猫の肉球の役割は?病気のサインや乾燥対策を獣医師が解説
猫の肉球はぷにぷにと触り心地が良く、人間のために存在しているのではと錯覚してしまうほどですが、実際のところ何のためにあるのでしょうか? 今回は肉球の役割や触ると嫌がる理由など、猫の肉球の秘密について解説します。
猫の肉球の基礎知識
猫の肉球は正式名称を「蹠球(しょきゅう)」、英語では「パッド(Pad)」と呼びます。構造自体は人間の手と同じですが、形がかなり違うものになっています。例えば人間の手足の指の本数は同じですが、猫の肉球は前足と後ろ足で少し異なります。
猫の指は通常、前足が5本ずつの計10本、後ろ足が4本ずつの計8本です。多指症の子もいますが、大きな問題になることはないとされています(定期健診などで獣医師の指摘があるはずです)。
猫の前足にある肉球
猫の前足の肉球は「掌球(しょうきゅう)」「指球(しきゅう)」「狼爪(ろうそう)」「手根球(しゅこんきゅう)」と呼ばれる4つの部位から成ります。
- 掌球 前足にある猫の肉球の中で面積が一番大きく、人間の手のひらのように見える部分。
- 指球 前脚の4本指それぞれに付いている部分。
- 狼爪 指球から少し離れた位置に付いていて、人間でいうと親指にあたる部分。前足にのみ付いている。猫はこの指を上手に使って毛づくろいをしている。
- 手根球 掌球から一番離れた位置に付いている部分。手根骨(手首を構成する小さな骨)を守るために存在し、前足にのみ付いている。
猫の後ろ足にある肉球
猫の後ろ足の肉球は「足底球(そくていきゅう)」「趾球底(しきゅうてい)」と呼ばれる部位から成ります。
- 足底球 後ろ足にある猫の肉球の中で面積が一番大きく、人間の手のひらのように見える部分。
- 趾球底 後ろ脚の4本指それぞれに付いている部分。
猫の飼い主さんならご存じの方も多いかもしれませんが、猫の肉球はとてもぷにぷにしています。この柔らかい正体は筋肉でも脂肪でもない「結合組織」というものです。
主に生体内の臓器と臓器の間を埋めるために存在していて、「血管」や「リンパ」などが文字通り結合している組織です。
猫の肉球から匂いがする理由
猫を飼っている方の中には「猫の肉球の辺りから少し香ばしいような匂いを感じた!」というような経験のある方もいるのではないでしょうか?実は猫の肉球には、マーキング行動をするために猫自身の匂いを分泌する「臭腺(しゅうせん)」と呼ばれる場所があります。
臭腺から分泌される匂いは猫によって異なりますが、しばしば「枝豆」や「きのこ」「香ばしいポップコーン」のような香りに例えられます。
皆さんの愛猫は毎日のようにおうちの中をパトロールしていませんか?目で見ておうちの安全を確認しているように見えるかもしれませんが、実はあのパトロールには目で見るだけでなく、歩くことで肉球から出た匂いを付けてナワバリを確認するマーキングの意味合いもあるのです。
猫の肉球の役割
猫の肉球はかわいさのためだけに存在している訳ではありません。実は猫の肉球には大きくわけて四つの役割があります。
センサー
人を始めとする動物は五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を用いて、外の世界を認識しています。触覚に焦点を当ててみると、人間にとって触覚の受容器官は皮膚全体にあたります。それに対して、猫の触覚の受容器官の大半は「肉球」と「ひげ」に集中しています。猫は肉球があるおかげで足元を常に目で確かめなくても、障害物を避けて歩くことができます。
逆に、飼い主さんが猫に靴や靴下を履かせた場合、猫が肉球で地面を感じ取れなくなってしまうため、猫はどうやって歩いてよいのか分からなくなってしまうこともあります。
クッション
猫の肉球はクッションのような役割をしていて、高い所から着地する際の衝撃を吸収して手足の怪我を防いでいます。また、爪が直接地面にあたらず、静かに歩くこともできます。猫の飼い主さんは、いつの間にか猫が近くにいてビックリした!という経験があると思います。
野生の時代はそうやって音も無く忍び寄り、獲物をハンティングしていたのでしょうね。
すべり止め
肉球には猫の体で唯一の汗腺があり、体内にある余分な水分を蒸発させています。動物病院に行ったときなども緊張して汗をかいていることに気付くと思います。この汗はもともと木に登る際などの滑り止めのような役割も担っていました。前述した通り肉球にはマーキングの役割もあり、汗と脂が歩いた場所に足跡として残るようになっています。
手のひら
猫の肉球は指が変形したものなので、人間でいう手のひらはありません。しかし、肉球の中でも一番面積の大きい掌球があるおかげで、飛んでいる虫をキャッチしたり、グルーミングをしたりすることができます。猫の肉球の色は変わる?
