猫殺処分ゼロ達成の先駆け 千代田区と区民が二人三脚で歩んだその道のりとは

猫殺処分ゼロ達成の先駆け 千代田区と区民が二人三脚で歩んだその道のりとは

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全国の市区町村で初めて猫の殺処分ゼロを達成した東京・千代田区。今年2月に千代田区役所で開催されたチャリティーイベント「ちよだ猫まつり2017」で、千代田区と共に猫の保護活動に取り組んできた一般社団法人「ちよだニャンとなる会」が「猫の殺処分ゼロ6年目 『千代田モデル』を語る」と題したトークセッションを行いました。登壇したのは、ちよだニャンとなる会の副代表理事を務め、フリージャーナリストとしても活動している香取章子さん。今回はその様子をレポートします。

なお、今回の「ちよだ猫まつり2017」は小池百合子東京都知事も訪れたことで話題になり、「千代田モデルをベースに東京都全体で殺処分ゼロを目指していく」と決意を語っています。

「飼い主のいない猫」の現状

香取さんがトークセッションの始めに話したのは、戸外で暮らす人の保護下にない猫たち、いわゆる「飼い主のいない猫」の現状についてでした。

猫は野生動物ではなく、人に飼育されるべき動物です。動物愛護管理法でも「愛護動物」に指定されています。それにも関わらず、日本の多くの地域では人の保護下にない猫たちが多く見られます。そんな猫たちはずっと戸外で暮らしています。「野良猫」という名前でも広く知られている存在です。



ちよだ猫まつり2017
香取章子さん(写真左。右の女性は手話通訳者)

しかし、野生動物でない猫たちにとって戸外の環境は非常に過酷なもの。そのような猫たちには、健康状態が良好な猫は多くありません。寒さや暑さ、雨、雪など天候の激変にさらされ、食べ物も自力で見つけなくてはいけません。交通事故に遭ったり、他の猫と喧嘩をしたり、感染症にかかることもあります。常に死と隣り合わせで生きていかなければならないのです。

それにも関わらず、このような猫を増やす原因になる「人による猫の無責任な飼育」は長年にわたって行われ続けてきました。育てきれなくなった猫を意図的に遺棄するだけでなく、不妊去勢手術を行わないまま放し飼いにしたり、外出したまま帰ってこない猫を放置することなどが例に挙げられます。猫は繁殖力が強いため、このようにして戸外に出されてしまうとすぐに繁殖してしまいます。

猫の殺処分ゼロ6年目 「千代田モデル」とは


全国各地で起こっているこのような猫の問題。東京都千代田区も同様の問題に悩まされていました。そこで千代田区が2000年からスタートしたのが、現在「千代田モデル」と呼ばれている、飼い主のいない猫に対する取り組みです。

それまで、千代田区内で見つかった飼い主のいない猫が産んだ子猫と傷病の猫は、東京都動物愛護相談センターに引き取られ殺処分されていました。殺処分されている猫のうち6割は生まれて間もない子猫です。殺処分数削減への鍵は不妊去勢手術であるといわれていますが、千代田区では2000年に「飼い主のいない猫の去勢・不妊手術費助成事業」を開始し、ここからすべての取り組みが始まりました。

飼い主のいない猫の不妊去勢手術に力を入れることを決めた千代田区。しかし、路上で発見した猫に飼い主がいるかいないかを見極め、一時保護して動物病院に連れて行き、手術を受けさせ、手術済みの印として耳先をカットして元の場所に戻すといった一連の作業(これらの作業は、捕獲=Trap・不妊去勢手術=Neuter・元の場所に戻す=Returnを略して「TNR」と呼ばれています)を保健所の職員だけで行うのは非常に難しいことでした。

そこで千代田区は区民・在勤者を対象にボランティアを募集。ここでボランティアグループ「ちよだニャンとなる会」が発足し、千代田区のこの活動に参加するようになりました。行政と区民・在勤者が協働して一つの問題に取り組むスタイルは、この16年前の発足当初からずっと変わらないものだったのです。

ちよだ猫まつり2017の猫写真

この活動をしていく中で重要だったのが、動物病院との連携でした。どんなに猫たちを保護しても、動物病院が受け入れてくれなければ手術はできません。しかし、千代田区とちよだニャンとなる会が一体となって積極的に働き掛けたことや活動の社会的価値も相まって、無事に協力体制を築いていけたそうです。千代田区やちよだニャンとなる会が路上で飼い主のいない猫を発見した場合はもちろん、区民や在勤者から「耳先カットのない、未手術と思われる猫を発見した」と連絡を受けた場合も、現場まで向かって保護。その上で責任を持って病院に運び、手術を受けさせました。これまでに手術を受けさせた猫は2600匹にのぼります。

ただ、再開発などの影響で猫たちが安全に住める場所が減少してきていることを考慮し、現在ではTNRの「R=元の場所に戻すこと」を行うことは極めて少なくなっているのだといいます。多くのケースで、猫を保護して健康状態を良好にし、家庭で暮らせるように人に慣らしてから譲渡先を見つけているとのことですが、ちよだニャンとなる会で保護しきれなくなった猫たちはボランティアの家庭や協力関係にある動物病院に預かられているのだそうです。

ちよだ猫まつり2017のパネル

このような取り組みが功を奏し、取り組みが始まってから11年がたった2011年には、千代田区は全国に先駆けて猫の殺処分ゼロを達成しました。この殺処分ゼロは2017年現在も継続しており、千代田区とちよだニャンとなる会は現在も精力的に問題解決に向けて活動しています。

登壇者の香取さんは最後に「千代田区の事例がモデルケースとして全国に普及し、殺処分が削減されて、動物愛護・動物福祉が推進することを願っております」とコメントし、セッションを締めくくりました。