ペット大国アメリカの「ESA」制度とは? いろんな場所で犬を見かけるその理由

ペット大国アメリカの「ESA」制度とは? いろんな場所で犬を見かけるその理由

Share!

突然ですが、皆さんは「エモーショナルサポートアニマル」と呼ばれる動物たちをご存知でしょうか? 盲導犬や介助犬などが物理的な面で人間のお世話をするのとはちょっと違い、エモーショナルサポートアニマルたちは、心理的に人間の助けをします。最近とくにアメリカで増えてきているエモーショナルサポートアニマルについてお話しさせていただきます。

エモーショナルサポートアニマルとは?

アメリカでは、日本よりも多くの場所でペット連れの人たちを見かけます。デパートや電車、飛行機内にまで犬や猫が乗り込んでくることも。それは、多くがただのペットではなく、「エモーショナルサポートアニマル」と呼ばれる動物たちなのです。

ボーダーコリー

エモーショナルサポートアニマルのお仕事

エモーショナル(感情)サポートアニマルというのは、その名のとおり人間の心理的な面をサポートする動物たちで、「ESA」とも呼ばれます。簡単にいうと、心理的に不安定で動物がいないと精神を安定させられない人たちが一緒に暮らす動物で、サービスアニマルと呼ばれる盲導犬などとは違い、基本的にはペットとして扱われます。

身体が不自由な方が身の回りの世話をする介助犬を24時間必要とするのと同じように、ESAと暮らす人たちも、常にそばにその動物がいないと心理的に生きていけません。ですから、空港を含むアメリカの多くの場所では、米国政府が認める証明書がある場合に限り、ESAの入場を許可しているのです。ESAは犬や猫が一般的ですが、ミニブタや爬虫類、中にはクジャクをESAとして飼うツワモノもいるようです。



エモーショナルサポートアニマルの資格を取るには

青い目の猫

「米国政府が認める証明書」なんて言いましたが、ESAに必要な証明書とは、つまり精神科の手紙のことです。ESAとしてペットを公共の場所へ連れて行くには、精神科医にかかり、カウンセリングを受ける必要があります。つまり、動物自体が資格を有する盲導犬などとは違って、ESAでは資格を持っているのは人間であるということです。専門家からのカウンセリングを受け、本当に動物が必要だとされた人にのみ、医師からの手紙が発行され、ペットは晴れてESAとなります。

しかし、インターネットが普及してから、精神科医のカウンセリングをマンツーマンで受けるというこのプロセスが「インターネットで精神科に話をするだけでよい」というように変わってきてしまっています。それを受けて近年アメリカでは、ESAの資格が簡単に取れすぎているのではないかという疑問の声があがっています。

【ハワイからカリフォルニアへ犬連れで引越し】私たちの場合

フレンチブルドッグと女性

実際に筆者もESAの申請をしたことがあります。筆者夫婦はフレンチブルドッグ2匹とハワイで暮らしていました。昨年、海を越えてカリフォルニア州へ引っ越してきました。その際に犬連れで飛行機に乗れるよう、ESAが必要であるという精神科の手紙を受け取ったのですが、そのときわたしたちが利用したのもインターネット。「どのようなトラウマがありますか?」「以前、動物がそばにいなくて精神的に辛かったことがありますか」というような設問が数個用意されており、それに答えてあとは精神科の答えを待つ、というものでした。答えは2週間ほどで届き、結果は「合格」。手紙が届き、それをもとに今度は航空会社に「ESAを2匹連れていく」という手続きをします。

当日、空港にはキャリーバッグに犬たちを入れて連れて行きました。もちろん空港へ入るには人間と同じように検査が必要です。手荷物検査の際には犬たちを抱えて金属探知機のゲートをくぐり、検査の最後に手をガーゼのようなもので拭われました。どうやら、爆薬の反応が出ないか確かめていたようです。犬や猫に爆弾を飲み込ませて機内に持ち込もうとした人がいたとのことで、そのチェックをしていたのだとか。酷い人間たちがいるものです。

「ESAの資格をもっと難しく……」だけでは解決されない問題点



犬との暮らしの様子

先にも少しお話ししたように、ESAとして公共の場所に動物を連れていける権利を得るのが簡単すぎるということが、今アメリカで問題になっています。「エモーショナルサポートアニマル=感情をサポートする動物」というのが名前だけになってしまっているというのも現状です。

しかし、アメリカはとても広い国です。わたしたちのように引っ越しもそうですが、ただ里帰りをするというだけでも一週間以上車を走らせなくてはたどり着けないということもあります。そして、すべての国民がそんなに長い間車を運転できるというわけでもありません。そういった面で、飛行機を含む公共交通機関でペットと移動するため、便宜上このシステムが使われるということもあります。この広い国でペットと暮らすには、もはや欠かせないシステムとも言えるのです。

アメリカ以外の国でのESA


他の国でのESA事情はどうなのでしょうか?

コリー

【カナダの場合】退役軍人のみに認められるESA

アメリカのお隣の国、カナダでは、戦争などでPTSD(心的外傷後ストレス障害)を負った退役軍人にのみESAが認められています※。もちろん介助犬などの物理的なサポートをする動物の公共の場所への出入りは認められていますが、精神的なサポートも身体のサポートと同じように重要であるとし、また、アメリカが近年ESAを積極的に受け入れていることから、国民から法律を見直すよう声が出ているようです。


【イギリスの場合】ESAを合法化する嘆願書も


アメリカに限らずさまざまな国で精神的に不安定な人が増えている中、イギリスでは、ESAというシステム自体が国に認可されていません。アメリカと同様ペットと暮らす家族が多いことから、ESAを法律に組み込むべきだという嘆願書も出ています。ペット連れの旅行が主流になってきている今だからこそ、もしかしたら本当に法律として制定されるかもしれません。



アメリカでよく見かけるエモーショナルサポートアニマルについて、ご紹介しました。ペットが家族としてすこしずつ認められている日本でも、いつかこのような法律ができて、いつも一緒に過ごせるようになるといいですね。