猫の肉球の色は、被毛の色と同じようにバリエーションが豊富です。基本的に、被毛の色が白に近ければ肉球の色も薄くなり、被毛の色が黒っぽかったり、濃かったりすれば肉球の色も濃い色になりやすいです。
例外もありますが、2色の被毛の子は肉球も2色、三毛猫のように3色の場合は肉球も3色になる傾向があるようです。また、肉球の模様は年齢とともに変化していきます。怪我でかさぶたや黒ずんでいる場合は動物病院に連れて行きましょう。
猫の肉球が腫れている時は病気のサイン
猫の肉球に関する病気に「形質細胞性皮膚炎」というものがあり「肉球皮膚炎」とも呼ばれることもあります。形質細胞性皮膚炎は肉球が炎症を起こし、腫れてしまう病気です。
命に関わる病気ではありませんが、痛みのために歩行が困難になってしまうこともあります。猫の肉球に異常を感じた場合はすぐにかかりつけの獣医師に相談をするようにしてください。
猫が肉球を怪我した場合
肉球は猫が歩くとき地面に接するものですので、怪我をしてしまうと治るまでに時間がかかってしまいます。舐めて傷口が悪化してしまうこともありますので、必ず動物病院に行って薬をもらったり、エリザベスカラーや包帯で巻くなどなめないようにしたり、早く治るように対処してあげてください。
猫の肉球が乾燥した場合の対処法
猫の肉球が乾燥すると皮がむけてしまうことがあります。そのため、猫の肉球ケアは大切です。PETOKOTOの専門家ライターでもある皮膚に強い動物病院「hiff cafe tamagawa」院長の後藤先生に猫の肉球ケアについて解説していただきます。 後藤慎史獣医師の解説
われわれ人間が外を歩く際、靴が足を守ってくれるのと同じように、犬や猫にとって肉球はとても大事な役割を担います。
そんな肉球も、われわれの手のひらや足の裏と同様に、外傷、かゆみ、乾燥などによるトラブルに見舞われることもあるため、日々のケアが重要となってまいります。
日々のケアとして推奨されるものとしては、肉球クリームの定期的な塗布や、クリームを使った肉球マッサージなどがあります。
肉球クリームは基本的に低刺激性、保湿の持続性を重視したクリームを選ぶといいと思います。また、臭いやベタつきを嫌がるワンちゃん、猫ちゃんもいますので注意が必要です。
ちなみに手前味噌ですが、当院でも「HIFF Pet Skincare Cream」というクリームを出しています。
スクワラン、ホホバ油、グリセリン、小麦発酵抽出物(LPS)を成分とした高品質の保湿成分による保湿作用、さらには創傷治癒を助け、炎症の制御にも期待が持てるクリームとなっています。
※肉球だけでなく、皮膚トラブルのスキンケアとしても使用できます。ワンちゃんは舐めとってしまわないように、お散歩などの前に塗布してあげるといいでしょう。
猫の肉球マッサージの方法
猫の肉球が冷たい場合は気温差もあるため問題はないですが、保温してあげることも大切です。肉球に触れられることに対して慣れてきたら、肉球マッサージに挑戦してみてもいいかもしれません。肉球マッサージは疲労回復や心と体のバランスを整える効果が期待できます。
猫の肉球を触るのはほどほどに!
猫にとって肉球はとても敏感なセンサーのようなもの。触れられることを嫌がる猫は多いと思います。しかし、猫が肉球に触れられることに慣れていると爪切りや病院での診察がスムーズに行えます。若い頃から触って慣れさせてあげることも大切です。
最初は、猫が眠っている間に少し触れるところから始めてみましょう。それぞれの性格にもよりますし、嫌がるのに無理やり触ろうとすれば逆効果になってしまう場合もありますので、無理に触ろうとするのはやめましょう。
猫の体の特徴を知ることで、愛猫との時間がさらに楽しくなりますね!