猫のかさぶたができる原因と考えられる病気を皮膚科認定医獣医師が解説
猫が動物病院に来院する理由のトップに皮膚病があります。皮膚は動物の体で唯一、直接見ることができる臓器であり、それゆえ飼い主さんにとっては異常に気が付きやすいものです。皮膚に分布する病変を皮疹(ひしん)あるいは発疹(ほっしん)と呼びます。今回はその代表的な皮疹の一つである「痂皮(かひ)」(俗にいう「かさぶた」)のできやすい場所や原因と考えられる病気について、皮膚科認定医の春日が解説します。
猫のかさぶたとは
猫のかさぶたは基本的に二つに大別され、病気と直接的に関連を持つ発疹を原発疹(げんぱつしん)、原発疹または他の続発疹に引き続いて二次性に生じる皮疹を続発疹(ぞくはつしん)と呼びますが、猫のかさぶたは続発疹に分類されます(※1)。そして猫のかさぶたは、乾いた滲出液(※)、血清、膿、血液、細胞そして皮膚表面の付着物の蓄積で構成されています(※2)。
※滲出液(しんしゅつえき):炎症により血管や組織の性質が変化して、血液や組織液が血管外へ流出した液体。
猫にかさぶたができやすい部位
猫のかさぶたは、原因によってさまざまな部位にみられます。例えば猫同士の喧嘩による外傷(怪我)では、全身どこにでもかさぶたが形成される可能性があります。しかし病気によっては、かさぶたが形成される部位に法則がある場合もあります。例えば、蚊のアレルギー、疥癬、扁平上皮癌、落葉状天疱瘡などです。経験的に猫の場合には、頭部や頚部でかさぶたがみられる事が多いです。猫のかさぶたができる原因と考えられる病気
猫のかさぶたが形成される原因として多いのが、皮膚の糜爛(びらん)や潰瘍に続発して起きる場合です。糜爛とは、表皮の一部が欠損した状態であり、その欠損が基底層までの表皮内にとどまったものです。外傷(怪我)や掻爬(そうは:自分の皮膚を引っ掻くこと)、水疱(すいほう)や膿疱(のうほう)が破れた後に形成されることが多いです。
また、潰瘍とは組織欠損が糜爛よりも深く、真皮から皮下組織に達するものを言います。血行障害、感染症そして悪性腫瘍(扁平上皮癌等)などに引き続いて形成されることが多いです。
猫のかさぶたの色から推定される原因
猫のかさぶたはその色により原因を推定することが可能です(※2)。茶色〜暗赤色
深い組織ダメージや出血があったことを意味しますので外傷(怪我)や深在性膿皮症(しんざいせいのうひしょう)、虫刺され、血管炎などが原因として考えられます。蜂蜜色
本質的には感染症によるものですが、落葉状天疱瘡(らくようじょうてんぽうそう)においても見られます。乾いた黄色
典型的には疥癬(かいせん)で見られます。猫のかさぶたの部位から推定される原因
猫のかさぶたができる部位によっても原因を推定することが可能です(※2)。猫の耳にできたかさぶたを例にあげると、疥癬、血行障害、扁平上皮癌(特に高齢の白い猫)、蚊のアレルギー、落葉状天疱瘡などが原因として考えられます。病気によってかさぶたの分布の典型パターンが、決まっていることもあります。例えば疥癬であれば、痂皮が耳介内側に最初にみられ、その後急速に耳、頭部、顔面および頚部に拡大し、続いて四肢や会陰(えいん)に広がります。また、蚊のアレルギーであれば痂皮は鼻梁(びりょう)と耳介外側にみられます。
猫の扁平上皮癌では、色素の薄い部位に対する日光(UV)の暴露が原因の一つとして考えられています(※3)。そのため、猫では頭や首の色素の薄い部位に発生する傾向があり、特に耳介、鼻、眼瞼(がんけん)でかさぶたがみられる事が多いです。
扁平上皮癌の猫
日頃から猫の体を触ってかさぶたがないか観察を
今回は猫の代表的な皮疹の一つである、かさぶたについて解説しました。動物の体は被毛で被われているため皮膚の観察は必ずしも容易ではありませんが、日頃から体を良く触ったり観察したりして、皮膚の異常に気付いてあげられるようにするといいでしょう。そして猫のかさぶたを見つけた場合は、動物病院で獣医さんに診察してもらうようにしてください。
引用文献
- ※1:清水宏. 2011. pp.64『新しい皮膚科学』第2版. (株)中山書店. 東京.
- ※2:Miller, W.H., et al. 2013.『Muller and Kirk’s Small animal Dermatology』7th ed, Elsevier, St Louis. pp. 72.
- ※3:Gomes, LAM., Ferreira, AMR., Almeida, LEFD. 2008. Squamous cell carcinoma associated with actinic dermatitis in seven white cats. Feline Practice 28:14-16.