猫のマダニ予防|媒介する病気・対処法・人間への感染リスクなどを獣医師が解説
2017年、野良猫に噛まれた50代の女性が重症熱性血小板症候群(SFTS)に感染して死亡しました。SFTSはマダニが持っているウイルスで、猫を介して女性に感染したとみられています。これは、哺乳類を介して重症熱性血小板症候群(SFTS)が感染し、人が死亡した世界初の事例となり、猫のマダニ感染予防は人の健康を守る上でも重要なことが明らかになりました。今回は、甘くみてはいけない猫のマダニ予防について、獣医師の福地が解説します。
猫が注意するべきマダニとは
マダニの特徴
マダニはダニの一種で「吸血する」といった特徴があります。マダニは猫に寄生して吸血するだけでなく、人に感染することもあるものも含め、さまざまな病気を媒介します。
マダニの大きさ
大人のマダニは3〜4mmですが、血を吸って満腹になると10mm近くなります。このお腹いっぱいになったときに飼い主さんに見つかることが多いのですが、この時にはもうマダニの体の中に潜む病原体が猫の体内に入り込んでいることも多いのです。
マダニに寄生経路
マダニは普段草むらに潜んでおり、猫が通りがかったときに飛びついて感染します。このときは3mmくらいしかないので、人間が気づくこともまれです。3〜7日間かけて吸血し、満腹になったところで猫から離れ、草むらに卵を生みます。
マダニが媒介する猫の感染症
マダニが危険なのは、吸血ではなく、マダニによって感染するさまざまな病原体です。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
重症熱性血小板減少症候群(SFTS:severe fever with thrombocytopenia syndrome)はSFTSウイルスによって引き起こされる病気です。猫や犬での症例数は少ないものの、人と類似して「発熱」や「白血球減少」「血小板減少」「消化器症状」などが報告されています。
猫ヘモプラズマ症(猫ヘモバルトネラ症)
「病原体を持つマダニの吸血」や「感染した猫との喧嘩」「感染した母体から子」で感染することが知られています。発症した猫は「発熱」「元気消失」「食欲不振」などを起こし、重症例では死亡することもあります。発症には猫白血病ウイルスが関連しているともいわれています。
エーリキア症
リケッチアという病原体によって引き起こされます。骨髄の働きを抑制するので「血小板減少」「白血球減少」「貧血」「発熱」「食欲不振」「体重減少」などをもたらします。
猫からマダニを見つけたときの対処法
マダニを見つけても、自力で取ろうとせず、速やかに動物病院へ連れて行ってください。
中途半端に取ると、ダニが潰れて唾液が愛猫の体内に入ったり、吸血する部分だけが体内に残ったりする恐れがあります。また、発見した時には満腹状態である場合が多いので、病原体が侵入している可能性もあり、早めの受診が望ましいです。
猫のマダニは人間に感染する病気も
マダニから猫、猫から人へ感染する疾患は実はそれほど多くはありませんが、マダニから直接吸血されて人が感染する病気は数多くあります。
代表例として以下の3つが挙げられます。
- 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
- エーリキア症
- ライム病
なかでも 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は直接吸血でも、猫を介しても、感染することが明らかになったので要注意です。
猫のマダニ予防法
完全室内飼育
完全室内飼育の一言に尽きます。感染猫との喧嘩でも媒介される病気はここでは触れていませんが「ウイルス」「細菌」「リケッチア」など、命取りになる病気も多く、交通事故の恐れがあるので、猫は完全室内飼育を推奨します。
滴下型(スポットタイプ)の予防薬
滴下型(スポットタイプ)の予防薬は簡単でありながら、有効な予防法です。例えば、フロントラインでは、猫の体に垂らすだけで48時間以内にマダニを殺虫し、効果は1カ月持続します。
マダニ媒介性疾患が感染する可能性が高い時間より前に駆虫してくれるので安心です。
皮膚が赤くなる猫も一定数いるのですが、最近では飲むタイプの予防薬もあるので、与えやすいタイプのものを選べます。
まとめ
マダニはさまざまな病気を媒介します
人にも感染する病気があるため、予防は重要
愛猫がマダニに刺されたら、動物病院へ
完全室内飼育と予防薬の利用で、マダニ予防を徹底しましょう
愛猫だけでなく、自分の健康のためにもマダニ予防と完全室内飼育をおすすめします。
予防できることは予防して、愛猫との楽しい時間をお過ごしください。
参考文献
- ベーリンガーインゲルハイム アニマルヘルス ジャパン株式会社 『フロントラインプラス製品情報』
- 下田 宙,鍬田 龍星,前田 健著 『獣医学の立場から見た重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス』
- NIID国立感染症研究所 『重症熱性血小板減少症候群(SFTS)』
- 猪熊 壽著 『エーリキア症』
- NIID国立感染症研究所 『ライム病とは』