猫の白血病|FeLVの違い・症状・原因・治療法・予防法などを猫専門獣医師が解説
白血病は「血液のがん」ともいわれ、血液の中の白血球という細胞が腫瘍化する病気です。猫も人間と同じように白血病になることがあります。また、猫の白血病で特徴的な点として、「猫白血病ウイルス感染症」という病気が白血病を引き起こすことがあるため、ある程度の予測や予防ができるということが挙げられます。本稿では、猫の白血病がどのような病気なのかと、猫の白血病の原因になりうる猫白血病ウイルス感染症のしくみや予防について、猫の診療室モモ院長の谷口がご説明します。
猫の白血病とは
白血病とは、血液中の白血球が腫瘍性の異常な増殖を起こす病気です。通称「血液のがん」ともいわれます。人間と猫の白血病の症状や分類はよく似ていますが、猫の白血病の特徴として、ウイルスが関わっている場合があるという点が挙げられます。
このウイルスは「猫白血病ウイルス(FeLV:Feline Leukemia virus)」といい、名前から「猫が白血病になるウイルス」と誤解されがちですが、実は猫白血病ウイルス(FeLV)が引き起こす主な症状は白血病よりも免疫不全や貧血、リンパ腫のほうが一般的です。
そのため「猫の白血病」と「猫白血病ウイルス(FeLV)感染症」は全く別の病名であるということをご理解いただく必要があります。今回は、猫の白血病と、猫白血病ウイルス感染症についてご説明します。
猫の白血病は「急性白血病」と「慢性白血病」があり、さらにそれぞれ「リンパ性白血病」と「骨髄性(非リンパ性)白血病」に分類されます。
急性白血病は未分化(未熟)な細胞が増殖する白血病で、症状も急激に悪化するのに対して、慢性白血病は分化(成熟)した細胞が増殖する白血病で、病状はゆっくり進行します。また、急性骨髄白血病の前段階として骨髄異形成症候群があります。
急性リンパ性白血病
急性リンパ性白血病はリンパ系細胞の悪性腫瘍で、本質的にはリンパ腫と同一系統の病気です。原発部位によってリンパ腫と区別されています。この病気にかかった猫の約3分の2で猫白血病ウイルス(FeLV)の感染が認められるので、猫白血病ウイルス(FeLV)が病気の発生に関与していると考えられています。急性骨髄性白血病
急性骨髄性白血病は骨髄の造血細胞の悪性腫瘍で、猫ではこの病気にかかった症例の90%以上で猫白血病ウイルス(FeLV)の感染が認められ、実験的にもウイルス感染によってこの病気が発生することがわかっています。骨髄異形成症候群でも報告されている症例のほとんどで猫白血病ウイルス(FeLV)の感染が認められています。慢性リンパ系白血病
慢性リンパ系白血病は、成熟したリンパ球様細胞の腫瘍性増殖が原因です。初期は症状を示さないことも多く、予後は比較的良好とされていますが、猫では非常に稀な病気のため、詳しくはわかっていません。慢性骨髄性白血病
慢性骨髄性白血病はヒトでは染色体異常が原因ですが、小動物では非常にまれで、その病態についても不明な部分が多いです。猫より犬で多くみられます。以上のことから、猫の急性白血病については、猫白血病ウイルス(FeLV)の感染に続発することがあるといえます。
猫白血病ウイルスの感染経路
次に、「猫白血病ウイルス(FeLV)」の感染についてお話しします。
猫白血病ウイルス(FeLV)は、レトロウイルス科に分類されるウイルスで、唾液や血液を介して他の猫に感染します。感染猫とグルーミングをし合ったり、トイレを共有したりすることが主な感染経路です。
猫同士の長期にわたる濃厚な接触があると感染しやすいので、感染率は猫の飼育密度と直接的に関連しており、多頭飼育の環境下にある猫同士では感染のリスクが上がります。
また、母猫が猫白血病ウイルス(FeLV)に感染している場合、胎盤を通じて胎児に感染したり、分娩時や保育時に子猫に感染したりすることもあります。妊娠中の母猫から胎児に感染すると、死産になることもあります。感染するのは猫同士のみで、人間や犬にはうつりません。
猫の白血病にかかりやすい猫種・年代
