犬の疥癬(ヒゼンダニ症) | 症状・感染経路・検査・治療方法などを皮膚科認定医獣医師が解説

犬の疥癬(ヒゼンダニ症) | 症状・感染経路・検査・治療方法などを皮膚科認定医獣医師が解説

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犬の疥癬(かいせん)は、犬疥癬症、犬ヒゼンダニ症とも呼ばれる、強い痒みを伴う伝染性の皮膚病です。犬から人間にも感染することが知られています。今回は、犬の疥癬の症状や原因、治療法、治療期間などについて、皮膚科認定医の春日が紹介します。

犬の疥癬とは

犬の疥癬とは、疥癬虫(かいせんちゅう:ヒゼンダニ)が皮膚の表面に寄生し、非季節性で強い痒みを生じる伝染性の犬の皮膚疾患で、イヌセンコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabie var. canis)が原因となります(※1)。感染経路は犬同士の接触で、宿主特異性は高いですが、猫や狐、ヒトにも感染することが知られています(※1)。宿主特異性とは、寄生虫が特定の生物のみを宿主とする(宿主が厳密に限られている)性質のことです。

犬の疥癬が出やすい犬種・年代

犬の疥癬は、一般的に若い犬(2歳以下)に見られることが多い疾患です(※1)。また、特定の犬種に疥癬が出やすいことはありませんが、クッシング症候群や免疫抑制剤を使用している犬では注意が必要です。

犬の疥癬の症状

犬の疥癬の主な症状としては、初期病変は痂皮(かひ:かさぶた)形成を伴う丘疹(きゅうしん:小さい皮膚の隆起)があり、次第に数が増えて分布が広がり、急速に痒みを生じてきます。病変分布は、典型的には体幹腹側、肘、踵に分布し、70%以上の症例で顔と耳介に分布します(※2)。

重症例では脱毛、紅斑(こうはん:皮膚表面の発赤)、牡蠣殻様と言われるような分厚いフケを作り、重度の痒みを訴えます。さらに、痒みだけでなく、二次的な体重減少や衰弱が起きることもあります。

なお、感染後数日で犬は痒がるようになり、その後ヒゼンダニの増加に比例して痒みが増していきますが、ある時点で爆発的に痒みが出るようになります。典型的には、感染後21日から30日後と言われています(※1)。さらに、ヒゼンダニ感染後2〜5週間後、臨床症状が出てから1〜3週間後に抗体が陽性になることが報告されています(※1)。

犬の疥癬の原因

イヌセンコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabie var. canis)が皮膚の表面に寄生することが原因となります(※1)。犬同士の接触により感染が起こる病気です。そのため、ドッグランやペットホテルさらにトリミングショップや動物病院の待合など犬が集まる場所に感染の危険があります。

センコウヒゼンダニは、皮膚の角質層にトンネルを作り産卵します。卵は幼ダニ、若ダニ、成ダニと成長し、ライフサイクルは2〜3週間と言われています(※1)。

犬の疥癬の検査・診断方法

犬の疥癬の確定診断には、皮膚掻爬検査(ひふそうはけんさ:皮膚表面をこする検査)によりイヌセンコウヒゼンダニの成虫もしくは虫卵等の検出が必要となります。そのために複数回の皮膚の掻爬が必要になることもありますが、検出率は20%〜50%と報告されています(※3) 。

つまり、臨床症状で犬疥癬を疑い、皮膚掻爬検査で陰性であっても可能性は否定できません。症状が似た病気としては、接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、マラセチア皮膚炎、ツメダニ、耳ダニなどがあります。

また、「耳介-足反射」という症状があります。これは犬の耳介を軽く擦ると、ひっかき反射が誘発されることを指します。この反射がみられると犬疥癬が疑われますが、この病気に特有な反射ではありません。最終的には、臨床症状で疥癬が疑わしければ、実際に駆虫を行う治療的評価が必要になることもあります。

犬の疥癬の治療

犬の疥癬の治療は、駆虫薬を用いて行います(※1)。代表的な駆虫薬に、イベルメクチン(注射薬、内服薬)、セラメクチン(外用薬)、ミルベマイシン(内服薬)などがあります。ただし、薬剤の代謝に関連する遺伝子変異がある犬(コリー系犬種等)は、重篤な副作用(神経症状:運動失調、ふらつきなど)が出やすい(※4)ので注意が必要です。

治療期間は方法によりさまざまですが、例えばイベルメクチンの治療では14日間隔での注射や7日間隔での内服、またセラメクチンの治療では14日間隔での滴下などが症状に応じて数回行われます(※1)。

また、補助的な外用療法として硫黄サリチル酸シャンプーなどでの洗浄、同居犬がいればその治療、犬舎や寝床等の環境中の清掃も行うとよいでしょう。環境中の清掃とは、寝床の処分や犬舎内の徹底的な洗浄、殺虫剤の使用などがありますが、具体的な方法は状況によるので動物病院で相談されるとよいでしょう。

なお、犬から離れた疥癬虫は、環境中では長期間生存できませんが、最長21日まで生存する(※5)ことが報告されています。

犬の疥癬の予後

犬の疥癬は、駆虫が成功すれば予後は良好です。また、飼い主に感染することもあり、感染後7〜14日程度持続する痒みがある(※1)と言われています。

犬の疥癬は病気の可能性あり

室内でおすわりをするトイプードル 犬の疥癬は強い痒みを生じる伝染性の犬の皮膚疾患で、ヒトにも感染することが知られています。犬が皮膚の強い痒みを訴えている時には、この病気の可能性があるので、動物病院に連れて行くとよいでしょう。

※引用文献
  1. Miller, W.H. Jr., Griffin, C. E. and Campbell, K.L. 2013. pp. 315-319. Muller and Kirk’s Small animal Dermatology 7th ed, Elsevier, St Louis.
  2. Bourdeau, P., Armondo, L. and Marchand, A. 2004. Clinical and epidemiological characteristics of 153 cases of sarcoptic acariosis in dogs. Vet. Dermatol. 15:48.
  3. Griffin, C. E. : Scabies. In Griffin, C. E. et al, editors. 1993. pp.85. Current Veterinary Dermatology. Mosby-Year Book, St. Louis.
  4. 桃井康行 2012. pp.171. 小動物の治療薬 第2版. 文栄堂出版. 東京.
  5. Paradis, M : Scabies and Cheyletiella. 1997. Proc. Annu. Memb. Meet. Am. Acad. Vet. Dermatol. Am. Col.l Vet. Dermatol. 13:48.