犬の膀胱炎|症状・原因・かかりやすい犬種や年代・治療法・予防法について腎泌尿器専門獣医師が解説

犬の膀胱炎|症状・原因・かかりやすい犬種や年代・治療法・予防法について腎泌尿器専門獣医師が解説

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犬の膀胱炎はよく遭遇する病気であり、多くの場合で細菌感染症が主体です。特にメス犬では発症が多く、オス犬では難治性だったり、再発性であったりすることが多くあります。今回は犬の膀胱炎について日本獣医生命科学大学 臨床獣医学部門 治療学分野I・講師で獣医師の宮川が解説します。

犬の細菌性膀胱炎とは

犬の泌尿器の疾患(膀胱や尿道)は70%が細菌性膀胱炎です。細菌が膀胱内に侵入し、そこで増殖することで感染が成立します。感染によって炎症反応が生じ、頻尿や血尿といった症状を生じます。犬では、細菌性膀胱炎が尿石症の原因となることもあります。

膀胱炎にかかりやすい犬種・年代

膀胱炎にかかりやすい犬種として、ジャーマンシェパード、トイプードル、ラブラドールレトリーバー、ダックスフンド、ドーベルマン、ミニチュアシュナウザーなどが挙げられます。

かかりやすい犬の平均年齢は7歳ですが、さまざまな年齢で発症します。

犬の膀胱炎の症状

血尿や頻尿、有痛性排尿困難(膀胱が収縮するときに痛くて、少量しか排尿しない)、または排尿障害(排尿できない)、不適切な場所での排尿(トイレや決められた場所以外で排尿してしまう)、失禁などが挙げられますが、細菌性膀胱炎の80%の犬は症状を示しません。

犬の膀胱炎と症状の似た病気・合併症

細菌が膀胱から腎臓へ移動してしまうことで腎盂腎炎(じんうじんえん)を起こすことがあります。

犬の膀胱炎の原因

犬の膀胱炎の原因として以下の疾患や理由が挙げられます。

  • 単純性膀胱炎:単発的に細菌が膣から尿道、膀胱に侵入して感染します。
  • 糖尿病:免疫力の低下や尿糖のため、細菌が増殖しやすくなります。
  • 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群):免疫力が低下し、尿が薄くなるため細菌が増殖しやすくなります。
  • 慢性腎臓病:免疫力が低下し、尿が薄くなるため細菌が増殖しやすくなります。
  • 膀胱のガン
  • 尿石症:犬では尿石の核が細菌の温床であることがあります。
  • 採尿のための尿道カテーテルの挿入(医療行為に起因する、いわゆる医原性)
  • 膀胱、尿道、膣の構造に生まれつき異常がある:膀胱構造異常や尿道が短い、外陰部が皮膚で覆われて尿が付着して炎症を起こすなど(以下写真)。

難治性の細菌性膀胱炎を発症しているバーニーズマウンテンドッグ(避妊雌、1歳)の外陰部の写真
写真:難治性の細菌性膀胱炎を発症しているバーニーズマウンテンドッグ(避妊雌、1歳)の外陰部



外陰部を覆う皮膚が多く埋もれるようになっており、尿が付着して常に湿潤状態です(写真右)。剃毛して皮膚をめくると、皮膚炎を起こして赤くなっています。これが皮膚の常在菌叢を壊し、大腸菌といった膀胱炎の原因となる細菌の温床となります。

犬の膀胱炎の検査・診断方法

感染症を証明するには当然のことながら尿検査が必須です。持続する難治性の膀胱炎の場合は必ず画像検査を受け、膀胱内の異常の有無を評価します。細菌性膀胱炎であれば必ず尿の細菌培養検査を受け、何の細菌が感染していて、どの抗菌薬が効果を示すかを調べてもらいましょう(闇雲な抗菌薬の投与は抗菌薬に対して耐性を持つ菌を増やすだけです)。

犬の膀胱炎の治療法

おしっこをする柴犬

尿培養で適切と判断した抗菌薬を少なくとも2週間服用します。難治性の場合には1カ月間服用します。よく水を摂取させてください(水皿を増やす、こまめに交換する、ウエットフードにするなど)。このことで排尿回数を増やし、細菌を膀胱から排出し、増殖できないようにすることができます。

治療・手術費用の目安

各院の規定によります。

犬の膀胱炎の予後

多くの患者では適切な治療によって膀胱炎の管理は難しくありません。難治性の場合には治療は長期におよび、完全に再発を抑えることは難しいです。糖尿病や副腎皮質機能亢進症といった基礎疾患を持つ犬では細菌性膀胱炎になるリスクが高く、腎臓への細菌の侵入によって腎臓が感染する腎盂腎炎のリスクも高いです。

犬の膀胱炎の予防法

散歩や排尿・排便のたびにきれいに拭くなど、陰部を清潔に保つようにしてください。ただし、消毒液は使わないほうがいいです。

犬の膀胱炎に良い食べ物

クランベリージュースが細菌の増殖を抑制することが知られていますが、犬ではクランベリーエキスを用いたサプリメントでのみ評価されており、クランベリージュースの意義は不明です。

犬の膀胱炎に効くサプリメント

前述の通り、クランベリーエキスを含むサプリメントが挙げられます。筆者が行った研究では、膀胱内に細菌がいた犬の3〜5割で細菌がいなくなりました。


メス犬は特に膀胱炎に注意

犬の細菌性膀胱炎は非常に多い病気で、特にメス犬で起こりやすいです。不適切な抗菌薬の服用は抗菌薬に対する耐性菌を作るだけなので、きちんと尿培養を行い細菌の種類や効く抗菌薬を調べる必要があります。

引用文献