猫も貧血になる? 症状や見分け方、対策など獣医師が解説

猫も人と同じように貧血になります。ただし、原因や治療法などは人と異なる点も多いため注意が必要です。貧血の話は複雑で難しいかもしれませんが、この記事によって少しでも理解を深めていただければ幸いです。今回は症状、対処法など猫の貧血について、平井動物病院院長の米山が解説します。

猫の貧血とは

貧血は、血液中の赤血球が減少した状態です。赤血球が減少すると全身の組織に酸素を運べなくなり、さまざまな障害が出てきます。

猫の貧血の症状

猫

貧血の症状としては、「元気や食欲がない」「動きが悪い」「呼吸が速い」「脱力して動けない」などが挙げられます。赤血球が急速に減少するケース(出血、溶血など)では、このような症状が強く表れます。一方で、徐々に減少するケース(赤血球の産生低下など)では、身体が貧血に順応するため、かなり進行するまではっきりとした症状が表れません。

猫の貧血の見分け方

貧血の症状はわかりにくく、他の病気との見分けもつきにくいです。貧血があるかどうかを判断するには、症状だけではなく「歯茎の色」を観察することが重要です。歯茎は正常であればピンク色ですが、貧血になると白っぽくなります。ふだんから歯茎の色を把握し、状態が悪そうな時には口の中を見て色を確認していただくといいでしょう。


貧血への対応

上記のような症状が強く表れている場合は、貧血が急速に進行している状態であり、緊急治療が必要となります。一方で、症状が弱い場合は緊急性はありませんが、気づいた時には命に関わるレベルまで進行してしまっていることが多いです。いずれにしても危険な状態ですので、すぐに動物病院を受診してください。

猫の貧血の原因

2頭の子猫

猫の貧血の原因は、主に以下の3つに分類されます。

  • 赤血球の喪失
  • 赤血球の破壊
  • 赤血球の産生低下

赤血球の喪失

体内・体外への出血や、寄生虫による吸血などによって貧血になります。目で見てわかる部位としては、「鼻・口・皮膚・尿・便の出血」および「ノミの吸血」などが挙げられます。便に関しては、胃腸の出血によって赤色ではなく黒色の便になる場合が多いということを知っておいてください。目で見てわからない部位としては、「お腹や胸の中の出血」が挙げられます。これらは病院で検査をしないと見つけることができません。

出血の原因は、「出血部位に異常がある場合(外傷、炎症、腫瘍など)」あるいは「全身性の血液凝固異常がある場合」のいずれかです。猫では血液凝固異常はあまりみられませんが、腫瘍や敗血症に伴うDIC(播種性血管内凝固:全身で異常な血液凝固が生じ、その結果凝固因子が枯渇して出血が止まらなくなる病態)がみられることがあります。

出血の具体例としては、「手術による出血」「お腹の中の出血(落下、事故など)」「口の中の出血(歯周病、口内炎など)」「胃腸の出血(潰瘍、腫瘍など)」などが挙げられます。

赤血球の破壊

赤血球が体内で異常に破壊されること(溶血)によって貧血になります。黄疸を併発する場合もあります。溶血の原因としては、「タマネギ中毒」「感染症(細菌、ウイルスなど)」「免疫疾患(自己免疫性溶血性貧血)」などが挙げられます。溶血は、出血と同様に急速に進行する場合が多いため、早めの対処が重要となります。


赤血球の産生低下

赤血球は骨髄で作られますが、何らかの原因によって産生が低下すると貧血になります。原因としては、主に以下の4つが挙げられます。

  • 慢性疾患
  • 鉄欠乏
  • 骨髄疾患
  • 腎臓病

慢性疾患

身体のどこかに慢性疾患(炎症、腫瘍など)が存在すると、赤血球の産生が抑制されます。軽度の貧血がみられる場合が多いです。

鉄欠乏

鉄はヘモグロビンの原料となりますので、鉄が不足すると赤血球を作れなくなります。鉄欠乏は人ではよくみられますが、猫ではあまりみられません。猫における鉄欠乏の原因としては、慢性的な失血(胃腸や口腔の慢性出血、ノミによる吸血など)が挙げられます。

骨髄疾患

骨髄の異常(腫瘍、免疫疾患など)によって赤血球を正常に作れなくなります。猫エイズウイルスや猫白血病ウイルスの感染に伴って骨髄疾患を発症する例が多いです。

腎臓病

腎臓は尿を産生して排泄する臓器ですが、造血ホルモン(エリスロポエチン)の分泌も行っています。腎臓病になると、尿の産生機能が低下するだけでなく造血ホルモンの分泌も低下し、赤血球を作れなくなってきます。



猫の貧血の検査・診断

問診、身体検査、各種検査を行って診断していきます。多くの場合、元気消失などを主訴として動物病院に来院され、診察していく中で貧血が判明します。

問診項目

こちらを見る猫

貧血が疑われる場合は、以下のような内容を確認します。
  1. 猫の状態(元気、食欲、活動性、呼吸状態など)
  2. 出血の有無(特に、便が黒くないかどうか)
  3. 尿の色(出血や黄疸があるかどうか)
  4. 飼育環境(同居猫がいるかどうか、屋外に出るかどうか)
  5. 誤食の有無(ネギ類、薬など)
  6. ウイルス検査歴、ノミ予防歴など

