【獣医師執筆】猫の食欲不振の原因は?病気やストレスなどのごはんを食べない理由と改善方法を解説
猫は体調不良やストレスによって食欲不振になりやすい動物です。食べないこと自体が体調を悪化させる要因となる場合もあります。猫の食欲には常に気を配り、早めに対処できるようにしましょう。今回は猫の食欲不振の原因や対処法について解説します。
猫の食欲不振の原因
猫の食欲不振の原因としては、「体質と嗜好性」「ストレス」「病気」などが挙げられます。
体質と嗜好性
「少しずつしか食べない」「フードを変えると食べない」「すぐに飽きて食べなくなる」など、体質や嗜好性によって食欲が安定しない猫がいます。ストレス
ストレス(気候、騒音、同居猫や同居人との不仲、引っ越し、ペットホテルなど)によって食欲は低下します。病気
さまざまな病気によって食欲は低下します。病気の種類や重症度によって食欲不振の程度は異なります。猫の食欲不振の原因は個体差がある
「体質」「嗜好性」「ストレス耐性」などは猫によって個体差があります。あらかじめ把握しておくことが重要です。
体質
たくさん食べる猫、少し食べる猫、一気にガツガツ食べる猫、気が向いた時に食べる猫などさまざまです。普段から少食の猫は体質または病気の両方が考えられますので、一度動物病院で診察を受けてみてください。嗜好性
ウェットフードが好きな猫、ドライフードが好きな猫、何でも食べる猫、好きなものしか食べない猫などさまざまです。フードを変えた時の反応(変えると食べなくなる、またはよく食べるようになるなど)も猫によってさまざまです。ストレス耐性
猫はストレスに弱い傾向がありますが、全ての猫に当てはまるわけではありません。ストレスと無縁の猫も存在します。猫の性格は飼っているうちにだんだんわかってくると思いますが、中には、飼い主さんにはとても馴れているのに他の場所や人は怖がる猫もいます。家での様子だけでなく、動物病院を受診した時、他の人に会った時、別の場所に預けた時などの様子も含めて判断するといいでしょう。猫の食欲不振が続いた場合の症状
食欲不振が続くと、「脱水」「肝リピドーシス(脂肪肝)」などの問題が生じます。
脱水
食事量や飲水量が減ると脱水になります。下痢や嘔吐を併発していたり、腎臓病や糖尿病を患っていたりすると、より急速に脱水になります。脱水は腎臓その他の臓器に障害を引き起こし、重度になると命に関わります。「食べないけど水は飲む」という場合もありますが、そのような時は脱水で喉が渇いている可能性が高いです。通常は水を飲めば回復するのですが、上記のような病気がある場合は水を飲んでも追いつかず、脱水が進行していきます。水を飲んでいるからといって安心せず、早めに動物病院を受診してください。
肝リピドーシス(脂肪肝)
食べない状態が続くと、体内の脂肪が急速に分解されて肝臓に蓄積します。これを肝リピドーシスと言います。肥満の猫が2日以上食べなくなると肝リピドーシスを発症するおそれがあります。発症した場合は長期の入院治療を行わないと助けられません。肝リピドーシスになると「黄疸」という症状が出ます。肥満猫が食欲不振になって皮膚や尿が黄色くなってきた場合は、覚悟を持って早急に動物病院を受診してください。また、そのような状況にならないために、「肥満猫の食欲不振は特に早めに対処する」「そもそも猫を太らせない」といったことも頭に入れておいてください。
猫の食欲不振は何日まで大丈夫?
