
レプトスピラ症は、「レプトスピラ」という細菌によって起こる感染症です。人と多くの動物が感染する人獣共通感染症(ズーノーシス)で、犬では重症化すると命に関わることもあります。一方で、ワクチンなどによって予防できる病気でもあります。 とくに、川や湖での水遊び、キャンプや登山といった夏のお出かけ、台風や大雨・洪水のあとは、汚染された水や土壌を介して感染するリスクが高まります。梅雨から秋にかけては、特に注意が必要です。 この記事では、犬のレプトスピラ症の症状・潜伏期間・感染経路・診断・治療・予防を、獣医師の佐藤が解説します。
犬のレプトスピラ症とは

レプトスピラは、細長いらせん状をした細菌です。ネズミなどのげっ歯類をはじめとする保菌動物の腎臓にすみつき、尿とともに体外へ排出されます。
犬が感染するのは、菌を含む尿や、それに汚染された水・土壌に、口や粘膜、皮膚の傷から触れたときです。レプトスピラは淡水や湿った土壌の中で数か月間生きられるため、水たまりやぬかるみも感染源になります。人にもうつる、身近な人獣共通感染症です。
犬のレプトスピラの種類と国内での発生状況

レプトスピラは、病気を起こす「病原性」のものと、起こさない「非病原性」のものに大きく分けられます。さらに、抗原の違いによって「血清群」や、より細かい「血清型」に分類され、その数は250以上にのぼります。
日本では1997年4月から、次の7つの血清型による疾病が、監視伝染病(届出伝染病)に指定されています。
- ポモナ(Pomona)
- カニコーラ(Canicola)
- ハージョ(Hardjo)
- イクテロヘモリジア(Icterohaemorrhagiae)
- グリポティフォーサ(Grippotyphosa)
- オータムナーリス(Autumnalis)
- オーストラーリス(Australis)
犬のレプトスピラ症は届出の対象で、犬の発生数は農林水産省の「監視伝染病の発生状況」に毎年まとめられています。発生には地域差があり、年によっても変動します。参考までに、人のレプトスピラ症は夏から秋に多く、7〜10月に約9割が集中し、沖縄など温暖な地域からの報告が目立ちます(国立健康危機管理研究機構)。
なお、2007〜2011年に10県で行われた調査では、レプトスピラ症と臨床診断された犬283匹のうち83匹で感染が確定しました。ただし、これは過去の調査であり、現在の発生状況を示すものではありません。
犬のレプトスピラ症の潜伏期間

感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は、一般に約2〜14日とされています。潜伏期間中は、症状がはっきりしないまま菌を尿中に排出し続けることもあり、感染に気づきにくい点に注意が必要です。
犬のレプトスピラ症の症状

一般的な症状は、発熱・食欲不振・元気消失・嘔吐・脱水などです。重症化すると、歯ぐきや舌の潰瘍・出血、粘膜の充血、ぶどう膜炎(目の炎症)、黄疸、腎機能不全、肝機能不全などがみられます。犬はほかの動物にくらべ、肝不全や腎不全が重く出やすいといわれています。
なお、これらはレプトスピラ症だけに特有の症状ではありません。ほかの病気が原因のこともあるため、気になる様子があれば自己判断せず、動物病院を受診しましょう。
こんなときは早めに受診を
体調に変化があるときは、早めの受診が安心です。とくに「繰り返し吐く」「尿が出ない、または極端に少ない」「皮膚や白目が黄色い」「ぐったりしている」「呼吸が苦しそう」といった様子は、急いで受診したいサインです。川や湖、水たまり、湿った土壌、野生動物などに触れる機会があった場合は、受診の際にその旨も伝えましょう。
犬のレプトスピラ症の感染経路

おもな感染源は、レプトスピラを保菌する動物の尿と、それに汚染された水や土壌です。犬はこれらに触れることで、口や粘膜、皮膚の傷から感染します。
保菌動物として大きな役割を果たすのがネズミなどのげっ歯類で、届出が散発的に続く背景には、都市部でのドブネズミの生息があると考えられています。
公園やドッグランでは、犬同士が直接触れ合うことよりも、感染した犬の尿で汚染された地面や水を介して広がると考えられます。屋外でよく活動する犬はもちろん、ネズミなどの保菌動物がいる都市部で暮らす犬や、室内飼いの犬でも感染することがあります。
感染リスクが高まりやすい環境
次のような環境では、レプトスピラに汚染された水や土壌に触れる機会が増え、感染リスクが高まります。
- 川や湖、池などの淡水
- キャンプ場や山林の水たまり、湿った土壌
- 野生動物やネズミが生息する場所
- 農地や田んぼ、用水路
- 台風・大雨・洪水後の冠水した場所や、増水した川
近年は、都市部の公園や下水まわりなど、身近な場所でも注意が必要とされています。
夏のレジャー(川・湖・キャンプ・登山)でも注意を
川や湖、池、沼といった水辺は、レプトスピラ症の代表的な感染源です。犬がこうした水を飲んだり泳いだり、水辺の湿った草地や土に触れたりすることで感染することがあります。夏の水遊びの際は、特に注意が必要です。
また、キャンプや登山など自然の多い場所へのお出かけでも、感染することがあります。ネズミや野生動物の尿で汚染された水・土壌に触れる機会が増えるためです。行き先や愛犬の過ごし方によってリスクは変わるため、ワクチンなどの備えについて、あらかじめかかりつけの獣医師に相談しておくとよいでしょう。
なお、海水のなかではレプトスピラは生きのびにくいとされています。海そのものよりも、河口付近や浜辺の水たまり、雨水、キャンプ場周辺の淡水などに気をつけましょう。
台風や洪水のあとは要注意
海外では、洪水のあとにレプトスピラ症が大流行した例があります。国内でも、台風の通過や洪水のあとに人の患者が報告されてきました。汚染された可能性のある水や土壌に触れる場面では、いつも以上に注意が必要です。
犬のレプトスピラ症の診断方法

