セカオワのファンがボランティアに来てくれたのが嬉しい ピースワンコ・大西純子さんインタビュー(2)

セカオワのファンがボランティアに来てくれたのが嬉しい ピースワンコ・大西純子さんインタビュー(2)

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ピースワンコ・ジャパンの大西純子さんにピースワンコの取り組みやご自身の想いについてお話を聞く第2回は、SEKAI NO OWARIとの連携や教育への考え方について紹介します。

広島県の犬猫殺処分ゼロ達成に大きな役割を果たし、全国へ活動の幅を広げるピースワンコ・ジャパン。最近では4人組バンド「SEKAI NO OWARI」や元広島カープでドジャース投手の前田健太選手など、著名人との連携でも知られるようになってきました。そのプロジェクトリーダーを務めるのが、大西純子さんです。今回、大西さんにピースワンコの取り組みやご自身の想いについてお話を聞くことができました。

第2回は、SEKAI NO OWARIとの連携や教育への考え方について紹介します。

ピースワンコ・ジャパン 大西純子プロジェクトリーダー


何となくでいい。知ってもらえるだけで、何かが変わる

動物殺処分ゼロプロジェクトの支援シングル曲『Hey Ho』

Q. 今回の取り組みはSEKAI NO OWARIからお話しがあったそうですね。

そうなんです。「なんで彼らがピースワンコに!?」と驚きでしたね。それで広島でライブがあった日に私たちの施設に来てくれて話してみたんですが、本当に素直な人たちというか、すごいストレートなんですね。ただ「かわいそうだから何とかしなくちゃ」という感情的なことでもないし、「自分たちは有名人だからこういうことをしなくちゃ」という責任感でもない。Fukase君は、「目の前の人が転んで、『大丈夫ですか?』って声を掛けて、手を差し伸べて起こしてあげるっていう感覚と同じ。命を奪われそうな犬がいて、それを助けたいと思っている人がいる。『じゃあ僕に何ができるかな?』って思って手を差し出した」って言うんです。

「自分たちが(ピースワンコを)応援してるからって、ファンのみんなにも強制して応援してもらいたいっていうことではなくて、そういう問題があるということを知ってもらえたら、きっと何かがみんなの中で変わっていくんじゃないかな」って話していて、確かにそうだなって思いました。

Q. プロジェクトが始まってから変化はありましたか?

彼らから聞いた話ですが、彼らがやっているラジオにリスナーの子が電話をして、「私は福山市(広島県)に住んでいて、セカオワが支援しているピースワンコの施設がこんな近いところにあるなんて知らなかった」と話してくれて(※ピースワンコの施設は福山市の北に接する神石高原町にあります)、しかもボランティアとして参加もしてくれたそうなんです。私はその子に会えていないんですけど、そう言えば最近、若い子がボランティアに来ているなって不思議に思ってたんですが、「そういうことか!」と。実際にボランティアしに来てくれるというのは、やっぱり嬉しいですね。

Q. みんなボランティアに関わるべきだと思いますか?

いえ、私たちピースワンコもSEKAI NO OWARIと同じ考えで、「何がなんでも殺される命を救わなくちゃ」って感情的に、がむしゃらにみんなを巻き込んでいきたいわけではありません。知ってくれた人が応援してくれればいいなっていうスタンスです。必死に応援していただける人ばかりじゃなくても、「何となく犬が好きだから」とか、「何となくお散歩を手伝ってみようと思った」とか、SNSで流れてきて知ったから「シェアしよう」とか、それだけでもいいんです。必死に救うことは私たちがやります。ただそれに関心を示してもらえるだけでもいいんです。それで、いい動きができてくるんじゃないかなって思っています。

「何かおかしくない?」と思える社会にしないといけない

Q. SEKAI NO OWARIもそうですが、最近になって動物の問題に関心を持つ人が増えているように思います。

そうですね。ようやく皆さん「それおかしいよね?」って気付いてくれるようになりました。1973年に現在の動物愛護管理法ができて、その法律にのっとって各都道府県に愛護センターができて、当たり前のように飼い主が「いらない」と言った犬や野良犬が回収されて、当たり前のように命が奪われていく。当たり前になっていることに対して、「あれ、それちょっとおかしくない?」って考える風潮がもうそろそろ来ないといけないんじゃないかなと思っています。

もともとピースウィンズは紛争地域での難民支援をしています。紛争地域には、命からがら避難してきた難民がたくさんいて、生活をすることに困っている人がいる。だから支援しに行くわけです。ピースワンコは、命を奪われそうな動物がたくさんいるから、「それっておかしくない?」と考えて支援しに行きます。人を支援するのと、動物を支援するのは、私たちにとって何ら変わらないことです。

ピースウィンズジャパン

Q. 社会問題はいろいろあると思いますが、動物のことを始めたことで気付いたことはありますか?

動物のことをやり始めて、本当にいろんなことにつながっているなと思うんですが、教育もそうです。教科書に犬や猫のことが出てこないことに気付いていましたか? スイスやドイツの教科書には出てくるんですよ。別に犬の解剖をするわけではないんですけど、身近な生き物である犬の骨格標本を見たり生態学・行動学んだり、私たち人間と犬は何が違うのかって知るくらいは、あってもいいんじゃないかって思います。

あと最近は、学校に飼育動物がいなくなっているんです。ウサギも、ニワトリもいない。どんどん動物と遠ざかっているんです。それでみんな動物園に行くんですけど、触れる機会もないまま「展示」されている動物を見て、「それでいいのか?」とも思います。