一般的に、子猫は半日、成猫は2日以上何も食べなければ要注意と言われています。子猫、高齢猫、病気(腎臓病など)の猫などは予備能力が低いため、食欲不振になったら早めに対処しなければいけません。一方で、若くて健康な猫は2日くらい食べなくても平気です。ただし、「病気がなければ」という条件付きになります。
食欲不振になる時は、いきなり何も食べなくなるとは限りません。好きなものしか食べなくなったり、徐々に食べる量が減ったりする場合もあります。また、かなり悪化するまで食欲に影響が出ず、食べなくなったと思ったらすぐに亡くなってしまうような病気もあります。何日間食べないかだけを判断基準にせず、状態次第で臨機応変に対応していくことが望ましいでしょう。
猫の食欲不振の見分け方および対処法
猫が食欲不振になった時は、まず原因を考えます。そして「家で対処するか」「動物病院を受診するか」を考えます。前項で書いたように、猫の個体差を把握しておくと食欲不振の判断がしやすくなるでしょう。以下は具体例です。
- 気が向かない日はあまり食べない猫だから、元気もありそうだし1日くらいは様子を見てみよう。
- いつも必ず完食する猫だから、半日も食べないのは明らかにおかしい。
- ドライフードが好きだったけどウェットフードしか食べられなくなってきたので、口が痛いのかもしれない。
- 来客があるとその後しばらく食べなくなる猫だから、今回も少し様子を見てみよう。
- 来客のせいで食べなくなったことは過去にないし、その前から少しずつ食欲が落ちていたような気もするので、病気があるのかもしれない。
動物病院を受診するかどうかの判断基準は以下のようになります。
- 「体質、嗜好性、ストレス耐性などに問題のある猫がまたいつものように食欲不振になった」「環境の変化など明らかなストレスが存在する」などの場合は、まず家での対処を試みる。それでも1〜2日以上食べなければ動物病院を受診する。
- 上記以外の場合は、最初から病気の可能性を考えて早めに動物病院を受診する。
それぞれの原因への対処法は以下のようになります。
体質や嗜好性の問題で食べない場合
フードの種類や与え方(食事場所、食器、量、回数など)を工夫する必要があります。犬では甘やかさずに我慢して食べさせることが望ましいですが、猫でその方法を行うとかたくなに食べない可能性が高く、絶食によりさらに体調が悪化するリスクもあります。猫に対しては、多少甘やかして何とか食べてもらうようにしてください。ストレスで食べない場合
環境を改善する必要があります。ただ、現実的に難しい場合もあるでしょう。同居人などは変えたくても変えられないでしょうから、できる範囲で努力してください。他には、サプリメントなどの使用もストレス緩和に一定の効果が期待できます。病気の場合
動物病院を受診する必要があります。病気が特に疑われるのは、「食欲不振以外の症状(嘔吐・下痢・呼吸困難・排尿障害・歩行障害など)がある」「元気が無く状態が悪そう」などの場合です。猫の症状はよく観察していてもわかりにくいため、食欲不振以外にはっきりとした症状がなくても病気がないと言えるわけではありません。例えば、「部屋の隅でじっとしている」という場合に、「どこかが痛いのか」「呼吸が苦しいのか」「尿が出ないのか」「ストレスで警戒しているだけなのか」といったことを判断するのはなかなか難しいでしょう。病気かどうかよくわからない場合や、家で対処してみたけど食べるようにならなかった場合なども、早めに動物病院を受診してください。
猫の食欲不振時の動物病院での診療
食欲不振を主訴に動物病院を受診した際は、問診・身体検査・各種検査によって診断を行っていきます。食欲不振以外の症状があったり身体検査で異常が検出されたりした場合はある程度病気の推測ができますが、そうでない場合は一から病気を探していかなければいけません。
食欲不振という症状はあらゆる病気によって生じるため、簡単に診断がつかない時もあります。また、ここまで書いてきたように病気が存在しない可能性もありますので、どこまで検査や治療を行うかということも含めて判断しなければいけません。動物病院の方針、獣医師の能力、飼い主さんの意向などによって診療内容は変わってくるでしょう。
問診と身体検査で異常が認められなかった時にどうするかということについては、筆者の病院では、「状態が悪そう」「脱水がありそう」「痩せている」「高齢である」など、病気の可能性が高そうな場合には各種検査を勧めます。「さほど状態が悪そうではない」「脱水がなさそう」「痩せていない」「若齢である」「病気以外の原因がありそう」などの場合には、飼い主さんと相談の上で、各種検査、少し様子見、対症療法などを選択します。
ただし、検査の必要性を過不足なく完璧に見極めるのは獣医師でも不可能です。病気はなさそうだと思いながら検査してみたら重大な異常があったという例もたまにありますので、いつもと違う様子であればなるべく検査をしたほうがいいでしょう。
食欲不振の対症療法
食欲不振の対症療法としては、皮下輸液、胃腸の動きを良くする薬の投与、食欲増進効果のある薬の投与などを行います。対症療法は、病気がはっきりしない場合や、軽度の食欲不振で少し様子を見たい場合などに行います。重度の病気がある場合には対症療法では治せません。病気自体に対する治療が必要となります。猫の食欲不振に関する注意点
猫の食欲不振に関して、よく誤解されがちなことをまとめてみました。
ストレスだと思い込む