診断ではまず、血液検査や尿検査で腎臓・肝臓などへの影響を確認します。より確実に感染を確定する方法が、遺伝子検査(PCR検査)です。検体には、発症からおおむね4日以内なら血液を、それ以降は尿を用います。
なお、検査を受けた時期や、抗菌薬の投与、ワクチンの接種歴によって結果の解釈は変わり、一度の検査が陰性でも感染を完全には否定できないことがあります。強く疑われるときは、確定診断を待たずに治療を始める場合もあります。治療を始めるかどうかは、症状や状況をふまえて獣医師が判断します。
犬のレプトスピラ症の予防法

犬のレプトスピラ症を防ぐには、ワクチンによる予防と、ふだんの生活の中での対策の2つが柱になります。
ワクチン
ワクチンは、含まれる血清型が一致すれば、発症や重症化の予防に役立ちます。感染した犬から人や同居犬への広がりを抑える効果も期待できるものです。
近年は国際的にもレプトスピラワクチンの重要性が見直されており、地域によっては推奨度が高まっています。
日本では法律により接種が義務づけられているのは狂犬病ワクチンのみで、レプトスピラのワクチンは混合ワクチンに含まれます。接種の要否や種類は、お住まいの地域の発生状況や生活環境、旅行の予定などによって変わるため、かかりつけの獣医師に相談してみてください。とくに川遊びやキャンプ、登山などの予定があるときは、初回に複数回の接種が必要になることもあります。直前になって慌てないよう、早めの相談がおすすめです。
ただし、ワクチンが効果を発揮するのは、あくまで含まれる血清群に対してです。予防できるレプトスピラはいまのところ主に4種類(4血清群)にとどまり、すべての感染を完全に防げるわけではありません。接種後の体調にも個体差があるため、気になる様子がみられたら動物病院に相談すると安心です。
生活の中での予防
ふだんの暮らしでは、汚染されている可能性のある水辺やぬかるみ、水たまりにはなるべく近づけない、その水を飲ませないことが基本です。台風の通過後や洪水のあとは、汚染された水や土壌との接触にとくに気をつけましょう。
キャンプや登山など自然の多い場所へ出かけたあとは、体調の変化にも注意しましょう。あわせて、家のまわりにネズミなどのげっ歯類を寄せつけない工夫も、予防につながります。
犬のレプトスピラ症の治療法と注意事項
レプトスピラ症は、早い段階で治療を始められるかどうかが回復を大きく左右する病気です。治療は動物病院で行いますが、家庭でも感染を広げないための配慮が欠かせません。
治療法と予後
治療の中心となるのは、抗菌薬の投与と、輸液などの支持療法です。腎障害が重いときには、血液透析を検討することもあります。いずれにしても、できるだけ早い段階で適切な治療を始めることが、重症化を防ぐ大きなポイントになります。
予後は状態によってさまざまです。重い腎障害や肺出血をともなう場合は命に関わることがあり、回復したあとも腎機能の低下が残り、慢性腎臓病として継続的な管理が必要になる場合があります。
また、症状が落ち着いたあとも、しばらくは尿のなかに菌を排出し続けることがあります。同居する人やほかの動物にうつさないよう、この時期はとくに注意しましょう。
家庭での注意点
レプトスピラ症は人にもうつるため、犬が感染した、または感染が疑われる場合は、家庭でも次の点に気をつけましょう。
- 同居感染を防ぐため、とくに妊娠中の人や免疫が低下している人は、感染した犬との濃厚な接触を避ける
- 感染した犬の排尿は消毒できる場所でさせ、尿は水田や下水などに流さないようにする
- 感染した犬の尿や血液に触れるときは、ゴム手袋などを使って直接触れないようにし、作業後は消毒・洗浄を行う
また、犬の感染がわかったあとに、飼い主や家族に発熱・頭痛・筋肉痛などがみられた場合は、人の医療機関を受診し、犬の感染歴や尿に触れたことを伝えてください。処理や消毒の方法に迷うときは、自己判断せず動物病院の指示に従いましょう。
さいごに

愛犬の生活環境やお出かけの予定に合わせて、ワクチン接種の要否や種類はかかりつけの獣医師に相談しましょう。気になる症状があるときは、早めに受診することが大切です。
参考文献
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- AAHA, 2022 Canine Vaccination Guidelines(Leptospirosis)