施設も、ボランティアも限界 「殺処分ゼロ」を掲げる神奈川県動物保護センターの現状


行政で殺処分される犬猫の数が、いまだ8万匹以上(2015年度)いる一方で、「殺処分ゼロ達成」を掲げる自治体や動物愛護センターも出てきました。その一つが神奈川県平塚市にある「神奈川県動物保護センター」です。同センターは横浜市、川崎市、相模原市、横須賀市および藤沢市を除く県全域を管轄し、犬が2013年度から3年連続、猫も2014年度から2年連続で殺処分ゼロを達成しています。

ただ、「殺処分ゼロ達成」と言っても、保護している場所がセンターから保護団体などボランティアの元に移り、新しい飼い主が現れるのを待っているのが実状です。「殺処分ゼロ」は、ボランティアの尽力によってギリギリで維持されています。神奈川県動物保護センターとしても適正飼養や譲渡活動を進めていかなければいけないのですが、喫緊(きっきん)の課題となっているのが「建物の老朽化」です。開所から50年近くがたち、動物愛護行政の移り変わりの中で、必要なくなった設備や必要なのに足りていない設備などが顕在化しています。

今回、ペトこと編集部では神奈川県動物保護センターを取材し、センターの現状や今後の課題について橋爪廣美所長にお話を伺いました。(取材:山本恵太、佐藤響子)

動物を処分するための施設から、生かすための施設へ

東京から車で高速を使って2時間ほど。視界が開け、周りが畑だらけになった場所に神奈川県動物保護センターはあります。辺りには犬の鳴き声だけが響いていました。曇りの日だったこともあり、どこか「寂しい」という言葉が浮かんでくるような風景です。

神奈川動物保護センター
畑の奥にある横に長い建物が神奈川動物保護センター

神奈川県動物保護センターは1972年の開設当初、「神奈川県犬管理センター」という名称でした。橋爪所長によると、当時の施設の目的は、「効率よく処分すること」。野良犬や迷子犬の数を減らすために、毎日殺処分を行っていたそうです。しかし翌年に現在の動物愛護法である「動物の保護及び管理に関する法律」が制定され、同センターは1977年に「神奈川県動物保護センター」へと名称変更しました。社会の変化に伴い、求められる業務も少しずつ変わってきています。

神奈川県動物保護センター
神奈川動物保護センターの橋爪廣美所長

現在、同センターではどのような業務が行われているのでしょうか。まず三つの主な業務を紹介します。

動物の保護事業

保護事業としては犬猫の引き取り、犬の飼い方に関する指導や取り締まり、収容動物の管理などが挙げられますが、メインの業務は保護犬・保護猫などの譲渡です。殺処分ゼロを継続するために、保護・譲渡事業の比重が増しています。

動物愛護普及事業

動物の譲渡を希望する人たちに飼い方の講習をしたり、すでに動物を飼っている人で、しつけに困っている人たちにしつけ教室を開いたりしています。犬を飼っている人と飼っていない人の間で起こりがちなトラブルを防ぎ、飼えなくなって遺棄する飼い主を減らすことが目的です。動物との触れ合いを体験してもらうための「ふれあい教室」や小学生を対象にした「夏休み飼育体験教室」も実施しています。

動物取扱業務の指導

ペットショップあるいはペットサロンなど、動物に関係する仕事(動物取扱業)をしている人たちへの登録業務と監視指導も行っています。ヘビやワニ、サルなど、適正な飼養が行われないと人に害がおよんでしまうような特定動物については、飼う前の許可やその後の監視も行っています。

同センターで働いている正規職員や委託業者は、合わせて37人。橋爪所長は、「センターの管轄地域は広範囲であり、業務も多岐にわたります。限られた人員の中で殺処分ゼロを達成できているのは、ボランティアの皆さんの熱心な取り組みがあるからです」と話します。

悲しい歴史が色濃く残る、犬の収容施設

概要の説明に続いて、橋爪所長にセンター内を案内していただきました。写真と共に紹介します。

まず、保護された犬を収容する犬房と殺処分機は、地下にあります。階段を下っていくと、ものものしい雰囲気のドア。写真では明るく見えるかもしれませんが実際は昼間でも暗く、一人なら近付くのをちゅうちょしてしまいそうです。

神奈川県動物保護センター

扉を開けると通路があり、目の前には窓が付いた壁。この壁の先に、通路を隔てて犬房があります。

神奈川動物保護センター
神奈川動物保護センター
神奈川動物保護センター

迷子で捕獲された犬や引き取られた犬は、犬同士の相性を判断された後、集団で生活する犬房に収容されます。

神奈川動物保護センター

最近は一般の飼い主から引き取る際の基準も厳しくなりましたが、「自分が高齢でどうしても面倒が見れなくなったから」「入院するから・老人ホームに入るから」といった事情で収容されている犬もいます。昔は5日間の収容期間が過ぎるとそのまま殺処分になっていましたが、現在はセンターから一般の方への譲渡や、「譲渡ボランティア」と呼ばれる、ボランティア団体への譲渡があるまでここに収容されています。

神奈川動物保護センター

1日2回の餌に加えて1日に2回の清掃など、最低限の生活は保障されていますが、やはり集団房での生活は過酷です。日の光も当たらず、暖房設備がついていないため中はとてもひんやりしていました。そのことを考慮してか、一日中ヒーターをたいて夜は敷物を敷くなど、暖をとれるように工夫しているそうです。

神奈川県動物保護センター

集団房は集団生活ができる中・大型犬用となっており、小型犬や性格に難のある犬たちは別の場所に収容されています。小型犬がいる犬房には、ダックスフントの姿も見られました。