身体検査

一般的な身体検査を行います。特に、「貧血や黄疸の有無」「出血やノミ寄生の有無」などを確認します。

各種検査

血液検査は必須ですが、その他の検査(超音波検査、X線検査、尿検査、糞便検査など)も必要に応じて行います。さらに詳細な検査として骨髄検査を行う場合もあります。

血液検査

血球(赤血球、白血球、血小板)数の測定および血液塗抹の観察を行います。また、他の一般的な項目(蛋白量、腎機能の数値など)の測定も行います。

猫の貧血はウイルス(猫白血病ウイルス・猫エイズウイルス)が関与している場合が多いため、「屋外に出る猫」「過去に検査したことがない猫」などではウイルス検査を行います。溶血が疑われる場合は、溶血関連の検査(特殊染色、免疫反応の検査、感染症の検査など)を行う場合があります。血液凝固異常が疑われる場合は、血液凝固検査を行う場合があります。

その他の検査

超音波検査によって、お腹・胸の中の出血や腫瘍の有無などを確認します。赤血球の産生低下が疑われる場合は、骨髄検査を行う場合があります。

診断手順

猫の横顔

貧血の診断においては、「再生性があるかどうか」という点が重要です。これは主に血液塗抹によって判断します。貧血になると、赤血球をたくさん作ろうとして幼若な赤血球が増えてくるはずです。この正常な反応がみられる場合を「再生性貧血」、反応がみられない場合を「非再生性貧血」といいます。

再生性貧血

再生性がある場合は、赤血球が正常に作られている状態ですので、「出血」または「溶血」による貧血が疑われます。問診、身体検査、血液検査、超音波検査などを行って原因を特定していきます。

非再生性貧血

再生性がない場合は、赤血球が正常に作られていない状態ですので、「赤血球の産生低下」による貧血が疑われます。各種検査によって診断が確定できない場合は、骨髄検査の実施を検討します。

猫の貧血の治療

マンチカン

なぜ貧血になっているのか、原因によって治療法も異なります。

出血の治療

手術あるいは投薬によって止血を行います。激しい出血は緊急で止めなければ亡くなってしまいますが、出血部位がはっきりしなかったり、止血が困難であったりする場合もあります。予後は状況次第です。

ノミ寄生の治療

ノミ駆除薬の投与および支持療法(輸液、栄養補給、鉄剤投与など)を行います。子猫や衰弱した猫においては、重度の貧血や栄養不良によって命に関わる場合もあります。家の中でもノミが発生する場合がありますのでご注意ください。

溶血の治療

細菌感染の場合は抗菌剤(+ステロイド)治療、免疫疾患の場合はステロイド治療を行います。溶血を止めることができれば徐々に貧血は改善していきます。

骨髄疾患の治療

骨髄疾患の診断には骨髄検査が必要ですが、「全身麻酔が必要である」「診断が確定しても有効な治療法があるとは限らない」などの理由から検査が行われない場合も多いです。

治療としては、多くの骨髄疾患においてステロイドなどの免疫抑制剤を使います。その他、腫瘍であれば抗癌剤を使う場合もあります。一部の疾患は治療に反応しますが、基本的に予後は厳しい場合が多いです。猫では骨髄移植ができないため、治療法が限定されます。

腎臓病による貧血の治療

腎臓病の一般的な治療(食事、内服薬、輸液など)に加えて造血ホルモンの注射を行います。重度の貧血が生じている場合は末期の腎臓病であることが多く、予後は厳しい場合が多いです。

輸血について

猫の輸血治療は可能ですが、輸血用の血液は各々の病院で用意しなければならないため、対応は病院によって異なります。輸血を行うと一時的に貧血が改善しますが、それだけで病気が治るわけではありません。「貧血が重度である」「貧血の進行が速い」「血液凝固異常がある」などの場合に、他の治療と併せて輸血を行います。

貧血の補助治療について

貧血の補助治療として鉄剤やサプリメントなどを投与する場合があります。有効な治療法ではありますが、それらだけで重度の貧血が改善するということはありません。猫では栄養不足による貧血はほぼ起こりませんので、貧血になっている場合は何らかの病気が存在していると考えられます。自己判断はせず、早めに動物病院を受診するようにしてください。

猫の貧血の予防

2頭の野良猫

貧血の原因の中で予防できるものとしては、感染症(猫白血病ウイルス、猫エイズウイルス、ヘモプラズマなど)、寄生虫(ノミ、マダニなど)、事故、外傷、誤食などが挙げられます。屋外ではこれらのリスクが特に高くなりますので、まずは室内で飼うことが重要であるといえるでしょう。

その他の原因については、予防するのは難しいですが、早期発見によって寿命を延ばすことは可能です。「定期的な健康診断」「早めの動物病院受診」などを行っていただくといいでしょう。

健康管理においては食事も重要です。ただし、貧血ではないのに鉄剤を与えたり、腎臓病ではないのに腎臓病用療法食を与えたりすると、無意味なだけでなく健康に害を及ぼす可能性があります。必要かどうかはかかりつけの動物病院に相談し、獣医師からの指示通りに与えるようにしてください。

小さな異変でも動物病院へ

猫の寝顔

猫の貧血に気づくのは難しいです。なんとなく元気がなかったり動きが悪かったりしたら、歯茎の色を確認してみてください。白っぽいと感じたらすぐに動物病院を受診しましょう(白っぽいと感じなくても状態が悪ければ受診しましょう)。

猫の貧血の原因はさまざまであり、予後は一概にはいえません。早めに動物病院を受診し、きちんと診断を受けた上で治療をご相談いただければと思います。

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