていますが、それ以降も社会化は可能です。犬猫の若年期
13週齢以降の成熟した時期は、若年期と言われています。性成熟する時期でもあり、繁殖が可能になります。ただ、精神的成長は続いているので、人間でいう「成人する」というのは移行してから1年半〜2年かかると言われています。なお、これら四つのステージを経る間に、離乳期もあります。だいたい4週齢の頃から離乳の過程が始まり、7〜9週齢の頃にはほぼ完全に離乳すると言われています。離乳というのは犬猫の成長過程でとても大切なことで、アメリカの法律だと「8週齢もしくは離乳を完全に終えていない個体を販売してはいけない」と定められているほどです。
母犬から離された6週齢と12週齢のジャーマンシェパードの子犬を比較した実験では、6週齢で母犬から離された子犬には食欲の減退、体重の減少、病気への感染のしやすいという結果が出ました。ドッグカウンセラーとして犬の問題行動を見てきた佐藤先生は、「上記のような問題を抱えている犬は、ペットショップから来ていることが少なくない」と言います。過剰に吠えたり噛み癖があったりなどの問題行動は、子犬のときだけではなく大人になっても見られるそうです。
「しつけ」と「社会化」は違う?

犬猫の成長ステージに「社会化期」がありましたが、「社会化」というものは具体的にどういった状態のことをいうのでしょうか。佐藤先生が飼い主の方に「社会化という言葉を知っていますか?」と聞くと、皆さん「はい、知っています」と答えるそうですが、「社会化」と「しつけ」の違いをはっきりとわかっている方は非常に少ないそうです。
佐藤先生によると、「しつけ」というのは年齢問わずに実施可能で、私たちが犬にとってほしい行動、たとえばコマンド(お座り・伏せ・待てなど)などを指すそうです。あとは何か問題行動が起こってしまったときにその行動を直すといった行為も「しつけ」と呼ばれるものです。
一方で、「『社会化』は『しつけ』とは全く違う」と佐藤先生は言います。まず社会化には、12週齢頃から生後3カ月もしくは4カ月半くらいまで、といった特定の時期があります。自動車や自転車の音など、慣れていない物や音に対して吠えたり異常に興奮したりするなど将来の問題行動につながったり、犬の性格が決まってしまったりする重要な時期です。
このことを発見したFreedmanの実験によると、2、3、5、7、9、14週齢の子犬を1週間、毎日「触る」などの刺激を与えるようにし、その子の人との接触の仕方を観察したところ、2、3、5、7、9週齢の子は人に近寄る行動があったものの、14週齢の子は人との接触を完璧に避ける行動をとったそうです。決められた時期に社会化を行うことが重要性なのです。
ただ、犬種や猫種によって社会化の時期は異なります。基本的に小型犬の方が成長が早く、大型犬の方が成長が遅いと言われていますが、ジャーマンシェパードもラブラドールレトリーバーもどちらも大型犬は優しい性格が多い!? 人気犬種ランキングや基準、寿命について解説ですが、シェパードだと約5週齢、ラブラドールだと約10週齢と、時期が2倍も違うという結果が出ています。「社会化は絶対に、猫の場合3〜8週齢、犬では3〜12週齢」と断定することはできません。
「8週齢」を遵守するだけで問題は解決するか

「絶対に8週齢を遵守した上で、展示および販売をすべきだ」と主張する方もいますが、本当に8週齢を守ることが重要なのでしょうか。佐藤先生は、「7週齢なのか7.5週齢なのか8週齢なのかはそんなに変わらないと思う。いつから販売可能にするかということだけではなくて、どのように犬猫を管理するかというのが一番の問題」だと話します。
重要なのは、犬猫を迎え入れた飼い主がどのように接するかです。日本ではペットを飼いたい人はすごく多いにもかかわらず、しつけ・社会化の重要性をきちんと理解している人が、アメリカやイギリスに比べて少ないのが現状です。佐藤先生が飼い主から受けた相談で多いのは「排泄問題」だと言います。これはペットショップでの扱われ方に問題があり、多くの店舗では1匹ずつケージに入れられ、与えられたスペースが狭いため排泄場所と寝床が一緒になっています。そのため、いつまでたってもトイレを覚えることができない犬猫が多いのだそうです。
次に多い相談が「じゃれ噛み」で、犬にとっては遊んでいるつもりでも、噛み加減を分かってないが故に出血するまで噛んでしまうというケースが挙げられます。犬猫は4〜7週齢ぐらいになると兄弟たちと遊ぶようになり、この間に適度な遊び方を学ぶとされていますが、兄弟たちと遊ぶ時間をとってもらえなかった犬猫たちは、適切な噛む強度が分からないという問題を抱えてしまうのです。

当たり前ですが、単純に「8週齢が守られていればどんな飼養環境でもいい」というわけではなく、「8週齢まで適切な環境で育てられる」ことが非常に重要です。佐藤先生は最後に、「『いつ引き渡すか』よりも、母親・兄弟と一緒に過ごせる環境を作っていること。清潔な環境で自由に動き回れること。精神的に刺激のある環境を作れることなど、さまざまな経験をさせることが重要です」と話し、セッションを締めくくりました。