私はスイスのバーゼルの動物園と、ドイツのベルリンの動物園に行ったことがあるんですけど、動物が簡単には見えないんです。オオカミを展示しているところに行くと森がちゃんとあるんですけど、1時間くらいそこに座って一生懸命探しましたが、見えない。日本の動物園で動物を間近に見られる展示をしているところがありますが、動物から見たときのことを考えると、何か食べているとき目の前のガラス越しに急に人の顔が出てきたらどれだけ恐ろしいことでしょう。日本はある程度の経済成長はしましたが、そういうことを「何かおかしくない?」って思えるような社会にしていかないと。今の社会からもう一歩先に行くということを考えると、「何かおかしくない?」って考えられることが必要なんじゃないかと思います。

Q. 教育の面でSEKAI NO OWARIとの連携は考えていますか?

そうですね。次に会ったら提案してみようかなと思っているのは、彼らのファン、あるいは彼らの曲が好きだという人たちに、保護活動や犬のことを知ってもらう楽しいイベント的で、しかも犬や猫のことを学べる教育プログラムができたらいいなということです。そういうことが常時できるような施設が、彼らと一緒に集めたお金でできればいいなと思いますね。

犬猫について勉強する機会が一度くらいあってもいい

Q. 「学ぶこと」について、海外の事例を教えてください。

私は犬のことをスイスとドイツで習ってきたんですが、スイスやドイツでは、小さな頃から一番身近な動物である犬や猫のことをちゃんと学ぶ教育を受けるんですね。そこが一番大事で、日本の子どもたちって残念なことに、犬と自分は動物としてどう違うのかとか、知る機会が全く無いまま育ってしまっています。今の子どもたちってマンション暮らしの子が多いので、大人になるまで犬や猫を見ることが無いとか、ペットショップでしか犬や猫を見ることが無いという子が少なくないと思います。触ったこともないから、どう触っていいのかわからない。だから、私は教育から変えていきたいと思っています。

いつも車の運転に例えてお話しするんですが、車は操作の仕方や仕組みを知っていれば安全で、自分の行動範囲を広げてくれて、とても便利な乗り物です。でも一つ操作を誤ったり、日頃のメンテナンスをおろそかにしたりすれば、事故を起こして大変なことになってしまいます。だから運転免許が必要なんですよね。

飼い主免許を発行することが良いかどうかはわからないですけど、そういう仕組みがあってもいいとは思います。人が犬や猫について一生懸命、勉強する機会が一生に一度くらいあってもいいんじゃないかなって思いますね。

Q. そもそも学べる場所が少ないのではないでしょうか。

そうなんです。教えられる人が少ない。私もこの5年間でペット業界の方々、訓練士さんとかトレーナーさんとかとお会いしましたが、ドイツやスイスの一般の飼い主さんが知っているようなことが日本では知られていないこともありました。

広島のピースワンコに働きに来てくれる若いスタッフたちも動物系の専門学校を卒業した子たちなんですね。私は2年も動物のことを勉強していたら、私よりもよく知っているだろうと思ってたんですが、いざ入ってきてもらうと、知っていることが「広く浅く」ならまだいいんですけど、「狭く浅く」という状態で。だからうちのスタッフは入ったらすぐ、1カ月みっちり研修です。座学を中心にやります。

Q. 海外の情報がなかなか入ってこないことも課題としてありそうです。

皆さん語学に堪能になりましょう(笑)。私もまだまだですが、ドイツ語などほかの国の事情もきちんと読んで理解することも重要だと思います。ドイツ語が英訳されたものを日本語訳すると、絶対に訳した人たちのニュアンスが入ってしまうので、情報が曲がってしまうんです。

ピースワンコは今年から「ピースワンコPRODOGスクール」という、犬の飼養に関することを専門的に学べる学校を始めたのですが、その生徒たちは来年2月にドイツに行くことになっています。自分の肌で感じてきてもらう。本当に百聞は一見にしかずです。


Q. いまだに「欧米には生体販売をするペットショップが無い」という誤解も見られます。

私もネットで見ました。「ドイツではペットショップでの生体販売が禁止されている」といった話ですね。そんなことはないです。唯一1件、生体販売をしているペットショップがあります。私は実際に「Zoo Zajac」(ツォー・ザヤック)というペットショップに行ってきました。そこは例えるなら、このT-SITE全部がペットショップというくらいの広さで、犬1匹に対して与えられている広さも広い。ドイツには犬を飼養する際に犬に与えるスペースの数値基準があって、街中にある普通のペットショップがその環境を整えるのは無理です。それだけのことなんです。

「Zoo Zajac」はヨーロッパでも生体販売をするなと叩かれているんですけど、社長さんのお話を聞くと、本当に犬のことを第一に考えているというのがわかります。犬が疲れていたらお客さんは見せてもらえないですし、そもそも展示用の部屋に犬がほとんどいません。なぜなら外のドッグランにいたり、お散歩していたり。お昼寝している時も見えないように隠されています。年齢も3カ月から半年くらいで、日本のペットショップではありえない大きさの子たちです。働いているスタッフは動物飼養士という国家資格を持った人たちなので、飼いたいと思っている人たちにきちんと説明をして、勉強してもらいます。


殺処分を無くすためには、何と言っても教育だと思うんです。愛護センターに保護された犬すべてを引き取ればもちろん殺処分は無くなるんですけど、それでいいのかという問題があります。愛護センターに犬たちが保護されるのは、犬を扱えない飼い主が手放してしまったことが一因としてあります。やっぱり何より、大人も子どもも教育が重要だと感じています。