「猫の白血病」は血液のがんなので、どの年齢の猫も罹患します。しかし、まれに猫の白血病を引き起こす「猫白血病ウイルス(FeLV)感染症」については、成猫よりも子猫の時期に問題になります。
猫白血病ウイルス(FeLV)感染を受けた猫は、まず一過性のウイルス血症を起こします。このとき発熱やリンパ節腫大、貧血などが起こることがあります。その後ウイルスが体外に排除されずに持続感染になるといわゆる「猫白血病ウイルス感染症」による症状が出てきます。
一過性の感染から持続感染に移行する確率は、成猫よりも子猫で高く、特に新生児ではかなりの高確率で持続感染になります。
生後4カ月以降くらいからはウイルスの排除がうまくできるように免疫系が発達しますが、成猫でも妊娠中の猫、持病で薬を飲んでいる猫などは免疫力が下がっているため注意が必要です。
また、猫白血病ウイルス(FeLV)に持続感染している猫と長期間の濃厚接触をしている猫は、感染の危険性が高まります。また、避妊去勢手術をした猫に比べ、手術をしていない猫では感染率が上がるとのデータもあります。
猫の白血病の症状
白血病では、血液中の細胞ががんに冒されるために食欲や元気がなくなり、痩せてしまいます。急性白血病では、リンパ節の腫大、肝腫、脾腫、出血傾向などが見られることがあります。慢性白血病は無症状なことも多く、治療を必要としないケースもあります。
一方、猫の白血病の原因になりうる「猫白血病ウイルス(FeLV)感染症」の症状としては、白血病の他にリンパ腫、血球減少症、貧血、腎炎、二次感染症(日和見感染症)などさまざまです。
これらFeLV感染症によるさまざまな症状のことを、FeLV関連疾患といいます。FeLV関連疾患のうち白血病はむしろまれで、リンパ腫や貧血、二次感染が問題になることがほとんどです。
猫の白血病の検査
猫の白血病の検査は、血液を採取して白血球の様子を顕微鏡で観察したり、骨髄を吸引して検査したりします。猫の白血病そのものがまれな疾患なので、症状から白血病が疑われた場合などにのみ検査を行います。
それに対して猫白血病ウイルス(FeLV)を保有しているかどうかの検査は、すべての猫を対象に行うのが望ましいです。血液を少し採取するだけで簡単に調べられるので、猫を保護した場合、新しく猫を飼い始める場合は積極的に行うようにしましょう。
主な検査方法は、院内でできる簡易キットを用いた検査です。猫の体内に猫白血病ウイルスが存在する場合、陽性反応が出ます。ただしすでに述べたように、猫白血病ウイルスに感染しても一過性のウイルス血症のみで治癒する場合もあり、すべての個体が持続感染に移行するわけではありません。
この一過性のウイルス血症の時点でも陽性の反応が出るため、1カ月後に再検査をするのが望ましいとされています。1カ月後に陰転した場合はさらに1カ月後に再検査し、2回連続で陰性ならば感染は終結したと考えられます。
ウイルスに感染した猫のうち、持続感染に移行するのは成猫の場合10〜30%ともいわれていますので、1回陽性が出てしまっても場合よっては陰転するかもしれません。
また、ウイルスが体内に侵入してから検査で検出できるようになるまでに最大4週間ほどかかりますので、感染後間もない場合は陽性反応が出ないこともあります。
猫の白血病の治療法・薬
白血病は猫の病気の中では比較的まれな病気です。万が一おうちの猫が白血病になった場合は、他のがんと同じく抗がん剤やステロイドによる治療を行います。
猫に白血病の症状が見られた場合、猫白血病ウイルス(FeLV)感染に続発している可能性があるので、必ず猫白血病ウイルス(FeLV)感染の有無を血液検査で確認します。
猫白血病ウイルス(FeLV)に感染している場合は、白血病の他にも猫白血病ウイルス(FeLV)によるさまざまな症状(FeLV関連疾患)が現れている可能性が高く、それら個々についての治療が必要になってきます。
猫白血病ウイルス(FeLV)感染そのものに対する特効薬はありません。免疫が関わっている場合はステロイドによる治療、二次感染に対してはその病原体に対する治療などを行います。