ストレスに心当たりがない場合は、ストレスだと思い込まずに病気の可能性も考えたほうがいいでしょう。ストレスだと決めつけて様子を見ていると、病気があった場合に手遅れになってしまいます。高齢のせいだと思い込む
高齢だけのせいでどんどん食欲が低下していくということはほぼありません。大半の場合は、高齢で病気(特に腎臓病、腫瘍など)になったせいで食欲が低下しています。病気であれば治療によって改善させられるかもしれませんので、可能性を捨てないようにしていただければ幸いです。ギリギリまで様子を見る
「食欲が明らかに低下しているけど、一口二口食べるからまだ様子を見よう」と考える方がいらっしゃいます。また、全く食べなくなって3日くらいたってから来院される方もいらっしゃいます。3日も放置するのだから治療する気はないのだろうと思いきや、できる限りのことをしてくださいと言われる時もあります。基本的に、病気の場合は早めに治療を開始することが最重要です。治療が遅れると、「脱水によって腎臓が不可逆的に悪くなる」「状態が悪すぎて手術ができない」などの問題が生じます。猫を動物病院に連れていくとストレスになると考える方が多いのだろうと思いますが、病気の場合はストレスを考えるよりも治療を優先したほうがいいです。「高齢の猫は1日食べなかったら次の日には受診する」「徐々に食欲が低下して痩せてきている場合は気付いた時点で受診する」など、早めに対応していただけると良い結果になるでしょう。
食欲改善だけを希望する
「病気の検査や治療はしないけど、食べられないのだけはかわいそうだから食べられるようにしてください」と言われることがたまにあります。このような場合の大半は慢性の病気がありますので、その治療をせずに食欲だけ改善させるのは困難です。猫自身は苦しいから食べないわけであって、食べられないのだけが辛いとは思っていないのではないかという気がします。食べてほしければ病気の治療もしてあげてください。家でなんとかしようとする
病気の場合は家でできることは限られます。病気が疑われる状態であれば動物病院を受診してください。「様子を見たいんですけど大丈夫でしょうか?」「連れていけないので家でできることを教えてください」と電話で相談される方がいらっしゃいますが、獣医師側は状態が把握できず責任も負えないため、期待するような回答はおそらくしてくれないでしょう。例外として、状態が把握できている常連の猫さんで飼い主さんとの信頼関係もあるような場合には、獣医師も多少の責任とリスクを負って回答してくれるかもしれません。普段からそのような関係を築いてもらうといいのではないかと思います。
猫が食欲不振になったら早めに動物病院へ
猫の食欲不振ではさまざまな状況が考えられます。病気の場合もあれば病気ではない場合もあるというのが難しいところです。このような記事を読んでいただけるのはありがたいのですが、結論としてはやはり、「早めに動物病院を受診してください」ということになってしまいます。あまりお役に立てなかったかもしれませんが、ご参考になりましたら幸いです。
参考文献
- 加隈 良枝・荒田 明香「問題行動と食事」,『ペット栄養管理学テキストブック』アドスリー,2014,202-211
猫の食欲不振時におすすめのキャットフード
猫の食べ物は「エサ」と呼ばれていた時代から、家族の「ごはん」と呼ぶ時代へ変わりました。私たちと同じように、猫も栄養バランスの良いごはんを食べることで健康を維持することができます。ごはん選びをする際は、以下の3点を気を付けていただくといいでしょう。
1. 総合栄養食を適量与える
猫が必要とする栄養は人間と同じではありません。そこで生まれたのが「総合栄養食」と呼ばれるごはんです。おやつなど「一般食」や「副食」と呼ばれるごはんだけ食べていると体を壊してしまいますので、「総合栄養食」のごはんを選ぶようにしましょう。
総合栄養食を食べていても与える量が少なければ痩せてしまいますし、多ければ太ってしまいます。パッケージに書かれた食事量は目安ですので、ボディ・コンディション・スコアで「3」の「理想体型」を維持できる量を与えるようにしてください。
※参照:「飼い主のためのペットフード・ガイドライン」(環境省)
2. 添加物の少ない新鮮なごはんを選ぶ
猫のごはんと聞いて「カリカリ」と呼ばれる茶色い豆粒を想像される方も多いと思いますが、正しくは「ドライフード」と呼ばれる加工食品です。保存しやすく食いつきも良いことから猫のごはんとして一般的になりましたが、高温加熱によって食材本来の栄養が失われ、添加物も多く含まれることから見直しが進んでいます。
実際に、市販のドライフードを製造する工程の1つである高温加熱処理が、タンパク質の品質劣化を招き、熱に弱いビタミンを破壊し、さらには発がん性物質を生成してしまうことが、研究により判明しています。
そこで生まれたのが素材本来の旨味や香りが楽しめ、余計な添加物も入っていない「フレッシュフード」と呼ばれる新鮮なごはんです。ペトコトフーズもその一つで、子猫からシニア猫(老猫)まで毎日のごはんにすることができます。もちろん総合栄養食で、主食としてもOKですし、トッピングとしてもご利用いただけます。
また、水分量が70%ほどあるので、尿の活性化で腎臓病予防としても機能します。実際に従来のドライタイプのキャットフードよりも、水分がより多く含まれたフレッシュフード等を食べている猫の方が尿路結石になるリスクが約50%下がることが研究により明らかになっています。新鮮で美味しく、健康なごはんを選ぶことが長生きできる秘訣です。
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