メンデルの法則|優性の法則・分離の法則・独立の法則を専門家が解説
愛犬・愛猫の父親と母親は誰なのか? 近親交配によって遺伝疾患が出ることがあります。個体群管理専門家の冨澤が遺伝の基礎となる「メンデルの法則」について分かりやすくお話しします。見た目だけでは分からないことにも配慮した上で素晴らしい家族を迎えるためにも、この記事が遺伝学の基礎へのご理解の一助となれましたら幸いに存じます。
メンデルの法則とは
メンデルの法則は「遺伝学」という学問が誕生するきっかけとなった法則です。メンデルの法則には、3つの法則があります。それは「優性の法則」「分離の法則」「独立の法則」です。
※語彙について:昨年、日本遺伝学会は優性を「顕性」、劣性を「潜性」とすると発表しましたが、まだ顕性、潜性という言葉が浸透していないため、本稿では従来通り「優性」「劣性」という語彙を使ってお話を進めていきます。
優性の法則
この法則で覚えていただきたいことは、ただ一つ! それは、「遺伝子には強いのと弱いのがいるよ!」ということです。もうそれだけ覚えていただければ、優性の法則はクリアできたも同然です。まずは、短毛と長毛の2匹の犬から 4匹の子犬が生まれたという状況を図にしてみました(右側にいるのは長毛の犬です! 猫ではありませんよ!)。ここでは「A」と「a」という二つの遺伝子を例に用いています。この場合に、「A」の遺伝子は犬を短毛にし、「a」の遺伝子は犬を長毛にする特性を持っているとします(もう一度言いますが、この図で「aa」の遺伝子を持っているのは長毛の犬です! 猫だという意見を多く頂きましたが、決して猫ではありません!!!)。
先ほど「強い遺伝子と弱い遺伝子がいるよ!」と書きましたが、この場合、「A」が強い遺伝子、「a」が弱い遺伝子だとしましょう。つまり、「A」が一つでも入っていたなら、その犬は短毛になります。逆に言えば「A」が一つも入っていない=「a」しかない場合、その犬は長毛になります。それでは問題です。この2匹から生まれる子犬たちは、短毛になるのでしょうか? それとも長毛になるのでしょうか?
実際に組み合わせを考えてみましょう。この場合、短毛の犬が持っている遺伝子「A」と「A」、そして長毛の犬が持っている遺伝子「a」と「a」がどのように組み合わさるのかを考えていきます。そうすると、以下のように白いマスが埋まります。つまり、子どもたちは全員「Aa」という遺伝子の組み合わせを持つということになります。
さあ、では子どもたちの毛の長さはどうなるのでしょう? 先ほどのところを読み返してみてください。「A」の遺伝子が強くて、一つでも「A」があったら短毛になるのでしたね。つまり、この「Aa」という組み合わせを持つ子どもたちは全員短毛になります。
「あら、短毛と長毛の親だからって子どもに長毛も短毛も出てくるわけではないのね」と思われた方もいることでしょう。ここが遺伝の面白いところなんです! 見た目だけでは分からないことが遺伝には隠されているのです!!!
すみません、熱くなりすぎました。気を取り直して、この強い遺伝子というのを優性遺伝子と呼び、弱い遺伝子というのを劣性遺伝子と呼びます。しかし、劣性という名前が付いているからといって、その遺伝子がダメだとか、悪いとかそういうことは決してありません。あくまでも優性に発現するというだけです。このように、現れやすいほうの優勢遺伝子だけが発現することを「優性の法則」といいます。
分離の法則
さあそれでは次に「分離の法則」についてお話をしていきましょう。今度は「A」と「a」という遺伝子の組み合わせを持つ2匹が親となって、4匹の子どもが生まれたとします。先ほどのように表を作って子どもの遺伝子の組み合わせを考えてみましょう。遺伝子の組み合わせはこんな感じになります。
今回は「A」だけのものが一つ、「A」と「a」の組み合わせが一つ、「a」だけのものが一つできましたね。「A」が一つだけでもあったらその犬は短毛になって、「A」が一つもなかったらその犬は長毛になるということでしたね。ということは、子犬は短毛3匹、長毛1匹となります。このように3:1の割合で形質が分離して得られることを「分離の法則」と言います。
もし遺伝学的情報が分かっていなかったなら、「お父さんもお母さんも短毛なのに子犬に長毛が生まれた! 突然変異か!?」などと驚かれる方がいらっしゃるかもしれませんね。先ほども述べたように、遺伝学的情報は目に見えるものではありません。だからこそしっかりと記録をしておき、近親交配を避け、健康な子犬が生まれるために記録に基いて両親のペアリングを考えることがとても重要なのです。
独立の法則
ここまで「毛の長さ」という一つの要素だけに注目してきましたが、次に「毛の色」というもう一つの要素も併せて考えていくことにしましょう。ここまでは、二つの遺伝子について考えてきましたが、要素が一つ増えましたので、四つの遺伝子について考えていきます。今回はピンクとブルーという色を使っていきます。実際にはこんな色の犬はいませんが、わかりやすくするためにこの2色を使いますね。そうすると、以下の4パターンの組み合わせが出てきます。短毛ブルー、短毛ピンク、そして長毛ブルーに長毛ピンクです。余談ですが、これを考えたときにどうしても頭から戦隊モノが離れませんでした。「短毛ぴーんく! シャキーン!」みたいなあれです。というわけで、この後この4パターンが出てくるときには、ぜひ効果音をご自分でお付けになってお楽しみいただけましたら幸いです。
それはさておき、毛の長さは「A」が短毛、「a」が長毛でしたね。そして「A」のほうが「a」より強いよ、というお話でした。毛の色については、「B」の遺伝子が犬をピンクにし、「b」の遺伝子は犬をブルーにする特性を持っているとしましょう。そして、「B」のほうが「b」よりも強いよ、ということにします。つまり、「B」が一つでもあったらその犬はピンクになり、「B」が一つもない=「b」しかない場合には、その犬はブルーになる、ということになります。
さあそれでは、組み合わせを考えていくことにしましょう。先ほどよりも組み合わせが増えますので、以下のような感じになります(もしよろしければ青いマスだけ紙に書き写して、ご自分で白いマスを埋めてみてください)。
組み合わせによってどんな毛の長さと色の犬が生まれて来るのか、もう一度確認してみましょう。
- 「A」と「B」が一つでもあった場合:短毛ピンク
- 「A」はあるけど「B」は一つも無い=「b」しかない:短毛ブルー
- 「A」が一つも無い=「a」しかないけどBはある:長毛ピンク
- 「A」も「B」も無い=「a」と「b」しかない:長毛ブルー
さあそれでは、先ほどの表の白いマスに書かれた組み合わせで、それぞれの犬が一体何匹出てくるのか考えてみることにしましょう。まず、上記4パターンにはどんな組み合わせがあるのかを見てみます。
- 短毛ピンク:AABB、AABb、AaBB、AaBb
- 短毛ブルー:AAbb、Aabb
- 長毛ピンク:aaBB、aaBb
- 長毛ブルー:aabb