猫白血病ウイルス(FeLV)は持続感染の状態になると体内に生涯留まり続けるので、FeLV関連疾患は基本的に完治しません。また猫白血病ウイルス(FeLV)に続発する白血病は治療に反応しないことも多いので、どのようなケアを行ってあげるか獣医師とよく相談して、後悔のない選択をすることも重要です。
白血病の猫の生活・寿命
すでに述べたように「白血病」にはいくつかのタイプがあり、さらに発症時の年齢や全身状態、猫白血病ウイルス(FeLV)感染を伴うかどうかなど、多くの要素が絡んできますので寿命は一概にはいえません。
一方、白血病ではなく「猫白血病ウイルス(FeLV)感染症」については、ある程度の寿命の目安があります。持続感染の状態になった猫は、数カ月~数年は無症状のことが多いのですが、その後FeLV関連疾患が現れ、命にかかわる状態になる子が多いです。
その死亡率はいくつかの研究がありますが、だいたいのデータで6カ月間で30%程度、1年間で半数程度、3〜4年間で90%程度といわれています。猫白血病ウイルス(FeLV)は幼猫時に感染することが多いので、もっとはっきり言ってしまうと、猫白血病ウイルス(FeLV)陽性の猫は4歳まで生きられないケースが多いということになります。猫の平均寿命は15〜16歳ですから、比較すると短いといわざるを得ません。
しかし、これはあくまでデータであり、中には高齢期まで生きられる子もいます。また、猫白血病ウイルス(FeLV)陽性だからといってすぐに症状が出るわけではないので、元気なうちは他の猫と同じようにたっぷり遊び、充実した時間を共に過ごすようにしましょう。
猫の白血病の予防
白血病そのものは「がん」なので、基本的に予防は難しいです。他のがんその他の病気の予防と同じく、ストレスの少ない生活を心がけ、体質に合ったフードを選び、定期的に健康診断を受けるようにしましょう。
一方、猫の白血病の原因になりうる、猫白血病ウイルス(FeLV)に感染しないように気をつけることはできます。最も基本的かつ効果的な予防方法としては、おうちの猫を猫白血病ウイルス(FeLV)に感染した猫と接触させないことです。
新しく猫を飼い始める場合、保護した場合、脱走して帰ってきた場合などは、必ず猫白血病ウイルス(FeLV)に感染していないか検査を行うようにしてください。また、すでに飼っている猫がFeLV陽性の場合、多頭飼いはしない(新たな猫は迎えない)のが望ましいといえます。
感染猫と非感染猫がやむを得ず一緒に暮らす場合は、非感染猫に猫白血病ウイルス(FeLV)のワクチンを打ちましょう。
動物病院で一般的に扱われている混合ワクチンには、猫白血病ウイルス(FeLV)の予防効果があるものとないものがあるので、感染猫と暮らしていることを説明して、猫白血病ウイルス(FeLV)予防ができるワクチンを打ってもらうことが必要です。
ただし、ワクチンの効果は100%ではないので、食器やトイレの共有は避け、グルーミングをし合うなどの濃厚な接触は避けましょう。また、猫白血病ウイルス(FeLV)陽性の猫が使う部屋や寝具、トイレなどを消毒することも重要です。
猫白血病ウイルス(FeLV)は猫の体外では不安定なウイルスなので、塩素やアルコール、洗剤などで清潔を保つだけでも予防効果はかなり上がりますので、積極的に消毒を行いましょう。
猫白血病ウイルス(FeLV)感染症は予防できます
猫の白血病は、他の動物と同じく血液中の細胞のがんです。猫白血病ウイルス(FeLV)は、感染した猫に白血病やリンパ腫といった血液のがんの発生がみられるため、このように名付けられました。
しかし、実際には猫白血病ウイルス(FeLV)によって白血病になる子はまれで、むしろさまざまな他の病気(FeLV関連疾患)の原因になるのが一般的です。つまり、「猫の白血病」と「猫白血病ウイルス感染症」とは関連はありますが、それぞれ別の病気の名前だという認識が必要です。
猫の白血病はまれですが、猫白血病ウイルス感染症は多くの猫で見られ、また持続感染の状態になると完治はしません。そのため、予防が大変重要になります。新たに猫を迎える場合は必ず検査をし、必要に応じてワクチンの接種も検討しましょう。
参考文献
- インターズー 犬と猫の治療ガイド2015
- 文永堂出版 獣医内科学
- 猫感染症研究会