神奈川県動物保護センター

性格に難のある犬や噛み癖のある犬などは個別の犬舎に収容され、外の犬舎にはセンターの職員たちがしつけの訓練をしている訓練犬がいます。やはり「しつけがなされている犬や人慣れしている犬から譲渡が決まる」と橋爪所長。

神奈川動物保護センター

神奈川動物保護センター

外にある犬舎の横には、ドッグランもあります。一般的にイメージするドッグランと違い「細長い通路を檻で囲っただけ」という印象ですが、犬たちが最低限の運動をする広さは確保できているようでした。

神奈川動物保護センター
中央の壁沿いに奥まで続いています

地下の犬房に戻りますが、横に連なる集団房の端には、殺処分機があります。殺処分が行われていた時は、時間がたつごとに収容されている犬房を移され、最終的に殺処分機へと入れられます。

神奈川動物保護センター
中央の四角い箱が殺処分機

1972年当時は年間2万匹近くの犬が収容されており、その中の1万6000匹程度が炭酸ガスを用いた殺処分機で殺処分されていました。炭酸ガスを使えば眠るように死んでいくため、殺処分機は「ドリームボックス」とも呼ばれていたのですが、動かなくなるのに時間が掛かる個体もおり、のぞき窓から死にきれない動物を確認した場合は薬を使うこともありました。本当に苦痛を感じていないのか疑問があるということで、同センターでは注射による処分を行うことになったそうです。多くの命を奪ってきた殺処分機のある部屋は、使われなくなった今でも重い空気が漂っていました。

神奈川動物保護センター
殺処分機を操作する機械。今はほこりをかぶっています

現在、同センターでは殺処分ゼロを達成しましたが、治療が困難な病気にかかっていたり、攻撃性が強く人に危害を加える恐れがある犬に対しては、できるだけ苦痛を与えない方法で安楽死を行う方針だそうです。ただ、今のところそのような安楽死は行われておらず、できる限り命を奪わないようにしています。

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事故などで瀕死の状態になった動物たちを管理する部屋。亡くなったあとの灰は、外の「ふれあいの丘」にある慰霊碑の傍に納められています

なんとカメレオンまで!? 犬猫以外の珍しい動物も

犬よりも暑さ、寒さに弱くデリケートな猫たちは、温度管理の行き届いた部屋に収容されています。やはりスペース不足が問題らしく、現在、猫のために使われている部屋も、元は猫専用の飼育場所ではなかったそうです。そして収容されている猫の多くは多頭飼育崩壊によるもの。人間を警戒し、近づくと目を丸くさせて硬直してしまう猫が少なくありませんでした。

神奈川動物保護センター

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取材当日、部屋には大量のケージが。ちょうど多頭飼育現場が崩壊し、大量の猫が収容されることになったため、大急ぎで用意したとのことでした。

神奈川県動物保護センター

犬猫以外の動物を収容している一時保管場所もあります。取材した当時はうさぎや鳥がいましたが、つい最近まではカメレオンがいたそう! 犬猫以外に関しては飼育放棄の他に、警察の保護によって収容されることも多いのだそうです。こういった動物たちも1匹ずつウェブページで紹介し、飼い主を探す活動を行っています。実際にカメレオンは里親が見つかり、幸せに暮らしているそうです。

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子供が動物に親しみを持てるようなふれあい広場

神奈川県動物保護センターには、犬だけでなく亀や鳥、モルモットなどがいる「ふれあい広場」があります。なんとすっぽんの姿も!

神奈川動物保護センター

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烏骨鶏や鳩も、住民が所有放棄したペットだったのだそうです。

神奈川動物保護センター

ふれあい広場にいる子犬たちは、この場で人と触れ合うことに慣れさせ、いずれは譲渡されていく犬たちです。取材をした日も、数人の子供たちが犬と仲良く接していたのが印象的でした。冬休みや夏休みなどの長期休みには、子供連れの家族や小学生たちがよく遊びに来るそうです。

神奈川県動物保護センター

まだまだ継続中のセンター改築プロジェクト

冒頭でも述べましたが、周りを畑で囲まれてどうしても淋しいイメージが拭えない神奈川県動物保護センター。実は開発を行わず、田園地帯として利用することを企図した「市街化調整地域」に建てられています。動物の鳴き声がうるさかったり、「殺処分」という良くないイメージがついていたりすることから「迷惑施設」扱いになってしまうのも、人を遠ざけてしまう原因の一つなのでしょう。

神奈川県保護動物センター
センター正面から見える風景

一方、「京都動物愛護センター」では街中の公園に施設を作り、気軽に足を運べるような環境を実現しています。施設の横にはドッグランを併設し、里親になった飼い主が遊びに来ることもあるそうです。ドイツでは「ティアハイム」と呼ばれる広大な敷地にたくさんの保護動物がいて人々が気軽に遊びに訪れる施設がありますが、日本ではまだまだ「動物愛護センター=迷惑施設」といった扱いをされているのが現状です。

神奈川県動物保護センターは2019年を目処にセンターの建て替えを目指しており、神奈川県はそのための寄付を募集しています。今ある建物はすべて壊してドッグランにし、現在ふれあい広場のある東側のエリアに新しい建物を建設する計画です。「この改築によってセンター内の収容スペースが広がり、現在は少ないセンターからの譲渡が増えるようにしたい」と橋爪所長は話します。

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建て替え費用の寄付は11億円を目標にスタートしましたが、2月24日時点で集まっているのは1億2700万円ほど。黒岩祐治県知事も苦戦していることを認めており、寄付金だけでなく県費の充当を検討していることを明らかにしています。費用をどうするかという問題もありますが大事なのは、何を作り、どう運用するのかということ。建て替え後のセンターが今後の動物愛護センターのモデルケースとなるように、新たなセンターのあり方が問われています。

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